十二月中旬の応募フォーム送信から、五日後の午後だった。
滞在先の部屋の机で、年末に提出する文化財保全の年次まとめを整理していたらでんのノート端末に、一通のメールが届いた。
差出人の欄には、ホロライブのオーディション運営事務局の名前が並んでいる。
湯呑みを持ったまま画面を覗き込んだらでんは、思わず椅子の背を起こした。書類と添付動画による一次選考を通過したため、年内に一度、直接の面談を行いたいという案内だった。候補として挙げられていた日時は三日後、場所は都心のオフィスビルの一室になっている。
いま抱えている地方の旧家文書の整理は、ちょうど明日で先方への返却まで完了する。協会の支部へ出す年末の控えも、明後日の午前中には投函できる段取りだった。
「……いける。ちょうど空いてる!」
らでんは湯呑みをコースターの上へ戻し、その場で希望日時の返信を打ち込んだ。
あの黒い隅切りの小盆を片手に、カメラへ向かって二分十八秒の自己紹介を吹き込んだ冬の午後。あのとき画面の向こうへ送り出した言葉が、ちゃんと誰かの目に留まり、「一度会って話を聞きたい」という返事になって戻ってきたのだ。
そうして迎えた面談の当日、指定されたオフィスビルの会議室には、長机を挟んで二人の担当者が座っていた。
冬の午後の日差しがブラインドの隙間から白い壁に淡い縞模様を作っている。部屋の隅には動作確認用の小型カメラとモニターが置かれていたが、威圧的な空気はなく、扉を開けて一礼したらでんを、進行役の落ち着いた年代の女性が穏やかな声で椅子へ促してくれた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。儒烏風亭らでんさんですね。送っていただいたチャンネルの配信アーカイブと、自己PRの動画、どちらも拝見しました」
「ありがとうございます! 儒烏風亭らでんです。本日はよろしくお願いいたします」
膝の上で軽く指先を揃えながら背筋を伸ばすと、隣に座っていた若い男性スタッフが手元の書類から顔を上げ、少し目元を和らげた。
「応募動画の、黒いお盆を裏返して蝶々の埋め木を見せるくだり、とても印象的でした。普段の配信でも、焼き継ぎの片口や古い道具の傷跡など、実物を手元で動かしながらお話しされていますよね。説明のテンポも良くて、専門的な話なのにすっと耳に入ってきました」
「あ、ありがとうございます。最初の頃は、木の乾燥期間の話だけで四分くらい喋っちゃって、肝心のお盆がぜんぜん画面に出ないっていう大失敗もやってたんですけど……」
らでんが思わず正直に白状すると、二人の担当者がくすりと笑った。その笑い声で、会議室の少し張り詰めていた空気がふっと柔らかくなる。
「書類の活動経歴の欄も拝見しました。現在も文化財の調査や保護に関わる専門のお仕事を続けられていて、そちらの分野でもすでにしっかりとした実績をお持ちですよね」
女性担当者が手元の資料へ一度視線を落とし、それからまっすぐにらでんの目を見た。
「そこで今日は、らでんさんの専門知識の深さやこれまでの実績についてというよりも、これから先のことを少し伺いたいんです。今回私たちが準備を進めている新しい枠組みでは、これまでのような個人の雑談や企画配信だけでなく、メンバー同士で集まって歌やダンスに挑戦したり、一つの企画を複数人で作り上げたりする活動も予定しています。らでんさんご自身は、そういった場所でどんなことをしてみたいとお考えですか? また、今のお仕事とはどのように両立していかれるおつもりでしょうか」
正面からの問いかけだった。
らでんはすぐに決まり文句を返すのではなく、一拍だけ息を吸って、自分がこの数週間ノートに書き留めながら考えていたことを確かめるように口を開いた。
「まず、いま続けている古い美術品や工芸品を調べて守る仕事は、所属させていただいたあとも、変わらず私の本業として続けていくつもりです。現地へ足を運んで実物に触れたり、持ち主の方の記録を辿ったりする時間があるからこそ、『これ、すごく面白いから誰かに話したい!』っていう気持ちが生まれてくるので、そこは絶対に手を抜きたくないと思っています」
机の上で握っていた自分の手を少し開き、らでんは言葉を継いだ。
「ただ、地方への出張や調査が入る時期は、どうしても数日から一週間ほど拠点を離れることがあります。これまでの個人配信でも、そういうときは事前に予定を組んで、旅先の宿に小型カメラとマイクを持ち込んで配信したり、動く前に収録や準備を済ませたりしてきました。もしグループでの練習や収録があるなら、仕事の日程が固まった段階で早めに共有して、移動の合間や戻った時間に遅れを取り戻せるよう、連絡と段取りはきちんとするつもりです」
女性担当者が頷きながらメモを取るのを見て、らでんはもう一歩、自分の気持ちの真ん中にある部分を話した。
「それから、その新しい場所で何をしてみたいか、なんですけど……。私、この二年近く一人で机に向かって配信してきて、古い器や絵の面白いところを自分の言葉で話すやり方には、だいぶ慣れてきました。でも、慣れたからこそ、自分一人だけの視点だと、どうしても見せ方がいつも同じ机の上だけに収まっちゃうなって気づいたんです」
脳裏に浮かぶのは、秋の夜にヘッドホン越しに聴いた、高く澄み渡る奏の歌声と、オープンカフェのテーブルで見た、裏拍でナイフのように鋭く止まるはじめの指先だった。
「たとえば、すごく綺麗に歌える人や、画面から目が離せなくなるくらいかっこよく踊れる人、絵や物語を作れる人。私とはぜんぜん違う得意を持った人たちと隣り合って何かを作ったら、私が大好きな古い道具や美術の話も、ただの解説じゃなくて、もっと立体的で、見たことのない面白い形にできるんじゃないかなって思ったんです。……あ、もちろん、歌やダンスに関しては、私はまだまだ素人みたいなものです! 今すぐ何でも完璧にできます、とは口が裂けても言えません」
らでんは少し照れくさそうに頬を緩め、けれど視線だけは逸らさずに言った。
「でも、できないからやらないんじゃなくて、得意な人たちの隣で『そこ、どうやってるの?』って教わりながら、私も一緒に声を合わせたり体を動かしたりしてみたいんです。自分の得意なことは惜しまず出して、まだできないことはちゃんと人に頼って教わりながら、一人じゃ作れないものを一緒に作ってみたいです」
言い終えると、会議室に短い静寂が落ちた。
やってしまっただろうか、と一瞬だけ胸が鳴った。「何でもこなせます」と胸を張る方が、オーディションとしては格好がついたのかもしれない。
けれど、向かい側の男性スタッフはペンを止めると、先ほどよりもずっと明るい表情で頷いた。
「なるほど。なんでも一人で完結させようとするのではなく、周りと混ざることを楽しんでくださりそうですね。実は、今回想定しているのは五人でのグループ活動なんです。それぞれ得意な分野も、これまでの活動場所もかなり違うメンバーが集まる予定ですので、その姿勢はとても心強いです」
「五人、ですか……!」
「はい。一般的な公開デビューは来年の九月を目標に、これから少しずつ顔合わせや基礎練習、準備を進めていくスケジュールになります。年明けの予定などで、すでに決まっているお仕事はありますか?」
