第一話 宙科そぴあ
「この金具は後から足していますね」
「しかも、支える向きが逆じゃないですか」
同じ場所を覗き込んでいた二人が、顔を上げた。
扉の下。大きな鉄の腕を、小さな真鍮の継ぎ金具が受けている。
古い建物にはよくある、あまり見栄えのしない継ぎ足しだった。
らでんが見ていたのは、真鍮の端に残る細い筋だ。
鉄の腕にある鑿の跡とは、刃幅も削る方向も違う。
もう一人の少女は、その金具の下へ視線を戻した。
手元の図面と、金具の傾きを交互に確かめていた。
「図面では、大きな方からこちらへ力がかかるはずなんです。でも、いまは小さい方で大きい方を持ち上げています」
「おや。お添え物みたいに、頑張っていらっしゃる」
「ええ。外していい部品には見えません」
らでんは、伸ばしかけていた指を撮影用の定規へ向け直した。
金具には触れず、その横に添える。
「いつ取り付けたかも、もう少し絞れそうです」
「助かります。その時の修理記録と比べたいので」
そこでようやく、二人とも相手の顔を見た。
紫の髪の両側に、円盤状の飾りがついている。
細い線が中央で交わり、横向きの八の字を描いていた。
右の金属の縁だけ、浅くへこんでいる。
「そういえばまだちゃんと自己紹介してなかったですね。保存調査で来ました、儒烏風亭らでんです」
「技術評価担当の、宙科そぴあです」
「そぴあさん。よろしくお願いします」
差し出された手を取り、そぴあが少し笑った。
頭を起こすついでに、右の円盤を指で直す。
親指で撫でると、髪飾りは元の角度へ戻った。
「金具に夢中で、紹介が遅れちゃいました。らでんさんも、こういうの気になりだすと止まらないですか」
「ええ。しかも、同じ金具で違うところに引っかかってるでしょう。それがまた楽しくて」
扉の上には、剝げかけた院章があった。
その下の管理票は新しい。
オチマ連邦科学遺産管理局。
古い院章を外さず、いまの管理者の名だけが添えられていた。
ここは旧中央天文測地院、第六位相観測実証棟。
通称、《第六位相観測棟》。
継ぎ金具の奥は、壁に隠れて見えなかった。
今回、二人が呼ばれたのは、この古い施設を調べるためだった。
依頼主は、旧院の資料と設備を引き継いだオチマ連邦科学遺産管理局。
ハンター協会を通じて、保存調査担当のらでんと、特殊観測設備の技術評価を担うそぴあが集められた。
依頼書の件名は、前室の保存調査と、観測設備の技術評価。
らでんが受け持つのは、残された器材や資料、それに建物へ加えられた手の跡だ。
図面どおりに作られた部分と、後から直された部分を分け、台帳や修理記録と照らし合わせる。
何が残っていて、何を傷めずに調べられるのかを確かめる仕事だった。
そぴあは、その設備が実際にどう働くのかを測る。
図面に記された動きと、いま起きる動きは同じか。
試験を終えたとき、元の状態へ戻せるか。
片方は、物に残った過去を読む。
もう片方は、目の前で起きることを測る。
同じ金具を覗いて、違うところへ気づいたのも、そのためだった。
「天文測地院、ですか。何を見ていたんでしょうね」
「図面だけだと、装置の動きまでは分かるんです。でも、その動きで何を観測したかったのかは、まだ」
らでんは、剝げた院章から、扉の奥へ目を戻した。
星を見上げるためなら、なぜ、こんな大きな腕で扉を支えるのだろう。
その問いにも、作った人なりの理由があるはずだった。
まずは前室まで。
残されたものと、安全に試せる動きを記録する。
その先の調査へ進めるかを判断する材料を、二人で持ち帰る。
それが今回の依頼だった。
◇ ◇ ◇
入域記録には、退出印のない行が続いていた。
紙も、筆跡も、使われた暦も違う。
後世の調査者たちが、何度かに分かれてこの施設へ入っている。
らでんは、それぞれの調査範囲を指で追った。
前室までの試験と、主接続を越えた調査は、別に整理されていた。
今回の調査は前室のみ。主接続を越えた先は、依頼されていない。
主接続の先は、過去の調査で多くの未帰還者が出たため、危険区域として閉鎖されている。
