儒烏風亭らでんは世界を蒐集する   作:今日も元気ですマン

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【登場人物・念能力の設定資料】
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《本編・私の美術館編》
第二十八話 宙科そぴあと、一ツ星候補の調査旅行


 


 

 一九九六年

 《一ツ星(シングル)》候補者 三名

 推薦資料抜粋

 

 一ツ星候補者推薦書

 候補者 儒烏風亭らでん

 分野 文化財調査・保存管理

 

【推薦理由】

 文化財の安全移送・緊急保護方式の確立と普及を主たる功績として推薦する。

 所有権と来歴を保ったまま文化財を退避させる手順を体系化し、各地の保存・輸送現場へ普及させた。

 併せて、文化財を狙う武装組織への対処と、美術品の非接触復元技術の実用化に成果を挙げている。

 詳細は別添一「主要業績説明書」及び別添二「実施・検証報告書」のとおり。

 

【主要業績】

一 文化財の安全移送・緊急保護方式の確立と普及

 権利関係、来歴記録、危険性の評価を組み合わせた保全手順を体系化し、本人の立会いに依存しない方法として各地の実務へ導入した。

二 《トンバロ盗掘団》の壊滅と盗難文化財の回収

 遺跡の盗掘と文化財の密売を行う武装組織《トンバロ盗掘団》の拠点を制圧し、盗難文化財の回収と返還を実現した。

三 美術品の非接触原彩復元法の確立と普及

 残存顔料の分析と旧記録の照合から退色前の色彩を再構成し、原物に加筆せず鑑賞時の色彩を再現する方法を開発。複数の所蔵機関との共同検証を経て、修復困難な絵画・壁画の公開へ導入した。

四 《夜明けの蝉》の権利整理と引渡し支援

 共同所有者側の保護と書類を整え、回収担当者による正式な引渡しを支えた。

 

 推薦者 ピヨン

 


 

 一ツ星候補者推薦書

 候補者 宙科そぴあ

 分野 物理学・精密観測

 

【推薦理由】

 物理学及び精密観測分野における功績により推薦する。

 《交差磁序理論》によって新たな磁気秩序を予言し、共同実験による実証に至った。

 《ガイラ暗星》の発見と《第六位相観測棟》の踏破においても、観測に基づく顕著な成果を挙げた。

 詳細は別添一「主要業績説明書」及び別添二「発表論文・観測記録」のとおり。

 

【主要業績】

一 《第六位相観測棟》の踏破と異常空間の実測

 オチマ連邦・旧中央天文測地院《第六位相観測実証棟》の接続変動を観測し、帰還経路を特定。設備所在図と実測記録を回収し、科学遺産管理局へ報告した。

二 《交差磁序理論》の提唱と第三の磁気秩序の発見

 磁化が相殺された結晶に新たな磁気秩序が生じる条件を理論化し、共同実験によって予測を確認した。

三 休眠ブラックホール《ガイラ暗星》の発見

 恒星のわずかな揺れから、光では捉えられない伴星の存在と質量を特定。休眠状態の恒星質量ブラックホールの発見に至った。

 

 推薦者 チードル=ヨークシャー

 


 

 一ツ星候補者推薦書

 候補者 メンチ

 分野 食材探究・調理技術

 

【推薦理由】

 食用資源の保全と安全な利用、及び食糧供給の改善における功績により推薦する。

 《白環ウナギ》の完全養殖と《クロツノ芋》の無毒化加工を確立し、食材としての安定供給を実現した。

 これらを用いた食糧供給事業を主導し、ザンビーク共和国の飢餓率を二九%から〇・二%へ低下させた。

 詳細は別添一「主要業績説明書」及び別添二「養殖・調理試験記録及び食糧供給事業報告書」のとおり。

 

【主要業績】

一 絶滅危惧種《白環ウナギ》の完全養殖法の確立

 希少魚《白環ウナギ》の飼育・繁殖条件を解明し、天然の稚魚に依存せず世代をつなぐ完全養殖法を確立した。

二 《クロツノ芋》の無毒化加工法及び保存食製法の確立

 有毒塊根《クロツノ芋》の毒性除去条件を特定し、現地で再現できる加工法と、主食用の粉・保存食の製法を確立した。

三 《クロツノ芋》の加工・流通体制の確立

 ザンビーク共和国へ加工技術を移転し、生産・保存・輸送・調理をつないで、安価な主食の安定供給を実現した。

四 ザンビーク共和国の飢餓率の改善

 安価な食材の供給と生産・調理技術の移転を進め、同国の飢餓率を二九%から〇・二%へ低下させた。

 

 共同推薦者 リンネ=オードブル/ブハラ

 


 

 黄色い卵の真ん中にスプーンを差し込むと、湯気と一緒に濃いソースの匂いがふわっと立ち昇った。あと少しで下の白いご飯に届くというところで、らでんの視線はまた皿の脇に置いた茶封筒へ滑ってしまう。

 封筒の口から、白黒の写真の角がほんの少しだけ覗いている。鞄へしまい直すついでに、親指で押し込むふりをしてもう一回だけ引っ張り出したい。あの上へ伸びた細いところは、やっぱり途中で二本に離れているんじゃないだろうか。

 

 店に入る前にも見たし、揺れる列車の中でも散々睨みつけた一枚だ。今さら引っ張り出したところで、紙の上の彫刻が急にくるりと横を向いてくれるわけがない。頭では分かっているのに、指先が封筒の端へ伸びかけたところで、向かいから呆れた声が飛んできた。

 

「冷めるよ」

「はいはい、今は食べますって」

「まだ資料のことは何も言ってないじゃん」

「目が言ってました」

 

 ピヨンはもう涼しい顔で、自分の皿の卵をきれいにすくい上げている。

 らでんも観念して、封筒を膝元の鞄へ滑り込ませた。せっかく湯気を立てているオムハヤシを冷ましてまで、同じ印刷の粒を数え直すことはない。スプーンを持ち直して大きく口へ運ぶと、とろりと半熟の卵がほどけて、じっくり煮込まれたソースの中から玉ねぎの甘みが広がった。長い列車移動で少し固まっていた背中が、お腹の底からじんわりと解けていく。

 

 窓ガラスの向こうでは、川に架かる橋を渡る人たちの上着が秋風にパタパタとはためいていた。川のすぐ向こう岸まで山の斜面が迫っていて、深い緑の中に黄色や赤茶色が斑に混じっている。

 さっき駅前の案内板で見た矢印を思い出した。右へ行けば古い銀山、左へ行けば記念館。昼ご飯を平らげたあとにも、歩きたい方角がちゃんと待っている。

 

 一九九六年の秋。あのゴシカ・シティの騒動から、およそ二年が過ぎていた。十八歳になったらでんの鞄の中では、現場ごとに買い足したノートの角がすっかり丸くなっている。各地へ足を運んでは収蔵品の記録を取り、保管の手順を見直し、どうすれば人の手が作ったものを次の時代まで無事に残せるかを話し合う。その仕事の続きを、今日からはこのジャポンの鉱山町で始めることになっていた。

 