「あ、はい! 一月の上旬から少しのあいだ、協会の業務で地方へ出る予定が入っています。でも、年内いっぱいと、その業務から戻ったあとはしっかり時間を取れますし、出先でも連絡端末や録音機材は持ち歩けます」
「分かりました。では、選考の最終結果については、数日以内に改めてご連絡いたしますね」
面談は三十分ほどで終わった。
ビルを出て冬の乾いた風の中を歩きながら、らでんはマフラーに顎を埋めて、白い息をひとつ吐き出した。
五人。
まだ名前も顔も知らないけれど、どこかで同じようにこの会議室を訪れ、自分のやりたいことを話して帰った人たちがいるのだ。
そして三日後の夜。
宿の机で夕食後の番茶を淹れていたらでんのもとへ、正式な合格通知と、所属および新グループへの参加意思を確認する連絡が届いた。
画面に並んだ『合格』の二文字を三度読み返し、らでんは自分の頬を両手でぱちんと挟んだ。夢じゃない。あの二分十八秒の動画と、会議室で話した言葉が、そのまま受け止められたのだ。
らでんは湯呑みを脇へ寄せ、震えそうになる指先を落ち着かせて、参加を希望する旨の返信と、年末の顔合わせ日程への出席確認を丁寧に打ち込んだ。
送信完了の画面を見つめていると、合格した喜びのすぐ後ろから、もっと大きな波みたいに「どんな人たちと会えるんだろう」という熱がせり上がってくる。
五人での最初の顔合わせは、年の瀬も押し迫った数日後、事務所のスタジオルームで行われることになった。
◇ ◇ ◇
顔合わせ当日。指定されたビルの上階にある第3スタジオの前まで来ると、防音扉の向こうから、かすかに人の話し声と空調の低い音が漏れていた。
らでんは肩に掛けた鞄のベルトを一度握り直し、コートの襟元を整えてから、扉を軽くノックして押し開けた。
「おはようございます! 今日からお世話になります、儒烏風亭らで――」
元気よく頭を下げて顔を上げたらでんの言葉が、入り口の一歩内側でぴたりと止まった。
広いスタジオの中央には、折り畳み式の長机とパイプ椅子が五脚、それに撮影用のカメラとモニターが一式置かれている。
その長机の向こう側で、紙コップを片手に振り向いた二つの顔があった。
一人は、ゆったりしたパーカーの上にショート丈のブルゾンを羽織り、明るい髪を揺らして目を丸くしている轟はじめ。
もう一人は、暖かそうなニットの袖から白い指先を覗かせ、半分開いた口のまま固まっている音乃瀬奏。
「……えっ」
「……らでん!?」
「うそ、らでんじゃん!」
三人の声がほぼ同時に重なった。
らでんは扉が閉まるのも忘れて、二人のもとへ駆け寄った。
「ちょっと待って、はじめ!? 奏ちゃんまで!? えっ、なんで二人ともここにいるの!?」
「なんでって、こっちの台詞だよ!」
奏が椅子から立ち上がり、信じられないものを見るみたいに目を輝かせてらでんの袖を掴んだ。
「だってらでん、この前電話で話したとき、『ちょっと面白そうだなって考えてみただけ』って言ってたじゃん! 応募したなんて一言も言ってなかったでしょ!」
「いや、それは奏ちゃんもでしょ! あのときは『今はまだ一人で好きな曲を歌いたい時期かなあ』って言ってたじゃない!」
「あのあと気になって、結局出しちゃったの! らでんに先に言ったら、なんか落ちたとき恥ずかしいから黙ってたのに!」
ぷうっと頬を膨らませながらも、奏の口元はどうしようもなく綻んでいる。その横で、はじめが紙コップを机に置き、呆れたように肩をすくめて笑った。
「らでん、あのカフェで募集ページ見せてきたあと、ほんとに送ってたんだ。てか、同じ枠だったなんて聞いてないんだけど」
「私だって聞いてないよ! っていうか、はじめこそ、あのとき『まあ、いいんじゃない?』って人ごとみたいに栗きんとん食べてたじゃん! いつ応募したの!?」
「あの日の夜、家に帰ってからもう一回ページ見てさ。ダンスも歌もやる枠があるって書いてあったから、じゃあうちも出してみよっかなって。受かってから驚かせようと思ってたのに、まさか同じ部屋に呼ばれてるとは思わなかったわ」
「もう、人が悪いなあ! ……でも、やったあ! また、はじめと同じところから始められるんだ!」
らでんがぱっと顔をほころばせると、はじめも「ま、らでんがいるなら退屈はしなそうだけどね」と唇の端を上げて笑った。長年の付き合いらしいその気安い温度に、胸の奥が一気に温かくなる。
すると、隣で二人のやり取りを交互に見ていた奏が、ぱちぱちと目を瞬かせてはじめの方へ向き直った。
「あ……! もしかして、らでんがいつも話してた『はじめ』って、こちらのはじめさんですか!?」
「ん? あ、そう。轟はじめ。ってことは、あんたがらでんの言ってた歌の子? 奏ちゃん、だっけ」
「はい、音乃瀬奏です! うわあ、本物だ! 私、らでんから『友達のダンスがすごくかっこいいんだよ』って動画見せてもらったことあります! 最初の四拍でぬるっと動いてピタッて止まるやつ!」
「え、らでん、外で勝手に人の動画布教してんの?」
「だ、だってかっこよかったんだもん! ほら、奏ちゃんもこの前の歌ってみた、すごく良かったんだよって私、はじめに話したじゃん!」
「あー、あのハモリ抜いたとかいうやつ? へえ、はじめまして。いつもらでんがお世話になってます」
「なんで保護者の挨拶なのよ!」
らでんがすかさず突っ込むと、奏が声を上げて笑った。自分にとってはどちらも大切な友人だけれど、この二人が直接顔を合わせるのは今日が初めてなのだ。
そして、ちょうどそのときだった。
スタジオの反対側の扉が控えめに開き、紙袋を提げた明るい髪色の女性が「おはようございまーす! 遅くなってごめんね、みんなもう揃ってる?」と華やかな声で入ってきた。
らでんが「おはようございます!」と振り返ったその隣で、はじめの視線が入り口の女性へ向かい――二人の動きが、同時にぴたりと止まった。
入ってきた女性――一条莉々華も、足を踏み出したまま目をわずかに見開いている。
「……あれ、はじめちゃん?」
「……莉々華」
思いがけない名前が呼ばれて、らでんは思わずはじめの横顔と、入り口の女性の顔を交互に見た。
すると、長机の端の椅子に最初から腰掛けて、スケッチブックとペンを手にしたまま一連の騒ぎを目を丸くして眺めていた長身の人物が、おずおずと片手を挙げて立ち上がった。
すらりとした背丈に、どこか涼しげな目元をしたその人は、らでんたち四人の顔をぐるりと見渡して、思わずといった調子で声を上げた。
「あれっ、みんな知り合いな感じ?」
その一言に、部屋の全員の視線が一斉に長机の端へ集まった。
声をかけた本人は、全員に見られて一瞬だけ「おっと」というように瞬きをしてから、少し照れくさそうに首の後ろへ手をやった。
「いや、僕が一番最初にこの部屋に入って待ってたんだけどさ。後から入ってきたみんなが次々に『なんでここにいるの!?』とか名前呼び合ったりしてるから、もしかして僕以外の四人は、もともと全員お友達同士なのかなって思って」
「あ、いえ! 違います違います!」
らでんは慌てて両手を振り、長机の端へ歩み寄った。
「驚かせてすみません! 全員が昔からの知り合いっていうわけじゃないんです。私とこちらの奏ちゃん、それから私とはじめが、それぞれ前からの友達で……でも、はじめと奏ちゃんも直接会うのは今日が初めてなんですよ」
「そうそう。私も今、初めてはじめさんとお話ししたところです!」
