TS魔法少女「はろはろ〜NTRスレイの時間だよ〜」 作:フリーダム・メイソン
『警報:スカイツリー付近に超高濃度魔力反応。対象は魔法少女『ダークネス』と推定。最期の敵幹部と推測されます』
学校でのゴースト撃退から数日後。街の中心に突如現れた『ダークネス』のにより、一帯は地獄絵図と化した。
イージスの人工魔力デバイスを与えられた『量産型・偽物の魔法少女』たちが蹴散らされ、惨劇の場と化している。
「ヒハハハハ! くだらん、実にくだらん! このダークネス最強の無喰様にかかれば貴様らなんぞ羽虫以下よ!!」
「くっ、奴の前だと変身できない…………っ!」
「それが俺様の固有魔法『絶対無効化』! 魔法がなければ戦えない人間をぷちぷち潰すだけのお手軽作業〜全く雑魚どもは何してたんだか」
そんな崩落したビルの頂点から見下ろすのは、ダークネス最強の敵幹部、無喰が倒れた偽物の魔法少女を踏みつぶそうとしたその瞬間──空間が歪んだ。
「その雑魚より手ごたえはあるのかしら?」
「来たなぁ? レディ・ブラン!」
固有魔法『射程距離』により、潰されそうだった少女の身体が瞬時に後方へスライドする。
「……遅くなってごめなさい。もう大丈夫よ」
代わりに銀色の光芒を纏い降り立ったのは──『魔法少女レディ・ブラン』だった。
「レディ・ブラン……! 『本物』が来た……!」
「さっさと倒しなさいよ、役立たず! おかげで今日の褒賞がパーよ!」
「ふん、金か? 男か? 実にくだらんな…………助けられる奴の価値が低いと、貴様の価値も知れるものだ。レディ・ブラン?」
「御託はいい。それとも弱いものいじめしか出来ないの?」
「良かろう! 凍てつく闇の恐ろしさを教えてやる!」
無喰が背中の触手と『絶対無効化』の漆黒の波動を爆発させたらしい。ルピナスの『射程距離』が強制解除され、身を包む魔力衣が消え去った。手にするアミュレット・ブレードもただの鋼鉄の塊と化したみたいで。
「真白、気をつけろ。あの男の魔力……周囲の魔力粒子を根こそぎ食い尽くしている。生半可な魔法攻撃は届く前に消滅させられるぞ」
「分かってるわ、ルピナス。……でも、私からは逃げられない」
剣を持つ右手をすっと掲げる。
「ハハハ! 粋がるなよ、小娘が! 我が『絶対無効化』の前に、貴様らの姑息な魔法など一切通用せん!!」
無喰が咆哮し、背中の巨大な触手が一斉に真白に向かって襲いかかっできた。空間を鋭く切り裂き、音速を超える速度で迫る肉の槍。それを私は見切って、力を込めた足で上空へ飛ぶ。
「なっ……消えた……!?」
無喰の触手が空を切る。次の瞬間には、私はすでに無喰の目と鼻の先──完璧な死角である頭上から剣での不意打ちをかます。
「ハッ! 愚か者が! 自ら我に近づくとはな!」
しかし、防がれた上に無喰の全身から『絶対無効化』の黒い波動が爆発的に吹き荒れる。ルピナスの変身までもが強制的に解除された。
「真白! 魔法が打ち消されたぞ!」
「知ってるわ」
魔法を奪われたけど、微塵の動揺もなかった。こんな雑魚に時間がかかるほど、弱いつもりもない。それにこういう相手のタイプは至ってシンプルに。
「魔法が使えないなら──ただ『殴れば』いいだけでしょ?」
無喰が目を見開く。暗黒の波動を切り裂く私の手にある銀色のブレードは、魔力を失い、ただの鋼鉄の塊だ。
でも、私の身体能力、その肉体そのもの自体が鍛え上げられた武器でもある事をこいつは知らない!