 コップの水へ左手を伸ばした拍子に、袖口の内側で細い組み糸がさらりと肌を撫でた。出発する直前に受け取ったばかりの小包――相変わらず差出人の住所もろくに書いていない、ジンからの気まぐれな贈り物だ。箱の中には、目印みたいな小さな結び目が一つだけある細いミサンガと、ノートの切れ端に殴り書きされた『身につけとけ』という一言しか入っていなかった。

 目にオーラを集めて見れば、普通の組み糸のあいだに驚くほど緻密な念の糸が編み込まれているのは分かるけれど、それが何の役に立つのかまではまるで説明がない。いつもどおりの不親切さにぶつぶつ言いながらも、結局こうして左手首へ結んで袖の下に収めてきてしまったあたり、我ながら師匠の雑な言いつけに慣れすぎている気がする。

 向かいでスプーンを動かしていたピヨンが、ちらりとらでんの左袖へ目をやった。

 

「そういえば、朝から着けてるそれ、ジンからなんでしょ。何か書いてあった?」

「それが、紙切れ一枚に『身につけとけ』だけです。せめてお守りなのか何なのかくらい、もう一行書いてくれてもよくないですか?」

「あいつが一言でも紙を入れただけ、まだマシじゃない?」

「ハードルが地面に埋まってますって」

 

 笑って袖口を軽く整えると、小さな結び目の丸みが手首の内側に落ち着いた。

 まあ、次にどこかへ連絡が繋がったときにでも、何のつもりだったのか文句混じりに聞いてみればいい。らでんは気を取り直して、皿の上へ視線を戻した。

 

「しかし、本当に来ちゃいましたね」

「来たかったんでしょ」

「来たかったですけどねえ。ただ、あの人が持ってきた話だと思うと、どうも手放しで喜ぶのが悔しくて」

「ご飯のときくらい忘れたら?」

 

 忘れられるものなら、らでんだって紹介者の顔だけ綺麗に塗り潰しておきたい。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 パリストンは、どこから見ても感じのよい笑顔で一枚の紙を差し出してきた。

 亡くなった彫刻家、セザール=ブランデルの記念館からのハンター協会を通じた正式な調査依頼だという。

 いわゆる協会の斡旋案件だ。

 旧蔵品に制作資料、それに今の記録からは行方が追えない品々。

 最初の一枚に並んでいた文字は、どれもこれも、らでんが身を乗り出して続きを捲りたくなる言葉ばかりだった。

 

 


 

 調査依頼概要

 セザール=ブランデル旧蔵資料・収蔵品調査

 

 依頼元 セザール記念館運営側

 調査地 ジャポン/セザール記念館および旧制作施設

 指名希望者 儒烏風亭らでん

 初回現地調査 五日間

 

【調査内容】

・旧蔵品・制作資料と現行の所蔵記録の照合。

・記録から追えない品々の所在及び来歴の確認。

・保管と公開に関する安全性の調査。

 

 成果物 調査結果及び保管・公開上の対応案を記した報告書

 現地窓口 セザール記念館 資料管理・地域連携担当 大神ミオ

 


 

「お引き受けいただけるかは、資料をご覧になってからで結構ですよ。らでんさんの意思でご(・)自(・)由(・)に決めていただければそれで構いませんので!」

「断られる場合は、残念ですが別の方にこの案件を回すことになります。ハンター協会からのこういった斡旋している案件について、優先して請け負って下さるハンターがいますからね。でもこの調査内容からすれば、らでんさんがピッタリだと思うんですよ。調査の依頼元も、調査対象の文化財も、その道のプロ中のプロに見てもらえる方がきっと嬉しいんじゃないかなぁ。そう思いませんか?」

 

 あの穏やかな言い方なら、ひとまず目を通してからでも十分に断れるはずだったのだ。

 

 それなのに、概要の次に出てきた写真の頁には、細長く伸びた奇妙な彫刻が写っていて、しかもそのすぐ脇の作業台には使い込まれた制作道具まで並んでいた。

 作品か道具か、どちらか片方だけでも足が止まるのに、同じ一枚の中に両方とも収まっているなんて反則に近い。らでんはあの時、挨拶もそこそこに写真の端を両手で押さえ、細い金属が重なって見えるあたりへ鼻先が触れそうなほど顔を近づけてしまった。

 引き受けるか断るかを考えるより先に、これを真横から撮った写真は入ってないんですかと、指が勝手に次の頁を探していたのである。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「パリストンさんって、私がこれを見たら断れなくなるって、絶対分かって出してますよね」

「そりゃ、見ないで断られたくはないでしょ」

「まあ、普通の依頼ならそうなんですけどね」

「調査の範囲も許可のことも、私から現地に聞いてみたよ。その辺は、聞いてたとおりだった」

 

 ピヨンは皿の縁に残ったソースをスプーンで丁寧に集めながら、こともなげに言った。そのいつも通りの温度に、らでんも少しだけ肩の力を抜く。

 

 誰が間に入った話であろうと、写真の向こうに品物があるのは間違いない。来歴の途中がぷつりと途切れたままになっている作品を、自分の目で現地まで行って確かめられるのだ。

 送られてきた資料を隅から隅まで読み直し、調べる価値があると判断して頷いたのは他の誰でもないらでん自身なのだから、そこまですべてパリストンのせいにするつもりはなかった。

 

「でも、ピヨンさんが一緒に来てくださって本当に助かりました。古い記録の照合まで一人で全部追うのは、さすがに手が回らないので。ありがとうございます」

「私も見たい資料があったからね。作品の方で面白いの見つけたら、教えてよ」

「それはもう、聞かれなくても隣で喋り続けますよ」

「知ってる」

 

 軽くあしらわれても、頭の中にはもうさっきの白黒写真が浮かんでくる。

 

「……あの写真の彫刻、横から見るとどうなってるんでしょうね」

「ほら」

「いや、それとこれは別なんですって」

 

 一度口に出してしまうと、重なり合った細い輪郭がますます気になって仕方がない。一本の金属が途中でくにゃりと曲がっているのか、それとも最初から奥にもう一本立っているのか。少し膨らんだ縁の裏側だけでも、今すぐ横から覗き込みたかった。端末の画面でいくら画像を拡大したところで白黒の粒が荒れるばかりだったのに、実物の前へ立てば、自分が半歩横にずれるだけであっさり答えが見えてしまうかもしれないのだ。

 

 展示ケースの前で首を傾げるところまで想像しかけて、らでんは慌てて視線を皿の上へ戻した。

 いけない、今動かすのは自分の首ではなくてスプーンの方だ。

 

 まだ温かさの残る卵を、ソースの染みたご飯と一緒にすくい上げる。ちゃんとお昼ご飯も美味しいのが、こういう時はかえって忙しい。

 

「あ、そうだ。一ツ星の推薦、出しといたよ。あの移送と保護のやつ。各地の報告まとめるの、めんどくさかったんだからね」

「……ありがとうございます。いや、でも、今ですか? らでん、ちょうどオムハヤシ口に入れたところなんですけど」

「今思い出したんだもん」

 