奏もすぐに頷いてフォローを入れる。らでんは胸に手を当てて、改めて長身の相手と、入り口近くから歩いてきた莉々華の二人へ向き直った。
「申し遅れました、儒烏風亭らでんです。お二人とお会いするのは、今日が本当に初めてです。どうぞよろしくお願いします!」
「な、なんだ、そういうことか! よかったあ、僕だけ転校生みたいに浮いちゃったかと思ったよ」
長身の人はほっとしたように胸を撫で下ろし、それからすっと背筋を伸ばして、少し格好をつけるみたいに片目をつぶってみせた。
「僕は火威青。普段は漫画を描いたり、絵を描いたりしてるんだ。気軽に『青くん』でも『青』でも、好きに呼んでくれると嬉しいな。よろしくね、らでんちゃん、奏ちゃん」
「火威青さんですね、よろしくお願いします! えっ、漫画を描かれてるんですか!?」
らでんが目を輝かせて食いつくと、青は格好よく決めたはずのポーズから一転して、「えっ、あ、うん、そうだけど」と少し面食らったように瞬きをした。
「うわあ、すごい! 私、絵や版画を見るのも大好きなんですけど、自分で一から物語と絵を組み立てる方とこんな近くでお話しするの、初めてかもしれません。青さんは、普段どんなものを描いてるんですか? あ、その手元のスケッチブックも、何か描いてらっしゃったんですか?」
「えっ、あ、いや、これは待ってるあいだに部屋のカメラの角度とかをなんとなく落書きしてただけで……って、距離近いな! すごい見てくるね!?」
身を乗り出したらでんに、青が思わず一歩後ろへ仰け反りながら、それでも嬉しそうに口元を緩めた。
「あはは、ごめんなさい! 気になるものを見ると、つい前のめりになっちゃう癖があって」
「ううん、興味持ってもらえるのはすごく嬉しいよ。……ってことは、らでんちゃんは何か美術関係のお仕事をしてるの? 儒烏風亭って名前も、なんだか落語家さんみたいで粋だよね」
「あ、はい! 古い美術品や工芸品を調べたり守ったりする仕事をしながら、I-Tubeで昔の道具の面白いところをお話しする配信をしてるんです。落語や伝統芸能も大好きなんです」
「へええ、古い道具や美術品かあ! じゃあさ、昔の人が使ってた珍しい照明器具とか、そういう時代物の建物の資料とかも詳しかったりする? 漫画で背景や小物を描くとき、写真だけじゃ裏側がどうなってるか分からないことが結構あってさ」
「裏側! そこ、一番面白いところですよ! たとえば昔の行灯や燭台も、油皿の受け金具がどう外れるかとか、煤がどこに溜まるかとか、実物を見ると一発で分かるんです。今度、いくらでも図解しますよ!」
「ほんと!? やった、それはめちゃくちゃ助かるかも!」
青がぱっと声を弾ませたところで、隣に立った莉々華が「ふふっ」と明るく笑って手を挙げた。
「なんだかもう楽しそうな話になってるじゃん! 私は一条莉々華。みんなのことは、らでんちゃん、奏ちゃん、青くんって呼んでもいいかな? 私のことも気軽に『莉々華』って呼んでね!」
「はい、莉々華さん……あ、じゃあ莉々華ちゃんって呼ばせてください! よろしくお願いします!」
「私からもよろしくお願いします、莉々華さん、青さん!」
らでんと奏が笑顔で頭を下げる。莉々華は華やかな笑顔で頷き返しながら、ちらりと横のはじめへ視線を向けた。
「それと……はじめちゃんとは、ちょっと前に仕事先で一度顔を合わせたことがあるんだよね」
「……まあね」
はじめはポケットに片手を入れたまま、短くそれだけ返した。
青が「そっか、そっちの二人も知り合いだったんだね。だからさっき名前呼んでたのか」と納得したように頷く。莉々華はすぐに明るい声で言葉を続けた。
「私ね、今まで仕事でいろんな企画や人とのやり取りをしてきたんだけど、誰かのサポートや調整役だけじゃなくて、自分自身が表に出て、みんなとワクワクする企画や新しい配信を作ってみたくてここに来たの。歌もダンスも、今からいっぱい挑戦したいと思ってるから、よろしくね!」
ちょうど五人の自己紹介が一巡したタイミングで、スタジオの入り口から、先日の面談にも同席していた男性スタッフと女性スタッフが書類のファイルを持って入ってきた。
「皆さん、お揃いですね。すでにお話しされているようですが、改めて――今回、この五名で新しいグループとして活動準備を進めていただくことになります」
男性スタッフがホワイトボードの前へ立ち、黒いマーカーで大きくアルファベットを書き記した。
『ReGLOSS』
「グループ名は『ReGLOSS(リグロス)』です。公開での正式デビューは来年の九月を予定しています。それまでの約八ヶ月間、それぞれの個人での準備や発信と並行しながら、歌やダンスのレッスン、そしてこの五人での企画や配信の形を少しずつ作っていってもらいます」
白いボードに書かれた『ReGLOSS』の文字を、らでんはまっすぐに見つめた。
まだ世の中の誰も知らない、今日この部屋で初めて五人の前に置かれた名前だ。左隣を見れば奏と青が、右隣を見ればはじめと莉々華が、それぞれ同じ文字を見上げている。
「今日は最初の顔合わせですので、堅苦しいオリエンテーションはこれくらいにします。このあと一時間ほど、このスタジオと機材を自由に使っていただいて構いません。まずは公開用ではなく、皆さん自身で『五人が同じ画面に並んだらどう見えるか』を確かめるために、一分前後の簡単な挨拶動画を試し撮りしてみてください。台本も決まりもありませんので、自由にお話しして進めてくださいね」
スタッフの二人は録画機材の電源だけを入れると、「では、一時間後にまた声をかけます」と微笑んでスタジオの扉を閉めた。
◇ ◇ ◇
防音扉が閉まり、スタジオの中に五人だけが残された。
さあ、何から始めようか、とらでんがカメラの方へ向き直りかけた、その一歩手前だった。
「――で、莉々華」
はじめが、すっと足を止めて莉々華の正面へ向き直った。
先ほどまでらでんや奏と話していたときの気楽な声とは少し違う、静かで芯のある声だった。奏と青が「ん?」と足を止め、らでんも二人の顔を交互に見た。
さっき莉々華が入ってきた瞬間、二人の足が止まったときから、ただの仲良しの再会ではない空気は肌で感じていた。
はじめは腕を組まず、ただまっすぐに莉々華の目を見て言った。
「さっきスタッフの前では黙ってたけどさ。ここに来る前にやってたみたいな危ない揉め事とか、変な駆け引きとか、そういうのをこの場所に持ち込むつもりはないよね?」
スタジオの空気が、一瞬だけぴんと張り詰めた。
青が目を丸くして二人のあいだを見比べ、奏が少しだけらでんの袖の近くに寄る。
らでんは二人のあいだへ割って入って話を逸らすようなことはせず、黙って莉々華の顔を見た。どんな仕事でどうぶつかったのか、詳しい経緯まではらでんには分からない。けれど、はじめがここで最初にこれだけを確かめるということは、それを曖昧にしたままでは同じ画面に立てないという、はじめなりの誠実な線引きなのだと分かったからだ。
問われた莉々華は、一瞬だけ目を伏せた。
「……まさか、はじめちゃんがここにいるとは思ってなかったけど」
ばつが悪そうに笑ってから、はじめの目を見返す。
「持ち込まないよ。あの件はもう、向こうの依頼ごと綺麗に取り下げて終わった話だもん」
