TS魔法少女「はろはろ〜NTRスレイの時間だよ〜」 作:フリーダム・メイソン
閃光が収まり、翼を広げた『魔法少女レディ・ブラン』となった私は、そのまま私専用の射出港から飛び出し、そのまま固有魔法の使用により、空を駆け抜け、私の高校のグランドへと降り立った。
校舎全体が異空間のような魔力障壁で覆われ、窓ガラスからは無数のバイナリコードが流れている。
「ゴーストッ!! 浅倉先輩を返せぇぇぇぇぇ!!」
叫びながらブレードを構えると、屋上からふわりと舞い降りてくる影があった。サイバーテイストのドレスを翻し、ネオンカラーのツインテールを揺らす魔法少女──『ゴースト』だ。
その肩には、漆黒のマスコット・ノワールが優雅に羽を休めている。
『あらあら〜? 駆けつけてくれたんだ、正義の魔法少女ちゃん♪』
ゴーストは舌をペロリと出し、挑発的に笑ってみせた。
「浅倉先輩を放して! あなたの言っていることは全部デタラメよ! 先輩がそんなひどいことをするわけない!」
真白が叫ぶと、ゴーストの隣に浮遊していたノワールが、クスクスと可憐に、しかし底意地の悪い嘲笑を漏らした。
『あら、可哀想なレディ・ブラン様。何も知らずに男を信じ切っていらっしゃるのね。主さまが手に入れた『裏の証拠データ』を、まだ疑うのですか?』
「黙りなさい! あなたたちのような殺人鬼の言うことなんて信じない!」
「落ち着け真白!」
胸元からルピナスの声が響く。彼もまた怒りを滲ませていた。
「ゴースト、ノワール! お前たちも本物の精霊と契約した魔法少女であるならば、なぜその強大な異能を私刑などという不毛な殺戮に使う!? 魔法の力を汚すな!」
ルピナスの強い言葉に、ゴーストは冷ややかなネオンブルーの瞳を細めた。
『魔法の力を汚す……? あはは! おかしなこと言うねぇ、小狐ちゃん。舐めてんの?』
ゴーストの声からあざとさが消え、低く不気味なニュアンスが混ざり込む。まるで男みたいな声音に私は気圧された。
『法律で裁けない害虫が野放しにされて、善良な人間が絶望して死んでいく……それがこの世界の『現実』だろ? だったら、神に代わって圧倒的な力で悪を殺すことのどこが『汚れ』なんだよ?』
『ええ、まさに主さまのおっしゃる通りですわ』
ノワールがゴーストの頬に愛おしそうに寄り添う。
『この穢れた世界で、主さまだけが真の正義を行っていらっしゃる。レディ・ブラン様、あなた様のようにイージスの言いなりになっている偽りの正義こそ、お笑い草ですわ』
「私たちが……偽り……!?」
『誰かの為にといいつつも、結局は組織の言いなり。貴女からは確固たる意志を………心の強さを感じないの』
真白は歯を喰いしばり、足元に魔力を収束させた。
「私は……お父さんを殺した犯人を突き止める! そして、あなたたちの身勝手な殺人を絶対に止めてみせる! ルピナス、いくよ!!」
『応ッ!! 固有魔法展開!!』
「Get Over Here!!こっちに来い!」
ルピナスの清浄な精霊魔力がブレードに宿り、銀色の巨大な光刃が形成され、掛け声と共に踏み込みだ先に現れたゴーストの首元へと刃を閃かせた。
『ッ!? なんでいきなり、刃………がっ!?』
強烈な金属音が校庭に響き渡る。
私の光刃を阻んだのは、ゴーストの手元から展開された、幾重にも重なる幾何学模様が刻まれた機械の塊だった。
『あ、甘いよ、ブランちゃん? 君がどれだけ純粋な魔力を持っていようと、現代の情報網と機械全てを味方につけたあたしたちには届かない!』
ゴーストが指を鳴らすと、校庭に設置されたスプリンクラーや照明塔が狂ったように暴れ出し、鋭い鉄骨の槍となって真白へ襲いかかった。
「あ゛? 舐めた口を聞いてるのはどちらよ」
爆風と火花が校庭を包み込む。激しい衝撃音とともに、校庭の砂煙が舞い上がるが………傷1つない状態で校舎を背景に、私は、銀色の光刃を構えたまま身構えていた。
「まさか、私の魔法を知らずに戦うと決めたわけじゃないわよね? そっか、そっかあ………巷では有名だと思ってたんだけど」
鉄骨の槍は彼女の眼前で、見えない壁に阻まれたように止められている。初めてゴーストの顔が引き攣り、ノワールがドン引きしてる顔が見れた事でちょっと溜飲は下がる。
『それが、かの有名な………"天罰執行人"レディ・ブランの固有魔法』
『ありとあらゆるものを遠ざけ、欲しいものを近づける。全てが彼女の手の届く範囲で解決する魔法。白狐………貴女、なんてものを渡したの!?』
「知ってるみたいね。そう、私の魔法は『射程距離』オールレンジ。あ・ら・ゆ・る・距・離・を・操・る・魔・法・。何人たりとも私からは逃れられない」
手の届く範囲の人を全力で助ける。それが魔法少女。なら、もっと多くの人を救うにはより遠くの人まで手を伸ばすか………相手に近づいてもらうしかない。
「祈れ。そして、認めなさい。死刑台は目の前だと」
敵を遠ざけ、人を近づける。全ての人を救う。私の周り全てが救済対象。故に『射程距離』。どんなに離れようと私の手は君を掴む!