 頬張ったばかりのご飯をなんとか飲み下し、コップの水をひと口含んで喉を落ち着かせる。

 《一ツ星(シングル)》の推薦書を出すために、ピヨンがわざわざ各地の保存現場や輸送の実績報告を取りまとめてくれたのだ。いくらピヨンが軽い調子で言ったからといって、このまま食事のついでみたいに流してしまうのだけは嫌だった。らでんはスプーンを皿の縁に置き、背筋を伸ばして正面から頭を下げた。

 

「ありがとうございます。本当に」

「あんたってややこしい申請のときだけ、私のライセンス目当てにこっちへ回してくるじゃん」

「だけってことはないでしょう」

「そこ?」

「……まあ、ピヨンさんから申請していただいた方が、私が通そうとするより話がずっと早いことはありますけど。効率化と時間の節約ですって」

「知ってる。だから、あんたが星ついたらもう自分でやって、手続きから逃げるな」

「もしかして、それで推薦してくださったんですか?」

「それもある」

 

 それだけではない、という意味だと受け取っておくことにした。一番大事な礼は、ちゃんと目を見て伝えられた。

 

 らでんが嬉しくなって笑うと、ピヨンはコップを置いて窓の外へひょいと人差し指を向けた。ガラス越しに続く橋のたもとを、らでんも目で追う。

 

「宿、あっちだって。机、広いらしいよ」

「おお、じゃあ持ってきた資料、最初から全部広げられますかね」

「四泊するんだから、生活する場所も残しておいてよ」

「そういうピヨンさんの端末だって、コードやら何やらで結構場所取るじゃないですか」

「それは仕事に必要なので」

「こっちの紙だって仕事ですよ!」

 

 言い合いながら、ふと大事なことを思い出して口を開いた。

 

「そういえば、午後に合流する測量士の方も、ピヨンさんが声を掛けてくださったんですよね?」

「うん。チードルに相談したら、宙科そぴあさんを紹介してくれたんだ。この人にも一ツ星の推薦が出てるんだって。年も近いみたいだし研究系同士気が合うかもよ」

「あ、私と一緒に推薦されてる方ですか」

「そうそう。資料を送ったら、現物も見てみたいって言うから」

 

 宙科そぴあ。物理や精密観測が専門だというその人も、同じ資料を見て実物が気になったらしい。

 自分と同じようにあの写真へ目を留めたのだとしたら、どの部分が引っ掛かったのか、宿に着いたら真っ先に聞いてみたかった。そのためにも、まずは三人で頭を突き合わせて写真を覗き込めるだけの場所を空けておかなければいけない。一人で机を占領してしまう前に思い出してよかった。

 

 皿の上の最後の一口まで綺麗に食べ終えてから、足元の鞄を持ち直す。

 中に入れた茶封筒には、今はまだ指を触れないでおく。この橋を渡った先には、資料を何枚でも並べられる広い机が待っているというのだから、窮屈な膝の上でこっそり覗くより、そこで堂々と全部広げる方がずっといい。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 店の扉を押して橋の上へ出ると、山あいの冷たい風がいきなり頬を撫でた。さっきの窓からは見えなかった浅い川底が、欄干のすぐ真下にある。丸い石を越えるところだけ水しぶきが白く泡立ち、少し下流へ行くともう透き通った緑色へ戻っていた。

 川沿いに並ぶ家々の軒下には、木枠や色紙を使った祭りの飾りがいくつも束ねて置かれている。括りつけるための麻紐もまだ巻かれたままだ。当日はあれをどの柱へ飾るのだろうと視線を上げると、屋根のすぐ向こうに色づいた山肌が迫っていた。道の奥にも、今歩いてきた駅の後ろ側にも、ぐるりと山がある。

 事前の写真で眺めていた時より、ずっとすぐそばに山の気配があった。らでんは鞄の肩紐を押さえながら、少しだけ歩調を緩める。

 

「写真で見たときは、もう少し開けた町かと思ってたんですけどね」

「平らなところだけ撮ったら、そうなるよね」

 

 セザール=ブランデルはこの町で生まれ育ったと、送られてきた略歴には記されていた。昔、クカンユ王国から海を渡ってきた鉱山技術者たちがこの谷間に定住し、その子孫の中から金属を彫り、形を作る彫刻家が出たのだという。

 

 鉱石を掘り出し、火と槌で金属を扱ってきた人たちの土地で、同じ金属から作品を生み出す人が育った。紙の上の活字で読んだときよりも、こうして冷たい川風を受けながら細い道を歩いている今の方が、その二つの繋がりがずっと自然に胸へ落ちてくる。

 あの人が毎日道具を握っていた工房は、どんな場所に建っていたのだろう。窓を開ければ山が見えたのか、それともこの川の音が聞こえる場所だったのか。

 

 もっとも、今はまだ荷物を置く宿にさえ着いていない。工房の景色をあれこれ想像するのは、いったん頭の中の引き出しへしまっておく。らでんは数歩先を行くピヨンの背中へ、小走りに足を合わせた。

 

 宿の共用室へ足を踏み入れて、ピヨンが「お」と小さく声を上げた瞬間には、らでんの目も同じものに釘付けになっていた。

 部屋の真ん中に据えられた、見事な一枚板の机だ。向かい合って座ったままでも、大きめの写真をゆうに二列は並べられそうな奥行きがある。横にもう一脚椅子を足したって、三人全員の指先が真ん中の資料へ無理なく届く。列車の中で一枚ずつ写真を封筒へ戻しては次の紙を引っ張り出していた身からすれば、それだけで拝みたくなるほどありがたい設備だった。

 

 見上げれば天井には黒光りする太い梁が通り、窓の下からは川のせせらぎが聞こえてくる。そういう風情ももちろん素晴らしいのだが、らでんの足は吸い寄せられるように机の端で止まっていた。

 

「いいですねえ」

「机を見て言ってる?」

「いや、窓の外の川もいいなと思ってますよ」

「割合は?」

「……今は、机が八割くらいですかね」

 

 着替えの入った鞄までこの机へ載せてしまわないよう、まずは奥の部屋へ荷物を置きに行った。身軽になって共用室へ戻ると、ピヨンが窓際に立って昼下がりの光の入り具合を確かめている。

 確かに、あちら側へ写真を並べるようにすれば、自分の頭の影で紙面を暗くせずに済みそうだ。

 

「写真、そっちの方が見やすそう。私、こっち使うね」

「じゃあ、お茶の道具はこっちの棚にまとめておきますね。机の上だと、うっかり肘で倒しそうですし」

 

 備え付けの湯沸かしで茶の支度をしている間にも、ピヨンは手慣れた動きで端末を広げ、邪魔にならないよう電源コードを机の脚沿いに寄せていく。椅子を軽く引く音が聞こえると、らでんも早くその向かいへ座りたくてうずうずしてきた。

 

 手元にあるのは、事前に持ち出しと複写の許可を受けた写真と、関連資料の写しだ。らでんは湯呑みを後ろの棚へ避難させてから、待ちかねたように茶封筒の中身を机の上へ並べ始めた。写真を見るために記録の束をいちいち裏返さなくていい。気になった一枚を目の前に置いたまま、すぐ真横で古い台帳の写しを読み比べられる。

 綺麗に並んだ紙の列を前に、らでんは机の縁へ両手をついて、その頼もしい広さをもう一度しみじみと眺めた。

 