後者で帰還が確認できるのは、たった一人だけだ。
署名欄に、REYTON BENEDO。
添付の整理票には、レイトン・ベネドとある。
「終端到達。帰還経路確認。再入域を要せず」
らでんが読み上げたところで、記述は終わった。
「……短いですね」
「ただ、こっちは測り直せます。測定値が残ってる」
そぴあが開いたのは、数枚だけの別紙だった。
入口設備の間隔や、試験時の応答が記録されている。
「外側で測り直したところは、合っています。中まで同じかは、まだ分からない」
「ほかの方は、出た記録も、回収された記録もなし」
空欄の脇に、後の整理者が薄い鉛筆で書き足していた。
向こう側へ行ったものと思われる。
らでんはその一行を見て、紙を戻した。
行き先を書けないまま、行ったことにした言葉だった。
「今回、私たちが行くのはここまで」
そぴあの指が、図面の入口にある小さな区画を囲んだ。
「前室の保存状態と、復帰系の応答。主接続は起動しません」
「図面にないものが出たら、そこで止める」
「はい」
技術評価用の図面に加え、らでんの端末には、港の出航簿や古い器材台帳、帰還受入の控えが入っている。
別の観測者による原票も、未整理の束ごと保存してあった。
施設に残された道具の出自を調べるための資料だ。
現物の番号を拾ってから、照合するつもりでいた。
まず、小さなカメラと試験灯を載せた無人台車を入れた。
係留線を引いて回収し、映像と設備側の記録を照らす。次は一人ずつ、前室の床を数歩だけ往復した。
前室からの退去操作も、通った。
入口脇の天球儀に似た装置は、直径が一メートルほどある。
低出力での試験を終えるたび、その環が元の位置へ戻った。
そぴあが無人台車の係留線を巻き取り、次の試験点を示した。
「今度は、ここで応答が落ち着くまで記録します。設備へ流す試験用のオーラは、らでんさんにお願いします。決めた上限のままで」
「戻すのは、こちらですね」
らでんが復帰用の把手を指す。
そぴあは、図面と実物の位置をもう一度照らして頷いた。
外には、まだ昼の光があった。
前室の壁は、灰色だった。
設備側の記録が落ち着き、そぴあが合図した。
らでんは、さっきと同じ把手を戻した。
――いま、何かが変わった。
その瞬間、装置の環が一つ戻った。
その奥で、重いものが噛み合った。
前の試験にはなかった音だった。
そぴあの顔が上がる。
「供給、切って」
らでんは即座にオーラを止めた。
把手を戻した位置に残し、手を離す。
そぴあは奥の軸と図面を一度ずつ見た。
「主接続が動いてる。そこは、起こしてない」
足元の基準線が光った。
入口の装置へ戻るはずの線が、壁の下を抜け、図面では切り離されている区画までつながる。
らでんは、扉へ身体を向けた。
「戻りましょう」
その一歩を出す前に、扉の縁が消えた。
枠も、壁も、昼の光も。
さっきまで外へ続いていた四角い口が、奥行きのある暗がりに変わった。
らでんの足は床へ残った。そぴあも動かない。
二人の間で、巻き取った係留線だけが小さく揺れた。
灰色の壁があった距離に、星が灯る。
一点ではなかった。顔を上げる間に、数えられない光が広がった。
天井の角を探しても、ない。
床だけが白く、幅のある道になって、二人の足元から夜の奥へ伸びていた。
前室に収まるはずの長さではなかった。
「……ここ、前室ではありませんね」
「主接続の内側に入ってる。足は、まだ出さないで」
らでんは点検棒を伸ばした。
扉のあった位置に届いても、先端は何にも触れない。
さらに伸ばすと、棒の先まで星の中へ沈んだ。
引き戻した金属には、何も付いていなかった。
そぴあは測る九項目を選び、観測器を具現化した。
肩のそばに、小さな球が現れる。
傾きの異なる三つの環が、その周囲を回り始める。
《
中心球から、《円》が広がった。
そぴあを包むオーラは、薄い《纏》に留まる。
「そぴあさん。それは?」
