密室の亡霊   作:虫野律

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⑧

 リッポーは口角をにやりと嫌らしくさせて言った。

 

「わたしは君が言うところの、“今回のような死体及び現場を作成できる特殊能力” なんか持っていないからねぇ」

 

「それは証明可能か?」

 

「ハンター協会最高幹部、十二支んにミザイストム・ナナという男がいる。彼なら証言してくれるだろうね」

 

「オカルトを否定したいらしきハンター協会の者の証言では証明力に欠ける」

 

「あ、そ。なら、そこのヒソカの証言を援用しよう。反駁権はないが、ほかの人物が証明のために利用するのは法源が別だ。レギュレーション違反はない」

 

 他人の反駁権に基づいている。ゆえに、可能──たしかに道理だ。そして、想定内でもある。

 

「いいだろう」わたしは言う。「ヒソカの証言を聞こう」

 

 ヒソカに注目が集まる。彼は組んだ脚に頬杖を突いたまま答えた。あるいは揶揄するように、

 

「リッポーにそんな発──特殊能力はないね♧」

 

 その注目がわたしに移り、リッポーが挑発するように言った。

 

「──だそうだよ?」

 

「そうか。ならば仕方ないな」

 

 わたしが言うと、プレイヤーたちの間に、期待外れだ、というような空気が滲んだ。

 

「何だよ、偉そうに講釈垂れといて外してんじゃねェか」

 

 マジタニの半畳に同調が連鎖し、

 

「それでは真犯人を指摘しよう」

 

 一撃で断ち切られた。

 一拍遅れて、困惑が広がる。

 

「どういうこと? わかっていたならどうして初めから指摘しなかったのよ?」

 

 レルートが問いかけてくるが、もはや彼女は傍聴席の名無しにすぎない。

 わたしは裁判官だけを見据え、

 

「安心しろ、攻撃意思はない」

 

「──なっ、まさかっ!」リッポーが瞠目(どうもく)し、

 

「お手並み拝見♡」ヒソカは双眸を細める。

 

 わたしはそれを念じた。

 

 ── “精密機械(パーフェクト・アクター)” 、解除。

 

【精密機械(パーフェクト・アクター)】

〈効果〉

・設定したモデルに合わせた、肉体及びオーラの自動精密操作

〈制約と誓約〉

・三大欲求の完全喪失

 

 その瞬間、“非念能力者” に設定し、偽装していた垂れ流しのオーラが操作可能になった。

 堰(せき)を切ったように精孔(しょうこう)から溢れ出るオーラをとどめ、纏う。刹那も要せず、静謐(せいひつ)な湖面のごとき纏が完成する。

 リッポーは苦々しげに唇を引き結んでおり、一方のヒソカは対照的だ。「ほう」などと愉快げに言って顎をさすっている。

 

「これでわかっただろう?」わたしは言う。「犯人はわたしだ」

 

 もっとも、犯行に使用したのは、

 

【密室の亡霊(プリズン・ファントム)】

〈効果〉

・幽体離脱して他人に憑依し、操る

〈制約と誓約〉

・術者及び対象者が密室(施錠された部屋。以下同じ)にいなければならない

・術者又は対象者以外の人物が密室内に存在してはならない

・密室が解かれ、又は対象者が死亡すると強制的に解除される

・発動中、術者は完全な無防備状態になる

 

 こちらのほうだが、丁寧に説明してやる必要はない。

 

「え?」レルートがきょときょととわたしとリッポー、ヒソカを見比べる。「何がどうなってるのよ……」

 

 ほかのプレイヤーたちの反応も大同小異、大差ない。

 

「──なるほど、だからわざわざ部屋を荒らして自殺説を潰したのか」

 

 リッポーが喘ぐように口を開いた。

 

「わたしに推理ゲームを開催させ、減刑を勝ち取ることが狙いだった。そこで他人を犯人に仕立て上げられたら最上、それが失敗しても自分を犯人と指摘すればゲームには勝利できる。ギョーセ殺しの懲役が加算されようと刑期が484年の君にとっては大幅減刑なのは変わらない。切り札を露呈させる損失を加味しても期待値はなお高いと言える──これがこの事件の真相か」

 

 リッポーは嘆息まじりに、まったく、と零した。

 

「とんでもないな、君は」

 

 それからヒソカに目を向けた。

 

「気づいていたんだろう? だったら教えてくれよ」

 

「どうして? そんな条項、契約にないじゃないか♢」

 

 非念能力者の中から犯人を捜してくれ、という趣旨の契約だったのだろう。

 リッポーは再び、今度は先ほどより大きく息を吐いた。

 

「──それで、判決は?」わたしは促した。

 

「……ジョン・E・クリスティーの勝利条件達成を認める。お前の勝ちだよ、“殺人作家” 」




明日のエピローグで完結です。
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