「……いいですねえ」

「今度は十?」

「十です」

 

 向かいの席でピヨンが吹き出す。らでんも笑いながら、さっそく一番手前の彫刻の写真へ指を伸ばしかけたところで、玄関の引き戸を控えめに叩く音が響いた。

 おっと、いけない。本番はもう一人が席に着いてからだ。

 

「こんにちは〜。宙科です」

 

 ピヨンに続いて腰を上げる前に、らでんは広げかけた写真をさっと机の奥へ寄せ集めた。わざわざ遠くから来てくれた人に、最初から紙で埋まった机を見せて荷物の置き場を探させるわけにはいかない。

 

 玄関のたたきに立っていたのは、手提げの旅行鞄と、何やら細長い計測器の入った道具袋を肩から提げた少女だった。どちらの荷物を先に受け取ろうかとらでんが迷っている横から、ピヨンが気さくに声を掛ける。

 

「そぴあさん? ピヨンです。来てくれてありがとう」

「はい、宙科そぴあです。資料、送っていただいてありがとうございました」

「チードルからは、何て聞いてる?」

「古い図面と今の建物を見比べたい人がいるから、一度お話を聞いてみたら、って言われました」

「うん。じゃ、紹介するね。こっちがらでん」

 

 手のひらで示された方へ向き直り、らでんも丁寧に頭を下げた。今日から五日間、同じ机を囲んで一緒に調べる仲間だ。

 

「儒烏風亭らでんです。今回の調査は、私が取りまとめることになってます。専門は文化財の来歴とか保存の方で。よろしくお願いします」

「宙科そぴあです。形を測る方、計測、測量、数値の分析関係なら、私がお手伝いできると思います。よろしくお願いします」

 

 昼食の席で聞いた推薦のことが頭に浮かぶ。らでんが尋ねてみようかと思うより先に、そぴあが少し声を弾ませた。

 

「そういえば、らでんさんは一ツ星の申請、もう済ませました? そぴあ、チードルさんに『いい加減、申請しておきなさい』ってせっつかれて。実績の記録を揃えるだけでも、結構大変でしたよ〜。らでんさんはどうでした?」

「えーと、私の方は、その……」

「私がほとんど下準備してあげたもんね〜。ねー、らでんちゃん?」

 

 そこで急にちゃん付けするのは、完全に面白がっている。横から覗き込んでくるピヨンを見上げ、らでんは助け舟の代わりに追い打ちが来たことを悟った。

 

「そこ、今言わなくてもよくないですか!? ……本当に助かりましたけど」

「うん。各地から届いた紙、日付も書式もばらばらだったもんね」

「ふふ、じゃあ、私も先にピヨンさんにご相談すればよかったですね」

「私、シングル推薦の窓口じゃないんだけど?」

 

 真顔で返されたそぴあが笑い、らでんもつられて吹き出した。実物を見るのが楽しみで来た人にも、その前には地道な書類の山があったらしい。少しだけ同じ苦労をした気になりかけて、いや、自分の分を揃えてくれたのは隣の人だった、と心の中で訂正する。

 

「……あ、あの写真、もう広げてるんですか?」

 

 話しているうちに、そぴあの視線がひょいとらでんの肩越しに動いた。奥へ寄せたはずの束から、あの細長い彫刻の写真が半分ほど顔を出している。

 らでんは思わず目を輝かせて、一歩前へ出た。

 

「あ、そぴあさんもあれ気になってました?」

「はい。途中で重なってるところがあるじゃないですか。あの向こう側、どうなってるのか見たくて」

 

 まだこちらからはどの写真の話もしていないのに、真っ先に気にした場所がぴったり重なっている。それなら、さっき列車や昼食の席で悶々と考えていた続きを、遠慮なくそのまま話せそうだった。

 

「まだ机に広げただけですよ。ほんとに、今並べたばっかりです」

「私もそのつもりだったよ」

 

 すかさず横からピヨンに口を挟まれて、らでんはジト目で隣を見た。そのやり取りにそぴあもくすりと口元を緩め、肩に掛けていた道具袋を大事そうに抱え直す。

 

「先に荷物だけ置いてきてもいいですか? 私も、それ見たいです」

「もちろんです。らでんも、まだ横が見えてなくて」

「横?」

「……いえ、写真の話です」

 

 共用室の奥には寝室が二間あり、ピヨンがひと部屋を使い、らでんとそぴあでもうひと部屋を一緒に使う割り振りになっていた。

 障子を開けると、部屋の中には布団が二つ並べて敷けるだけのゆとりがあり、荷物を置いても真ん中にちゃんと通り道が残る。その通路を自分の荷物で塞いでしまわないよう、らでんは先に置いていた鞄を壁際へぐっと寄せ直し、明るい窓側のスペースを手で示した。早く写真の話をしたくてたまらないが、着いたばかりの相手にはまず落ち着く場所が必要だ。

 

「窓側、どうぞ使ってください。こっちはもう、荷物を広げちゃったので」

「ありがとうございます。帰る頃に荷物が増えてても、ここからはみ出さないようにしますね」

「え、何が増える想定なんです?」

「資料、ですかね」

 

 真面目な顔で返されて、らでんはぐっと言葉に詰まった。現地で調査をして、行きの鞄と同じ薄さのままで帰れた試しなど一度もない。いや、今回だって五日間もあるのだ、控えの紙や記録の写しがどれだけ増えるか分かったものではない。収納の心配は最終日の自分に任せることにして、らでんはそぴあと一緒に共用室へ引き返した。

 

 机の周りでは、ピヨンが自分の椅子を少し斜めへ引いて、横からでも覗き込みやすいように場所を空けてくれていた。そこへそぴあが腰を下ろし、鞄から取り出したばかりのノートをぱっと開く。

 らでんも待ってましたとばかりに写真の束を真ん中へ戻し、隣のそぴあからも上下が見やすいよう少し斜めに角度を直した。

 

「まずは建物と収蔵場所の形を、私の方で測ってみますね。昔の記録と合ってるかどうかも、現物を見ながら確かめたいです」

 

 そぴあがペンを握る横で、ピヨンの端末にも所蔵資料の一覧表が立ち上がった。これなら作品の形についてああだこうだと話しながら、それがどの年代のどの記録に載っていた写真なのかもその場で突き合わせられる。

 

「じゃあ、私は古い記録を見ておくね。現地との連絡もやっておくから」

「じゃあ、らでんさん。さっき言ってた横の話、聞かせてもらってもいいですか?」

 

 水を向けられて、らでんはすぐさま彫刻の写真を窓の明るい方へ引き寄せた。

 説明するなら、何をおいてもここからだ。列車の座席でもオムハヤシの前でもずっと一人で引っ掛かっていた場所を、ようやく同じ一枚を見ながら指差すことができる。

 

 写真の中で、細長い金属の形がすっと上へ伸びている。遠くから全体の立ち姿だけを見るなら、ただ軽やかな線の彫刻として通り過ぎてしまいそうなのに、こうして目を近づけると表面には細かな盛り上がりや浅い窪みがいくつもある。しかも、下から滑らかに続いているはずの縁が、中ほどでわずかに外へ膨らんでいた。