『真白、油断するなよ! あいつの魔力……電子情報を介して際限なく膨れ上がっている! 現代社会の通信網そのものが、あいつの魔力タンクになっているんだ!』
胸元の『ヴァルキリー・コア』を通じて、ルピナスの焦燥を含んだ声が直接頭の中に響いてくる。
「分かってる……! でも、浅倉先輩を助けなきゃ……!」
『余裕のない女の子は嫌われちゃうよん!』
対峙する魔法少女『ゴースト』は、ネオンカラーのツインテールを揺らしながら、空中を優雅に漂っていた。その肩口には、漆黒のドレスを纏った小さな妖精マスコット・ノワールが、優悦感に満ちた表情で腰掛けている。
ノワールは、愛おしそうにゴーストの濡れたようなネオン髪に小さな手を滑らせ、
『ふふ……人間なんて、本当に愚かで浅ましい生き物ですわね。欲望のままに他人を裏切り、傷つけ、自分だけが甘い蜜を吸おうとする……。虫唾が走るほど醜い害虫ばかりですわ』
『困ってる人、助けて欲しい人を全て救う。確かに君はヒーローだ。それは認めるけど、君は《《ヒーローにしかなれない》』
ノワールはうっとりとした瞳でゴーストの横顔を見つめ、小さな胸に手を当てて囁く。
『流石、私の主人(マスター)様は見る目が違いますわ。この腐り切った世界で唯一、清廉で、美しく、裁きの槌を振るう権利をお持ちのお方……。例えこの先、どのような凄惨な地獄が待っていようとも、私はどこまでもお供いたしますわ、主人様』
『勿論、ついてきなよ。ノワール。特等席を予約しとく! それにこちらこそありがと、ノワールちゃん♪ あたしもノワールちゃんがいてくれるから、こうして楽しく『お掃除』ができるんだよ』
ゴーストはあざとい笑みを浮かべたまま、ノワールのアタマを細い指先で優しく撫でた。
「……狂ってるわ」
私は牙を剥くように叫んだ。彼らの言葉は自分勝手なわがままだ。理由があろうと無かろうと強者たる自分が弱者たる人達を守らなくてどうするのだ!
