儒烏風亭らでんは世界を蒐集する   作:今日も元気ですマン

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第二十二話 プロのハンター

 

 翌朝、らでんはノートに三つの円を描いた。『山越衆』『シウ家』『村』

 見つけた物と、残した人。

 それだけでは《渡り灯》を誰に返すべきか決められない。

 

 はじめが肩越しに覗いた。

 

「答え三つ?」

「もっとある」

 

 自治体と保存機関も書き足すと、はじめが顔をしかめた。

 

「増えた」

 

 朝飯を食べるジンが顔を上げる。

 

「で、どうすんだ」

「相談します」

「誰とだ」

「全員と」

 

 ジンは少し笑った。

 

「それが一番面倒だぞ」

「知ってますよ」

 

---

 

 村の公民館に七人が集まった。カルド、ハク、サエ、ヨウと三人の古老だ。

 らでんは写真を広げ調査結果を報告した。

 《渡り灯》が祭具とは限らないこと、山越衆とシウの記録、舞として受け継がれていた十二の型と十三番目、山向こうに残った帳面を順に示した。

 はじめに型の再現、子守歌、『道が絶えても、灯を消すな』という言葉まで話し終えた。

 すぐに返事はなかった。七人の視線が写真を行き来する。

 ハクが《渡り灯》の写真を引き寄せた。

 

「つまり、うちの先祖が預かったもんかもしれんと」

「可能性が高いです。でも、“預かった”のか“譲られた”のか“託された”のか、そこはまだ断定できません」

 

 らでんの答えに、ハクはゆっくり頷いた。

 サエが写真から目を上げた。

 

「じゃあ、これ村のもんじゃないのか」

 

 らでんはすぐに答えられなかった。一番難しい問いだ。

 

「私は、“最初から村の物だった”とは言えないと思います」

 

 室内の空気が少し硬くなる。らでんは膝の上で指を組み直した。

 百六十年、村が灯を保管し、祭りに取り込み、子供が踊りを覚え、歌が残った。

 シウもこの村で暮らし、子を持った。

 

「ただ、だから村と関係ないとも言えません。ここで百年以上別の歴史が積み重なってる。だから、元々誰のものだったかだけで今の扱いを決めるのも違う気がします」

 

 サエは写真を見たまま、長く黙った。

 

「扱いが難しいな」

「はい」

 

 ヨウがあははと笑って、張りつめた空気を破った。

 

「ハンターってもっとお宝とか見つけてな。わしゃやったやったぞと喜ぶもんかと思っとったわ」

「うちもそう思ってた」

「はじめまで!?」

 

 はじめまで乗ってくるので、らでんは思わず声を上げた。

 サエの口元も緩む。

 

 カルドが蔵の管理資料を机に出した。屋根は補修が必要で、湿気も強い。

 防犯は弱く、管理者は高齢だった。

 祭りは三十四年前に途絶え、子供もほとんどいない。

 

「現実の話もするぞ。村に残すことはできる。だが、残すことと守れることは同じじゃない」

 

 らでんは反論できなかった。

 ハクが写真から顔を上げた。

 

「わしらがおる間はええ。その後は?」

 

 サエは膝に手を置いたまま、首を振る。

 

「祭りももうやらん。踊る子もおらん」

「山道も誰も歩かん」

 

 ヨウの声に、返事をする者はいなかった。

 

 らでんは写真の《渡り灯》を見た。蔵の奥で、また『なんとなく昔からある物』に戻ってしまうのは嫌だ。

 けれど、安全な場所へ運べば、それだけで守ったと言えるのだろうか。

 自分が調べやすく、人にも見せやすい場所を、灯にとって一番いい場所だと思い込んでいないか。

 写真から顔を上げ、答えを待つ人たちを見た。今の自分だけで決められることには思えなかった。

 

「今日は決めなくていいと思います。急いで答え出す方が怖いです」

 

 部屋の後ろで、ジンが少し笑った。

 らでんはハクへ向き直る。

 