 その膨らみの裏側がどうなっているのかが見たいのだ。奥まで同じ厚みで膨らんでいるのか、それとも見えない裏側では急に削ぎ落とされて薄くなっているのか。それひとつで、作品全体の重心の見え方までまるで変わってくるはずだった。

 

 らでんは写真の端をつまんで少しだけ斜めに傾けてみてから、小さく息をついて机の上へ戻した。傾けた印画紙に窓の光が白く反射するだけで、写っていない横顔が浮かび上がってくるはずもない。

 

「分かってるんですけどね」

「何が?」

「写真に写ってないのは百も承知なんですけど、つい、見える角度を探して紙の方を傾けちゃうんですよね。こっちが動いたって仕方ないのに」

「ああ、分かります。それ、やっちゃう」

 

 そぴあが我が意を得たりというように頷いて、机の上へぐっと身を乗り出してきた。らでんは嬉しくなって、さっきから何度も目でなぞっていた重なりの部分へ人差し指を添える。

 

「この、細く重なってるところなんですけど。裏では一本に繋がってるんですかね?」

「そう、そこなんですよ。それが知りたくて」

「一本が途中でこう曲がってるのか、それとも最初から別々の二本なのか……」

「そうなんです。あと、その下の少し膨らんでる縁も、奥でどう繋がるのかなって」

 

 らでんが指を引いたそこへ、すっとそぴあの開いたノートが差し込まれた。

 白い頁の上で、そぴあの鉛筆が迷いなく細い線を二本引く。片方の線が途中で緩やかに曲がり、もう片方の線からすっと離れて止まった。

 

 平面の写真で見ていた正面の輪郭から、急に奥行きのある裏側の形が立ち上がってくる。らでんは目を丸くしてその図を覗き込んだ。なるほど、奥でこういうふうに離れていたとしても、真正面からカメラで撮れば一本の重なりにしか見えないはずだ。

 

「例えば、横から見たらこういう形でもよさそうじゃないですか?」

「ああ、なるほど! これでも正面からはぴったり重なって見えますね」

「ですよね。でも、写真に写ってない奥の方は、まだ何通りも形が考えられそうで」

「え、今のうちにそんなに候補を増やしちゃっていいんですか?」

「今のうちなら。明日実物を見たら、どれが違ったかすぐ分かりますし」

 

 予想が外れるかどうかまで、明日の楽しみのうちに入れてしまっていいらしい。

 そう言われると、らでんも急に手が疼いてきた。そぴあにノートの向きを少しこちらへ回してもらい、余白の隅に一本、そぴあの図とは逆向きに反り返る線を書き足してみる。見えない裏側をただ明日までお預けにしているより、こうして予想を紙の上に並べておく方が、実物の周りをぐるりと歩くときに何倍も面白そうだ。同じノートの端っこで、そぴあの引いた線とらでんの引いた線が、それぞれ好き勝手な方角へ曲がっていた。

 

 そこへ、黙って画面を繰っていたピヨンが、別の小さな写真の写しをすっと滑り込ませてきた。記念館の公開一覧に載っている図版だという。細長く上へ伸びた全体のプロポーションは、今二人で睨んでいた古い写真によく似ている。

 

 けれど、撮られた向きがほんの少し違っていた。

 古い写真では完全に一本に重なって潰れていた中ほどに、細い背景の白が抜けている。らでんは書きかけのノートを放り出さんばかりの勢いで、ピヨンの手元へ椅子ごと詰め寄った。

 

「ここ。昼に言ってたの、この辺でしょ」

「そうです、ここです! ……やっぱり離れてるんだ」

 

 古い写真と公開一覧の写しをぴったり隣り合わせに並べて、机の上へ顔を寄せる。古い写真では暗い影になって沈んでいた細い部分が、もう一枚の少し斜めから撮られた図版では、向こう側の明るい空間を細長く挟み込んでいた。ここが向こうへ抜けるだけで、作品の風通しがまるで違って見える。

 そうなると、そのすぐ下にある縁の膨らみまで、単に金属の表面が荒れているだけとは見えなくなってきた。斜めにねじれながら奥へ続く厚みなのかもしれない。明日、実物の横へ回り込んで確かめたい場所が、またひとつ増えてしまった。

 

「正面からだとあんなに細い一本の線なのに、こっちの角度だと途中でちゃんと開いてるんですね」

「ただ、古い方の写真、足元が切れちゃってるんだよね。そこも明日、見ておきたいな」

「ああ、ほんとですね。つい同じ作品だと思って見比べちゃいましたけど、土台のところもちゃんと確かめないと」

 

 ピヨンの冷静な指摘に、らでんもハッとして写真の裾を見直した。

 隣ではそぴあが、さっきのノートを二枚の写真のすぐ横へ置き直している。らでんも自分たちが描いたばかりの線画と、新しく見つかった写真の隙間を交互に見比べた。

 

「あ、私が描いた方は、もう違うかもしれないです」

「え、もうですか?」

「この曲がり方だと、今見えた隙間が通らないんですよ。でも、らでんさんが描いた方なら、まだありそう」

「じゃあ明日、現物の前で答え合わせしましょうか」

 

 ほんのさっき紙の隅へ書き足したばかりの頼りない線なのに、明日それがどう裏切られるのか、もう今から楽しみで仕方がない。もし見当違いに外れていたなら、それはそれでどんな形になっているのか早く見てみたかった。

 

 とはいえ、シルエットが似ているからというだけで、この二枚を同一の作品だと決めつけてしまうのはまだ早い。ピヨンの言うとおり、古い写真の方は肝心の足元が枠の外へ切れているのだ。そこを明日確かめるための余白を残して、らでんは二枚の写真を重ねずに並べて置いた。

 

 もしこれが同じひとつの彫刻なのだとしたら、見る人間が立つ位置を少し変えるだけでこれほど表情が変わるということだ。記念館の窓から差す自然光が実物の金属肌に当たったら、あの細かな凹凸はどんなふうに影を作るのだろう。

 

「これ、表面の肌をもっと拡大した写真も欲しいなあ」

「明日、直接見るんでしょ」

「見ますけど、それはそれとして今もちょっと欲しいです」

「私も。ちょっとだけね」

 

 呆れたように言いながら、ピヨンの指が端末の画像を一段大きく引き伸ばした。明日まで待てと言った本人までちゃっかり画面へ顔を寄せ、そぴあの椅子もすっと近づいてくる。三人で頭をくっつけ合いながら、拡大された彫刻の輪郭が白黒の粗い網目にぼやけていくところを最後まで見届けた。ここから先はもう、明日の自分の目を待つしかなさそうだ。

 

 らでんは一息ついて、後ろの棚へ茶を取りに立った。少し離れた場所から振り返ると、さっき八割だ十割だと言っていた机の広さは、三人で囲むのにまさに誂えたようだった。並べられた作品の写真と記録の写し、片手で頬杖をつくピヨン、そして鉛筆の線が何本も増えたそぴあのノートまでが、ひとつの机の上に気持ちよく収まっている。

 

 ただ、このまま三人で面白いところばかりをつつき続けていると、肝心の明日の朝、何から手をつけるかが決まらないまま夜になってしまう。温かいお茶で口を潤している今のうちに、最初の段取りだけはまとめておきたかった。