「ぬぐッ!?」
強烈な踏み込み。右拳が、無喰の分厚い重装甲の面頬に寸分の狂いもなく叩き込まれた。魔法の威光など一切ない。
純粋な物理エネルギーと、筋肉のしなり、そして寸勁による極限の『肉弾衝撃』。
金属が悲鳴を上げて歪み、無喰の巨大な巨体が凄まじい衝撃波とともに吹っ飛び、背後のビルを三基貫通して瓦礫の山へと埋もれていった。
「……え?」
惨劇の跡地で這い回っていた偽物の魔法少女たちが、目の前の光景が理解できず、口をぐうの音も出ないほど開けて固まっていた。
あらゆる魔法を無効化する無敵の敵幹部を、ただの「素手と鋼の打撃」で吹き飛ばした私に対して間抜け面を晒している。
「鈍ったかしら。これで終わらせるつもりだったのだけど」
そんなは舞い散る埃の中で静かに着地すると、ブレードを軽く一振りし、瓦礫の山から這い上がってくる化け物を見下ろした。
「さあ……第二ラウンドよ」
瓦礫の山が崩れ落ち、怒りに狂った無喰が咆哮とともに這い上がってきた。分厚い黒銀の装甲はひび割れ、面頬からは黒い体液が漏れ出している。
「貴様……貴様ぁぁッ! 魔法少女の分際で、魔力も使わずにこの我を殴り飛ばしただと……!? 許さん……絶対に殺してやるッ!」
無喰が両腕を広げると、身体の中心にある黒いコアから、限界を超えた『絶対無効化』の漆黒の波動が津波のように溢れ出した。周囲数百メートルの空間に漂うあらゆる魔力粒子が根絶やしにされ、空気すらも重く引き千切られるような感覚。
イージスの人工デバイスを頼りにしていた偽物の魔法少女たちは、その圧倒的な圧力だけで呼吸困難に陥り、地面に顔を押し付けられて絶叫した。
「嫌ぁぁぁっ! 魔力が……変身が解けちゃう……っ!」
「助けて、ヴァルキリー! 早くそいつを魔法で消し去ってよぉっ!」
悲痛な叫び声が響く中、私はまっすぐに立ち続けていた。そこへ飛来するのは漆黒の塊。
「無駄だ、無駄だ無駄だぁッ!」
無喰は音速を超える巨体で踏み込み、巨腕に集約させた物理と暗黒の圧殺打撃を叩き込んでくる。
「魔力を奪われたお前など、ただの華奢なガキに過ぎん! 死ねぇッ!」
凄まじい風圧が吹き荒れるけどその拳が顔面に届くことはなかった。
「遅いわ」
遅すぎる。これなら、閃光のソニックとやらの方が早かった。最小限の身体移動──わずか数センチ顔を傾けただけで、音速の拳を難なく紙一重でかわし、
「なっ……!?」
無喰が驚愕に目を見開くのと同時に、私の踏み込みが爆発した。
魔法が使えない? だからどうしたというのだ。
幼少期からダークネスに勝つために実戦的な体術を学び、イージスでの地獄のような訓練、そして何より「本物」として修羅場を潜り抜けてきた圧倒的な戦闘勘から築き上げた私の戦闘法には、一切の無駄なんてない!
すれ違いざま、手にした鋼鉄のブレードが、無喰の肘関節の隙間へと正確無比に突き立てられた。テコの原理と自重を利用した滑らかな一撃。
「グアッ!?」
関節を狂わされ、無喰の巨体がガクリと姿勢を崩す。その隙を逃さない。ブレードの柄で無喰のアゴを削り上げるように突き上げ、脳を揺らす。浮き上がった巨体に対し、反転して回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐはっ……がはっ……! なぜだ……! なぜ魔法が封じられているのに、これほど……ッ!?」
無喰の悲鳴に近い問いかけには答えない。代わりに流れるような演舞のごとき連撃。左フックでガードをこじ開け、右の掌打で胸甲を叩き割り、ブレードの峰で膝関節を粉砕する。
「ハァ……ハァ……! バカな……この我が……人間ごときに……ッ!」
全身の装甲を砕かれ、膝をつく無喰。その頭上へ跳躍すると、ブレードを両手で逆手に持ち直し、一切の躊躇なく振り下ろした。
鋼の刃が、無喰の力の源泉である黒いコアを正確に貫通する。
「ガ……ッ……!? レディ……ブラン……ッ!!」
断末魔の叫びとともに、ダークネス最強の幹部は黒い粒子となって散り、消滅した。空間を覆っていた暗黒の波動が散り散りになり、街に再び静寂が戻ってくる。
魔法を解かれた真白の身に、再び美しく輝く精霊魔力の光が宿り、銀色のドレスが夜風にふわりと揺れた。一滴の血も浴びることなく、完全なる勝利。
