はじめの一歩RTA ブライアンホーク撃破チャート 作:ヨンドゥ
そこまでは修正しながら連続投稿していくんでオナシャス!
さあ、ついにゲーム本編に入っていこうと思います。
……と言いたいところなんですが。
まだ説明パートなんだ。
許してください!なんでもしますから!
このゲーム、いきなりプロボクサーとして始まるわけではございません。
まずはジムに入門し、そこから1年間、練習やスパーリング、遊びなどのイベントをこなしながら主人公を育成していきます。
そして1年が経つと、最初の大きなイベントであるプロテストが発生します。
まずはこれに合格するのが第一関門ですね。ちなみに、プロテストに落ちた場合。
あるいは所属ジムの会長から「お前にはまだプロテストを受けさせられん」と判断された場合。
その時点でゲームオーバーです。一年間育てた主人公が、そのままボクシング人生終了となります。
まあ、普通にプレイしていれば初心者兄貴でもここでゲームオーバーになることはほとんどないんですけどね。
それじゃあ、今度こそゲームスタートです。
お、まずはジム入門イベントですね。ホモくんが鴨川ジムに入って挨拶してます。
そのまま鴨川会長と……面接……なのかこれ? お、選択肢が出てきました。
なになに――
「なんでボクサーになりたいんじゃ?」
ですって。選択肢はいくつかありますね。
「ボクシングが好きだから」は会長の好感度が結構上がるんですが、今回は他を選びましょう。
「金が欲しい」は……会長の好感度が下がるのでNG。
というわけで――
そんなもん世界チャンピオンになりたいからに決まってるだろぉオォン!
「世界チャンピオンになりたい」
それっぽい選択肢を選んでおきます。
……お、ナイスコミュニケーションだったみたいですね。
会長の評価も上がりましたし、無事に鴨川ジムへ入門できたようです。
さて、鴨川ジムに入門できたところで、現在ジムにいるキャラクターを確認しておきましょうか。
鴨川ジムは原作キャラが多いのであまり目立たないシステムなんですが、このゲーム、所属ジムごとにランダム生成でイベント発生キャラが追加されることがあるんですよね。
原作に存在しないトレーナーや練習生が入ってきたり、年代によっては本来そのジムにいないキャラクターが所属していたりします。
この辺も周回するたびに微妙に人間関係が変わるので、結構面白いところです。
さて、今回はどうなってるかな?
ふむふむ。
現在イベントを発生させられるキャラクターは――
「鴨川会長」
「八木さん」
「篠田さん」
「鷹村守」
「宮田パパ」
「宮田くん」
「栗田」
……っと。ランダム生成キャラはいませんね。
よし、とりあえず原作通りみたいです。ちょっと安心です。
まあ、鴨川ジムを選んだ最大の理由である鷹村さんがいれば、ぶっちゃけそれでいいんですけどね。
他のキャラとのイベントは、発生した時に適当に消化していくくらいでいいでしょう。
さて。
この1年間――いや、世界チャンピオンになるまで。
ホモ君にはひたすら鷹村守とスパーリングをして、経験値を稼いでいただきます。
えっ?
そんなことしたらホモ君が死んじゃうって?
でーじょーぶだ。
鉄人がある。
そうです。
何のために特性ガチャで怪我率ダウンを狙ったのか。何のために鴨川ジムを選んだのか。
すべてはこの鷹村守スパーリングのためなんですね。
鷹村さんとのスパーリング、経験値効率がめちゃくちゃうまいんですよ。同時期にできる他の練習と比べても破格です。
…… まあ、その代わり怪我率もクッソ高いんですけどね!
そこは「鉄人」で無理やり踏み倒します。
多少無茶しても怪我しなければ問題ないって、それ一番言われてるから。まあ死ぬかもしれんけど、そしたらそこまでの選手だったということで。
それじゃあイクゾー!
……。
あれ?スパーリング練習の相手に鷹村さんが出てきませんね。おかしいな。
一応、好感度が「知り合い」以上になっていれば選択肢に出てくるはずなんですけど。
このゲーム、キャラによってスパーリングに必要な好感度が違います。
中には好感度をかなり上げないと相手をしてくれない選手もいるんですが、ほとんどの選手はちょっと仲良くなれば普通にスパーしてくれます。
まあ、ボクサーなんて人を殴りたくてしょうがない人種ですからね。しょうがないね。(偏見)
そして鷹村さんは、その象徴と言っても過言ではない選手です。
階級が離れすぎている場合は別として、近い階級の選手なら「知り合い」になった時点でスパーリングを受けてくれるはずなんですが……。
なんで出てこないんでしょうね?
しょうがないので、一回好感度を確認してみましょう。
鴨川会長、普通。
八木さん……高っ!?
なんで八木さんだけこんなに好感度高いんですかね。
宮田くん、低め。
で、肝心の鷹村さんは……。
低っ!?
