TS魔法少女「はろはろ〜NTRスレイの時間だよ〜」 作:フリーダム・メイソン
特に今は、オレンジなので赤に戻りたいです………
「真白ちゃん、今日もお疲れ様。怪我はないかい?」
最高幹部を倒してから数日後、すっかり夏の匂いが濃くなりだした時期のイージス関東第3支部の作戦室。モニター越しに優しく微笑む遠藤さんの顔を見て、私は「はい!」と元気に深く頷いた。
「大丈夫です、遠藤さん! ルピナスと一緒に、D級モンスターを二体無事に討伐できました」
『まあまあの出来だったな、真白。調子に乗るんじゃないぞ』
「うっさい、ルピナス」
「相変わらず仲が良くて何よりだよ。そうだ、真白ちゃん。今度の学校の三者面談は水曜日でいいかな? そこしか時間がないんだ」
「あっ、はい。お願いします! すみません、忙しいのに…………」
『頼むぞ、遠藤。真白は成績はいい癖に将来のことなんも考えてないからな』
手首に装着したアミュレットから、相棒であるルピナスの小生意気な声が響き、私は苦笑いしながら、首をすくめた。
お父さんが亡くなってから5年。母は既に病死して、路頭に迷うかもしれなかった私を温かく引き取り、見守ってくれたのが、お父さんの元・親友である現場指揮官の遠藤蓮さんだった。
幼い頃から私を知っている遠藤さんは、いつも父親のように温かく、時には厳しく私をサポートしてくれている。
ここ最近は浅倉先輩の事もあり、更に過保護になってるような気もするけど、仕方ない。ただでさえ、私は最強の名を持った魔法少女として前線に出る必要があるのだから。
「無理は禁物だよ。君は私にとって、何よりも大切な存在なんだからね」
遠藤さんはそう言って、いつものように穏やかに笑った……けれど、ほんの一瞬。遠藤さんの目に仄暗い何かが見えた気がした。その目線が耳たぶや首筋の近くを捉えた時、胸の奥がチリッと小さく泡立つような、不思議な居心地の悪さを覚えた。
多分……気のせいだよね。遠藤さんは、私の親代わりなんだからと、私は小さく首を振って、その違和感を強引に胸の奥へと押し込めた。
最近、色々ありすぎて全部に不信感を抱いてる気がする。良くない考えだ。切り替えなくちゃ! もうすぐ夏休みでもあるんだし! 補講だらけのねっ!
「それでこの後は実家に帰るんだっけ?」
「はい。ルピナスの力があればすぐに帰れるので。それに私が活動してばかりだと、他の魔法少女からの僻みもすごいんで」
「ははは、気にする必要はないよ。でも学校にはしっかり行くんだよ」
はーい、と私は返事をしてモニターを切る。その日の夕方。私はひさしぶりに実家である『渚家』の旧宅を訪れる予定だった。
理由はお父さんが生前使っていた書斎の整理をするためだ。というのもこの間、強盗が入ったらしく、何が盗まれたかも分からない状態なので整理する必要があったのだ。
実際は、イージスからゴーストの仕業かもしれないから調査しろとのご命令だったが。金一封と休みが貰えたのでとりあえずはヨシとする。
ルピナスの力で移動。新幹線要らずの移動先は、私の部屋で。窓ガラスの前で止まり、玄関に降りて鍵を開ける。
遠藤さんが用意してくれたマンションに引っ越して以来、手付かずになっていた家の中には、うっすらとホコリが積もっていた。
ひとまず周りを警戒しながら、父の書斎へ向かう。引越しの際に自分の荷物は持っていった以上、我が家で大事なものは父の書斎にしかないからだ。
「うわぁ……相変わらず、お父さんの本棚は難解な論文ばかり……」
お父さん──渚一馬は、イージスの優秀な魔導技師だった。幼馴染のお母さんと結婚して、お母さんが病気で亡くなる前まではそれこそ仲睦まじすぎて砂糖吐きそうなくらいに。
部屋のあちこちには、魔力回路の設計図や、未完成のパーツが散乱している。私は棚の奥を片付けようと手を伸ばした時、本棚が倒れてきた。
「あわわわわっ!?」
「何をしてんだ、真白………うん? 何か棚の奥にスペースがあるみたいだ」
「あ、本当だ。ギリギリ手が届く………届いた!」
本棚の奥、まるで誰かから隠すように置かれた台座からズッシリと重い黒い金属のケースを見つけた。
「……これ、何だろう?」
重厚なロックがかかったケースの表面には、お父さんの筆跡でこう書かれていた。
『魔法少女受胎計画罫線──及び戦闘デバイスに関する考察』
「魔法少女の……受胎……?」
首をかしげながらケースを持ち上げようとした、その時だった。
「真白、待て! そのケースから……微弱だが異質な魔力波長を感じるぞ!」
宙を浮いていたルピナスが警戒したように声を張り上げた。
「えっ……? お父さんの作ったデバイスなのに……?」
「確か、真白の父は今のイージスが使う戦闘デバイスの開発者だったな? ならそれはプロトタイプかもしれん。念のため、持って帰ろう」
ルピナスの言葉に頷く。確かにゴーストが狙うかもしれないと考えると私が持っていた方がいい。
でも………お父さんは、一体何を研究していたんだろう?
