TS魔法少女「はろはろ〜NTRスレイの時間だよ〜」 作:フリーダム・メイソン
犯人は誰なのかがわからないので、ミステリに使えるから。
使い方が違う? ごもっともです。
『速報です! 本日も【ダークネス】の襲来がありましたが、見事に魔法少女達が撃退してくれました!!』
『巷で女子中学生に聞いてみた所、将来は魔法少女になりたい者達が増えており………』
『本日デビューした魔法少女グループ『スマイル・テンション』に話を聞いて見たいと思います!』
『本日のNTRスレイ配信はこの後、2:00から!! 良い子のみんなはきちんと寝るんだぞ?』
見慣れたニュースサイトの見出しを見て、いつから現代は魔法少女なんてものに頼り切りになったのかを考えて馬鹿らしくなる。
ある日、突然。【ダークネス】なんて日曜日の朝8時からやってそうな奴らがこの世界を征服し出すと言ってからだ。
自衛隊すら一蹴するダークネスという組織を前に、人間達はなす術もないと思っていた。
『大丈夫!! 私が、来た!!』
その盤面をひっくり返したのは、不思議の国から飛び出してきたような可愛らしい女の子。今では【始まりの魔法少女】と呼ばれた彼女は瞬く間に、敵を殲滅し、世界がダークネスに立ち向かう為の旗印となったのだ。
以来、日本は彼女の協力を得てダークネスと戦う為の戦闘用肉体──通称【魔法少女】になる為のデバイスを開発。闇バイトなんて比較にならない高収入と一時的な若返りを求めてあらゆる女性が集まり、世界はダークネスを追い詰め出したのだ。
「真白。明日の準備はできたのか? 明日は組織に顔を出す予定だろ」
「もう、出来てるってば………なんで私が行かなきゃなんないの?」
「それはお前が魔法少女達のトップランカー………【射程距離】の【レディ・ブラン】だからだろうが」
「………その名前やめて、厨二臭い」
そして、ベッドに寝転がる私もそんな魔法少女の1人なわけで。小学生の時にある珍妙な生物を拾ってから高校生になる10年間戦い続けた結果、そんな事になっているわけだ。
「もう、魔法少女やめたい………」
「やめられるわけないだろ………それにお前にはやらなきゃいけないことがあるんだろう?」
「そう、だね………」
魔法少女になったせいで友人は皆、魔法少女の私しか見ないし、学校のイベントだろうとお構いなしに彼らはやって来るから学生時代の思い出もない。さっさと止めればいいのだけど、やめられない理由もあって。
「………ルピナス。ごめん、そろそろ時間だ。準備はしといてくれる?」
「はあ? お前………ああ、そんな時間か」
深夜二時。都市の喧騒が不気味な沈黙へと没入していく時刻。遮光カーテンで太陽の光を頑なに拒む六畳間の室内で、青白い長方形の光だけが部屋の隅を仄暗く照らし出していた。
「……おい真白。またその不快な配信を見ているのか? 夜更かしは美容と魔力の維持に悪影響だと、あれほど言ったろう」
「別に、化粧水とかはちゃんと塗ってるし」
「それも全部、我がしたんだけどな」
ベッドの上で膝を抱え込み、息を殺してスマートフォンの液晶画面を見つめていた私は肩口で、ふわふわと浮遊する体長三十センチほどの白銀の小狐──契約マスコットの『ルピナス』の発言に適当に返す。
ルピナスは呆れたように細いヒゲを揺らした。薄暗い室内で彼の澄んだ瞳に反射するのは、鮮烈なネオンピンクとサイバーブルーの色彩だ。
「わざわざ配信を見る必要は無いはずだ。魔法少女にだって助けられる人には限界が──」
「静かにしてルピナス……始まったの」
画面から流れ出てくる音声を拾い上げ、イヤホンが耳奥の膜を振動させる。そこに響いていたのは、およそ深夜の私刑動画には不釣り合いなほど、過剰に明るくあざとい少女の声だった。
『はろはろ〜! 今夜もやってまいりました、NTRスレイの時間だよ〜! 眠い目をこすって画面の前に集まってくれたリスナーのみんな、準備はいいかな〜?』
画面の中でくるりと一回転し、カメラに向かってあざとく指でハートマークを作ってみせるのは、ネオンカラーのツインテールを揺らすサイバーテイストの魔法少女『ゴースト』だ。
露出度の高いドレスを身に纏い、頭部にはネオンに発光する猫耳型のヘッドセット。少女の姿をしたその存在は、挑発的な笑みを浮かべながら画面越しに無数の観客へと呼びかけている。
そして、ゴーストの肩口には、黒いレースのドレスを纏った小さな漆黒の狸型マスコットがちょこんと腰掛けていた。
『ふふ、主人さま……今夜もとっても素敵なお召し物ですわ。画面の前の愚者たちも、皆様の美しさに酔いしれておりますわね』
