儒烏風亭らでんは世界を蒐集する   作:今日も元気ですマン

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第三十五話 五人の食卓

 ぐすっ、と小さな音がして、らでんの左肩に押し当てられていたそぴあの額がほんの少しだけ動いた。

 

 旧庫の入口に近い壁際で、静かな呼吸の音が三つ並んでいる。さっきまで波打つように震えていたそぴあの背中が、らでんが左手でゆっくり撫で続けるうちに、少しずつ落ち着きを取り戻してきていた。

 

 それでも、らでんの左手を両手で包み込んだそぴあの指先は、まだ離れたくないみたいにぎゅっと力を込めたままだ。

 

「……ごめん、らでん。……左肩、重かったよね」

 

 くぐもった涙声で言って、そぴあがようやくゆっくりと顔を上げた。

 

 大きな瞳の周りがすっかり赤くなっていて、頬には涙の筋が幾つも光っている。そぴあはらでんの顔を見るなり、自分がどれだけ取り乱してしがみついていたかに気づいたみたいに、みるみる耳の先まで赤くして視線を落とした。

 

「全然重くないよ。むしろあったかくて安心したんだから、もっとくっついててもいいのに」

「う、ううん、もう大丈夫……。あ、図面……っ」

 

 そぴあは片手で目元をごしごしと拭ってから、自分の膝の横に落ちていた図面を慌てて拾い上げた。さっきまで必死に握りしめていたせいで、紙の端がくしゃくしゃに折れ曲がり、涙が落ちたところが丸く湿っている。

 

「あーあ、せっかく別棟で借りてきた写しなのに、端っこがしわしわになっちゃった……」

「それくらい、あとで机の上で伸ばせばすぐ直るって。ほら、私にも半分貸して」

 

 らでんが傷のない左手を伸ばすと、そぴあは少し照れたように鼻をすすりながら、図面の反対側の角を持った。二人で膝の上に紙を広げ、左手のひらでそっと皺を撫でて伸ばす。かさ、と乾いた紙の音が響くだけで、ここが本当にさっきまでの恐ろしい場所から戻ってきた現実なのだと分かって、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

「……喉、渇いたね」

「うん。すっごく渇いた」

 

 顔を見合わせて、どちらからともなく小さく吹き出す。

 

 隣で壁に背を預けていたピヨンが、肩から下ろした鞄の脇ポケットを探り、まだ蓋の開いていない小さな水筒を取り出してそぴあへ手渡した。

 

「はい、まず一口飲んで。泣いたあとにそのまま喋ると、また息が詰まるよ」

「ありがとうございます、ピヨンさん。……らでん、蓋開けるから、先に飲んで」

「ありがと、そぴあ」

 

 そぴあが開けてくれた水筒を左手で受け取り、らでんはゆっくりと口をつけた。冷たい水が、カラカラに乾いていた喉を通って胸の奥へと落ちていく。続けてそぴあも水筒を受け取り、こくこくと喉を鳴らして飲んだ。

 

 水筒の蓋を閉めると、ピヨンが自分の右拳を軽く握り直しながら、らでんの膝の上にある包帯の巻かれた右手首へ目を向けた。ピヨンの右拳の甲も、さっき接触板と保持具を渾身の力で殴りつけたせいで、皮膚が赤く擦れてうっすらと腫れている。

 

「血、もう滲んでないね。……で、らでん。声が途切れてから戻ってくるまで、あの中で何してたの? 私が外から殴ってもびくともしなかったやつが、内側から空間ごと切り分けられたみたいに消えたんだけど」

 

 ピヨンの声は落ち着いていたけれど、その瞳には隠しきれない心配と、術理を知る者としての真剣な色が浮かんでいた。そぴあも水筒を膝の上に抱え直し、まだ少し赤い目でらでんの顔をじっと見つめる。

 

「さっき、らでんが最終台板から《物語る蒐集帖(ミュージアム・ログ)》で記憶を読んで、そのあと札に名前を書かされて、その直後に、急に声が届かなくなっちゃったでしょ。《万象観測器(プリンキピア)》で身体や道具の位置と動きは追えても、らでんの心の中で何が起きてるかまでは分からなかったから……。戻ってきたとき、左手の前にあの本が出てきて、びっくりしたよ。……あれ、昨日の夜に一緒に描いた、二つの箱の設計図だよね?」

「うん。……あのね、ピヨンさん、そぴあ」

 

 らでんは膝の上の右手を一度だけ見つめてから、二人の顔を順番に見た。

 

 白い場所でのことを、全部一から十まで言葉にするのは難しい。けれど、最後まで手を離さずに支えてくれたこの二人には、自分がどうやって帰ってきたのかをちゃんと伝えておきたかった。

 

「外のことが何も分からなくなったあと、心まで消されそうになったとき……これ、カエラさんが打ち直してくれた雪玉のお守りが、心の一番奥のところだけ、消えないように守ってくれたんです」

 

 らでんは左手の指先で、鎖骨のすぐ下、服の内側にある丸い鋼の重みにそっと触れた。それから、左手首の袖口を少しだけめくって、小さな結び目のある細いミサンガを見せる。

 

「そしたら、このミサンガにジンさんが編み込んでおいてくれた念が、頭の中で声を掛けてくれて。……誰かに外してもらうのを待つんじゃなくて、自分がどうしたいのか、何を誓うのかって」

「ジンが……? あの出発前の小包、そういう仕掛けだったんだ」

 

 ピヨンが驚いたように目を見開く。らでんは小さく頷き、自分の胸の中心へ左手を当てた。

 

「昨日、二つの区画がすぐ崩れちゃったのは、設計が悪かったんじゃなくて、今の私にはまだ、あれだけの死後念を切り分けて閉じ込めておくための器の大きさが足りなかっただけだったんです。……だから、らでん、自分で決めました」

 

 少しだけ息を吸って、はっきりと言う。

 

「セザールの箱にされて生き続けるくらいならって……残りの寿命の半分を、その場で一括で前払いして、《遺念収蔵録(ミュージアム・アーカイブ)》と《遺念収蔵館(ミュージアム・オブ・エコーズ)》を今すぐ完成させるって、誓約したんです」

 

「――っ、寿命の、半分……!?」

 

 そぴあが息を呑み、水筒を持ったまま肩をびくりと震わせた。ピヨンも眉間を深く寄せ、何か言おうとして唇を開きかけ、そのままぐっと奥歯を噛みしめる。

 

「らでん。……どれだけ無茶な払い方したか、自分で分かってる?」

「はい、分かってます。……でも、無理やり書かされたんじゃないです。らでんが、自分の意思で選んで払いました」

 

 らでんは、今にもまた泣き出しそうな顔になっているそぴあの膝へ、自分の左手をそっと伸ばして触れた。

 

「だって、ピヨンさんもそぴあも、最後まで支えてくれてたでしょ。そのままあの人の入れ物にされて帰れなくなるなんて、絶対嫌だったから。……寿命を半分前払いして、もう館と録は完成しました。これから使うたびにまた寿命が減ったり、代価のせいで身体が動かなくなったりすることもないです」

 

 少しだけ胸を張ってみせると、それでも身体の芯に残っている重だるさのせいで、肩の力がふっと抜けた。

 

 ピヨンは長い溜息を一つ吐き出し、自分の額に片手を当てて首を振った。

 