「測る基準がぶれない観測装置です。中心から半径二十八メートルの球の内側で、選んだ九項目だけを測ります。八分十六秒、途中では止められません」
「精度は?」
「位置と形なら、誤差は十万分の一ミリ以下。体調が悪くても、念で操られても、測定基準は変わりません。私の感覚より、こちらの物差しを信じてください」
そぴあの視線が足元へ戻った。
「私は床と接続を取ります。退路の確認、お願いします」
「はい。こちらを見ます」
らでんは彼女の隣へ位置を寄せ、無線を取り出した。
そぴあは足元から先へ視線を送る。
「いま立ってる床には支持があります。手前の標点も動いてない」
「入口側、応答なし」
入口中継につないだ短い試験線を辿ると、接続先の口が、あるはずの位置になかった。
床端に残る端子へつなぎ直しても、外の信号は戻らない。
そぴあが復帰操作をやり直した。
把手は所定の位置へ戻る。供給を切ったままなのに、奥から返る音は止まらなかった。
「復帰の指示は通ってる。でも、前室だけの試験が、主接続まで連動した」
「ここから止められますか」
「見えてない部分ごとは、止められません」
そぴあは把手から手を離した。
らでんも無線をしまい、試した退去操作と時刻を手帳へ記す。
次に確かめるのは、二人が立てる道と、戻れる口だった。
振り返っても、白い道。
前を見ても、白い道。
その先に、人がいた。
二人。
片方の肩のそばで、三つの環が回っている。
もう片方が、らでんと同じところで息を止めた。
「……そぴあさん。もしかして……
「見えています」
星空に、らでんの背中があった。
らでんは右手を上げた。
遠くのらでんも、右手を上げた。
肩越しに後ろを窺えば、向こうも少し顔を傾ける。
だが、こちらへ振り向いてはくれない。
見えるのは、襟の後ろと、その上の髪ばかりだった。
「鏡なら、お顔を見せていただきたいんですけど」
「一枚だと、こうは映らないですね」
「何枚かなら?」
「それは、まだありそうですね」
そぴあが片側だけ袖をまくる。遠くでも、同じ側の腕が現れた。
らでんは前のめりになりかけて、足元を見た。
道は曲がっていない。
少なくとも、ここから見える範囲では。
「物でも試しませんか。私たちだけ真似されているのかもしれません」
「何を使います?」
「私物で、間違いようのないもの」
手帳から、厚紙の栞を抜いた。
片方の角を小さく折る。
片面に渦巻きを描き、その右に点を打った。
形の整った渦になってしまい、さらに一筋、わざとはみ出させる。
「……だいぶ間違いようがなくなりました」
「気を遣っていただかなくても、下手で結構ですよ」
「いえ、本当に。真似されたら、すぐ分かります」
そぴあの口元が、少しだけ緩んでいた。
栞を、床の継ぎ目に置いた。
前の二人の足元にも、何かが置かれる。
そぴあが記録用カメラの倍率を上げると、小さな画面に、折れた角とはみ出した渦巻きが映った。
らでんは栞を裏返した。
画面の中からも、渦が消える。
「裏返すところまで一緒だ。でも、複製か、同じものかは、まだ分からない」
「では、会いに行きましょうか。私の栞に」
そぴあは道の縁と床の継ぎ目を測った。
近くの床へ試験用の重りを置き、荷重の応答も確かめる。
「短い区間をつなぎます。私も観測儀も、歩いて移動します」
「曲がったかどうかは?」
「手前の標点を見失わない距離で、向きも測ります」
二人は同じ方向へ歩き出した。
前方の背中も、歩き出す。
追っているはずなのに、近づかない。
らでんは意識して、目を足元へ戻した。
白い床材の端に細い欠け。次の継ぎ目は、少し斜め。
たとえ前の人間に追いつけなくても、自分の足が何を越えたかは数えられる。
「ここで十三メートル」
そぴあが小さな測量標を置いた。
振り返れば、最初の栞が見えた。観測儀の環が傾き、二点の関係を記録する。
位置や形を測る誤差は、十万分の一ミリ以下。
緊張しているからといって、その物差しが伸び縮みすることはない。
次も、十三メートル。
三つ目の標を置く頃には、らでんの歩調は最初より軽くなっていた。