「人間が愚かだとしても、だからってあなたたちに人を裁く権利なんてない! 浅倉先輩はそんな酷い人じゃない……! 私を救ってくれた、優しくて誇り高い人なの!」
『あははっ! 誇り高い〜?』
ゴーストは腹を抱えて爆笑した。そのネオンブルーの瞳が、嘲笑と冷酷な殺意で細められる。
『真白ちゃんってば、本当になーんにも見えてないんだねぇ。……いいよ、そこまで言うなら見せてあげる。君が大好きな『理想の先輩』の、吐き気がするようなドブネズミの裏顔をさぁ!』
ゴーストが空中でおどけて指を鳴らす。次の瞬間、校舎の壁一面に映し出されていたバイナリコードが弾け飛ぶように消え、巨大な映像ウィンドウがウィンドウポップアップした。
そこに映し出されたのは、鍵の壊された生徒会室の内部映像だった。
「ひっ……! 助けてくれ! 誰か! 誰でもいいから助けてくれえええっ!」
画面の中で、髪を乱し、高級な制服をシワだらけにして床を這い回っていたのは──他ならぬ浅倉薫だった。
普段の爽やかで凛とした面影は微塵もない。鼻水と涙で顔をドロドロにし、生徒会室の扉を必死に拳で叩きつけている。
「浅倉先輩……!?」
絶句し、足がすくむ。その隙に、画面の端には、ゴーストの配信画面と同様に、数十万の視聴者コメントが猛烈な速度で流れていた。
《うわ出たwwww》
《浅倉薫、生徒会副会長だろ?》
《顔だけ男の末路www》
《ゴーストちゃん、裏の暴露頼む!》
『はーい、全国のリスナーのみなさ〜ん! 本日のメインディッシュだよ〜ん!』
ゴーストの歌うような声が、校内スピーカーから響き渡る。
『この浅倉薫くん! 生徒会の立場を利用して、校内の裏サイトの管理者権限を悪用! 悩み相談に来た女子生徒たちの弱みやプライベートな秘密写真を握り、それを盾に何人もの女子生徒を脅迫! 自分の『肉体の奴隷』にしてた超絶ゲス男で〜す!』
「嘘……嘘よ……!」
真白の頭の中で、ガンガンと鈍い鐘の音が鳴り響く。今日起きたあの甘酸っぱい味の思い出が途端に苦々しいものへと変わっていく。
『証拠のデータ、はいドン!』
画面が切り替わり、浅倉のスマートフォンからハッキングされた膨大なチャット履歴と、泣き叫ぶ女子生徒たちの写真、そして生々しい音声データが次々と画面に晒されていく。
『頼むから、この写真をネットに撒かないで……!』
『ふふ、だったら放課後、旧校舎の資料室に来いよ。俺の言うこと聞くなら、消してやってもいいぜ?』
画面から流れてくるのは、間違いなく浅倉薫の声だった。冷酷で、サディスティックで、相手を嘲笑う粘着質な声。
「あ……あ……」
膝から力が抜け、校庭の砂の上に崩れ落ちそうになる。
「真白! しっかりしろ、相手の精神攻撃に呑まれるな!」
胸元でルピナスが叫ぶが、その声すらどうでも良くなりそうだった。半年間。父を失い、世界の全てが暗闇に包まれていたあの半年間。
自分に優しく手を差し伸べてくれたのは浅倉だった。「無理に笑わなくていい」と温かい手を重ねてくれたのは浅倉だった。その温もりだけを糧に、真白はこれまで生きてきたのだ。
その全てが、偽りだったというのか。自分もまた、浅倉にとって単なる「獲物」の一人に過ぎなかったというのか。
『ねえねえ浅倉く〜ん?』
ゴーストが画面の中の浅倉に向かって語りかける。その目には無邪気な幼児が大人に答えにくい質問をするようで。
『君さぁ、真白ちゃんのことも狙ってたでしょ? 「父親を殺されて弱ってるから、ちょっと優しくしてやれば簡単に落ちる」って、裏アカウントで友達に自慢してたもんねぇ?』
画面に表示されたのは、浅倉のSNSの鍵付きアカウントのスクリーンショットだった。
『【今日のお持ち帰り予定:渚真白。親が殺されて心壊れかけてるから、ちょろいちょろいwww】』
文字が、真白の視界を真っ赤に染め上げる。
「あギャアアアアアアアアッ――!!!!」
真白の喉から、人間とは思えない悲痛な叫びが漏れ出た。胸の奥で、何かがパリンと音を立てて木っ端微塵に砕け散る。
大事な筈の思い出が堕ちた硝子細工のように粉々になっていく。ルピナスが何かを叫んでる気もするが、全く耳に入らない。
殺す。
降って湧いたその言葉が、今の私にとって何よりのカンフル剤だった。
『ふふ、素晴らしい悲鳴ですわ、レディ・ブラン様』
校庭に浮遊するノワールが、優雅にスカートの裾を持ち上げて一礼した。
『害虫どもの本性を知り、絶望に身をよじる……それこそが愚かな人間にふさわしい末路。……さあ、マスター様。あの醜い男に、最高の天罰を』
ゴーストのネオンブルーの瞳が、暗い歓喜に濡れる。
『それじゃあ……『学校スレイ』、配信開始だよ〜ん♪』