「……思い切りまで師匠に似なくていいんだけど。あそこで他に手がなかったのは、外にいた私も分かってる。今さら説教はしないけどさ」

「らでん……っ、ほんとに、今、どこか苦しいところない? これから先、また急に倒れたりしない……?」

「うん、大丈夫。ちょっと全力疾走したあとみたいに身体がだるいのと、右手首がひりひりするだけで、他はどこも悪くないよ。ほら、お腹だってちゃんといつもどおり空いてきてるし」

 

 らでんが笑ってみせると、そぴあはようやく詰めていた息を吐き出し、「……もう、らでんのそういうところ、ほんとに心臓に悪いよ」と小さく唇を尖らせた。

 

 その普通のやり取りが戻ってきたことが嬉しくて、らでんは壁に背中を預けたまま、がらんとした旧庫の奥へ視線を向けた。

 

 一組目の箱と三連作があった右奥の棚も、白い柄の刀があった左の棚も、そしてらでんの手首を捕まえていた中央の低い台も、今は空っぽの木枠だけが残っている。

 

 けれど、消えてなくなったわけではない。らでんの胸の奥には、独立した念空間として立ち上がった《遺念収蔵館(ミュージアム・オブ・エコーズ)》の静かな輪郭があり、あの三組の原本が無傷のまま個別の収蔵庫に守られている手応えと、それとは別の分厚い隔壁の向こうに、あの巨大な管理念と帯金や接触板、血の札が丸ごと封じ込められている手応えが、はっきりと伝わってきていた。

 

 セザールが最後に仕掛けた罠は、本当に恐ろしかったし、二度とごめんだ。けれど、あの三枚の絵に添えられていた手紙や、割れた額を支えていた木片や、刀身に沈んだ金の蔓の美しさまで嘘だったとは思わない。人の思いがこもった品物を、危ない仕組みから切り離してちゃんと守れたのなら、この四日間ここで調べてきたことは、きっと無駄じゃなかったはずだ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「さて。動けそうなら、現場の片付けと連絡だけ先に済ませよっか」

 

 ピヨンが膝の埃を払って立ち上がり、腰の時計と旧庫の空になった棚を見渡した。

 

「さっき私が廊下の連絡器で管理担当の人に伝えたのは、『機材の確認で少し作業を中断して、入口側で休んでいます。まだ中には入らないでください』ってところまでね。このまま黙って帰ったら、棚の原本が三組とも消えてるんだから、普通に盗難騒ぎでしょ」

「あ……っ、ほんとだ。館の収蔵庫へ入れたのって、緊急避難ですもんね。記念館の品を勝手に自分の物にしちゃったことにしたらまずいです!」

 

 らでんが慌てて背筋を伸ばすと、ピヨンは「分かってるならよろしい」と口の端を上げた。

 

「相手は念を知らない一般の職員さんだからね。死後念とか生体型収蔵庫とか、そのまま話しても混乱するだけでしょ。事実の骨組みだけ、相手の分かる言葉で伝えるよ。――三組を繋いでいた古い管理設備の内部で危険な暴走が起きて、そのままでは品物も調査員も危なかったこと。だから緊急措置として危険な設備側を封鎖隔離し、三組の原本は傷一つつけずに私たちの特別な保全区画へ一時退避させたこと。これでいい?」

「はい! 品物はいつでも無傷で中にあるって確認できますし、今後の安全な保管の仕方は、明日あらためて正式な報告書と一緒に相談するって伝えれば……」

「それなら、元の棚のどこから何が消えて、今どの番号で保全されてるかの簡単な控えは、私がそっちの記録板に書いておきますね。らでんは右手首が痛むんだから、字は書かなくていいからね」

 

 そぴあがすぐに床の記録板を拾い上げ、先ほど皺を伸ばした図面と照らし合わせながら、ペンを走らせ始めた。

 

 さっきまで泣いて赤くなっていた目元はそのままなのに、図面の寸法と棚の番号を確かめる手つきは驚くほど速くて正確だ。ただ、一行書くごとにちらりと横目でらでんの顔を見て、らでんがちゃんと隣に座っているのを確かめてから次の行へ移るところが、なんだか少しおかしくて愛おしかった。

 

「そぴあ、らでんはどこにも消えないから、前見て書いて大丈夫だよ?」

「み、見てないよ! 棚の番号とらでんの言った収蔵番号が合ってるか、確認してるだけだもん!」

 

 ぷいっと顔を背けてペンを動かすそぴあの横で、ピヨンは一度扉の外の廊下へ出ていき、別棟の管理担当へ内線を入れた。

 

 扉の隙間から、ピヨンの落ち着いた説明の声が聞こえてくる。古い保持機構に危険な異常作動が見つかったため、安全確保のために設備の一部を緊急隔離したこと。三組の収蔵品そのものは無傷で、調査班の特別保全区画に一時退避させてあること。今夜はこのまま旧庫の施錠と立入制限を継続し、明日の午前中に責任者を交えて正式な報告と今後の保管方法の協議を行いたいこと。

 

 数分ほどで話をまとめて戻ってきたピヨンは、今度は自分の懐から協会用の小型通信機を取り出し、通路の隅で短く非公開の連絡を入れた。

 

『――ピヨン。セザール記念館の旧庫調査、四日目の速報ね。現場に未記載の死後念による継承機構が組まれてて、同行のらでんが捕まりかけた。……うん、今はもう安全。本人が自分の《発》を完成させて、原本三組の保全と、管理側の死後念の完全隔離を同時にやったよ。負傷は右手首の浅い裂傷が一つだけ。……詳しい経緯と隔離区画の仕様、今後の管理方針は、明日正式な書面で上げる。現場は封鎖して引き上げるから』

 

 通信を切って戻ってきたピヨンに、そぴあが書き上げたばかりの控えの紙を見せた。

 

「ピヨンさん、現場の退避記録、これで全部書けました。外した小刃と金属へらも、危なくないように袋へ分けてあります」

「早いね、助かる。……今日ここでやることは、これで終わり」

 

 ピヨンが記録板を鞄へ収め、ふう、と肩の力を抜いた。

 

 これで、もう旧庫から出て宿へ帰れる。温かいお茶を飲んで、手当てをし直して、夕方にはミオとカエラを呼んでみんなでお鍋を囲めるのだ。

 

 そう思った瞬間、らでんの胸の奥で、さっきからずっと静かに灯っていたもう一つの気持ちが、ぴょこんと頭をもたげた。

 

 らでんは、自分の鎖骨の下にある雪玉の重みを左手でそっと押さえながら、ピヨンとそぴあの顔を交互に見上げた。

 

「あの……ピヨンさん、そぴあ。宿へ帰る前に、ほんの少しだけ、寄り道してもいいですか?」

「寄り道? 今から別棟に行くの? 管理担当の人には、顔を合わせるのは明日でいいって伝えたばかりだけど」

「ううん、別棟じゃないです」

 

 らでんは少しだけ頬を緩めて、すぐ横にある旧庫の入口の扉を指差した。

 

「完成したばかりの館――《遺念収蔵館(ミュージアム・オブ・エコーズ)》の中を、自分の目で一回見てみたいんです。さっき白い場所で立ち上がったときは、外で身体が捕まってたから、まだ自分で歩いてみたことがなくて」

 