「終わったんならいいけどさ。万が一にも、らでんや他の子たちをああいう面倒に巻き込むような真似したら、はじめは黙ってないからね」
「わかってるってば。私もね、誰かを引っ掻き回すためじゃなくて、一条莉々華としてここで面白いものを作りたくてオーディション受けたんだから」
莉々華はそこで少しだけ肩の力を抜き、自分の胸に手を当てて、らでんや青、奏の方へも視線を向けた。
「ごめんね、みんな。前にちょっと仕事で、はじめちゃんとすっごく手荒なぶつかり方をしたことがあってさ。でも、今日ここにいる私は、みんなと一緒にReGLOSSをやりたいと思って来てる。だから、変な心配はしないでほしいな」
はじめは数秒だけ莉々華の目をじっと見返していたが、やがて鼻先で小さく息を吐き、肩の力を抜いた。
「……なら、いいよ。ここでちゃんとやるなら、それ以上はごちゃごちゃ言わない。ただし、ダンスのステップ誤魔化したら普通にダメ出しするから」
「うわ、そっちの方がよっぽど手厳しいじゃん! お手柔らかにお願いしますよー、はじめ先生!」
「誰が先生だ、自分で踊るんだよ」
はじめが呆れたように返し、莉々華が声を上げて笑う。
懐かしんで抱き合うような関係ではないし、はじめの言い方にはまだ少しだけ乾いた棘が残っていた。それでも、今の数往復の言葉で、二人が「この場所で一緒に作る相手」として同じ床の上に立ったことは、横で見ているらでんにもはっきりと伝わった。
「……びっくりしたあ。二人とも急に映画のワンシーンみたいな空気出すから、僕、スケッチブック落っことすかと思ったよ」
青が胸を撫で下ろしながら苦笑すると、奏も「ほっとしました……!」と息を吐いた。らでんも思わず吹き出して、長机の上のカメラモニターへ手を向けた。
「よし! じゃあ、せっかく一時間もらったんだし、さっきスタッフさんが言ってた『一分くらいの挨拶動画』、さっそく五人で試しに撮ってみませんか?」
「お、やろうやろう! でも五人で一分って、一人どのくらい喋ればいいんだろう?」
「単純に割ったら、一人十秒ちょっとだよね。最初に全員でグループ名を言って、端から順番に一言ずつ自己紹介して、最後に『よろしくお願いします!』で締める感じかな?」
莉々華の提案に、青と奏が「あ、それなら分かりやすいかも」「いけそう!」と頷いた。
まずは難しく考えず、カメラの前に五人で横一列に並んでみることにした。
スタジオの白い壁を背にして、左から青、奏、らでん、はじめ、莉々華の順で肩を並べる。三脚に据えられたカメラのすぐ下に確認用の小型モニターがあり、そこに五人の上半身が映し出されていた。
「あれ、五人横に並ぶと、思ったより画面の端から端までみっちりだね」
モニターを覗き込んだ青が、自分の肩を少し内側へすぼめながら言った。
「ほんとだ。私、いつも机で一人だけで映ってるから、画面の中に他の人の肩や顔が四つもあるの、なんだか不思議な感じです」
らでんもモニターの中で自分の両隣にいる奏とはじめを見て、少しむず痒いような気分になった。いつもの宿の机なら、右手に黒い小盆や白磁の片口を持ち、左手で卓上ライトの角度を直せば、自分の呼吸ひとつでいつ話し始めてもいつ黙っても自由だった。
けれど今は、自分が少し腕を広げれば隣の奏やはじめの袖に触れる距離に、四人の人間が立っている。
「じゃあ、録画ボタン押してくるね! 五秒前から歩いて戻って、真ん中のらでんちゃんが『せーの』って言ったら、『ReGLOSSです!』から始めよっか」
一番端にいた莉々華がカメラの横へ走って録画スイッチを押し、小走りで列の右端へ戻ってきた。
カメラの赤いランプが点灯する。
らでんは少し背筋を伸ばし、両隣の気配を確かめてから小声で合図を出した。
「せーのっ」
「「「「「ReGLOSSです!」」」」」
五人の声が重なる――はずだったが、実際には『リグ……』『ReGLOSSです!』『……ロスです!』と、見事なまでに半拍ずつ前後にばらけた。
「あ」と奏が口元を押さえ、青が「ごめん、僕ちょっと早かった?」と目を泳がせる。
それでも録画は止まっていない。まずは左端の青から順番に、と決めていたはずだったが、青が「えっと、じゃあもう一回最初から――あ、このまま行く? 火威青です! 普段は漫画を描いていて、クールでかっこいい姿を皆さんにお見せできたらなと思ってます、よろしく!」と少し早口で言い切った。
次は奏の番だ。ところが、青がピタッと口を閉じた瞬間、奏が「あ、もう終わりですか?」と青の顔を見てしまい、一秒ほどのぽっかりとした空白が空いた。
「あ、私の番か! お、音乃瀬奏です! 歌うことが大好きなので、これからたくさん歌を届けていきたいです。よろしくお願いします!」
奏がカメラへ向き直って元気に頭を下げると、真ん中のらでんへバトンが回ってきた。
いつもなら、ここから一分でも二分でも淀みなく話せる。らでんはカメラのレンズをまっすぐ見て、にこりと笑った。
「こんにちは、儒烏風亭らでんです! 古い美術品や工芸品のお話を――」
そう言いかけた瞬間、両隣の奏とはじめ、さらに青と莉々華の四人が、一斉にくるりと首を回してらでんの顔をじっと見つめた。
画面の向こうの視聴者ではなく、すぐ真横の至近距離から四人分の視線を浴びて、らでんは思わず言葉を噛みそうになった。
「――えっと、お話をするのが大好きで、これから五人でどんな面白いことができるか、すごく楽しみにしています! どうぞよろしくお願いします!」
なんだか急に照れくさくなってしまい、予定より少し早く、ぺこっと頭を下げてしまう。すると、まだらでんが一文くらい話すと思っていたらしいはじめが、「え、もう終わり?」と素で呟いた。
「ちょっと、そこマイクに入ってるよ、はじめ!」
「だってらでんにしては短すぎじゃん。……あ、轟はじめです。ダンスやってます。これから五人でかっこいいことできたらいいなって思ってます。よろしくー」
はじめが普段通りのあっさりした調子で手を振ると、右端の莉々華が「よし、最後は私ね!」と一歩前へ出ようとして、隣のはじめの靴のつま先と危うくぶつかりそうになり、「おっとと!」と変なステップを踏んだ。
「あはは、ごめん! えっと、一条莉々華です! みんなと一緒に楽しくて華やかな時間を――って、もう一分経っちゃう? じゃあ最後はみんなで手を振ろう、せーの、バイバーイ!」
「バイバーイ!」「よろしくお願いします!」「またねー!」
最後の挨拶もやっぱり見事にバラバラなまま、莉々華がカメラへ駆け寄って録画停止ボタンを押した。
赤いランプが消える。
スタジオの中に、五人の呼吸と、なんだか妙な静けさが落ちた。
「……なんかさ」
最初に口を開いたのは青だった。
「僕たち、びっくりするくらいバラバラじゃなかった?」
その一言を皮切りに、五人は顔を見合わせて、一斉に吹き出した。
「あははは! いやあ、なんだろう、一人で配信するときとぜんぜん勝手が違いますね!」
らでんはお腹を押さえて笑いながら、モニターの前へ歩み寄った。他の四人も自然とモニターの周りへ集まってくる。
「ちょっと今のやつ、一回見てみよっか」
莉々華が再生ボタンを押すと、画面の中に横一列に並んだ五人の姿が映し出された。
らでんは腕を組んで、画面の中の自分たちをじっくりと観察した。