 

「さて、明日何から見るか、今のうちに決めちゃいません?」

「そうだね。決めとこうか」

 

 空になった湯呑みを棚へ戻し、らでんは再び古い写真の脇へ指を置いた。

 彫刻本体の形については、少し角度の違う公開一覧の写真も見つかったし、明日どこから見るかの見当もついた。問題は、そのすぐ隣に小さく写り込んでいる作業台の上だ。

 

 そこには木の柄がついたものや、先端の平たく薄いへらのような制作具がいくつも並んでいる。もしこの道具が今もどこかに残っているなら、セザールがどの部分を指で握り、どんな角度で原型へ当てていたのかまで辿れるかもしれない。

 けれど、この写真の小ささでは具体的な用途までは絞り込めなかった。古い制作資料の控えにはひとまとまりの道具として記載があるのに、現在の公開一覧の方には、それに当たる品が見当たらないのだ。

 紙の記録とこの写真の間が今どう繋がっているのか、まずはそこから尋ねてみたい。らでんは該当する制作資料の写しを抜いて、写真のすぐ隣へ並べた。

 

「明日は、まずこの道具のことから聞いてもいいですか? 彫刻の方より、こっちの方が手元の手掛かりが少なくて」

「この公開一覧に載せてないだけかもしれないよ。そもそも、完成作じゃなくて道具まで載せる一覧なのかも、まだ分からないし」

「ああ、単に一覧の対象外っていうだけならいいんですけどね。もし館のどこかに残ってるなら、ぜひ実物を見せてもらいたいですねえ」

 

 ピヨンが端末の画面を公開一覧の表紙見出しへ戻したので、らでんも横から身を乗り出して凡例を読み直した。

 確かに、これだけでは道具類が処分されたのか別管理なのかまでは判断がつかない。端末から手を離したピヨンが、古い写真の端をとんと指先で押さえた。

 

「明日は窓口の大神ミオさんに館内を案内してもらえるから、最初にこの写真を見せて直接聞いてみようよ。その方が早いと思う」

「じゃあ、この制作資料の頁も一緒に見てもらいましょう。ここに書いてある一組と、写真に写ってる道具が同じものかどうかも確かめたいですし」

「じゃ、それを一番最初に聞こう」

 

 方針が決まったところで、ピヨンは現地へ事前連絡を入れたときに聞いた話を思い出したように続けた。らでんは道具の頁を手元へ残したまま耳を傾ける。

 

「そのミオさん、記念館の仕事だけじゃなくて、町の祭りの準備も手伝ってるんだって」

「ああ、さっき橋のたもとの軒下に置いてあった飾り、やっぱりお祭りのだったんですね」

「それとね、近くの古い工房にはカエラっていうハンターも来てるらしいよ。別の依頼で鉱石を調べに来てて、そのままそこで精錬もしてるんだって。ミオさんが言ってた」

「古い工房で精錬……うわあ、そっちもすごく見たいですねえ」

「まず明日の分ね」

 

 釘を刺されながら押し戻された写真を、らでんは苦笑いしてノートの横へ綺麗に揃え直した。

 現地へ来てから気になる場所は増える一方だけれど、明日の朝一番に窓口で出す紙は、この数枚に絞っておけばいい。写真に写った道具は今どこにあるのか、そして資料にある一組と同じものなのか。まずそこを聞いて足場を固めれば、その次にどこを調べるかも自然に決まってくる。

 鞄の中の資料を最初から全部引っ張り出して、目についた順に相手を困らせる必要はないのだ。

 

「でも、こういう制作道具って、ちゃんと残ってると本当に嬉しいんですよね」

「うん」

「完成して綺麗に磨かれた作品だけ見てると、どうしても分からないことがあるじゃないですか。道具のどこが一番擦り減ってるとか、割れた柄を自分で直しながら使い続けてたとか。そういう手の跡を見てから展示室へ戻ると、作品の方も、最初からもう一回見直したくなるんですよ」

 

 ピヨンも興味深そうに写真へ顔を寄せてきたので、らでんは卓上の道具の中でも特に気になった一本、木の柄らしい部分を指先で小さく囲ってみせた。作品ばかり見ていたら見落としてしまいそうな、ほんの小さな黒い染みのような箇所だ。もしそこに作り手が使い込んだ跡が残っているのなら、ぜひ近くから自分の目で確かめてみたい。

 

「例えば、この柄のところにある黒い部分なんですけど。ただの汚れなのか、木が欠けた傷なのか、それとも光の影なのか、この写真だとどうしても判別がつかないんですよねえ」

「現物があったら、その裏側もどうなってるか見たいね」

「そうそう、そっちも絶対見たいんですよ」

 

「あ、直した柄も、そのまま残しておくんですね」

 

 不意に横から声がして、見るとそぴあがノートから顔を上げていた。らでんは写真を囲っていた指を引っ込め、そぴあからもその黒い箇所が見やすいように紙の向きを少し回す。

 

「ええ、できればそのまま残したいですね。修理してあんまり綺麗にしすぎちゃうと、その人が使ってたときの手の跡まで一緒に消えちゃうかもしれないので」

「なるほど、傷があるところもそのまま見たいんだ」

「そうなんです。……まあ、まずはこの黒いのが、本当に傷なのかどうかからなんですけど」

「そこからですね」

 

 そぴあの細い指も、らでんがさっき囲っていた柄の黒い箇所へすっと近づいて止まった。らでんはその指先をじっと見つめる。同じひとつの黒い点を見ていても、測量の専門家であるそぴあの頭の中では、どんな順番で考えが動いているのだろう。

 

「そこが実際に窪んでるかどうかなら、現物を見ればすぐ分かりますね。もし窪んでなかったら、今考えてる方は一つ減らせそうです」

「そうしたら、残りの汚れか影か、そっちの方を考えればいいわけですね。明日、もし道具が出してもらえたら、そこも一緒に見てもらっていいですか?」

「もちろんです。らでんさんが他に気になったところも、ぜひ教えてください」

「ぜひ! さっきそぴあさんがノートに描いてた線が実際どうなってるのか、横で一緒に見たいです」

 

 表面が窪んでいなければ、候補がひとつ減る。そしてその先にも、まだ確かめるべき続きが残っている。

 

 らでんが道具を握った人の手つきや暮らしの方へ思いを馳せている間に、隣のそぴあは、その表面に残った凹凸の形から条件を切り分けて考えていた。

 入り口は違うのに、話してみれば二人ともまったく同じ現物を目の前にして確かめたがっている。専門が違うというのは、話が噛み合わなくなることばかりではないらしい。

 次の資料の頁へ手を伸ばすときには、明日ここもそぴあに横から見てもらおうという場所が、らでんの目に自然と飛び込んでくるようになっていた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 ノートの次の行へペンを走らせる前にふと顔を上げると、いつの間にか窓ガラスに共用室の黄色い照明がくっきりと映り込んでいた。昼過ぎに橋の上から見上げた紅葉の山肌は、もう夜の闇に溶けてすっかり見えない。

 