「……ふぅ」
真白は軽く息を吐き出すと、ブレードを消滅させ、倒れ伏している量産型魔法少女たちへと向き直った。
「怪我はない……?」
真白が気遣わしげに手を差し伸べようとした、その時だった。
「──っ! なんでもっと早く来なかったのよ!?」
ヒステリックな絶叫が、静まり返った街に響き渡った。脚を怪我した少女が、真白の手を汚いものでも見るかのように激しく振り払ったのだ。
「私たちがどれだけ怖い思いをしたか分かってるの!? あなたがもっと早く来てくれれば、私の衣装も破れなかったし、脚だって痛い思いをしなくて済んだのに!」
「そうよ……!」
周囲の偽物の魔法少女たちも、ゾロゾロと立ち上がりながら、嫉妬と恨みが混ざり合った冷たい視線を真白に浴びせ始める。
「なによ、たった一人でカッコつけちゃってさ!」
「『本物』だからって、調子に乗らないでよ! どうせ私たちをダシにして、自分だけヒーロー気取りしたいんでしょ!?」
「イージスの特別扱いを受けてるくせに! 威張んじゃないわよ!」
自分たちの無力さを棚に上げ、命を救われた感謝どころか、醜い自己保身と裏返しの嫉妬をぶつけてくる少女たち。胸元のコアからルピナスが怒りに声を荒立てた。
『真白! なんだあいつらは! お前が命がけで救ってやったというのに……! 恩を仇で返すとはこのことだぞ! 一言言い返してやれ!』
脳内で怒り狂うルピナスの声。
けれど──私は差し伸べた手を静かに引き寄せると、責め立ててくる少女たちに対して、怒ることも、弁明することもしなかった。
だって分かるから。みんな、死ぬほど怖かったんだよね。自分の無力さに絶望して、誰かを責めずにはいられないって事を。
何も言わず、深く一礼する。怒りが収まらなくてもここにいたら皆が傷つくばかりだし、傷跡が残る前に治療してほしいから。
「……遅くなって、ごめんなさい。救護班を呼んであるから、もう少しだけ待っていて」
それだけを静かに告げると、真白はくるりと背を向けた。
「ちょっと! 無視する気!? 謝りなさいよ!」
「なんなのよアイツ! 感じ悪い!」
背後から浴びせられる身勝手な罵詈雑言。それでも、私の足取りが乱れることはなかった。夕闇が迫る崩壊した街の中、ズタズタに傷ついた街並みを、銀色の光を纏って1人歩いていく。
『真白………』
「いいの、ルピナス。それより、後少しだよ。残りはダークネスだけ。後は数の暴力で押し切れる」
誰に感謝されなくてもいい。どれほど理不尽な泥を投げつけられようとも。私は──父親が信じた「平和」を守るため、そして自分の信念を貫くために、冷たい風の中を一人で立ち向かい続ける。
「ま、待って!!」
浴びせられる罵詈雑言を背に受けながら、静かに立ち去ろうとしていた足が、ふと止まった。崩れかけたビルの陰から、泥に汚れた小さな女の子が、テディベアを抱きしめたまま震えながら姿を現したのだ。
「お、おねえちゃん……」
「どうしたの? 親と逸れちゃった?」
「ち、違うの………あの、あのね?」
目線を合わせるように、その場にそっとしゃがみ込んだ。先ほどまでの冷徹な戦士の表情を決して、柔らかく優しいお姉ちゃんの顔を向ける。
女の子は大きな瞳に涙をいっぱいに溜めながら、小さな手で私の銀色のドレスの裾をキュッと握りしめ、拙い声で一生懸命に言葉を紡いだ。
「助けてくれて……ありがとぉ……っ!」
その一言が、澄んだ鐘の音のように戦場に響いた。冷たい批判や嫉妬、世界に対する疑念や不安で押し潰されそうになっていた胸の奥が、じんわりと温かい光で満たされていく。
私は女の子の頭を優しく撫でると、心の底から溢れ出すような、ひだまりのように温かい笑顔を咲かせた。
「……うん! どういたしまして。もう大丈夫だよ」
誰に理解されなくても、どんな理不尽な泥を投げつけられても。
たった一人でも自分を必要としてくれる人がいるなら、自分はいくらでも戦える。
少女の小さな「ありがとう」を胸に抱き、私は晴れやかな笑顔のまま、再び未来へと歩み出したのだった。
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