TS魔法少女「はろはろ〜NTRスレイの時間だよ〜」 作:フリーダム・メイソン
地上での夕闇と浅倉先輩との甘酸っぱいやり取りを惜しみながら、私は地下数十メートルに位置する秘密拠点『イージス関東第3支部』へと足を踏み入れいていた。
「相変わらず牢屋みたいな場所だな、ここは」
「やめてよ、そしたら私が囚人みたいじゃん」
「10年も懲役活動(魔法少女)してるから変わらんだろ」
エレベーターが重重しい電子音とともに停止し、厚い防爆扉が開く。
目の前に広がるのは、ひんやりとした無機質な空気が漂う巨大な地下空間だ。何十台もの大型モニターが並び、不気味な青白いホログラムの光が空間を覆っている。
「遅いぞレディ・ブラン。召集時間を三分三十秒超過している」
そんな中、静寂を突いて響いたのは、感情を一切削ぎ落とした冷酷な声だった。声の主は、イージス関東第3支部の最高技術責任者、神代智樹。
細身の身体に仕立ての良い白い白衣を羽織り、眼鏡のレンズの奥で冷ややかな視線を光らせながら、超高速でキーボードを叩き続けている。
「すみません、神代さん。地上で少し気になることがあって……」
私が言葉を濁しながら頭を下げると、神代さんの背後から足音が近づいてきた。
「まあまあ神代、そう固いことを言うなよ。女の子にはいろいろ事情があるんだからさ」
気さくな笑みを浮かべて歩み寄ってきたのは、現場指揮官の遠藤蓮だった。親しみやすい雰囲気を纏ってはいるが、その鋭い眼光は数々の修羅場を潜り抜けてきた経験を感じさせる。
「遠藤さん……!」
私は藁にもすがる思いで、胸に抱えていた問いを投げかけた。
「父の事故の件……何か新しいデータや進展はありましたか!?」
5年前の父の事故。そして先ほど、路地裏のホームレスの男が口にした「渚一馬」と「魔法の悪魔」という言葉。胸のざわつきを抑えきれず尋ねると、遠藤さんは少し申し訳なさそうに眉をひそめ、重い息を吐き出した。
「それがね……。事故現場から回収された微量な残存魔力を、最新の解析プログラムで再検証したんだ」
「結果は?」
「……残念ながら、確定した。あの魔力波長は間違いなく、我がイージスに登録されている『魔法少女』のものだ」
「──そんなっ!?」
言葉が途絶えた。全身の血が引いていくような感覚が真白を襲う。
「イージスの……魔法少女……? そんな……じゃあ、お父さんはやっぱり、事故に遭ったんじゃなくて……!」
「ああ。つまり犯人はダークネスや事故ではなく、イージス内部の誰かだということになる」
遠藤さんの言葉は残酷な真実として真白の胸を深く刺した。父を守るはずの組織、平和を守るための存在である魔法少女。その誰かが、父の命を奪ったというのか。
「おい神代、例の『ゴースト』の解析はどうなっている?」
遠藤さんが提示する話題を切り替えるように問うと、神代さんはキーボードから手を離し、ホログラム画面を操作した。空中に浮かび上がったのは、不気味な黒い仮面をつけた少女『ゴースト』と、彼女の肩に浮かぶ黒いマスコット『ノワール』の鮮明な立体映像だった。
「ゴースト……。あいつは我々のメインフレームに巧妙なハッキングを仕掛け、イージスのネットワークを不正利用している。恐ろしい手腕だ」
神代さんは淡々と解説を続けながら、眼鏡の光の奥で不快感を剥き出しにした。
「そして何より許しがたいのは……あいつが我々の開発した人工デバイス(イージス・ギア)に頼ることなく、体内に『固有の魔力回路』を直接持つ、本物の魔法少女だということだ」
「固有の……魔力回路……私と同じ?」
「そうだ。全く、出来の悪い深夜アニメか? 正義の魔法少女がいれば悪の魔法少女もいるとは………」
私と同じ人工的な媒介なしに魔力を生み出し、行使する存在。それはイージスの技術体系そのものを揺るがす異端の存在を意味していた。
その時、私の肩にいたルピナスの声が脳内に直接響く。
『真白……落ち着け。あの神代という男も、遠藤という男も極めて怪しいぞ』
『ルピナス……?』
『二人ともイージスの魔法少女システムの中枢、そして過去の機密データにアクセスできる最高権限を持っている。お前の父親を殺し、事件を揉み消した黒幕は……案外、目の前の奴らなのかもしれん』
ルピナスの言葉に、背筋が凍りつく。目の前で冷静に分析を進める神代さやをと、親身になって私を心配してくれる遠藤さん。この二人すらも、父を殺した犯人であり、私を欺いている可能性があるというの?