そぴあの「そのまま」を待つ前に、床の継ぎ目を見て進行方向を合わせる。
その先、道の左側に、小さな操作盤が現れた。
「ここまでで四十メートルです」
「盤があります。帰りの操作ができるかも」
二人で外観を撮り、表示を確かめる。
帰還系を示す印はあったが、その場で押せる退去釦は見当たらない。
らでんは盤の角に残る三角の剝げを記録し、先を見た。
白い床に、小さな点がある。
折れた厚紙。
近づくにつれ、墨のはみ出した渦巻きが見えてきた。
「……ありました」
らでんはその場でしゃがみ込んだ。
持ち上げる前に、床を確かめる。栞の下を通る継ぎ目。
脇にあった細かな傷。出発前の写真を開くと、どちらも同じ位置にあった。
「最後の区間も、十三メートル。合計で――」
「五十二」
「うん。一周、五十二メートルです」
らでんは栞をつまみ上げた。
遠くのらでんも、しゃがんで栞を持っている。
手元の紙を横に向ける。
そぴあがカメラを覗く。
遠い紙も、同じ角度になった。
今度は、裏へ。画面から渦巻きが消えた。
「同じ栞へ、戻ってきた」
口に出すと、足元の感覚が奇妙に確かになった。
歩いた。四つの短い区間を、測ってつないだ。
曲がる角はなかった。なのに、自分で置いた紙を拾っている。
「背中を追いかけていたんじゃなくて」
「自分で一周してたんだ。まっすぐ進んだ先が、ここにつながってる」
らでんはもう一度、遠くを見た。
そこにいるのは、何をするか分からない誰かではなかった。
こちらが上げなければ、手を上げない。
こちらが歩かなければ、歩かない。
星空を一周した先から、自分の後ろ姿が見えている。
「うわあ……」
今度の声は、さっきとは違った。
そぴあがこちらを見る。らでんは栞を持ったまま笑った。
「怖かったものが、急に面白くなるの、ずるくないですか」
「帰り方は、まだ分からないですけどね」
「ええ。それはそう」
それでも、そぴあの目も、道の先へ戻っていた。
「……でも、これ、面白いな」
ぽつりと言ったその声で、らでんは少し安心した。
「では、あの盤へ」
そぴあが記録を閉じた。
「出発点から、前へ四十メートルの――」
「じゃあ、後ろへ十二」
そぴあの指が止まった。
らでんは拾った栞を、同じ継ぎ目へ置き直す。
「一周が五十二でしょう。いま歩いてきた最後のところを、逆に行けば」
「はい」
そぴあは、今度ははっきり笑った。
「近い。……私、また四十メートル歩くつもりでした」
二人で向きを変えた。
後ろへ戻る、という感覚が、数歩で消えた。
白い道の先に、三角の剝げた盤が近づいてくる。
さっきは背中を追いかけていた足が、今は、行き先へ向かっている。
「十二メートル」
そぴあが告げるのと、らでんが盤の前へ着くのは、ほとんど同時だった。
「着いた!」
「本当に近かった」
「同じ道なのに、ずいぶん得をしましたよ」
らでんはつい、来た方を振り返った。
怖いだけだった道に、近道ができていた。
盤には、古い目盛りが残っていた。
その上から、新しい表示板がねじ留めされている。
そぴあが動かさずに読める部分を撮影し、らでんは板の縁に隠れた文字へ斜めに灯りを当てた。
「これは区画の調整盤ですね。全体を止めるものではなさそうです」
「こっち、帰還系の案内があります。『復帰は終端にて』……その先は隠れていますね」
手近な出口を見つけたわけではない。
それでも、帰るための設備があると、施設自身が示していた。
「この先へ通じる表示は?」
「あります。ただ、行く前に、ここで読めるものを取りましょう」
そぴあが隣にしゃがんだ。
盤の基準部には、古い枠が一本、組み込まれていた。
持ち運びに使ったらしい折り畳みの継ぎ手がある。
後から周囲を固定されたのだろう。
枠の細さに対して、据え付けるための金具が大きすぎた。
薄い補修板の縁には、塞ぎ直した孔が二つ並んでいる。
らでんはそこへ定規を添え、写真を一枚撮った。
「この枠、盤より古いですね」
「あ、携行型の観測枠だ。……ここに組み込んで、基準合わせに使ってるんですね。今は外さない方がいいです」