 言っているうちに、胸の奥がわくわくと弾んでくるのが分かった。

 

「それに、あの三組の品物がちゃんと傷つかずに収まってるかも確かめたいですし……何より、今日一番近くで支えてくれたピヨンさんとそぴあに、らでんの館の最初のお客さんになってほしいんです。ね、そぴあ、昨日一緒に描いた二つの四角がどんな建物になったか、ちょっとだけ一緒に見に行かない?」

 

 らでんが首を傾げて誘うと、そぴあの赤かった目が、ぱちくりと二度瞬きをして、それから一気にきらきらと輝き出した。

 

「……えっ。らでんの館って、私たちも中へ入れるの!?」

「うん! 私が鍵を開けて一緒に案内すれば、そのまま三人で入れるよ」

「見たい! 昨日の夜、紙の上にペンで描いたあの四角い区画が、ほんとの建物になってるんでしょ!? 入り口から収蔵庫までどういう通路で繋がってるのか、中の光がどうなってるのか、すっごく見たい!」

 

 さっきまでの涙声が嘘みたいに、そぴあが身を乗り出して食いついてくる。

 

 ピヨンは呆れたように目を細めたが、それでもすぐには反対せず、らでんの顔色と包帯の右手首を注意深く見下ろした。

 

「え、今から? 大技を完成させて血まで流したばっかりだよね。その館に入るとオーラを大量に持っていかれるとか、出たら別の場所、ってことはないんだよね?」

「はい、そこは大丈夫です! オーラの様子も見ながら、今日は短く確かめるだけにします。現実の扉をこの雪玉の鍵で開けて入って、帰るときは同じ扉から、今いるこの場所へそのまま戻ってこられます」

「……中であの管理念の隔離区画が勝手に開いたりする危険は?」

「今は閉じています。原本の区画とは別の壁で分けてあって、さっきまで身体へ繋がっていた接点も切れたままです。……ただ、本当に最初の一回だから、入口の近くと、原本が無事かどうかだけ確かめたら、すぐ戻ってきます。だめ、ですか?」

 

 らでんが上目遣いに頼むと、横からそぴあまで「五分! ううん、三分でもいいから、入口のところだけでも見たいです、ピヨンさん!」と両手を合わせた。

 

 二人に並ばれたピヨンは、参ったなというように肩をすくめて、小さく笑った。

 

「……まあ、報告書を書くなら、私も一回見ときたいしね。いいよ、確認だけ。少しでも足元がふらついたら、その場で引き返す。それでいい?」

「やった! ありがとうございます、ピヨンさん!」

「わーい! らでん、早く開けて見せて!」

 

 そぴあに左腕を引かれながら、らでんはゆっくりと立ち上がった。

 

 三人で旧庫の入口の扉の前へ並ぶ。らでんは傷のない左手を首元の内側へ差し入れ、細い紐に通された鋼の雪玉を取り出した。

 

 カエラが鍛え直してくれた、鈍い銀色の小さな球体。さっき心の一番奥を守り抜いてくれたこのお守りは、今は完成した《遺念収蔵館(ミュージアム・オブ・エコーズ)》と現実の扉とをつなぐ、世界に一つだけの鍵になっている。

 

 らでんは左手で雪玉を軽く握り、旧庫の閉じた扉の取っ手のすぐ上へ、コツン、と小さく当てた。

 

「開けます。――《遺念収蔵館(ミュージアム・オブ・エコーズ)》」

 

 心の中で扉の向こう側の景色を繋いだ瞬間、雪玉の先から静かな波紋のような手応えが広がり、現実の重たい木扉の錠前が、かちり、と軽い音を立てた。

 そのまま左手で取っ手を引き、扉を内側へと開く。

 

 扉の向こうに広がっていたのは、さっきピヨンが内線を掛けに出た薄暗い石造りの廊下ではなかった。

 

 高く澄み渡った天井から、晴れた日の午前中のような柔らかな白い光が降り注いでいる。足元には、塵ひとつない滑らかな淡い灰色の石タイルがまっすぐに伸び、左右には落ち着いた木目の壁と、静かな回廊の柱が整然と並んでいた。旧庫の冷たく湿った空気とはまるで違う、どこまでも穏やかで、深呼吸したくなるような澄んだ空気が、開いた扉の向こうからふわりと流れ込んでくる。

 

「……わぁ……」

 

 らでんのすぐ横から中を覗き込んだそぴあが、感嘆の吐息を漏らした。ピヨンも目を丸くして、扉の枠と、その向こうに広がる明るい回廊を交互に見比べている。

 

「ほら、ピヨンさん、そぴあ。どうぞ、らでんの館へ!」

 

 らでんは一歩先へ足を踏み入れ、振り返って二人を手招きした。

 

 そぴあが「お邪魔しまーす!」と目を輝かせながら入ってきて、ピヨンも慎重に床のタイルを踏みしめながら続く。三人が中へ入ったところで扉を軽く閉じると、そこはもう、外の旧庫とは完全に切り離されたらでん自身の美術館のエントランスだった。

 

 さっき白い心象の中で一瞬だけ立ち上がったあの場所を、今はこうして、自分の足で踏みしめて歩いている。

 

「すごいよ、らでん……! 外の旧庫よりずっと天井が高いし、上を見て! 窓があるわけじゃないのに、天窓から自然の光が差してるみたいに、影がすごく柔らかいよ!」

「ほんとだ……! あ、そぴあ、こっちの壁の照明も見てよ。品物が眩しすぎないように、少し斜めから当たるようになってるんだね」

 

 二人がエントランスから続く展示室の入口を覗き込んで盛り上がっていると、少し後ろを歩いていたピヨンが、回廊の案内表示と足元の動線を見渡しながら感心したように頷いた。

 

「ただ広いだけじゃないね。入口からすぐのところに長椅子のある休憩区画があって、その先に一般の展示室、さらに奥の扉の向こうに収蔵区画と隔離区画が分かれて配置されてる。最初に組んだのに、動線ちゃんと考えてるじゃん」

「えへへ、昨日そぴあと一緒に、入り口と通り道をどう分けるか図面に描いたおかげです。……あ、でも展示室の方は、まだ何も並べてないから空っぽなんですよ」

 

 展示室の中は、大小さまざまなガラスケースや飾り台が静かに出番を待っているだけで、まだ中身は一つも入っていない。けれど、ケースの中の柔らかな布張りや、どの高さの目線からも見やすいように整えられた台の角度には、らでんが今までいろんな美術館や博物館を見て回るたびに「こんなふうに展示できたら素敵だな」と思い描いてきた理想が、そのまま形になって息づいていた。

 

「ねえ、らでん。ここって、死んだ人のものだけ? 生きてる人の念も展示できるの?」

 

 空のケースを覗き込んでいたピヨンが、ふと思いついたように尋ねた。

 

「元の術者さんご本人が、本心から同意してくだされば、できると思います。普通の美術館と同じように作ったので、作品をお預かりする寄託の仕組みは、一応あるんですよ。形のない《発》なら録に預かって、壁には作品名と説明文を書いた展示用のカードを掲示する感じです。美術品の横にあるキャプションみたいに。……まだ、誰にも預けてもらったことはありませんけど」