二年近く前、初めて一人で黒い小盆の動画を撮って、はじめと一緒に見返したときのことを思い出す。あのときは、自分の声が硬すぎることや、小盆が画面の下に隠れたまま出てこないことに頭を抱えていた。
いま画面に映っているらでん自身は、声の張りも笑顔も、カメラを見る目線もちゃんとしている。奏の声もよく通っているし、はじめの立ち姿も自然だ。青も莉々華も、一人ずつ切り取ればそれぞれの雰囲気がある。
それなのに、一本の動画として五人が並んだ画面を見ると、なんだか学校の朝礼で順番に点呼を取っているみたいに、一人ひとりのあいだに見えない壁があるように見えたのだ。
「うーん……なんか、私が喋ってるとき、みんなが一斉に私の顔をじーっと見るから、授業参観みたいに緊張しちゃったんですよね」
らでんが正直に言うと、奏が「あ、ごめん! 私、らでんが何を話すのかなって普通に横から見ちゃってた!」と手を合わせた。
「いや、それもあるけどさ」
モニターをじっと見ていたはじめが、画面の一時停止ボタンを押して、五人が横一列に並んでいる最初のカットを指差した。
「これ、五人が真っ直ぐ同じ線の上に並んでるから、画面がすごく平べったく見えるんだよね。しかも、青から奏ちゃん、奏ちゃんかららでんって順番が移るとき、みんな急に正面のカメラ向いて喋りだすでしょ。だから見てる方からすると、次はどこ見ればいいのか、目が迷子になるんだと思う」
「目が迷子になる?」
青が興味深そうに首を傾げると、はじめはモニターの前から一歩下がって、実際に自分の体を使って見せた。
「ほら、うちが一人で踊るときも、急に手だけ動かすんじゃなくて、止まる前の半拍で肩とか目線をそっちへ送るんだよ。五人いるんなら、たとえば青が喋り終わるときに、カメラじゃなくて隣の奏ちゃんの方へちょっとだけ体と目線を向けて『パス』するみたいに動けば、見てる人の目もそのまま奏ちゃんへ移るんじゃない?」
「あっ、なるほど!」
青がパチンと指を鳴らして、持っていたスケッチブックを開いた。
「それ、漫画のコマ割りや視線誘導とまったく同じだ! キャラクターが五人同じ大きさで横並びに突っ立ってて、吹き出しだけ順番に出てくると、読者の目がどこへ進めばいいか止まっちゃうんだよね。だから、少し前後に奥行きをつけたり、吹き出しのシッポや顔の向きで次の人へ矢印を作ってあげたりするんだ」
青はペンを走らせて、四角い画面の枠の中に、五人の立ち位置を少しV字や互い違いにした簡単なラフ図をさらさらと描いて見せた。
「ほら、こんなふうに、全員が真横一列じゃなくて、少しだけ肩を斜めに重ねて奥行きを作ったらどうかな? それだけで、別々の五人が並んでるんじゃなくて、『ひとつの塊』に見えるし、画面の端にもちょうどいい余白ができると思うんだ」
「わあ、青さん、すごい! 絵で見ると一発で分かりますね!」
らでんはスケッチブックを覗き込んで声を上げた。自分一人では「なんだか平べったいな」としか感じられなかった違和感が、はじめの身体感覚と青の絵の視点が重なった途端、はっきりとした形になって見えてくる。
「あとね、私、音のことでひとつ思ったんだけど!」
今度は奏が、自分の喉元に指先を当てながら身を乗り出した。
「さっきの映像だと、青さんが『よろしく!』って言い終わって、一秒くらいシーンって静かになってから、私が『あ、音乃瀬奏です』って入ってたじゃないですか。あれ、前の人の声が完全に消えるのを待ってから息を吸うから、どうしても間が途切れちゃうんだと思うんです」
「あー、たしかに。奏ちゃんの前にちょっと空白あったね」
「うん。歌で誰かとパートを繋ぐときって、前の人が最後の音を伸ばしてる裏で、もう次の人が息を吸って待機してるんですよ。それで、相手の語尾が落ちるのとほぼ同時か、半拍くらい食い気味に声を入れると、聴いてる人にはひとつのメロディみたいに気持ちよく繋がって聞こえるんです!」
奏はただ「もっとテンポよく」と言うのではなく、自分の歌の感覚を、みんながすぐ試せる言葉に言い換えて実演してみせた。
「たとえば、青さんが『よろしくね!』って言う『ね』のあたりで、私がもう息を吸って笑顔になってれば、間が空かずにポーンって声が乗ると思う!」
「へええ、息を吸うタイミングを前の人の語尾に重ねるのか! それ、すごく分かりやすいね」
莉々華が目を丸くして感心し、それから自分の頬を軽く叩いて笑った。
「で、さっき私、最後で焦って変なステップ踏んじゃったじゃん? あれは格好悪かったんだけど……でも今モニターで見返したらさ、私が『おっとと』ってなったときに、はじめちゃんが『ちょっと、足踏まないでよ』って顔して笑って、青くんと奏ちゃんもつられて笑ってたでしょ? あそこだけ、急に五人の空気がすごく楽しそうに見えたんだよね」
莉々華がモニターの後半部分を指差す。
たしかに、それぞれが用意した自己紹介を真面目に言っていた前半よりも、らでんが「短い?」とはじめに突っ込まれたり、莉々華がよろけて全員が笑ったりした最後の数秒間の方が、画面の中の五人の表情がずっと生き生きしていた。
「ほんとだ。ちゃんと言おうとしてるときより、誰かの言葉に反応してるときの方が、みんなの顔がすごくいいですね!」
らでんはモニターを見つめたまま、胸の奥で何かがカチリと噛み合うのを感じた。
二年間、一人で配信をしてきたからこそ、自分はカメラの前で「自分の持ち時間をちゃんと言い切る」ことに慣れていた。他の四人もきっと、自分の順番が来たら自分の紹介を一人で完結させようとしていたのだ。
でも、五人で同じ画面に入るというのは、十二秒の独り言を五回並べることじゃない。
「ねえ、だったらさ!」
らでんは自分の鞄の方へ駆け寄り、中から普段の記録に使っている四冊目のノートと、筆箱から出した木の軸の万年筆を手にとって戻ってきた。
「一人ずつ順番に『何々を担当している誰々です』って説明していくんじゃなくて、短い呼びかけとか、ちょっとした動きで隣の人へどんどん振っていく形にしたらどうでしょう? たとえば私が真ん中で、この万年筆やノートをちらっと見せて『古いものを見るのが好きな、らでんです。ねえ、青さんは何を描くのが好き?』みたいに一言でパスするんです!」
「おっ、それいいじゃん! 急に振られたら、僕も用意したセリフじゃなくて普通にらでんちゃんに答える顔になるもんね!」
青の目がきらりと光る。
「で、僕がスケッチブックをひょいって見せて答えながら、さっきの奏ちゃんの言う通りに、語尾のところで隣の奏ちゃんへ顔を向ける! そしたら奏ちゃんは?」
「私はそのまま一拍も空けずに、ちょっとだけ歌うみたいに節をつけて挨拶して、反対側のはじめさんへ手でバトンを渡します! あ、最初の『ReGLOSSです!』も、せーのって言ったあとに全員で同じタイミングで息を吸えば、絶対にピタッて揃いますよ!」
「じゃあ、奏ちゃんからパスが来たら、言葉で長く言うより、ワンエイトの半分くらい軽くステップ踏んで止まってから名前言うわ。で、そのまま隣の莉々華を肘でつつく」
「ちょっと、肘でつつくのは雑じゃない!? ……あ、でも、それで私が『ちょっとー!』って笑いながら入って、最後に『そんな五人でこれから準備していきます、せーの!』って全員の声を揃えるの、すごく自然でいいかも!」
一人が出した気づきに、別の一人が自分の得意な角度から案を返し、それを三人目が実際の動きや声に置き換えていく。
