「……おかしい」
リッポーがそれに思い及んだのは、推理ゲームの閉幕から五時間ほどが経過してからだった。所長室に一人だ。時計の針は八時半を回っている。
「そうだ、これでは矛盾しているじゃないか」
──なぜやつは期待値が高いと判断できた?
リッポーは書類仕事を放って所長室を飛び出した。あるいは、極上の獲物を前にした
地下、独居房区画。
硬質な靴音を響かせて足早に進み、その通路の最奥、鉄扉の前に立った。
「そろそろ来るころだと思っていた」
鉄扉に
「どうしてわたしに、ほかの囚人たちの推理力があの程度だと、そして協力者が不利な証言をしないと推測できたのか──それを聞きに来たんだろう?」
やはりお見通しだったらしい。
「ジョン、君の計画のボトルネックは、ほかのプレイヤーに先にわたしを犯人だと指摘され、それが正解と判定される可能性、そしてわたしや協力者に君の偽装を見破られる可能性を排除し切れていないことだ」
前者であればまだマシだ。利益がないというだけで不利益もない。しかし、後者は不利益しかない。刑期の増加は誤差としても、念能力の露呈は相当に痛いはずだ。期待値の計算上、無視してよい変数ではない。
だが、
「推理小説の名探偵のように
法廷でも多くを語らなかったジョンの精神構造は、いまだブラックボックスのままだった。ゆえに、おもしろくもあった。
──ふっ。
鼻先で嗤われたような気がした。
「それを教えてわたしに何の得がある?」
「……外に出してやってもいい」
あらかじめ用意していた台詞だった。
「へぇ」
「君の頭脳と念技術は腐らせておくにはあまりにも惜しい。わたしの助手として仕事をする限りにおいて、という条件はつくが、悪い話ではないはずだ」
「そうだな……」
間を取るようにそう言うと、殺人作家はとうとうそれを口にした。
「人を殺すのに理由がいるのか?」
「……は?」
ジョンはくっくっと低く笑った。
「だから動機などないと言っているんだ。殺そうと思ったから殺した。それだけだ」
「……すべての犯罪がそうだったのか?」
裁判記録では取材のためとされていたが……
「そうだ。小説にしたのは、ついでだよ。強いて言えば、有効活用しようとした。今回も同じだ。“密室殺人” という結果が先にあって、減刑はその副次効果にすぎない」
頭が痛い。
が、やはりおもしろいな、とも思う。超高純度の合理性と非合理性が、
と、はたと気づいた。
「わたしが取引を持ちかけることまで読んでいたのか?」
「一意に特定できていたわけではないさ」
ジョンはおどけるように、あるいはからかうようにそう言った。
監獄の
(了)
以上で完結です。ほぼほぼノリで書いたものですが、楽しんでもらえていたなら幸いです。ありがとうございました!