「へえ。じゃ、預けた人も、そのあいだ普通に同じ能力を使えるわけ?」

「いえ。預かっているその《発》は、ご本人も使えなくなります。だから、何を、いつまで預けるか、ちゃんと納得してもらわないと。展示のために預かる同意と、複製品(レプリカ)を作って使う許可も別です。使わせていただくなら、別に複製利用許諾書(レプリカ・ライセンス)を頂いて、ご本人から直接仕組みを教わって、私が理解して録へ書き留めてからです」

 

 ピヨンがケースの縁から手を離し、らでんの方を向いた。

 

「預けっぱなしになるのは、ちょっと怖いね」

「そこは、決めた期限が来れば、すぐご本人に戻ります。ご本人が返還請求書(リターン・リクエスト)を使っても、私が館側の受領書(ミュージアム・レシート)でお返ししても、その場にいなくてもすぐ戻るようにしてあります。返したら、館の方ではもうその複製品(レプリカ)を使えません」

「……なるほど。借りる方の都合で、返すのを引き延ばせないんだ」

「はい。人の大切なものをお預かりするんですから」

 

 らでんは、まだ何も書かれていない展示台の札受けに目を戻した。

 これから先、いろんな場所を旅して、たくさんの面白いものや人の手の跡に出会っていくための余白だ。いつかここにどんなキャプションを書いて並べようかと考えるだけで、指先がむずむずするほど嬉しくなる。

 

「そぴあ、そこばっかり見てないで、奥の収蔵区画の方も確かめに行こうよ」

「あ、うん! ちょっと待って、この柱の角の丸みと床の目地の合い方、すごく綺麗だから見てただけ! 昨日、紙の上で定規を使って引いた線が、ほんとにこんな真っ直ぐな廊下になるなんて不思議だねぇ」

「そぴあが寸法をきっちり揃えてくれたから、歪まないで建ったんだよ、きっと」

 

 嬉しそうに笑ってぱたぱたと追いかけてくるそぴあと並んで、らでんは回廊の奥にある収蔵区画の扉の前へと進んだ。

 

 ここからは館のバックヤードにあたる区画だ。長い廊下の片側には、番号の振られた個別の収蔵庫がいくつも並んでおり、それぞれの扉には中の状態が外から一目で確かめられる小さな強化ガラスの覗き窓と、整理番号のプレートが付いている。

 

 らでんは、一番手前の『〇〇一』から『〇〇三』までの三つの扉の前で足を止めた。

 

「……あった。ここです」

 

 三人で順番に小窓から中を覗き込む。

 

 『〇〇一』の収蔵庫の中には、昨日一日かけて調べた一組目――外箱と、割れた額を木片で支えられた三連作の絵が、手紙の束と一緒に、安定した温度と光の中で静かに収まっていた。

 

 隣の『〇〇二』には、暗い刀身に金の蔓が沈んだ白い柄の刀が、専用の受け台の上に傷一つなく置かれている。

 

 そして『〇〇三』には、今日あの低い台の上に載っていた三組目の浅い箱が、未開封のまま、ぴたりと水平を保って保管されていた。収蔵庫はまだ何十室も空いているが、今日ここへ入っている原本はこの三組だけだ。

 

「ほんとだ……三組とも、さっき旧庫の棚にあったときよりずっと安定した状態で収まってるね。三組目の浅い箱も、蓋が浮いたり傷ついたりしてないよ」

「うん。外枠の連絡線や危険な保持機構だけが綺麗に取り除かれて、品物そのものだけが保護されてる。これなら記念館にも、最良の環境で一時保全してるってちゃんと言えるね」

 

 そぴあとピヨンの言葉に、らでんはほっと胸を撫で下ろした。三組目の浅い箱の中に何が入っているのかは気になるけれど、今はまだ勝手に開けるときではない。

 

 それかららでんは、個別収蔵庫が並ぶ廊下のさらに奥――二重の重たい隔壁で完全に塞がれた、窓ひとつない『隔離区画』の突き当たりへと目を向けた。

 

 そこまで近づく必要はない。あの分厚い隔壁の向こう側に、セザールの巨大な管理の死後念と、右手首を捕まえていた帯金、接触板、そして自分の血で名前を書かされたあの白い札を収めている。原本の区画や自分の身体との接続が切れたままなのは、収めたときと同じ手応えで確かめられた。

 

「……向こうの隔離区画も、閉じたままです。原本の部屋とは分かれていて、手首へ繋がってた接点も切れています」

「それって、死後念なら何でもここへしまえるの?」

「いえ。亡くなった術者の念が、現物にまだ残っていて、それを確保できることがまず必要です。今回みたいに人に憑いていたら、何を通して繋がっているのかを確かめて、安全に切り離せる場合だけです。切ったせいで罰が発動したり、人の心や身体まで傷ついたりするなら、同じようにはできません」

 

 らでんは包帯の右手を見下ろした。今はもう、台の方へ引かれる感じも、自分の指を勝手に動かされる感じもない。

 

「切り離せば本当に被害が止まるか、そのあと繋がりが残っていないかも、確かめないと。……今回の念だって、消したわけではないんです。向こうに残したまま、私と品物を引っ張れないように分けて、預かっています」

「じゃ、あの扉は絶対に開けないでよ」

「はい、もちろんです!」

 

 らでんは大きく頷き、左手を軽く前へ出した。

 意識を向けると、左手のひらの上に、深い臙脂色の革装丁の本――《遺念収蔵録(ミュージアム・アーカイブ)》がふわりと具現化した。

 片手で表紙を開くと、最初の頁には、今見たばかりの『〇〇一』から『〇〇三』までの原本の記録と、別枠で赤く囲まれた隔離区画の記録が、整然とした文字で浮かび上がっている。

 

「収めた品の念も、その本から使えるようにするんだっけ?」

 

 ピヨンに聞かれ、らでんは原本の記録へ目を落とした。

 

「はい。でも、安全に保管するのと、念を借りて使うのは別です。亡くなった方の品なら、まず本物と、そこに残った念の核を館へ収める。それから、私が現物の形や素材、構造、今の状態を調べます。《物語る蒐集帖(ミュージアム・ログ)》で読めた記憶の欠片も、手紙や資料と照らし合わせて、どういう品だったのか筋を通して記録しないといけません」

「分からないところを、想像で埋めないってことね」

「はい。そのうえで、何が起きる念なのか、どう使って、誰に作用して、どう終わるのか。実際に残った現象や使用の記録から確かめたことを、私自身がこの録に利用登録して、初めて復(・)元(・)して使えるようにします。まだ分からないところは、分からないままに。足りなければ、使わずに保管を続けます」

 

 『〇〇三』の浅い箱は、中さえまだ見ていない。ここに無事に収まっていることと、その力を知っていることは、同じではないのだ。

 

「元の品は収蔵庫に残したまま、そこに繋がる復元品(レストア)を使います。同じ原本から同時に出せるのは一つだけで、元の念の条件もなくなりません。本物や念の核を失ったら、この記録だけで作り直すこともできません」

「……大事にしまって、よく調べてから使うんだね。あ、らでん、その本の後ろの方に、何か細い紙が二枚挟まってない?」

 

 横から頁を覗き込んでいたそぴあが、巻末のポケットを指差した。

 

 らでんが指先で頁をめくってみると、そこには美術館の図書室で使われるような、しっかりした厚紙の《貸出票(チェックアウト・カード)》が、正本と副本の二枚だけ収まっていた。