誰か一人が先生になって全員を指導しているのでもなければ、自分の才能だけを競い合っているのでもない。
五人の持ってきたものが、長机の上でくるくると混ざり合って、さっきまでは影も形もなかった一つの流れがみるみるうちに立ち上がっていく。らでんは万年筆を握ったまま、楽しくてたまらないというように声を弾ませた。
「よし、今の流れで、立ち位置も青さんの図みたいに少し奥行きをつけて、もう一回撮ってみましょう!」
◇ ◇ ◇
二度目の撮影が始まった。
今度は真横の一列ではない。真ん中のらでんが一歩後ろへ引き、その斜め前に奏とはじめ、さらにその外側に青と莉々華が、少し体を内側へ傾けるようにして立つ。モニターを見ると、青が言った通り、画面の両端に気持ちのいい余白が生まれ、五人の距離がぐっと近く、ひとつのグループらしいまとまりになって映っていた。
「いくよ、録画スタート!」
莉々華がスイッチを押して定位置へ戻る。
らでんは小さく「せーの」と合図を出し、奏の言った通り、五人全員で同時に「すっ」と息を吸った。
隣で奏の肩が上がり、はじめの重心がわずかに沈む気配が、見なくても肌で伝わる。
「「「「「こんにちは、ReGLOSSです!」」」」」
パーン、とスタジオの空気を震わせて、五人の声が気持ちいいほど綺麗にひとつに重なった。
一発で揃った気持ちよさに、全員の目がぱっと明るくなる。その勢いのまま、真ん中のらでんが胸元のノートを軽く掲げて一歩前へ顔を出した。
「古い美術品や道具の面白いところをお話しするのが大好きな、儒烏風亭らでんです! 今日は五人で初めての試し撮りなんですけど――ねえ青さん、さっきそのスケッチブックに何描いてたの?」
らでんがくるりと左へ体を向けて問いかけると、青が一瞬だけ「おっ、そう来る?」というように目を見開き、すぐに少し照れたような、でも楽しそうな笑顔でスケッチブックを胸の前に開いた。
「これ? みんながどんなふうに画面に並ぶかなってラフを描いてたんだ! 漫画やイラストを描くのが好きな、火威青です。これからいろんな創作や企画に挑戦していきたいなと思ってます。――ね、奏ちゃん!」
青が語尾の「ちゃん」とほぼ同時に、隣の奏へ視線とスケッチブックの角を向ける。
その瞬間、すでに息を吸って待っていた奏が、一拍の隙間も作らずに、明るいメロディに乗せるような伸びやかな声で飛び込んだ。
「はーい! 歌うことが大好きな、音乃瀬奏です! 一人じゃなくて、この五人でどんな声や歌が重なるのか、今からすごくワクワクしてます! じゃあ次は――あっちのはじめさん、どうぞ!」
奏が両手を広げて、らでんの前を横切るように右側のはじめへバトンを投げる。
すると、はじめはすぐに喋り出すのではなく、スニーカーの踵で床を「タッ、トン」と軽く二度鳴らし、流れるような体重移動から、カメラの正面で指先と首の角度をピタリと止めてみせた。
音楽も鳴っていないのに、その一瞬のキレだけで画面の空気がきゅっと引き締まる。らでんが思わず「おおっ」と声を漏らすと、はじめはふっと肩の力を抜いて笑った。
「轟はじめです。ダンスは任せて。まあ、喋りの方はみんなとボチボチやってくんでよろしく。――ほら、最後、莉々華」
はじめが約束通り、隣の莉々華の二の腕を軽く肘でちょんとつついた。
「ちょっと、はじめちゃん、今のダンスのあとだとハードル上がるじゃん! えっと、一条莉々華です! みんなと一緒に、見たことのないくらい楽しくてキラキラした場所を作っていきたいなって思ってます! 九月のデビューまで、五人でいっぱい準備していくので――最後はみんなで、せーのっ!」
五人がもう一度、同じタイミングで息を吸い、カメラへ向かって大きく手を振った。
「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」
手を振り終えても、すぐには誰も動かず、二秒ほど笑顔のままカメラを見つめてから、莉々華が録画停止ボタンを押した。
「……今の、すごく良くなかった!?」
奏が両手を握りしめて跳ねるように振り返った。
「すっごく繋がってた! 最初と最後の声もバッチリ揃ってたし!」
「見よう見よう、早く再生して!」
らでんは真っ先にモニターの前へ駆け寄った。五人で頭を寄せ合うようにして、今撮ったばかりの映像を再生する。
時計の表示は、ちょうど五十八秒。
画面の中で、五人が同時に息を吸って『こんにちは、ReGLOSSです!』と声を揃える。最初の一本目とは、画面から飛び出してくる温度がまるで違っていた。
らでんが青へ話を振り、青が少し驚きながらもスケッチブックを見せて笑い、そこから奏の弾むような声が隙間なく重なる。奏の手の動きに合わせてカメラの向こうの視線が右へ流れると、はじめの鋭いステップと静止がピタリと決まり、そこへ莉々華が「ハードル上がるじゃん!」と笑いながら飛び込んでいく。
もちろん、まだ今日初めて顔を合わせた五人だ。よく見れば、青がスケッチブックを上げたときに少しだけ照明が反射して白くなっていたり、らでんがはじめのダンスに素で「おおっ」と感心している声がマイクに入っていたり、完璧に磨き上げられたプロの完成品というわけではない。
けれど、モニターを見つめる五人の反応は、驚くほど熱を帯びていた。
「ほら見て、この奏ちゃんからはじめちゃんに移るところ! 目線がスーッて繋がってるから、すごく気持ちよく見られるよ!」
青が画面を指差して嬉しそうに言うと、はじめも顎に手を当てて頷いた。
「うん、最初よりぜんぜん画面が締まったね。ただ、うちが止まったとき、もう半歩だけ後ろで止まった方が、隣の莉々華が入るスペースが広くなったかも。次はそこ調整できるわ」
「私はね、自分の『はーい!』の入り、もう半音だけ高い声で入った方が、青さんの落ち着いた声とのコントラストでもっと明るく聞こえた気がする! 次やるときはそうしてみる!」
「あはは、みんなもう次のこと考えてるじゃん! でも、私が『ハードル上がるじゃん!』って言ったとき、後ろでらでんちゃんと青くんが笑ってくれてる顔が映ってるの、すごくグループって感じがしてお気に入りだなあ」
四人が口々に、自分が気に入った瞬間や、次にこう変えたいという工夫を言い合っている。
その真ん中で、らでんはモニターの一時停止された画面――五人が少し重なり合いながら笑っている最後のフレームを、まばたきも忘れて見つめていた。
胸の奥が、最初の生配信を終えたあの冬の夜よりも、もっと深く、じんわりと熱くなっていた。
十一歳のとき、古い資料館の《渡り灯》に名前が戻ったあの日、気にかける人たちが線をつなぎ直せば失われた意味が戻ることを知った。それからハンターになり、師匠や先輩、はじめや同僚たちに囲まれながら、古い品と人の思いを守る仕事を続けてきた。個人配信を始めてからは、画面の向こうの視聴者や奏と一緒に、机の上から面白いものを手渡す楽しさも知った。
自分の周りには、いつだって大切な人たちがいた。決して一人で寂しく歩いてきたわけじゃない。
けれど今、このモニターの中に映っている五十八秒の映像は、らでんがこれまで一人きりの机でどんなに工夫しても、絶対に生み出すことのできなかったものだった。