「ええ。見るだけ」
枠の下には、よく磨かれた石の台座があった。
側面の案内らしき彫り込みは、途中から削り落とされている。
灯りの角度を変えても、言葉として拾えなかった。
「もう少し、わかるかもしれません」
らでんは手袋を外し、動く金具から離れた台座の側面へ、掌を当てた。
《
いま欲しいものが、見えるとは限らない。
石の冷たさに触れているはずの指へ、細かい振動が届いた。
――――――
手があった。
磨き終えた石の面に、刃を添える手。
浅く刻まれた輪郭は、なめらかに続いていた。
ひと続きの線として、もう十分に整っている。
刃先が、その一部へ入った。
白い粉が落ちる。
一度、手が離れた。
再び同じ場所へ戻り、今作った小さなくぼみを、さらに不揃いに広げた。
きれいに結べていた線が、そこで欠けた。
――――――
そこで、断片は途切れた。
らでんは掌を離した。
目の前の台座に、同じ線が残っている。
削り落とされた案内の下。装飾と思っていた輪郭の、ほんの小さな引っかかりだった。
指でなぞりそうになり、思い直して、灯りだけを近づける。
「何か、読めましたか」
「帰り方では、ありませんでした。制作中らしい、手の動きが少しだけ」
らでんは見た位置を手帳へ描いた。
なめらかな線と、それをわざわざ崩した切り込み。
「変なこだわり」
「この欠けですか」
「ええ。ちょっと、気になりました」
そぴあも灯りを覗き込んだ。
輪郭を記録し、欠けの位置を拡大して残す。
「この欠け、測っておきたいです」
なぜ、と聞かれなかったのが、らでんには嬉しかった。
まだ答えのないものを、そぴあはそのまま、記録する場所へ置いてくれた。
らでんは手袋を戻し、立ち上がった。
星空の先に、二人の背中がある。
何となく、右手を持ち上げた。
遠くの手も上がる。
らでんが手を下ろした。
遠くの手は、下がらなかった。
肘を曲げた姿勢のまま、一拍、止まる。
次の瞬間、腕はいきなり体の脇にあった。
「そぴあさん」
「見た。いま、途中が飛んだ」
声から、笑いが消えていた。
そぴあは試験灯を取り出し、盤の脇に置いた。
カメラに、手近な灯りと道の先の像を同時に収める。
一定の間隔で、灯りが明滅する。
一回。二回。
三回目に、遠い灯りが点いたまま残った。
こちらの灯りは消え、次の明滅へ移っている。
向こうだけが、途中を抜かして追いついた。
「手元の点滅は、設定どおり。足元の標点も動いてない」
そぴあの手は、記録を続けていた。
「遠くの像だけ、途切れてる」
らでんは、白い道へ目を落とした。
さっきまで怖かったのは、この場所の仕組みがわからなかったからだ。
いま、二人は仕組みを一つ、わかった。
そのとおりに歩いて、ここへ着いた。
星空の中で、そぴあの背中が一拍止まった。
隣にいるそぴあは、動いていた。
宙科そぴあ(具現化形能力者)
《
【基本機能】
そぴあのそばに浮遊する、天球儀型の観測器。
具現化時に九項目の測定パラメータ(重量など)を設定し、その項目だけを継続して測る。
結果は観測器を通じて、そぴあ本人へ伝わる。
【観測範囲】
観測器の中心球を中心とする、半径28mの真球。
28mは第二の完全数をもとに決められた数字。
範囲内にある物体や生物、発動後に入ってきた対象を観測する。
中心は観測器とともに移動するが、半径は変わらない。
【測定精度】
形状・位置測定の誤差は、十万分の1ミリメートル以下。
そぴあの体調や精神状態、残存オーラ量に左右されず、測定基準は一定。
【持続時間】
第三の完全数である496秒――8分16秒が具現化時間。
時間が満了すると、自動的に具現化が解除される。短縮も延長もできない。
【固定制約】
・発動後、本人の意思では途中解除できない。
・パラメータは解除されるまで変更・追加・削除ができない。
・半径28mの《円》も、解除できない。
・発動中、本人のオーラ状態は《纏》に固定され、念による攻撃に脆弱となる。
※解除方法は時間経過のみ。