 

「ほんとだ。これが、館の外で使うための二枚ですね。受入れや返還の書類も含めて管理する、録の補助能力――《収蔵出納(ミュージアム・サーキュレーション)》の貸出票です」

「二枚なら、みんな合わせて二点までってこと?」

「正確には、外で一つの品を使う人、一人につき一枚です。私自身が使うときも同じです。もし二人で一緒に動かさないと使えない品なら、一つの品に二枚とも使います。三人以上で動かす必要があるものは、外では使えません」

「じゃあ、この館の中なら?」

「利用登録を済ませて、使う準備ができた品なら、録を通して使えます。館の中では、この貸出票は要りません」

 

 もっとも、今は原本を安全に預かって守っているだけだし、隔離した管理念なんて借り出すつもりもないから、この白紙の貸出票に何かを書き込む必要はない。

 らでんはぱたんと《遺念収蔵録(ミュージアム・アーカイブ)》を閉じ、手元からすっと消した。

 

「……うん。これで、確かめたかったことは全部見られました!」

「私も、中がどうなってるかよく分かったよ。想像してたより、ずっとちゃんとしてるじゃん」

「そぴあ、あの入り口の長椅子のところ、もう一回だけ見ながら戻ってもいい!? あそこのタイルの並び方、すごく規則的で好きだったの!」

「いいよ、帰り道だから一緒に見ながら戻ろっか」

 

 三人で明るい回廊を引き返し、最初に入ってきたエントランスの扉の前へ戻る。

 らでんが左手で取っ手に触れ、扉を開くと、そのすぐ向こうには、さっきまで自分たちが立っていた記念館の旧庫の薄暗い床が、一ミリのずれもなくそのまま繋がっていた。

 ピヨンとそぴあが先に旧庫の床へ出て、最後にらでんが外へ足を踏み出し、後ろ手で扉を閉める。かちり、と雪玉の鍵を離すと、扉はもうただの旧庫の木扉に戻っていた。

 

 右手首の包帯の下の傷は、館へ入る前と同じようにまだチクチクと痛むし、身体の芯のだるさも消えてはいない。それでも、自分の館へ二人を招いて、ちゃんと同じ場所へ自分の足で帰ってこられたことが、たまらなく誇らしかった。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 旧庫の扉に外からしっかりと鍵を掛け、立入制限の札を下げて記念館の外へ出ると、空はすっかり夕方の茜色に染まっていた。

 

 十月下旬のひんやりとした秋風が、熱を持った頬と瞼を心地よく撫でていく。昼過ぎまであんなに賑やかだった石段の屋台や祭りの幕も、今は片付けが終わったあとの静けさに包まれ、遠くの街路樹の葉がさらさらと揺れる音だけが響いていた。

 

 三人で並んで、ゆっくりとした歩調で坂道を下り、滞在している宿へと戻る。

 

「らでん、宿に着いたら夕飯まで少し横になってて。もう目、閉じそうじゃん」

「うっ……ば、バレてます? なんか外の風にあたったら、急に足の先まで重くなってきちゃって……」

「らでん、私が鞄持つよ! ほら、宿の階段、左側の手すりにつかまって!」

 

 そぴあとピヨンに両脇から世話を焼かれながら宿へ辿り着くと、らでんは靴を脱ぎ、寝室の自分の布団へぱたりと仰向けに倒れ込んだ。

 

 ふかふかのシーツの匂いがする。天井の木目を見上げているうちに、張り詰めていた糸がぷつんと緩んで、まぶたがひとりでにとろんと重くなった。

 

 部屋の向こうでは、ピヨンが洗面所で手を洗い、救急箱を開けて自分の赤く擦れた右拳の甲へ消毒薬と湿布を貼っている音がする。

 それから、らでんの枕元へ腰を下ろし、右手首の包帯を一度解いて、傷口が綺麗に塞がり始めているのを確かめてから、清潔なガーゼと新しい包帯で手際よく巻き直してくれた。

 

「うん、これなら夜に少しぐらい動かしても響かなそう。ミオたちには、古い金具の角でちょっと引っ掛けた、でいいでしょ。変に心配させるのもね」

「……はい。ありがとうございます、ピヨンさん……」

 

 返事をしたあと、どのくらい目を閉じていたのか分からない。

 

 次にらでんがぱちりと目を開けたときには、窓の外はすっかり夜の藍色に変わっていた。寝室を出て共用室を覗くと、広い机の上から、今まで広げていた調査資料や図面の束が綺麗に片付けられていた。

 

 代わりに、机の真ん中にはカセットコンロと大きな土鍋が据えられ、その周りに五人分の取り皿ととんすい、お箸にれんげが、いつでも始められるように並んでいる。

 二日目の夜にみんなで焼肉をしたときと同じ広い机だけれど、もう小皿やコップがどこの棚にあるかは三人ともすっかり覚えていて、そぴあが慣れた手つきで湯呑みにお茶を注いでいた。

 

「あ、らでん、起きた? お水飲む? それともあったかいお茶にする?」

「ん……ありがと、お茶もらおうかな。……そぴあ、もうすっかり普段の声に戻ったね」

「えへへ、さっきお水いっぱい飲んで、ピヨンさんと机を拭いてたら元気になったよ。……あ、ほら、ちょうど来たみたい!」

 

 廊下の方から、ことことと軽やかな足音と、聞き慣れた明るい話し声が近づいてきて、部屋の扉がノックされた。

 

 そぴあがぱたぱたと走っていって扉を開けると、大きな買い物袋を提げたミオと、四角い包みを持ったカエラが、夜の冷気と一緒に笑顔で入ってきた。

 

「こんばんはー! みんな、お疲れさま! 記念館の方の片付け、ちょっと長引いちゃってごめんね」

「こんばんは。豆腐と長ねぎ、一番いいやつを選んできたよ。らでんたちの分までたくさんあるからね」

 

 ミオは昼間の巫女装束から、柔らかなニットの普段着に着替えており、カエラも工房のエプロンを外して動きやすい上着を羽織っている。

 

 けれど、部屋へ上がって机の周りへ荷物を置いた瞬間、ミオの目が、机のそばへ来たばかりのらでんの右手首の白い包帯と、ピヨンの右手の甲に貼られた湿布へ留まった。

 

「……えっ、ちょっと待って、らでんちゃん、その右手どうしたの!? ピヨンさんまで手に湿布貼ってるじゃん!」

「ああ、らでん。手首、怪我したの?」

 

 ミオが買い物袋を置いて慌てて駆け寄り、カエラも眉を寄せて隣へ来る。二人の真っ直ぐな心配の目に、らでんは少しだけ照れくさくなって、包帯を巻いた右手を軽く持ち上げてみせた。

 

「あ、えっと、旧庫の奥の古い設備を調べてたときに、金具のところでちょっと手首を切っちゃって……。ピヨンさんがすぐ止血して巻いてくれたから、傷はほんとに浅いんです! びっくりさせちゃってごめんなさい」

「私も、その金具を止めようとして手、ぶつけちゃって。もう手当ては済んでるから、二人ともそんな顔しないでよ」

 

 ピヨンが肩をすくめてみせても、ミオはらでんの手首の包帯と、少しだけ疲れの残る顔色を交互に見て、ほっと息を吐きながらも困ったように眉を下げた。

 