自分が投げた小さなボールを、青が絵の視点で受け止め、奏が声のリズムで弾ませ、はじめが身体のキレで空気を変え、莉々華が明るい笑い声で全体を包み込む。四人の反応が重なるたびに、自分が最初に想像していたよりもずっと面白くて、ずっと鮮やかな景色が画面の中に立ち上がっていく。
オーディションに受かって「ここに入ってもいいよ」と認められた瞬間よりも、今、この四人と一緒に試行錯誤して、「あ、今すごく面白くなった!」と肌で感じたこの五十八秒の方が、何倍も強くらでんの心を掴んでいた。
壁の時計の針が、予定されていた一時間の終了時刻を回ろうとしている。
それでも、らでんはモニターから顔を上げると、四人の顔を順番に見て、自分から身を乗り出して言った。
「ねえ、みんな! 今日はもう時間になっちゃうけど、私、この五人で次にもう一回これ、絶対にやりたいです! ううん、ただの自己紹介だけじゃなくて、たとえば私が持ってきた面白い昔の道具を一個真ん中に置いて、それを青さんがどう描くかとか、奏ちゃんならどんな音を連想するかとか、はじめならどう動くかとか、莉々華ちゃんならどう紹介するかって、五人で一つのものを回していく動画も作ってみたいです!」
らでんが目を輝かせて一気に言うと、四人が一瞬目を丸くしてから、すぐにそれぞれの笑顔を咲かせた。
「いいじゃん、それ! 僕がその場でサラッと擬人化とかイラスト描いても面白そうだよね!」
「私、らでんが前に鳴らしてた白い器みたいな綺麗な音の道具があったら、その音に合わせてハモってみたい!」
「お盆の裏の蝶々みたいに、動きのヒントになりそうなやつなら、はじめも振り付け作れるよ」
「じゃあ莉々華は、それが現代だったらいくらで買えるかプレゼンしちゃおうかな! すごく面白そう!」
自分が「これ、やってみたい」と差し出した種に、四つの違う色の芽がその場で次々に吹き出してくる。
ああ、やっぱり私は、この場所を選んでよかった。
らでんは胸の奥から込み上げてくる笑みを抑えきれず、大きく頷いた。
◇ ◇ ◇
一時間のスタジオ利用を終え、戻ってきたスタッフに試作動画のデータを共有したあと、五人は同じフロアにある小さな休憩スペースへ移動した。
丸テーブルの真ん中に、差し入れの焼き菓子の箱と、温かいお茶やコーヒーの紙コップが並ぶ。
一仕事終えたあとの少し力の抜けた空気の中で、青がクッキーを一つかじりながら「いやあ、でも二本目、本当にうまくいってよかったよ。僕、最初はカメラの前で五人で喋るなんてどうなることかと思ってたからさ」と息をついた。
「青くん、一本目の最初、ちょっとカッコつけすぎて声が裏返りそうになってたもんね」
「り、莉々華ちゃん、そこは黙っておいてくれる優しさはないのかな!? だって最初くらいクールな美青年枠で行こうと思ってたんだから!」
「二本目でスケッチブック見せて笑った時点で、もう楽しいお兄さん枠になってたよ」
はじめがカフェオレを飲みながらさらりと言い添えると、青が「ええっ、もう剥がれてた!?」と頭を抱え、テーブルの上に笑い声が広がった。
らでんは温かい緑茶のコップを両手で包みながら、隣でフィナンシェを食べている奏の横顔を見た。
「でも、奏ちゃんがここにいたのは本当にびっくりしたよ。十月に電話で話したときは、まだ一人で好きな曲をどんどん歌いたいって言ってたでしょう?」
「うん。あのときは本当にそう思ってたの」
奏は紙ナプキンで指先を拭き、少しだけ照れたように、でもはっきりとした声で言った。
「でもね、あの電話で、らでんが『ただ一人で話すよりずっと立体的になる気がしない?』って言ったでしょ。電話を切ったあとに、自分の歌ってみたのハモリを一人で重ねて録りながら、ふと思ったんだよね。私自身の声を重ねるのも楽しいけど、もし私とは全然違う声質の人や、歌だけじゃない表現をする人たちと本気で混ざってみたら、私の歌、もっと知らないところまで行けるんじゃないかなって」
奏はテーブルの向かいに座る青や莉々華、そしてはじめの顔を見渡して笑った。
「だから、らでんが受けるからついて来たっていうんじゃなくて、私自身が『違う声と合わせてみたい!』って思って応募したの。結果的にらでんと同じグループになれたのは、すっごいラッキーだったけど!」
「そっか……。今日、最初の『ReGLOSSです!』で五人の声がピタッて重なったとき、本当に気持ちよかったもんね」
「でしょ! 九月に五人で本物の曲を歌うときが、今から楽しみでしょうがないよ」
すると、莉々華が「はじめちゃんはどうなの?」と向かいのはじめへ視線を向けた。
「はじめちゃんって、チックタックでダンスの動画すごく伸びてるでしょ? 私も見たことあるもん。そのまま一人でもどんどん行けそうなのに、どうしてこのグループに入ろうと思ったの?」
「んー? 別にチックタックやめるわけじゃないし、一人で踊るのも好きだけどさ」
はじめは紙コップの縁を指で軽く弾きながら、少しだけ窓の外へ目をやった。
「二十秒とか三十秒の縦画面って、パッと見てもらうにはいいんだけど、自分一人で完結しちゃうからさ。さっきみたいに、他のやつが作った流れを受けて出ていくとか、誰かの歌や声とリアルタイムでぶつかりながら一曲丸ごと踊るとか、そういう『一人じゃ作れない空気』の中で自分のダンスがどこまで通用するか、もっと広げてみたくなったんだよね」
らでんが「はじめ……」と嬉しそうに目を細めると、はじめはすぐに照れ隠しみたいに鼻を鳴らした。
「なに、その顔。言っとくけど、らでんの付き添いで来たんじゃないからね。九月の本番で、らでんがステップ間違えたら容赦なく特訓するから覚悟しときなよ」
「ひええ、やっぱりスパルタだ! でも、ちゃんと教えてくれるなら頑張って食らいつくよ!」
「私もダンスは初心者みたいなものだから、はじめ先生、ビシバシお願いします!」
「だから先生って呼ぶなってば、莉々華」
相変わらず莉々華への返しは少し塩辛いが、はじめの口元は嫌そうではなかった。
「よし、じゃあ次に集まる日までに、いつでも五人で連絡したりファイルを送り合ったりできるように、ディスコードにReGLOSSの五人用サーバーを作っちゃおうよ!」
莉々華が自分の携帯端末を取り出すと、全員が賛成してその場で招待リンクを共有した。
画面の中に『ReGLOSS_準備室』という新しい連絡窓口ができあがり、五人のアイコンがずらりと並ぶ。
「あ、そうだ。これからの予定のことで、みんなに一つだけ伝えておきたいことがあるんですけど」
らでんは端末の画面から顔を上げ、四人に言った。
「私、年が明けた一月の上旬からしばらくのあいだ、本業の協会の仕事で地方の現場へ入ることになってるんです。運営の補助業務なので、移動中や業務の時間帯はすぐにお返事できない日もあると思うんですけど、宿や待機場所に戻ったら必ずディスコードを見ますし、カメラとマイクも鞄に入れて持っていきます!」
「お、年明け早々にお仕事なんだ。寒くなるから気をつけてね」
「ありがとうございます、青さん。それで、次に五人でスタジオに集まれるのが私が戻ってからになるなら、それまでのあいだに、ディスコードで一つだけ『ちっちゃな宿題』を出し合いませんか?」
「ちっちゃな宿題?」
奏が首を傾げると、らでんはさっきの二本目の試作動画を思い出しながら言った。