「もし、これがシウさんが使っていた灯だったとして、ハクさんは自分の家に戻したいですか」

 

 ハクは写真を見た。

 長い沈黙の後、首を横に振る。

 

「いや」

「何でです?」

「知らんかったから」

「え?」

「わし七十九年生きとる。これが先祖のもんだったなんて昨日まで知らんかった。なら、わしの家に置いたところでまた分からんようになるだけじゃ」

 

 予想外だった。けれど筋が通っていて、すぐに返す言葉がなかった。

 

「でも、頼めるならシウって人がここにおったことは残してほしい」

 

 らでんはノートに『所有ではなく、記憶の継承を希望』と書いた。

 

---

 

 次に山向こうの寺の住職のもとでさらに古い記録を調べた。

 山越衆とは別の地域で同じ印が見つかった。

 

 手がかりは一つの土地に収まらない。

 カルドが自治体へ照会する一方、らでんは場所の詳細を伏せ、ハンター協会の古層板へ投稿した。

 

RDN

> 山間を季節移動した職能集団に関する資料を探しています。添付の印章・文様に類例があれば情報をください。

 

みずき堂

> その印、東側の旧商路資料で見た記憶があります。確認します。

 

古狸@野良発掘

> どこ掘った。

 

RDN

> 掘ってません。

 

古狸@野良発掘

> 珍しい。

 

RDN

> 失礼ですね!?

 

---

 三日、五日と情報が届いた。

 同じ印が遠い町の古い民具や小さい木箱、工芸の道具にあり、一枚の写真には三人が写って胸の木札に同じ文様があった。想像より広く残っていた。

 

「いたよ」

 

 走ってきたはじめが画面を覗く。

 

「どれのこと?」

「山越衆」

 

 写真だけではまだ断定できない。ただ、同じ文化が別の土地にも残っていることは、はっきりした。

 さらに調べると、類例は複数の土地へ散っていた。

 山越衆は一つの血縁集団ではなく、職人や家族や旅人が合流と離脱を繰り返す、柔らかい共同体だったのかもしれない。

 

「じゃあ、“山越衆の子孫”って一人探せるものじゃない」

「ああ。返す相手余計分かんなくなったな」

 

 ジンの口元に、らでんは目を向けた。

 

「嬉しそうですね」

「面白いからな」

 

 それから一か月近く、調査の合間に念を続けた。方便は毎朝行い、纏は日中かなり保てるが驚くと切れた。

 絶は一分を少し越え、練ははじめの出力が安定してきて、らでんは長く保てるようになった。

 凝は短かったが必要な時だけ使い、前のように何でもかんでも凝でみることはなくなった。

 

 ある朝、ジンは台所から欠けた木べらを持ってきた。

 

「仕事しながら纏。これが落ちたら最初からな」と、二人の間の棚に立てかける。

 

「どうして落ちるんです?」

 

 聞き終える前に、ジンが棚を軽く蹴った。

 木べらが倒れ、二人は同時に声を上げる。

 らでんの纏は途切れ、はじめの方も肩だけ薄くなった。

 

「ずるっ!」

「試験だと予告してくれねえぞ」

 

 今度ははじめがらでんの背後で手を鳴らし、らでんが仕返しに紙をめくる音をわざと大きくした。

 ジンは朝飯を食べながら二人の肩と背を見ている。

 

「そこ抜けた」

「今は大丈夫?」と言い合ううち、らでんは棚の木べらを忘れた。

 

 ジンが指したのは、机に広げた本物の調査記録だった。

 読めない一行に夢中になった途端、また纏が途切れている。

 

「楽しい時の方が危ないの、反則じゃないですか」

「面白いもの見つけた時ほど、周りも見ろってことだ」

 

 はじめが木べらを拾って、今度は自分で棚へ戻した。

 らでんも記録から目を上げる。

 二人とも、次の一行を読む前に肩の周りを確かめた。

 

 ある朝、必要なところだけ凝で確かめていると、ジンに声をかけられた。

 