「もう、古い金具って、錆びてたりしたら危ないじゃん……。別棟の担当の人から『午後は調査班の皆さんが旧庫の設備確認で大変そうだった』ってちらっと聞いたから、疲れちゃってないかなとは思ってたんだけど。らでんちゃん、今夜は絶対、重いお鍋とか持っちゃだめだよ? そこへ座ってて!」

「そうだよ。今夜のらでんの仕事は、そこに座って、口を開けて、美味しいものを食べることだけ。それ以外の労働は私が禁止します」

 

 カエラが大真面目な顔で人差し指を立てて宣言し、ミオと一緒にらでんを机の正面の椅子へと誘導して座らせた。

 

「えーっ、左手なら全然元気なのに!」

「だめー。怪我人はおとなしく甘やかされるのがマナーなの。ほら、そぴあちゃんも昼間ずっと一緒だったんだよね? 二人とも座ってて、うちとカエラちゃんでお鍋に入れちゃうから!」

 

 ミオが袖をまくって台所へ立ち、カエラとピヨンも並んで手早く食材を土鍋へと並べていく。

 

 らでんとそぴあは机のこちら側で並んで座り、湯気を立て始めた土鍋をわくわくしながら見つめた。

 昆布と鰹のやさしい出汁の香りが、部屋いっぱいにふわっと広がっていく。ざく切りにした白い長ねぎと、たっぷりの白菜、傘の開いたきのこ、大きめに切られた白い豆腐。そしてその真ん中に、ミオがスプーンでくるくると丸めた生姜入りの鶏つくねが、次々と落とされていく。

 

「わあ……っ、いい匂い……! ミオさん、そのつくね、軟骨もちょっと入ってます?」

「ふふ、よく分かったね! うち、つくねにはちょっとコリコリした軟骨と生姜を多めに入れるのが好きなんだよね。お祭りのあとって、こういうあったかいお出汁が一番身体に染みるじゃん?」

「わかります……! 昼間のお団子も美味しかったけど、夜にお出汁の匂いを嗅ぐと、急にお腹がぐーって鳴りそうになります」

 

 グツグツと土鍋の縁が煮立ち、白い湯気がまっすぐに立ち上って、五人の顔を温かく包んだ。

 

 ミオが蓋を開けると、きのこと鶏つくねの旨味が溶け出した黄金色のスープの中で、くたくたに煮えた白菜と、ぷるぷるの豆腐が揺れている。

 

「よーし、煮えたよ! らでんちゃん、最初の一杯はうちがよそってあげるね。つくね二個と、お豆腐と、おねぎも入れる?」

「はい! 全部お願いします!」

 

 ミオがとんすいにたっぷりと具とスープをよそい、らでんの前へ置いてくれた。右手首には包帯があるから、らでんは左手でれんげを持ち、まずはふうふうと息を吹きかけてから、透き通ったスープを一口すくって口へ運んだ。

 じんわりと温かくて、優しい甘みのある出汁の味が、舌の上から喉の奥、そして昼間の緊張で冷えていたお腹の底まで、すうっと染み渡っていく。

 

「……っ、んー! あったかい……! すっごく美味しいです、ミオさん!」

「よかったぁ。らでんちゃんがそうやって目を細めて食べてくれると、作った甲斐があるよ」

 

 続けて、丸い鶏つくねをれんげに乗せてぱくりと頬張る。ふんわりと柔らかいお肉の中に、生姜の爽やかな香りと軟骨のコリッとした歯ごたえがあって、噛むたびに熱い肉汁がじゅわっと溢れ出した。

 

 思わず幸せそうに頬を緩めてモグモグしていると、すぐ隣で自分のとんすいを持ったそぴあが、じーっとらでんの顔とれんげの動きを見つめているのに気づいた。

 

「ん? なに、そぴあ。顔になんか付いてる?」

「……ううん。今、らでんがつくねを食べながら、次のれんげの角度をすっごく正確に白いお豆腐の方へ合わせてたのを見てただけ」

 

 そぴあは少しだけおどけたように背筋を伸ばし、みんなの前で小さく咳払いをして言った。

 

「――観測する限り、らでんは鍋パ大丈夫です!」

 

 ぷっ、と向かいのピヨンが吹き出し、ミオとカエラも声を上げて笑った。

 そぴあ自身もくすくすと笑いながら、いつもの親しい声でらでんの肩をちょんと突いてくる。

 

「だって、さっきお鍋の蓋が開いた瞬間から、らでんの視線が浮いてきたつくねの位置に一ミリの狂いもなくピタッと合ってたもん。この食欲なら、もう完全にいつものらでんだよ」

「ちょっとそぴあ、人がせっかく美味しく食べてるのに、れんげの軌道まで観測しないでよ! ……というか、そぴあこそさっきからきのこばっかり狙ってるでしょ、見てたんだからね」

「きのこは出汁が一番染みてるから、科学的に言っても今が一番食べ頃なの!」

 

 二人が言い合いながら笑うと、隣のカエラが真顔で自分のとんすいを差し出し、土鍋の中の豆腐を箸でつついた。

 

「その理論でいくと、この鍋の中で一番長く出汁を吸っているこの角の豆腐は、もう私と深い絆で結ばれている計算になるね。誰にも渡せないな」

「カエラさん、それさっき入れたばっかりの新しいお豆腐じゃん! 長く煮えたのはこっちの端っこの方だよ」

「おっと、計算が狂ったか。じゃあ両方食べて比較しないとね」

 

 ミオが笑いながらカエラの器へ豆腐を入れてやり、自分もれんげで熱々の白菜とつくねを頬張る。

 

「んー、やっぱりみんなと食べると美味しいねぇ。今日ね、石段のところでらでんちゃんたちを見送ったあとも、お祭りに来たおばあちゃんたちが『若い子たちが熱心に古い道具を見てくれて嬉しいねえ』ってずっと話してたんだよ。うちもね、ああいうの聞くと、記念館の仕事をやっててよかったなーって思うんだ」

「そうだったんですか……! こちらこそ、今日ミオさんが石段でお盆を渡してたときの手つきを見て、すごく大事なことに気づけたんです。人が大事にしてきたものって、品物だけじゃなくて、そうやって手渡すときの優しさごと一緒に残ってるんだなって」

 

 らでんが言うと、ミオは少し照れたように目を瞬かせて、「えー、うち、そんな特別な渡し方してたかなあ。でも、らでんちゃんにそう言ってもらえるなら、なんだか誇らしいね」と嬉しそうに笑った。

 

 ピヨンも自分の器にきのこと長ねぎを取り分けながら、湿布を貼った右手を庇いつつ、左手で器用に箸を動かしている。

 

「ほら、ピヨンさんも、お肉ばっかり私たちに譲ってないで食べてくださいよ。さっき一番大変だったの、ピヨンさんなんですから」

「ちゃんと食べてるって。喋ってるあいだに、そこの一番大きい長ねぎ、もう私がもらったし」

「あっ、そのとろとろに煮えたねぎ、らでんが次に行こうと思ってたやつです!」

「油断してるからじゃん」

 

 ピヨンがいたずらっぽく笑って長ねぎを食べてしまい、らでんが「むー」と頬を膨らませる。

 