イージスで使用されている戦闘デバイスの第一人者だと思っていたお父さんの仕事。けれど、このケースに刻まれた難解な用語は、どこか忌まわしい『何か』を予感させるようで。
「………帰ろうか、ルピナス」
「ああ、そうだな」
私は不安を覚えながらも、そのケースを無理やり鞄に押し込み、夕暮れ時の街へと戻ることにした。帰り道、街はすっかり茜色から群青色へと染まりかけている中、マンションへ続く路地裏。街灯の光が届かない薄暗い高架下を歩いていた時のことだ。
「ルピナス」
『ああ』
背後から、荒い足音がついてくることに気づいた。
「……っ!?」
振り返ると、そこに立っていたのは、ボロボロのコートを羽織った一人の男だった。うつろな目、伸びきったヒゲ、そして全身から漂う酒とドブの匂い。このあたりの高架下に住み着いているホームレスの男だ。
この間、襲ってきたホームレスと同じだ!!
「おい……お嬢ちゃん……」
「な、なんですか……?」
私が警戒して一歩身を引くと、男はニチャリと下品な笑みを浮かべ、汚れた手を伸ばしてきた。
「いい匂いがするなぁ……こんな暗いところで一人で歩いてちゃ危ねえよ……俺といいことしようぜぇ……ッ!」
「ッ! 触らないで!」
男が私の腕を強引に掴もうと襲いかかってきた。だが、私はただの無力な少女ではない。
「ルピナス!」
『応ッ!』
私は手首のアミュレットを光らせ、間髪入れずに脚を振り抜いた。魔法少女としての身体能力を活かした、鋭く重い回し蹴りが、男の脇腹を正確に捉える!
「ごふっ……!? ぎゃあぁぁっ!?」
男は悲鳴を上げ、ドブの溜まり場へと激しく吹き飛ばされた。
ただその拍子に鞄の中から、先ほど押し込んだ黒い金属ケースが弾け飛び、ガラガラとアスファルトの上に転がる。
「痛ぇ……クソっ、なんだこの女……!」
「魔法少女よ! それに貴方、父を知ってるわね! 貴方は何者なの!?」
男は痛みに顔を歪めながら立ち上がろうとし──そして、足元に転がった黒いケースへ視線を落とした。
その瞬間、男のうつろだった瞳が、見開かれて血走り、異常な興奮と歓喜で大きく見開かれた。
「あ……あぁ……!? こ、これは……! 試作第0号……!? 『魔力変換核』……!!」
男は吐血も気にせず、這いずるようにしてケースへと手を伸ばし、それを狂ったように抱きしめた。
「俺の研究だ……!! 渚一馬の奴め、俺から奪い去りやがって……! これがあれば……これさえあれば俺は……!!」
「え……? あなた、お父さんの研究を知っているの……!?」
あまりの言葉に私が息を呑んだ瞬間、男はケースを抱えたまま、なりふり構わず路地裏の暗闇へと脱兎のごとく逃げ出した。
「待ちなさい! 返して……!」
追いかけようと踏み出した私の腕を、突如、背後から伸ばされた太い腕がガシッと強く掴んだ。
「──そこまでだ、真白ちゃん」
「遠藤さん……!?」
いつの間にか現れた遠藤さんが、私の腕を強く引き寄せていた。
「追わなくていい。怪我はなかったかい?」
「遠藤さん、あの人が……お父さんのケースを……!」
「いいんだ。あれは危険な廃棄データだ。それより君が無事でよかった……」
遠藤さんはそう言って私を安心させるように優しく微笑んだ。
けれど、私を抱きしめるその力はどこか異常なほど強く、指先が私の腰をすべり、背中を撫で下ろす動きは、あまりにも粘着質で怪しかった。
お父さんの研究を『俺のもの』と言ったあの男……そして、逃げた男を追おうとしない遠藤さん……彼の胸の中で、私は背筋が凍りつくような違和感と、底知れぬ狂気の影を感じてしまう。
けれど、何も起きずに時は過ぎていくばかりで。ダークネスとの総力戦の準備や学校の三者面談など………色々忙しくていれば高架下での異常な出来事から、数日が過ぎていた。
あの時、お父さんのケースを抱えて逃げ出した謎のホームレス──かつてお父さんの同僚だったのか、それとも研究を追われて落ちぶれた研究者だったのか、遠藤さんは警察にも報告せず「ただの浮浪者の奇行だ」として処理してしまった。
お父さんの研究を取り戻そうとしない遠藤さんの対応に、私の胸の中の不信感は日に日に大きくなっていった。
それだけじゃない。作戦室で指示を出す遠藤さんの視線が、決定的に変わってしまったのだ。
「真白ちゃん、今日の訓練のデータだけどね……」