『疑いたくない………そんなの』
『分かってる。真白、お前が出来ないなら我がやる。だからこその相棒、だろ?』
『うん。ありがとう、ルピナス』
私は胸中でルピナスに答えながら、必死に表情を押し殺した。神代さんはホログラムの映像を消すと、冷酷な瞳でまっすぐに私を見下ろした。
「話を戻すが、レディ・ブラン。私怨に囚われるなと言ったはずだ。過去の真相追究も結構だが、今の優先事項はゴーストの抹殺だ。奴はすでに次なる標的を狙っている」
「……ゴーストの目的は一体何なんですか?」
「奴の目的は、イージスが維持してきたこの社会の『秩序』そのものを破壊することだ。野放しにすれば、街は未曾有の混乱に陥る」
「確かに、あんだけ魔法少女の姿で過激な配信をされたらイージスの威信もない。それにアレが許されるなら私も!と真似する子達が出てきてもおかしくはないね」
遠藤さんの肩をすくめながらの言葉に眉を顰めながらも神代さんは感情の籠もらない声で、私に決定的な命令を下した。
「レディ・ブラン。イージスきっての実力者のお前に命ずる。奴を倒し、秩序を取り戻せ」
「私に……ゴーストを倒せと?」
「そうだ。我々が誇る最高戦力であり、本物の魔法少女であるお前だけが、あの狂った『幽霊姫』を止められる」
言葉の裏に潜む本心が読めない。私を利用しようとしているのか、それとも純粋に街を守ろうとしているのか。
互いに秘めた疑念と謀略が複雑に絡み合い、息もできないほどの緊迫感が地下基地の静寂を支配する。
「……分かりました」
真白は深く息を吐き出すと、己の迷いを断ち切るように、腰に下げた魔法兵装・ブレードの柄を強く、指関節が白くなるほどに握りしめた。
父の死の謎、イージスの闇、そして激突を免れない狂気の幽霊姫ゴースト。どんな絶望が待ち受けていようとも、私はこの刃で真実を切り拓く──
『緊急ニュースをお伝えします。現在、私立〇〇高校の敷地内において、巨大な磁気異常および通信障害が発生しました――』
建物の壁に設置されたモニターから、アナウンサーの焦燥を含んだ声が流れた。
「あれ……! 私たちの学校!?」
私はポケットの中のスマートフォンを引っこ抜いた。画面にはイージスからの緊急アラートが赤く点滅している。
『警報:私立〇〇高校に超高濃度魔力反応。対象は魔法少女『ゴースト』と推定』
「なっ……! なんで学校にゴーストが!?」
「真白ちゃん、 映像を見て!!」
遠藤さんが指示した大型スクリーンの映像に、真白は目を疑った。夜中の誰もいないはずの校舎が、ネオンピンクとサイバーブルーの狂気的な光に染め上げられている。そして、校内放送のスピーカーをジャックして、あの甲高いあざとい声が街中に響き渡っていた。
『はろはろ〜! 全国のみんな〜! 本日は緊急特別配信『リアルタイム学校スレイ』の時間だよ〜♪』
画面の中では、サイバーゴーストが校舎の屋上に優雅に腰掛けていた。その隣には、黒いレースドレスのノワールがうっとりと彼女を見つめている。
『ふふ、主さま。本日の舞台も最高に美しく整いましたわね』
『ありがとノワールちゃん♪ ねぇみんな、知ってる〜? この学校の生徒会会長・浅倉薫くん! 表向きは爽やかな秀才イケメンだけど〜、裏では学園内の弱みのある女子生徒たちを脅迫して、泥沼のNTR関係を強制してた超〜絶ゲス野郎なんだよ〜!』
「………え?」
真白の頭の中が、真っ白に染まった。あの優しくて、私のために父の手掛かりとなるホームレスを追おうとしてくれた彼が、そんなあり得るわけ!!
『今ね〜、その浅倉くんを生徒会室に閉じ込めてまーす! これから彼の裏の顔を全国に大暴露しながら、最高に派手な惨殺ショーをお届けしちゃいまーす! イエーイ!』
「レディ・ブラン!! 騙されるな、動揺するな!」
「その通りだ、真白ちゃん! すぐに出動準備を!」
「しっかりしろ、真白! 我らならすぐに着く! 真実をこの目で確かめるんだ!」
神代さん、遠藤さん、そしてルピナスの超えが私の頭を強く叩いた。
「浅倉という男が真実どうかは現場で確かめればいい! だがゴーストの狙いは、学校を巻き込んだ惨劇そのものだ! 今すぐ止めるぞ!」
「うん! 変身よ、ルピナス!!」
「おう!!」
路地裏に飛び込んだ真白は、手首のヴァルキリー・コアを掲げた。ルピナスが光の粒子となってコアへ吸い込まれ、銀色の閃光が真白の全身を包み込み、変身を完了する。
「光あるところは道標! 清き魂は純白の証! レディ・ブランが貴方を救いにきたわ!」
さあ、行こう。先輩を助けに!!