「やっとガキみたいに何でも凝で見るのやめたな」

「成長しました」

「最初からやるな」

 

 その後、みずき堂から連絡が来た。

 

《類例資料の所蔵者と連絡が取れました》

《あなた方の調査している灯の写真を見てもらえます》

 

 画面越しでは伝わらない話もある。数日後、らでんとはじめは、遠方に住む八十三歳の女性に会いに行くことにした。

 山越衆の最後期の一支流にあたる家系だという。

 荷造りしている二人をよそに、ジンは腰を上げなかった。

 

「俺は行かねえ」

「何で!」

「お前らの仕事だ」

 

---

 女性の名はナナといった。

 端末で《渡り灯》の写真を見せると、長い沈黙があった。急かさずに待つ。

 ナナは画面に触れそうになった指を止めた。

 

「……まだ残ってたんですね」

 

 震える声に、らでんの胸が締まった。

 

「ご存じですか」

「同じ形のものを子供の頃一つだけ見ました」

「どこで?」

「もうありません」

 

 戦争でも火事でもなく、倉が朽ちて中を処分したのだという。

 

「用途は?」

「詳しくは分かりません。ただ、次へ渡す灯と聞いたことがあります」

 

 分かる範囲と伝聞を分ける答えだった。はじめがこちらを見る。

 らでんは、気になっていたことを尋ねた。

 

「返してほしいと思いますか」

「私に?」

「はい。あるいはこちらの系統の方に」

 

 ナナはしばらく考え、少し笑った。

 

「返されても困ります」

 

 らでんが顔を上げると、ナナは写真へ視線を戻した。

 

「うちにももう置く場所ありません。何より、それが百年以上そこで生きてきたなら、もうその村の歴史でもあるでしょう」

 

 胸が少し軽くなった。けれど、ナナの話には続きがあった。

 

「ただ、どうしてそこにあるのか、それだけは消さないでください」

 

 ハクと同じ願いだった。

 

---

 帰りの電車で、はじめは窓の外を眺めていた。

 

「みんな物はいらないって」

「うん」

「でも忘れないでって言う」

「そうだね」

 

 まだ言葉にならない共通点があった。景色だけが流れていく。

 

「らでん」

「何?」

「これ答え出てるんじゃない?」

「何が?」

「誰の物かじゃなくて、誰が次に覚えてるか」

 

 らでんは窓から目を戻した。

 

---

 

 村に戻り、公民館で再び会議をした。調査結果を隠さず話した。

 ハクとナナ、山向こうの寺で聞いた話。

 山越衆が複数の地域にいて、所有者を一人に決められないことも伝えた。

 

「私は、村に残すことも選択肢だと思います」

 

 村人の一人が、蔵の管理資料を手元へ寄せる。

 カルドが言う。

 

「でも、残すなら保存環境を作らないといけない。蔵の修繕、定期点検、記録管理、防犯、お金も人も必要です」

「人かのう」

 

 サエは笑ったが、その一言は重かった。

 らでんは続けられなかった。

 

 ハクは台の《渡り灯》を長く見ていた。

 

「らでんちゃん」

「はい」

「お前さん、これ好きか」

「……はい、かなり」

「めちゃくちゃ!」

「はじめ!」

 

 横から口を挟まれ、思わず声が出た。部屋に少し笑いが起きる。

 ハクは灯を見たまま続けた。

 

「わしらはもう祭りやれん。子供もおらん。道も歩かん。蔵もいつまで持つか分からん。ここに置いとけば残したことになるんか?」

 

 答えが出ない。サエも台へ目を向けた。

 

「また百年して、誰かがこれ何じゃって言うだけかもしれん」

「お前さんらが来んかったらもう半分そうなっとった」

 

 ヨウは笑ったが、らでんは笑えなかった。

 蔵の奥で、名前の間違った札のまま置かれていた姿が重なる。

 

「だから、持って行ってくれんか」

「……え」

「お前さんが次に渡してくれ」

 