 さっき旧庫で、意識が戻ったとき、すぐ目の前で顔を覗き込んで支えてくれていたピヨンが、今はこうして同じ鍋をつつきながらねぎの取り合いをしてくれている。声を震わせながら数字を読んでくれていたそぴあが、隣で「らでん、そぴあのねぎ半分あげる!」と自分の器から分けてくれている。

 

 特別な能力の話なんてしなくても、寿命の重さをわざわざ口に出さなくても、五人で一つの温かい土鍋を囲んで、「熱いね」「美味しいね」と笑い合えるこの時間そのものが、らでんが自分の意思で選び取って帰ってきた場所なのだと、胸の奥がじんわりと満たされていった。

 

「さてと! お野菜もお肉もきれいになくなったし、そろそろ締めに行こっか!」

 

 ミオが台所からご飯の入った鉢と、生卵を二つ乗せた小皿を持ってきた。

 

「わーい、卵雑炊! らでん、お鍋の最初からこの雑炊のことずっと楽しみにしてたよね」

「うん! つくねときのこのお出汁が出たところに卵を入れるなんて、絶対美味しいに決まってるもん!」

「じゃあ、卵を溶く係は私がやろう。鍛冶屋の腕にかかれば、白身と黄身の混ざり具合も完璧に均一にしてみせるよ」

「カエラさん、溶き卵ってそんなに均一にしすぎない方が、ふわふわして美味しいんじゃなかったっけ……?」

「……よし、じゃあ完璧に『いい感じのまだら』に溶くことにしよう」

 

 カエラが箸を鳴らして器用に卵を溶き、ミオが残り汁の中へご飯を入れて、くつくつと煮立ったところへ黄金色の溶き卵を回し入れる。

 鍋の蓋をしてほんの数十秒待ち、ミオがぱっと蓋を開けると、湯気の向こうに、半熟のふわふわの卵が優しくご飯を包んだ絶品の雑炊が出来上がっていた。刻みねぎをぱらりと散らせば、もう誰も我慢できない。

 

「「いただきます!」」

 

 五人でお茶碗によそい分け、はふはふと息を吐きながら卵雑炊を頬張る。すべての具材の旨味を吸い込んだ優しいご飯と、とろりとした卵の甘みが口いっぱいに広がって、最後の一匙まで夢中で食べ尽くした。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「じゃあね、三人とも! 明日の朝、また記念館の別棟で待ってるから、今夜はほんとにゆっくり休むんだよー!」

「おやすみ、らでん、そぴあ、ピヨン。右手、ちゃんと布団の上に出して寝るんだよ」

 

 洗い物をすっかり片付けてくれたミオとカエラを宿の玄関まで見送り、夜の冷たい空気の中で手を振って別れる。

 

 部屋へ戻ると、ピヨンは鞄を置き、廊下の方へ一度目をやった。それから、らでんに向き直る。

 

「……らでん。最後に一つだけ。その能力、あんまり言いふらさないでよ」

 

 さっきまでねぎを取り合っていたときとは違う声に、らでんは居住まいを正した。そぴあも、重ねかけていた座布団を膝の上で止める。

 

「館を見せるのも、相手は選んで。あんた、死(・)後(・)の(・)念(・)を(・)除(・)念(・)したんだからね」

「あ……でも、あれは消したわけじゃなくて、切り離して、隔離してあるだけで……」

「うん、聞いた。でも、憑かれてた人を助け出して、念を引き受けた。それができるってだけで、頼みたい人も、利用したい人も出てくるの。下手なやつにバレたら、超めんどくさいことに巻き込まれるよ」

 

 らでんは、首元の雪玉を服の上からそっと押さえた。

 空の展示室で、いつか誰かに見せたいと思ったばかりだった。けれど、館の中に何を預かっているのか、その扉を開けられるのが誰なのか。それを知りたがる人が、みんな展示を楽しみに来てくれるとは限らない。

 

「何でも外せるわけじゃないって、説明すれば……」

「聞いてくれる相手ならね。『できるんだろ、やれよ』で済ませるやつに、条件なんて通じないでしょ。協会への必要な報告は、私と一緒にきちんとする。その先まで、自分から広めなくていいってこと」

「……はい。誰に、どこまで話すか、ちゃんと考えます」

 

 らでんが頷くと、ピヨンはようやく肩を緩めた。

 

「よし。じゃ、私、先にお風呂入って別室で寝るね。二人もあんまり夜更かししないでよ」

 

 いつもの軽い調子で手を挙げて出ていく背中を、二人で見送った。

 

 静かになった部屋で、らでんは右手首の包帯が濡れないように上からビニールを巻き、そぴあと順番にシャワーを浴びた。湯上がりに洗面所の鏡の前で、片手ではうまく乾かせない後ろの髪に困っていると、パジャマに着替えたそぴあがすぐにドライヤーを受け取って、温かい風を送りながら指先で優しく髪を梳かしてくれた。

 

 髪の先までふんわりと乾いたところで、二人はそれぞれの布団へと潜り込む。

 部屋の主照明を消し、枕元の小さな常夜灯だけを灯した。

 

 二つの布団のあいだの暗い空気越しに、隣の布団の中から、そぴあの小さな声が聞こえてきた。

 

「……ねえ、らでん。右手首、痛くない? 眠れそう?」

「うん、ピヨンさんが巻き直してくれたから、もう全然痛くないよ。お腹もいっぱいで、ぽかぽかしてる」

 

 らでんは布団の上に出した包帯の右手を眺めながら、隣の布団の方へ顔を向けた。

 常夜灯の淡い光の中で、そぴあもこちらを向いて横になり、布団の縁から目だけを出してらでんを見ている。

 

「……今日さ、らでんの館に入ったとき、展示室のガラスケースがまだいっぱい空いてたでしょ」

「うん、空いてたね」

「あそこ、これかららでんが見つけた面白いものを並べていくんだよね。……そのとき、そぴあもまた、横で寸法測ったり、図面描いたりして一緒に見てもいい?」

 

 少しだけ遠慮がちに、けれど目をきらきらさせて尋ねるそぴあに、らでんは思わず布団の中で顔をほころばせた。

 

「当たり前じゃん! そぴあが一緒に見てくれないと、どの角度から光を当てたら一番綺麗か相談できないもん。今度さ、あの休憩区画の長椅子の隣に、二人で図面を広げられるくらいの丸いテーブルも置きたいんだよね」

「あっ、それいい! じゃあ、お茶を置いても図面が濡れないように、ちょっと広めのやつにしようよ!」

「ふふ、決まりだね。……あ、でもその前に、明日の朝はちゃんと一緒に起きて、記念館へ出す報告書の控えを整理しなきゃだけどね」

「う……そ、それは明日になってから考えようよぉ」

 

 そぴあが布団を頭まで引っ張り上げて丸くなり、らでんもくすくすと笑いながら目を閉じた。

 

 首元の雪玉と、左手首のミサンガが、布団の中で体温に馴染んでほんのりと温かい。

 

 明日になれば、記念館の人たちへの正式な報告や、これからの保管の相談、そしてこの街を発つ支度が待っている。

 けれど今夜はただ、お腹の底に残る卵雑炊の温かさと、隣の布団から聞こえるそぴあの穏やかな寝息に包まれながら、らでんはゆっくりと深い眠りへと落ちていった。

 


 

 儒烏風亭らでん

 

 《物語る蒐集帖(ミュージアム・ログ)》

 