背後からスッと伸ばされた手が、私の肩を揉みほぐすように触れてくる。指先が首筋へ、そして胸元近くへと僅かに滑るたび、全身の毛穴が収縮するような悪寒が走る。
「あ、大丈夫です……! 遠藤さん、自分で確認できますから……っ」
慌てて身を引く私を、遠藤さんは逃がさないようにじっと見つめてくる。
その視線は、幼い頃から見守ってくれた「父親代わり」の温かさなどではない。ひとりの「女」を品定めし、今すぐにでもこの手で弄びたいという、生の欲望に満ちた男の眼差しだった。
怖い……遠藤さん、どうしちゃったの……? まるで、私を……
「あ、ごめんなさい! 今日、佐々木先生から宿題を出されてて………すぐ帰ってやらなきゃ! また明日! 遠藤さん!」
耐え難い息苦しさに耐えかね、私は色々言い訳をして逃げるように自室へと戻った。部屋に閉じこもり、ベッドの上で小さく膝を抱える。学校にも行けなかった。
あの日、あの男が吐き捨てた言葉が、頭の中で何度も不気味にリフレインする。
『俺の研究だ……!! 渚一馬の奴め、俺から奪い去りやがって……! これがあれば……これさえあれば俺は……!!』
「ねえ、ルピナス……」
「なんだ、真白?」
私の肩から、相棒のルピナスが心配そうに光を揺らす。
「あの男の人が言っていた『魔力変換核』……精神構造や性別の再構成って、一体なんのことなんだろう……?」
「……確実なことは言えんが、真白。あのケースに残されていたかすかな魔力波長は、人間の精神回路を書き換え、肉体の性別構造を強制的に「変異」させる禁忌の理論だ。分かりやすく言えば男の精神を持ったまま、女の肉体に変えることも可能だろう。意味はないがな」
男から、女への強制的な変貌TS(性転換)。
その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に、あの私刑配信を行う邪悪な魔法少女『ゴースト』の姿が鮮烈に浮かび上がった。
『魔法の力を汚す……? あはは! おかしなこと言うねぇ、小狐ちゃん。舐めてんの?』
華奢で美しい少女の姿でありながら、戦闘スタイルに見え隠れする男特有の荒々しく重い技。女性らしくない嫌にねっとりとした言動。
まさか……ゴーストってあのお父さんの研究と関係があるの……?
お父さんが隠していた忌まわしい研究。それ奪い去った謎の男と、何故かそれを放置する遠藤さん。そして、闇の中で微笑むTS魔法少女ゴースト。
すべてのピースが不気味に繋がり始め、背筋に冷や汗が伝う。
お父さんは生前、一体何に関わっていたの?
そして遠藤さんは、なぜ私をあんな「男の目」で見つめてくるの──?
*
「どいつもこいつも、浅ましい欲望と綺麗事に塗れているな」
その日の夜。月明かりすら届かないイージス本部の屋上、冷たい夜風が吹き抜ける鉄塔の上に、ひとつの影が佇んでいた。
黒いフリルドレスを風になびかせ、不気味な仮面を被った少女──『ゴースト』だ。
その肩口には、黒い妖精ノワールがフワフワと浮遊している。
「うふふ〜、ゴースト様ぁ。あの冴えない指揮官の男、真白ちゃんを見る目がす〜っかり狂気に満ちておりますわね〜!」
「見てて反吐が出る。幼馴染の恋人を寝取られたからその姿を重ねているんだろう」
仮面の奥から吐き出されたのは、低く、冷酷な男の地声。
「親友を気取りながら、その娘を自分の『所有物』にしようと躍起になってる……イージスの上層部は昔からちっとも変わってないな」
「まあまあ〜! でも、そのおかげでイージスの内部セキュリティは穴だらけですわ。真白ちゃんをあの地下資料室に連れ込む手筈も、バッチリ整っておりますわよ〜?」
「ふん」
ゴーストは遠く見下ろす街の灯りの中、真白の部屋がある区画を凝視した。
「渚一馬の娘、渚真白。お前は何も知らない。父親が隠した呪いも、隣にいる男の醜い欲望も……俺の正体にも、な」
ゴーストの手袋に包まれた指先が、ぎちぎちと音を立てて強く握りしめられる。
「俺の手で、全部叩き潰してやるよ。おっさんの浅ましい欲望も、イージスの上層部の企みも。真白、お前のおめでたい綺麗事も……まとめてな」
闇の中に消えていく、嘲笑と殺意。日常の裏で着実に組み上げられていく狂気の歯車は、真白を逃れられない絶望の舞台──イージスにある地下資料室へと引きずり込もうとしていた。
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これからもよろしくお願いします