 ハクへ顔を上げた。はじめも、後ろの壁に寄りかかるジンも、何も言わない。

 

「でも、これは私の物じゃ」

「そうじゃ。お前さんの物にしろとは言っとらん」

「預ける」

「村の名前、シウの名前、山の人らのこと、踊り、歌、全部一緒に、次に持ってってくれ」

 

 ハクは灯を持ち上げず、持ち手へそっと手を添えた。蔵から慎重に運び、台に置いた《渡り灯》を、前へ差し出す。

 らでんは反射的に両手を出した。思っていたよりずっと重い。

 右手で持ち手を握り、左で支え、身体を半身にして胸へ抱える。

 

「らでん」

 

 はじめが、灯を抱えた手を指した。

 

「一番最初」

 

『灯を抱け』一の型だった。

 百六十年以上前、誰かもこうして受け取ったのだろうか。

 唇を噛み、泣くだけで終わらせないように顔を上げた。

 

「……はい。預かります。ちゃんと残します」

「違う」

 

 ハクは首を横に振った。

 

「残すだけじゃまた止まる。渡してくれ」

 

 博物館や展示や研究、記録、そして人へ。

 抱え込むために預かるのではない。

 

「はい。次へ渡します」

 

 ジンが壁から離れ、出口へ向かった。見届ければ、もう長居する気はないらしい。

 

「ジンさん」

「何」

「何か言うことないんです?」

 

 少し考えた目が、腕の中の灯へ向いた。

 

「重いだろ」

「そういう意味じゃない!」

 

 はじめが笑う。ジンは扉を開け、振り返らずに手を上げた。

 

「まあ、落とすなよ」

「絶対落としません!」

 

 十三番目の次の人、その役目は百六十年を越えて、今度は新米文化財ハンターへ渡った。

 

---

 

 翌朝、らでんは蔵の《渡り灯》を前に固まった。

 次へ渡すと約束したのは、自分だ。

 

「……どこに?」

「決めてなかったんだ」とはじめ。

「今から決めるの!」

 

 カルドが書類を差し出した。

 

「先に所有者の同意だ。昨日の『頼む』だけじゃ持ち出せない」

 

 古い台帳では、祭りが終わった後の道具と文書は集落の自治組織が引き継いでいた。

 シウの家に由来があるかもしれなくても、今の所有関係は別に確かめる必要がある。

 

「昨日の受け渡し、感動的だったのに事務になる」

「文化を残すって、こういうことなのかも」

「面倒くせえだろ」

 

 そう言いながらもジンは楽しそうだ。

 朝飯を食べるジンの前にも、書類の端がはみ出していた。

 

---

 カルドが連絡を取り、らでんとはじめは地方庁の文化財保護課でエルナ=ホルツという専門員に会った。

 写真と来歴を読み終えたエルナは、まだ指定文化財ではないこと、だからといって自由に運べるわけではないことを分けて説明した。

 

「まず状態を見ます。傷んでいるからこそ、いきなり磨いたり直したりしません」

「虫穴も?」

「その穴がいつできたかも、資料の一部です」

 

 一人では気づかなかった細かなところまで一つ一つ説明してくれる情熱を感じた。

 この専門員は信用できる。

 

 三日後、木材と金具と保存環境の専門員が現地へ来た。

 蔵の湿気を調べ、《渡り灯》の各面を撮り、持ち手の摩耗や古い補修を記録する。

 らでんは持ち手を指した。

 

「そこは使った跡です」

 

 担当者が調書の「傷」を「使用痕」に直す。

 新品に戻すことより、何を残すかを先に決める。

 ジンは蔵の入口でそれを聞いていた。

 

 保存先には、虫害の疑いがある資料を隔離して調べられる州立文化資料保存センターを選んだ。

 集落は所有権を残したまま、五年間そこへ寄託することを自治会(なお、この集落に住むものは全員加入している)にて議決してもらっている。

 調査と展示、画像の公開、修復にはそれぞれ協議が要る。

 らでんは一行だけ譲らなかった。

 