【第一の発――物の記憶を読む】

 物体に触れ、集中してオーラを扱うことで、その物が経験した情報の断片を読み取る。

 見える景色、聞こえる音、匂い、手触り、感情など、受け取る形は一定しない。

 生きた人の心や記憶、物が経験していない出来事、未来を読むことはできない。名前や年代、意味や真偽が自動的に分かるわけでもない。

 読んだ断片は、現物・史料・手紙・聞き取りなどと照合して解釈する。

 連用すると頭痛・吐き気・眠気が生じ、強い経験が自分の記憶と混ざる危険もある。

 

 《遺念収蔵録(ミュージアム・アーカイブ)》

 

【第二の発――調べ、記録し、力を借りる】

 原本の形や来歴、残る念の作用と条件を記録し、収蔵と復元、複製利用を管理する本。

 死後念は、調査して利用登録を済ませた原本と念の核を館に残し、そこへ接続する復元品(レストア)を通して使う。生者の発は、本人の同意と利用の許諾を得て録に預かり、複製品(レプリカ)として使う。

 一つの原本から同時に出せる復元品(レストア)は一つ。元の能力の条件・使用資格・必要な技量・消耗は引き継ぐ。

 復元や複製によって、使い切った念や使用回数、支払った代価が戻ることはない。死後念の原本と念の核を失えば、記録だけからその力を再生することもできない。

 未知の作用や真相を、自動的に読み出す本ではない。

 

 《遺念収蔵館(ミュージアム・オブ・エコーズ)》

 

【第三の発――原本を守る美術館】

 現実から独立した念空間の美術館。展示室、収蔵区画、隔離区画、休憩区画を備える。

 実在する原本と念の核を保管し、危険な管理側の念は原本と分けて隔離する。

 鋼の雪玉を鍵として、現実にある扉を館へ繋ぐ。同意した客を案内でき、通常は入った戸口へ戻る。

 入口が壊れるなどして安全に退出できない非常時には、元の入口を基準に最も近い、安全に外へ出られる現実の扉へ非常口が自動接続する。好きな行き先を選ぶことはできない。

 

【死後念の収蔵と除念】

 対象となるのは、亡くなった術者(操作者がいない)の念が現物に残り、それを確保できる場合。

 人に憑いた念を引き受けるには、念の現物と接点を見分け、人を傷つけず、処罰を発動させずに分離できることが必要になる。接続を切れば被害が止まることを確かめ、分離後も本人の状態と接点を確認する。

 念を切り離して人を救う働きには、除念の性格がある。ただし、念そのものを消滅させるのではなく、館の中で隔離を続ける。

 身体や精神と分けられない念を自由に抜き出したり、失われた人格や記憶を作り直したりする能力ではない。

 複数人の能力を組み合わせる相互協力型は、一人が亡くなっただけで全体が死後念になるわけではない。生きている人固有の発が切り離せずに含まれるなら、その人の同意なしに全体を預かることはできない。

 故人の念だけを安全に切り分けられる場合は、その部分だけが収蔵の対象候補になる。ただし、使うのに必要な人数や役割は、元の能力の条件に従う。

 

【死後念を復元利用するための四条件】

 一、実在する原本と、そこに残る念の核を確保し、館へ保管する。

 二、らでん自身が現物の形・素材・構造・現在の状態を調べる。

 三、物の記憶の断片と史料・関連品などを照合し、来歴の筋を記録する。

 四、作用・発動手順・対象・停止方法または終了条件を、現象や使用記録などから確認し、らでん自身が録へ利用登録する。

 安全に保管することと、使えるように登録することは別。調査が足りなければ保管を続け、利用を保留する。全ての過去や未知の例外まで解き明かす必要はなく、不明なことを想像で埋めない。

 

【生者の発を預かる場合】

 元の術者本人が同意した場合に限り、発を預かることができる。預かっている間、本人もその発を使えなくなる。

 形のない発は録へ登録し、実物の原本を展示する代わりに、作品名と説明文を記したカードを掲示する。美術館のキャプションにあたり、カード自体が発の原本や念の核になるわけではない。

 預ける同意だけでは、その力を使う許可にはならない。複製品(レプリカ)の作成・利用には、別途の許諾、本人からの直接説明、らでんの理解と録への記載が必要になる。

 元の発の条件や使用資格は、複製品(レプリカ)にも引き継ぐ。

 合意した期限の到来、本人による返還請求書の使用、館長による受領書の使用という三つの経路で即時に返せる。返還後、本人は預けた発を再び使え、館側はその複製品(レプリカ)の作成・使用・貸出を続けられなくなる。

 

 《収蔵出納(ミュージアム・サーキュレーション)》

 

【第四の発――録に付属する補助能力】

 受入れ・書類の発行・館外貸出・発の返還をまとめて扱う。録に付属する能力だが、発としては録とは別に数える。

 付随する書類は、次の六種類。

 

 貸出票(チェックアウト・カード)――館外で使う品と使用者を結ぶ。正本・副本の二枚。

 寄託契約兼同意書(トラスト・アグリーメント)――生者本人が発を預ける条件と同意を記録する。

 複製利用許諾書(レプリカ・ライセンス)――預かった発の複製品(レプリカ)を作り、使うための許可。

 受託証書(デポジット・レシート)――預かった発と条件を記した、本人へ渡す控え。

 返還請求書(リターン・リクエスト)――本人が預けた発を取り戻すために使う。

 受領書(ミュージアム・レシート)――受入れ時に館側へ残る書類。らでんが使用して返還の意思を示せば、本人へ発を返せる。

 

【館内利用と館外貸出】

 館内では、利用登録と運用準備を済ませた品を録を通して使い、貸出票は必要としない。

 館外では、一つの品を使う一人につき貸出票一枚を使う。らでん自身が使う場合も同じ。二人の共同発動が必須の一品には二枚とも必要で、三人以上が必須の品は館外では使えない。

 貸出票には、らでんが収蔵番号と使用目的を、使う本人が自分の名を記す。その使用者へ復元品(レストア)または複製品(レプリカ)を渡すことで貸出が成立する。

 貸出票以外の五種類の書類は、館外二枠を消費しない。

 

【完成のための誓約】

 セザールの強制継承から生還するため、残り寿命の半分を一括で前払いし、事前に設計していた録と館を完成させた。

 使用のたびに寿命を追加で払う仕組みではない。完成後も通常のオーラ消費や、調査・登録・元能力の条件は必要になる。

 

【第三十五話終了時点】

 原本三組は保全され、セザールの管理側の念と道具は別の区画へ隔離されている。

 三組目の浅い箱は未開封。収蔵念の復元利用はまだ行っておらず、貸出票も二枚とも白紙。生者の発の寄託も未実施である。

 

ゴシカ・シティ編、最後までお付き合いいただきありがとうございました! さて、十老頭入りを果たした桐生組。となれば、気になるのは、その武力を担う念能力者集団――《陰獣》です。 皆さんは、誰に陰獣の一員として登場・活躍してほしいですか? 今後の構想の参考にさせていただきます!

  • 桐生組直参 天音かなた
  • 桐生組直参 角巻わため
  • 金虎堂頭領 虎金妃笑虎
  • ベルベット商会 フィクサー 一条莉々華
  • ゴシカでは掃除屋が陰獣を兼ねるしきたり
  • その他新規で別のホロメン
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