 そんなに長いこと写真を睨んでいたのかと驚くより先に、急にお腹の底がぐうと頼りない音を立てた。明日記念館で確かめたい箇所は、もうちゃんとノートに書き留めてある。今ここで一旦紙を閉じても、明日の朝は迷わずこの続きから始められるはずだった。

 

「今日は、そろそろこの辺にしません?」

「珍しく健康的な提案」

「いや、らでんのお腹の方が、いい加減に何か食べさせてくれと騒いでまして」

「私も。じゃあ、近くにお弁当買いに行こうか」

「あ、そぴあも一緒に行っていいですか? お店までの道、暗くても覚えておきたいので」

 

 そぴあがぱたんとノートを閉じるのを見て、らでんも明日最初に使う数枚だけを別にして、残りの資料を茶封筒へ戻した。ピヨンの端末の画面も静かに閉じられる。ここでうっかり別の写真に目を留めさえしなければ、ちゃんと三人で温かい夕飯にありつける。

 

 それぞれ上着に袖を通して宿の外へ出ると、昼間よりも川の流れる音がずっと大きく耳に届いた。街灯の明かりが落ちる橋の真ん中で、前を歩いていたそぴあがふと足を止める。お店は逆方向だっただろうかと、らでんも隣へ並んで欄干から下を覗き込んだ。

 

「あれ、お店って反対側でしたっけ?」

「あ、いえ。ちょっと下を見てただけです。ここ、昼間はどんな色だったんですか?」

「昼間ですか? 石を越えるところは白く泡立ってて、その少し先は……透き通った緑っぽい色でしたかね」

「へえ。じゃあ、明日か明後日、明るいうちにも見てみたいな」

 

 暗い水面を見下ろしながらそう言うそぴあの横で、らでんも大きく頷いた。明るいうちにもう一度見たいのは、らでんも同じだ。しかも次は橋の上から見下ろすだけでなく、もう少し水際の近くまで下りていって、川底の石を間近で眺めてみたい。

 惣菜屋の看板を探すはずのところで、らでんの目はすっかり川岸へ下りられそうな細い石段を探していた。

 

 三人分の弁当と汁物の袋を提げて宿へ帰り着く頃には、夜風で指先がすっかり冷え切っていた。

 ピヨンが机の半分から手早く荷物を退かし、らでんが布巾でテーブルの表面を拭く。明日使う茶封筒とノートは、湯気や水滴が飛ばないよう反対側の端へきっちり寄せた。

 さっきまでは写真を何枚並べられるかという面積ばかりを計算していたあの広い机が、今は三人分の弁当箱をゆったり並べるのにもちょうどいい。向かい合ってご飯を食べる場所としても、文句なしの広さだった。

 

 お椀に味噌汁の素を入れて熱い湯を注ぐと、乾いていたわかめがみるみるうちに緑色に開いていく。隣でそぴあもお椀を両手で持ってくれたので、資料から一番遠い安全な場所へ三人分を並べた。

 

「「「いただきます」」」

 

 弁当の蓋を外すと、香ばしく焼けた鮭の匂いが湯気と一緒に立ち昇った。隅の仕切りには、根菜の煮物と黄色い漬物が少しずつ添えてある。らでんはまず箸先で鮭の身を丁寧にほぐし、白いご飯の上へまんべんなく散らした。こうしておけば、どこから箸を入れても毎回ちゃんと鮭が口に入る。

 

 そうやって満足しかけたところで、斜め向かいのピヨンの弁当箱に、こんがりと揚がった鶏の唐揚げが並んでいるのが目に入った。店の棚の前で最後までどちらにするか迷って、結局直前で鮭に替えた方の弁当だ。いざ目の前でいい匂いをさせられると、やっぱりあちらも一口食べてみたくなる。

 

「……ピヨンさん、そっちの唐揚げも美味しそうですね」

「ひとつ交換する?」

「ぜひ!」

 

 二つ返事で頷いてから、らでんは慌てて自分の弁当箱を見下ろした。すでに細かくほぐしてご飯の上へ散らしてしまった鮭の身を、今さら箸でかき集めて渡すわけにはいかない。

 焦って隅を探すと、皮目の近くにまだ箸をつけていない大きなひと切れが残っていた。らでんは息を止めて、身を崩さないよう慎重に箸先で持ち上げる。

 

「あぶなかったです、全部ほぐしちゃうところでした」

「全部ご飯に混ぜる前でよかったね」

 

 無事に大きな鮭の切り身がピヨンの皿へ渡り、代わりに揚げたての唐揚げがひとつ、らでんのご飯の上へやってきた。ほぐした鮭の隣に唐揚げが並ぶと、我ながら実に贅沢な景色だ。

 

 さっそく頬張ろうとしたところで、向かいの箸がぴたりと止まっているのに気がついた。そぴあが自分の弁当箱とらでんたちの皿を、少し羨ましそうに見比べている。

 

「あの、その交換、そぴあも混ざっていいですか?」

「いいですよ! そぴあさんのお弁当には、何が入ってるんですか?」

「卵焼きがあります。まだ手をつけてないのが二切れあるので、これなら綺麗に分けられるかなって」

 

 らでんはもう一度、自分のご飯の上を真剣に点検した。さっきピヨンに渡した隣に、もうひと切れだけ、そのままお裾分けできそうな塊が残っている。

 

「……大きいところ、こっちにもうひとつ残ってました!」

「よかった。まだ全部ほぐしてなかったんですね」

「ちょっと、そぴあさんまでピヨンさんみたいなこと言います?」

 

 からかわれて笑うと、そぴあも嬉しそうに目を細めて笑った。

 ついさっきまで白黒の写真とノートを並べて彫刻の裏側がどうなっているかを議論していた同じ机の上で、今は唐揚げと卵焼きと鮭の切り身が三人の弁当箱の間を行き交っている。最初はそれぞれ別々に選んだ三つの弁当だったはずなのに、気がつけば自分の食べたかったものが少しずつ全部揃っていた。

 

 温かい味噌汁のお椀を両手で包み込むと、夜風で冷えていた指先までじんわりと熱が戻ってくる。箸が器の縁に触れる小さな音も、静かな共用室ではよく響いた。窓の外の川面はもう暗くて見えないけれど、さらさらと石を洗う水の音だけは変わらずすぐそばにある。

 

「四泊、ずっとここなんですよね」

「そうだよ」

「資料は机の上に広げておいて、眠くなったら奥の部屋へ行ってすぐ布団に入れるんですよね。で、朝起きて顔を洗ったら、すぐその続きができる。……なんだか、ものすごく贅沢だなあ」

「高いお店のご飯より、そっちが贅沢なの?」

「いや、ご飯も大事ですよ。今なんか、この唐揚げと卵焼きがものすごく大事です」

 

 ピヨンがおかしそうに肩を揺らし、味噌汁のお椀を口へ運んだ。らでんも甘めの卵焼きをご飯と一緒に頬張る。

 

 明日の朝になれば、いよいよ記念館へ行く。最初にミオへ尋ねることもちゃんと決めた。けれど、今日この机で見つけた別角度の写真も、そぴあがノートに引いた二本の線も、それから昼間に見た川の緑色さえ、明日宿を出るときには鞄の資料と一緒に全部ついてきそうな気がした。