「西里とシウと山越衆、調べて分かった順番も残してください」

「一番大事ですか」とエルナ。

「はい。一番です」

 

 ハンターライセンスは調査先へ繋がる信用になった、それこそ専門機関や大学教授の対応だ。

 しかし、村の合意の取り付け、保存の手順、各種申請の手続きを飛ばしてはくれるものではない。

 はじめが紙の束をめくった。

 

「試験より書類多い」

「絶対多い」

 

 らでんも笑った。

 

 搬出の日、状態写真と照らして箱へ納め、集落側、輸送側、受入側で引き継ぎを記録した。

 ハクは封じた箱に「行ってこい」と声をかける。

 らでんが随伴して保存センターに着くと、まず隔離室で箱を開け、出発前と同じ状態か確認した。

 

 登録名を尋ねられ、らでんは立ち止まる。

 

「主名称は《渡り灯》(仮称)。《渡火祭祭具》は旧称として残してください」

「誤った名でも?」

「この村でそう呼ばれていたことも、来歴です。でも本当の名はまだ分かりません」

 

 すぐに修復を始めず、まず観察を続けることになった。

 後日の報告では、進行中の虫害は確認されず、金具の腐食だけ安定化を検討する。

 摩耗も古い補修も消さない。

 はじめも報告を覗き込む。

 

「きれいになりすぎないんだ」

「そこにいた人の手を消したくない」

 

 村には調査報告、写真、歌の録音を残した。

 はじめの十二の型も本人と聞き取り相手の同意を得て撮影し、題には《灯継ぎの舞 復元案》と付ける。

 

「案、なんだ」

「後から違う資料が出たら、直せるように」

「じゃ、その方がいい」

 

 地域文化財としての登録は、さらに調査を続けてから検討される。

 ライセンスを出すたび仕事は進んだが、守る人の代わりに決められることは一度もなかった。

 

---

 

 調査開始から三か月少しで第一期の調査は終了し、報告書が完成した。

 題は《西里地区旧渡火祭資料「渡り灯」及び山間移動文化に関する第一次調査報告》となった。

 らでんは著者欄を見た。

 

 調査担当 ハンター協会 儒烏風亭らでん

 現地調査補助・身体技法復元協力 ハンター協会 轟はじめ

 現地調査協力・地元連絡 西里支所長 カルド=ネーマン

 その他に行政と保存、村と聞き取り協力の名前が並んだ。

 

 ジンの名前も協力者欄に入れようとしたが、「調べて、確かめて、書いたのはお前らだ」と断られた。

 

「私だけの仕事じゃ全然なかった」

 

 はじめは自分の名前を指し、「復元協力」と嬉しそうに口にした。

 村には修復の方針と寄託の条件を報告し、復元映像は確定した型ではなく、後から直せる記録として残した。

 

 外はもう夕方だった。ジンを見つけ、らでんは報告書を差し出した。

 

「終わりました」

「ああ」

「初仕事終わりました」

「ああ」

「何かないんです?」

「何が」

「感想!」

 

 ジンは少し考えた。

 

「楽しかったか?」

 

 らでんは止まった。

 手の中には、三か月少しを費やした報告書がある。

 

「……はい、めちゃくちゃ」

「じゃ、いいだろ」

「はい」

 

 後ろからはじめが来た。

 

「ジン」

「何」

「うちら裏試験いつ終わるの」

 

 ジンは二人を見た。

 三か月、方便を毎日続け、纏も絶も練も凝も、仕事をしながら何度も失敗してきた。

 

「まあ、基礎はまだ雑」

「まだ!?」

「当たり前だろ」

 

 らでんの横から、はじめが身を乗り出す。

 

「でも次あるんでしょ?」

「ああ」

 

 ジンが四本の指を立てる。

 纏、絶、練。そして最後の一本。

 

「やるか。発」

 

 らでんは目を上げた。

 

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