「いきなり九月の本番みたいに難しいことを全部やるんじゃなくて、さっきの二本目でやった『前の人の動きや声を受けて、次の人が入る』っていうバトンパスを、もっと色んなパターンで試してみたいんです。たとえば、誰か一人が五秒くらいの短い声や動き、あるいはイラストのラフをディスコードにポンと上げて、次の人がそれを見て五秒で返す、しりとりみたいなリレー動画とか!」
「うわ、なにそれ! リレー動画、めっちゃ面白そうじゃん!」
青が身を乗り出し、奏も「それなら出先や家のマイクでもすぐ録って重ねられるね!」と手を叩いた。
「いいね。うちが五秒のダンス上げたら、次の人は同じリズムで喋るなり動くなりして繋ぐってことでしょ? いいじゃん、それやろう」
「決まりだね! じゃあ、さっき撮った二本目の動画データも、あとでこのディスコードに貼っておくから、みんな家に帰ったらもう一回見て、リレーの一番手を誰から始めるか相談しよう!」
莉々華の言葉に、五人は揃って頷いた。
スタジオの窓の外では、年の瀬の夕暮れが街のビル群を鮮やかな茜色に染め始めていた。
◇ ◇ ◇
年が明けて、一九九九年一月上旬。
新しい年の冷たく澄み切った朝の日差しが差し込む部屋で、二十歳のらでんは、旅支度の整ったボストンバッグのファスナーを閉めていた。
机の上のノート端末には、年末の顔合わせの日に五人で作ったディスコードのサーバー画面が開かれている。そこには、あの日にスタジオで撮った五十八秒の試作動画ファイルと、年越しから今朝にかけて四人が書き込んだ賑やかなメッセージが並んでいた。
そのすぐ横には、ハンター協会の本部事務局から届いた厚手の公式封筒が置かれている。
開封済みの封筒から覗いている書類の表紙には、黒いゴシック体でこう印字されていた。
『一九九九年度・第287期ハンター試験 運営補助および関連業務委嘱について』
すでに一ツ星のプロハンターとして活動しているらでんのもとへ、新年の最初の大きな協会業務として、間もなく始まる第287期ハンター試験に関わる現地業務の連絡が回ってきたのだ。もちろん、受験生としてもう一度試験を受けるわけではない。今回は試験を運営する協会側の一員として、指定された合流地点へ向かうことになる。
今年はどんな受験生たちがやってくるのかは、現地へ行ってみなければ分からない。
「協会の書類よし、ハンターライセンスよし、筆記用具よし。それから……」
らでんはボストンバッグの脇のポケットを開け、緩衝材で丁寧に包んだ小型カメラと、あの銀色のスタンドマイク、そして四冊目の記録ノートをそっと滑り込ませた。
文化財を守り、遺された品と人の思いを繋ぐハンターとしての仕事も、机の上から好きなものの面白さを語る配信も、そして新しく出会った仲間たちと作っていく『ReGLOSS』としての準備も、どれひとつとして置いていくつもりはない。全部、今の自分が選んだ大切な場所だ。
そのとき、ポケットの中の携帯端末が、ピロン、ピロンと軽快な通知音を立てて連続で震えた。
取り出してディスコードの画面を開くと、『ReGLOSS_準備室』に新しい投稿が届いていた。青の名前の下に、短いメッセージが二つ並んでいる。
青
添付された画像を開くと、青の軽やかなペン線で、スタジオで横一列になって固まっていた一本目の五人と、二本目でノートのパスを回して大騒ぎしている五人の姿が、愛嬌たっぷりのデフォルメで描かれている。
らでんが思わず「ふふっ」と声を漏らした直後、画面の下へ次々に書き込みが増えた。
奏
はじめ
莉々華
らでんもつられて画像を拡大し、もう一度吹き出した。チャットへ戻ると、はじめの投稿が続いていた。
はじめ
奏
四人の文字を見ているだけで、あのスタジオで声を揃え、モニターを囲んで笑い合った温度が、そのまま手のひらの中に蘇ってくる。
一人の机から画面の向こうへ声を届けていた去年のお正月には、まだ想像もしていなかった朝だ。
らでんはボストンバッグの傍らで足を止め、ただ「いってきます」と返すだけではなく、自分が帰ってから五人で試したいことを指先で素早く打ち込んだ。
らでん
送信ボタンを押すと、すぐに四つのリアクションのスタンプがポン、ポンと跳ねるように並んだ。
これから向かう現場の仕事も全力でやり遂げて、そこで見つけた面白いものを抱えて、またあの五人の場所へ帰ってこよう。九月に幕が開くその日までに、五人で試してみたいことは、もう四冊目のノートの余白だけでは足りないくらい溢れている。
らでんは端末をコートのポケットへしまい、襟元の奥にある鋼の雪玉の重みを指先で一度だけ確かめると、マフラーを首に巻き、ボストンバッグを肩に掛けて、冬の朝日の中へ部屋の扉を元気よく開けた。
『儒烏風亭らでんは世界を蒐集する』は、今回をもっていったん完結とさせていただきます。
ここまでらでんの歩みにお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
ハンターとして歩み始め、たくさんの人やものと出会い、新しい仲間と肩を並べるところまで描くことができました。
読んでくださった皆さまに、改めて感謝申し上げます。
また、よければご感想や高評価いただけるとありがたいです。とても励みになります。
らでんのたびについて、本編に沿って進む続編を予定しております。
続編のタイトルは、『儒烏風亭らでんと蜘蛛と奇術師』です。
ここからは『HUNTER×HUNTER』のコミックス本編が始まる時代へ。ハンター試験から天空闘技場、そしてヨークシンへと、原作の人物や事件と交わる文化財ハンター・らでんの活躍を描いていきます。
投稿は10月27日(火)の夜20:30を予定しております。
よければ、これからのらでんの旅も引き続きお付き合いいただけると幸いです。
続編でも、どうぞよろしくお願いいたします!
また最終話までの登場人物・設定をまとめました。振り返りにご活用ください。https://sekai-shushu-cho.pages.dev/#/chapter/tsutaetai
ゴシカ・シティ編、最後までお付き合いいただきありがとうございました! さて、十老頭入りを果たした桐生組。となれば、気になるのは、その武力を担う念能力者集団――《陰獣》です。 皆さんは、誰に陰獣の一員として登場・活躍してほしいですか? 今後の構想の参考にさせていただきます!
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桐生組直参 天音かなた
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桐生組直参 角巻わため
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金虎堂頭領 虎金妃笑虎
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ベルベット商会 フィクサー 一条莉々華
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ゴシカでは掃除屋が陰獣を兼ねるしきたり
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その他新規で別のホロメン