 そうなればきっと、また展示ケースの前や廊下の途中で、足が止まって動かなくなる場所がいくつも出てくる。そのとき、一緒に歩いているこの二人は、そろそろ次へ行くよと背中を押してくれる側だろうか。

 

「明日、ミオさんに館内を案内してもらうんですし、あんまり一箇所で足を止めすぎないようにしないとですね」

「どっちが?」

「……お互いに、です」

「そうだね。もし私が資料の前で止まってたら、気にしないで先に行ってていいよ」

「え、そのピヨンさんが止まってる資料が、らでんもめちゃくちゃ見たいやつだったらどうするんですか?」

「そしたら二人で止まるしかないじゃん」

「そこにそぴあさんまで混ざってたら、どうします?」

「三人で止まる」

 

 ピヨンの返事には、これっぽっちの迷いもなかった。らでんは助けを求めるように、向かいのそぴあへ顔を向ける。

 

「あ、そぴあさんも、私たちを止めてはくれないんですね」

「それは、明日の現物を見てから決めてもいいですか?」

 

 どうやらこの三人の中に、時計を見て急かしてくれる止め役は一人もいないらしい。

 らでんは吹き出しながら、最後の黄色い漬物をぽりぽりと噛んだ。明日見たいものの話をしただけで、全員が最初から自分の足も止まる前提で返事をしている。そのことが呆れるよりもなんだかくすぐったくて、明日の朝がますます待ち遠しくなった。

 

 食べ終えた机の上を、三人で手分けして片づける。らでんが空のお椀を流しへ運び、ピヨンが弁当の空き箱をまとめ、そぴあが仕上げに机の上を綺麗に拭いてくれた。端へ寄せてある茶封筒の口を開けばいつでも仕事の続きへ戻れるけれど、今夜は明日一番に出す薄い一束だけを手前に揃えておくところで我慢した。

 

 寝間着を取りに奥の寝室へ入ると、窓際のスペースにそぴあの旅行鞄と道具袋がきちんと並べて収まっていた。布団の間の通り道も、昼間よりすっきり空いている。あの広い共用机だけでなく、この部屋も今日から四晩、二人で使うのだ。

 

「そうだ、夜なんですけど、手元の小さな灯りをつけてても大丈夫ですか? 寝る前に、少しだけノートに書きたくなるかもしれなくて」

「あ、全然大丈夫ですよ。急に思い出して、布団の中でノートを開いたりするので。もし眩しかったら、遠慮なく言ってくださいね」

「はい。らでんさんも、気になったら言ってください」

 

 今日ここで初めて顔を合わせた相手と、同じ屋根の下、同じ部屋で四晩を過ごす。宿へ来る前は、調査の役割分担のほかに、部屋でどんな世間話をすればいいかほんの少しだけ気構えていたはずだった。

 

 それなのに今は、寝る前の手元灯の話をしたすぐその足で、さっきの彫刻の線の予想は結局いくつ残ったのかと続きを聞きたくなっている。そのそぴあのノートなら、まだ共用室の机の上だ。

 

 着替えを抱えて共用室へ戻ると、ちょうどそぴあも自分のノートを回収しに来たところだった。らでんは椅子に掛けた上着のポケットを上から触れ、いつも使っている筆記具がちゃんと入っているかを確かめる。明日の朝、いざ出発という時にペンを探すところから始めるのだけは避けたかった。鞄の口は、すぐ封筒を入れられるようまだ開けたままにしてある。

 

「ねえ、さっきの彫刻、明日は最初どっちの向きから見る?」

「まず、写真とまったく同じところに立ちたいです」

「いきなり横へ回るんじゃないんだ」

「最初に正面を確かめて、そこから自分で動いて見るんですよ。一歩ずつ、横へ」

「うわ、それ絶対時間かかりそう」

「でも、ピヨンさんだって切れてた足元の方、じっくり見るんでしょう?」

「見る」

「そぴあは、さっきノートに描いてた方の横から見てみたいです」

 

 そぴあが表紙を閉じたノートを胸の前へ持ち上げた。らでんも、机の手前にまだ一枚だけ残していた白黒の写真へ目を落とす。

 

「じゃあ、もし予想が外れてても、その図見せてくださいね。実物とどう違ってたのか、横で一緒に見たいです」

「はい。らでんさんが隅っこに描いた方も、ちゃんと見せてくださいね」

 

 らでんは大きく頷いて、彫刻の写真を明日の束の一番上へそっと重ねた。

 昼間から何度も何度も目を凝らした、あの細長い正面の姿だ。ここから右へか左へか、ほんの少し足を踏み出したら、重なっていた線の間に向こう側の明るい隙間が開くかもしれない。自分の引いた予想の線はあっさり外れていて、そぴあの描いた図とも違っていて、二人ともまだ思いつきもしなかった形がそこに立っているかもしれない。

 揃えた紙の束を茶封筒へ滑り込ませた。

 

 明日はもう、光を求めて紙の方を傾けなくていい。自分の足で、実物の横へ回り込めるのだ。

 茶封筒の口をきっちり閉じて、鞄の奥へ収めた。今度はもう、もう一度だけと机の上へ引っ張り出さずにいられた。

 




今回の舞台づくりで参考にした場所と、冒頭のごはんをご紹介します!
彫刻を見て、川沿いの宿で資料を広げて、美味しいものも食べる。そんな調査旅行のイメージですw

・滞在する宿の参考
[庭の宿「トロッコと銀の庭」](https://niwanoyado.jp/trolley/)
兵庫県朝来市生野町にある一棟貸しの宿。川を眺められるリビングや、みんなで机を囲んで作業も食事もできる空間を参考にしています。

・美術館と彫刻の参考
[あさご芸術の森美術館・淀井敏夫記念館](https://asagoart.com/profile.html)
セザールの作品を考える際は、淀井敏夫さんの彫刻を参考にしています。細長い形や、角度を変えると印象も変わる造形がとても魅力的です。

・銀山の参考と関連リンク
[史跡 生野銀山](https://www.ikuno-ginzan.co.jp/)
鉱山町の背景は、宿と同じ兵庫県朝来市の生野銀山を参考にしています。

・冒頭のオムハヤシの参考
[生野銀山「レストラン マロニエ」](https://www.ikuno-ginzan.co.jp/sp/omiyage.html)
生野銀山のお土産館二階にあるレストランです。らでんとピヨンが食べているオムハヤシはこちらを参考にしています。

作中では、地理や建物の配置などに創作上のアレンジを加えています。セザールの人物像や出来事も本作独自のものです。

ゴシカ・シティ編、最後までお付き合いいただきありがとうございました! さて、十老頭入りを果たした桐生組。となれば、気になるのは、その武力を担う念能力者集団――《陰獣》です。 皆さんは、誰に陰獣の一員として登場・活躍してほしいですか? 今後の構想の参考にさせていただきます!

  • 桐生組直参 天音かなた
  • 桐生組直参 角巻わため
  • 金虎堂頭領 虎金妃笑虎
  • ベルベット商会 フィクサー 一条莉々華
  • ゴシカでは掃除屋が陰獣を兼ねるしきたり
  • その他新規で別のホロメン
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