医務室に入ると、まずいくつも並べられたベッドと、それに横たわる人が目に入った。
「ええと、この人たちはさっきの……」
「ええ。ドローンと、そしてあなたが救助してくれた人たちね」
医者?の人が、そうボクに教えてくれた。
「ま、取り敢えずこっちの機械に入って。大丈夫、すぐに終わるから」
そう言われてボクがついて行った先にあったのは、レントゲンみたいな機械だった。
「ええと、これにですか?」
「うん。……大丈夫。大昔のレントゲンみたいに、被曝したりはしないから。……まあ、あれもほとんどないようなものだったけどね」
「大昔?」
「ああ、まあ、“世界”にもよるか。まあ、そんなことはどうでもよくて、取り敢えずそこで横になってくれない?」
「ええと、まあはい」
ボクは、指示された機械に近づいて、取り敢えずベッドに横になった。これでいいのかな?
「ああ、そうそう。ありがとうね。……じゃあ、ここをこうして……」
そう言いながら、医者の人はパソコンをいじり始めた。多分、何かしらの操作をしているんだろう。
「じゃあ、じっとしていてね」
医者の人がそう言った直後、ロボットアームがボクの身体の上をゆっくりと動き始めた。
「よし、終わったか。動いても良いわよ」
「あっ、はい」
そうして、ボクが取り敢えず身体を少し上げようかとしたそのとき。
「まあ、うん。何とも……ん?」
「……?どうしましたか?」
「い、いや、ちょっと待ってね」
何故か、急に医者の人が慌て始めた。いったいどうしたんだろう。聞くわけにもいかないから、不安げな顔でただ待つボクを尻目に、医者の人はこう告げた。
「……ああ、あなた、どうやら
「はい!?」
ボクは、その言葉に驚いて、思わず飛び立とうとしてしまった。まあ、どうにかロボットアームを突き抜ける前に止まれたけど。…………だけど、HIV?。それはボクが現実で罹っていたウイルスだ。正確には、そのウイルスによる
「あー、しかも、これエイズにまで罹っているじゃない。しかも、相当末期の。よくこれで生きてるわね」
「あっ、えっと、えっと、え?」
「あ、けど、妖精なら大丈夫なのかも?……まあいいや。それで……えっと、ちょっと聞いてくれる?」
「あっ、その、その……ふう……はい」
「よし。エイズってのは、まあつまるところ、“治しとかないと”不味い病気よ。あなたがどうなのかはわからないけど、少なくとも人類と……まあとにかく、ヒトにうつすかもしれないから、ちょっと治療していきなさい。大丈夫、管区司令部……つまり、この船の帰るところで治療できるから」
「……?」
この人の言っていることは、もう半分くらいしか耳に入って来なかった。この身体のボクが、HIVに感染している?しかも、異様なまでにこの人は冷静で、ボクにはもう何がなんだかよくわからなかった。
「まっ、大丈夫よ。そんなに心配しないでさ。今どき感染する人なんてほとんどいないから取り寄せないといけないけど、ちゃんと薬を打てばすぐ治るし。ていうか、多分あなたには関係ないしね」
「か、関係ない?」
「ええ。そうよ…………いや、待って」
しかし、ボクがあまりにも不安そうにしていたからだろうか。彼女は少し落ち着いた声で問いかけてきた。
「ねえ……あなた、多分連合の人間じゃないわね。なんなら、妖精ですらない?」
「……!?……いや、まあ、そうなんですけど……なんでそれを?」
「だって、いくらなんでもおかしいもの。病気だって言われて、そんなに不安がる人、初めて見たから。あと、妖精は連合外の人たちでも病気でそんなに怯えたりなんかしないって聞いていたから。もちろん、“世界”にもよるんでしょうけど」
「どういうことなんですか?」
さっきから、世界だの連合だの、なんだかよくわからない単語ばかり喋ってくるものだから、ここで一度整理しておきたかった。―――ここが“どちら”であったとしても―――
「ああ、ええっとね。じゃあまず、“時空連合”って国は聞いたことはある?」
「いえ、ありません」
「んっとね。時空連合は、いくつもの“世界”……恒星間航行なんてものじゃない、本当の意味での“異世界”を領土としている、世界間連合国家。……それが、一番わかりやすい答えかな?」
「世界間?」
「そう。世界を跨る、巨大な連邦。……ねえ、あなた。地球生まれなら、国際連合を知っているんじゃない?」
「えっ、まあ、少しは知っていますが」
「時空連合も、かつてはそう呼ばれていたのよ。あなたの世界のじゃないんでしょうけどね。多分」
「はあ……」
「ああ、それと。エイズが治るだのなんだの言ったけど、あれは200年くらい前に開発された薬によるものね。あれのおかげで、病気で死ぬことは雷に当たって死ぬより珍しいことになったのよ。……まあ、私は最初から捜査局の医官だから、あんまり病気は見たことないんだけどね」
「に、200年?そんな前から、そこまでの薬を?」
「ええ。……まあ、時空連合も建国してから500年以上は経っているし、そんなものよ」
「………」
「ああ、それと……ん?」
「どうしたんですか?」
彼女は、何かを言おうとしている途中、突然白衣からスマホみたいな物を取り出して通話を始めた。
「こちら医務科……はい。はい。……はい。…………わかりました」
「何か?」
「ええっとね。船長があなたに船橋……つまりこの船の指揮をしているところに来てほしいんだって。そんなに時間はかからないらしいんだけど……」
「……まあ、すぐに終わるんだったら」
「本当?ありがとね。……ああ、薬はちゃんと取り寄せとくから、安心してね」
「…………はい。お願いします」