漆黒のマスコット――『ノワール』が、うっとりとした表情でゴーストの頬に小さな手を添える。ゴーストはそんなノワールのアタマを愛おしそうに撫でながら、カメラに向かってウインクしてみせた。
『ノワールちゃん、ありがと〜♪ それじゃあ早速、本日の誇らしき(笑)ターゲットを発表しちゃいまーす!』
「あの黒いマスコット、気味が悪いな。魔法少女とマスコットの絆を、あんな惨劇の小道具に使うなど……許しがたい冒涜だ」
「……あの黒いマスコットがいるってことは、ゴーストも私たちと同じ『本物の魔法少女』ってことよね」
真白の問いに、ルピナスは耳を嫌そうに畳みながらも重く頷いた。
「ああ。間違いない。奴は偽物のデバイス使いではない。あいつは正真正銘、精霊と深く魂を結んだ『本物の魔法少女』だ。だからこそ厄介なのだ……あいつの放つ魔力は本物なのだから」
そう、私が魔法少女をやめられないのはこれも理由の1つだった。皆は戦闘用デバイスを使わなくては魔法少女になれないが………私はルピナスの力を使って魔法少女になる事ができる。
感情の昂りによって出力も魔力も桁違いに跳ね上がるし、精霊と契約した本物にしか許されない【固有魔法】というものが存在する以上、私がトップになるのは仕方ないわけで。
逆に言えばマスコットがいるゴーストもまた本物であるという証明だ。
画面上では、ターゲットである32歳の不倫男【佐藤健二】の顔写真と、彼が親友を冤罪で陥れて自殺に追い込んだ凄惨な悪行が少女のダブルピースと一緒に暴かれていた。
『本日のターゲットは〜、港区在住の会社員・佐藤健二さん、32歳! なんと彼、親友の奥さんに手を渡して泥沼不倫の末、その親友を精神的に追い詰めて自殺に追いやった極悪NTR野郎でーす! イエーイ!』
《うわっ……胸糞すぎるだろ……》
《ゴーストちゃん、容赦なくいっちゃって!》
《死刑! 死刑! 死刑!》
『それじゃあ……天罰の時間だよ〜ん♪』
ゴーストが軽やかに指を鳴らす。
【情報聖域・量子演算ハッキング・オーバーライド】
私達魔法少女達が所属する組織【イージス】が名付けたゴーストの魔法。名前の通り、あらゆる機械にハッキングし、データを自在に操る、現代では無法にも程がある魔法だ。
ゴーストの放つ極彩色の魔力が、地下駐車場の電子制御システムを瞬時に上書きしていく。
次の瞬間、画面の切り替わりとともに凄惨な光景が映し出された。夜の暗い駐車場。逃げ惑うスーツ姿の男。男の頭上には、無数のドローンが赤いレーザーポインターを照射しながら滞空していた。
『ひ、ひいっ! 助けてくれ! 誰か!』
『逃げられると思ってるのかな〜? 現代社会の電気回路は全部あたしの手先なんだよね!』
ゴーストが楽しそうに歌うように言うと、駐車場の照明が一斉に過電流で弾け飛んだ。バチバチと火花が散る中、自動駐車システムの金属製ゲートが誤作動を起こし、猛スピードで男の脚を挟み込む。
『ギャアアアアアッ! 痛い、足が、足がアアアッ!』
『ねえねえ、人が大切にしてたものを奪う時って、どんな気持ちだった? 自分の足が潰れる音って、どんなメロディに聞こえる?』
ゴーストの手元で、スマートフォンの画面が淡く光る。この現代社会において、電子基板やプログラムが組み込まれたあらゆる製品は、彼女の意志一つで凶器へと変貌する。
『仕上げは〜、はいドーン!』
駐車中に放置されていた電気自動車が、無人のままエンジンを吹き上げ、暴走を開始した。逃げられない男に向かって、静かなモータースコアを響かせながら一直線に加速する。
『やめ……やめてくれぇぇぇぇっ――』
重い衝突音とともに画面が鮮血で真っ赤に染まり、佐藤の悲鳴は二度と聞こえなくなった。
『はーい! 本日のNTRスレイ、無事に終了でーす! はろはろ〜バイバーイ!』
プツン、と配信が切れ、部屋に静寂が戻る。
「……また、あいつか」
真白はスマホを握りしめ、胸元のペンダント─化粧水亡き父・渚一馬の写真が入ったロケットを握りしめた。
「なあ真白。世間はあのゴーストを『闇のヒーロー』ともてはやしているが、あれは単なる快楽殺人だ。お前が引きずられる必要はない」
ルピナスが真白の膝の上に飛び乗り、顔を覗き込む。
「分かってる。でも……半年前にお父さんが殺された事件。あの現場に残っていた魔力波長は、間違いなくイージスの魔法少女システム……ううん、魔法少女固有のものだった。ゴーストも含めて、魔法少女の誰かがお父さんを……」
「……ああ。お前の父の無念は、我々が必ず晴らす。だが焦るなよ、真白」
「うん。ありがとう、ルピナス」
真白はルピナスの温かい頭を撫でながら、冷たい殺意を胸の奥で燃やしていた。