え、なんで?
まだ何もしてないんですけど。
まあ低いものはしょうがないので、鷹村さんの好感度を上げるために、しばらく同じ練習を踏んでいきましょう。
このゲーム、同じキャラと一緒に練習するだけでも少しずつ好感度が上がっていきます。
何回か一緒に練習すれば、スパーリングできるくらいにはなるはず!
というか、ならなかったらリセです。
さて、今週の鷹村さんはどこかな?
頼むから精神練習だけはやめてくれよな~。
今、体力満タンなんです。
……お!
ロードワークにいますね。よかったよかった。では一緒に練習していきましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
翌週。
今週はサンドバッグですね。
いいゾ~これ。
―――――――― 練習中 ――――――――
……お?
なんかイベントが発生しましたね。
鷹村さんか!?
…………。
いや栗田かーい。
いやー、こいつもいましたね。マロンこと栗田です。
まあ、こいつのことは気にしなくて大丈夫です。気づいたらいなくなってると思いますんで。
今回は栗田の愚痴を聞いて終わりました。
報酬は……経験値が極少。
うーん、カス!
一応こいつは今はマロンですがバロンになってトレーナーに転向するとダーティーというか、反則スレスレの技術を色々教えてくれるようになります。
なので、まあ使えなくはないんですけどね。ただ、現時点では完全にハズレキャラですね。
将来的にトレーナーとして見ても、もっと有能なキャラは山ほどいるので、別に当たりってわけでもないですし。
ということで、栗田は放置。さっさと鷹村さんの好感度を上げていきましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
さーて、一か月間、鷹村さんをホモのごとく追いかけ続けました。
これでスパーできなかったらリセすっぞコラァ!
では、運命の瞬間です……。
スパーリング練習を選択して、対戦相手を確認。
……。よーし!
ちゃんと鷹村さんが選べますね!
ちなみに栗田も選べるようになってます。まあ栗田はいいです。
さあ、こっからが本番ですよ。
今後は鷹村さんが出現しない週を除いて、基本的にひたすらスパーリングを踏んでいきます。
逝きますよーイクイク!
―――――――― 練習中 ――――――――
経験値がうまーーーーーーい!
いや、やっぱりおかしいですよこの経験値量。
これと比べたら、今までの一か月の練習がしょぼく見えてしまいますね。
何のために一月も鷹村さんを追いかけ回したと思ってんだ。
これですよ、これ。まあ、その分体力もクッソ持っていかれるんですけどね。
……次の週もギリギリいけるかな?
普通ならここは休養を挟むところですが……。
まあ鉄人あるし平気でしょ。
ホモくんを信じろ!
ということで、二週連続鷹村スパーです。
―――――――― 練習中 ――――――――
…………。
よーーーーし!
無事に練習完遂!怪我もありませんね。鉄人仕事してるじゃない!
おっ、しかもイベントまで発生しました。
今度こそ鷹村さんとのイベントですね。
なになに……。どうやらホモくんの体を心配してくれてるみたいですね。
……お前、本当に鷹村さんか?
いや、でも初期~中期の鷹村さんって、普段はふざけてるけど締めるところは締める、普通に頼れる兄貴分でしたからね。
途中からジジ専嫉妬ホモと化してた時期がおかしかっただけですね。
さて、選択肢が出ました。
ここは当然――
「これからもスパーリングをお願いします」
的な選択肢を選びます。
せっかく鷹村さんが「無茶すんなよ」って心配してくれてるのに、その返事が大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキなのはいんですかね。
まあ、私が選んでるんですけどね。こっちは鷹村さんとスパーするために鴨川ジムへ来てるんでね。
というか、ここでスパー断られたらチャート崩壊からのリセットなので……。
頼むよ~。
お、さらに追加でイベントが発生しましたね。
なになに……。
今度は宮田きゅんかぁ。
一応、原作未読兄貴のために簡単に説明しておきますと、宮田一郎くんは原作主人公のライバル枠を務めるイケメンボクサーです。
カウンターの名手で、ゲームでもカウンター型やテクニック重視の選手を育成する場合は、宮田パパともども大変お世話になる非常に有用なキャラクターですね。
まあ、一歩との試合をいきなりブッチするクズなんですけど。
『はじめの一歩』がグダグダになり始めた戦犯の一人と言っても過言ではありません。(過激派)
あと原作主人公(ホモ)にケツを狙われていますが、本人も満更でもなさそうな人です。
……余談でした。
イベントに戻りましょう。
お、なになに?
「俺ともスパーしろ」って?
いやいや。
さすがに中学生相手にやるわけにはいかないだろ。(迫真)
というか、何階級分の体格差があると思ってるんですかね。こっちはジュニアミドル級の体格ですよ?
宮田くんなんて原作開始後ですらフェザー級なのに、今はまだ中学生ですからね。
体重差考えろオラァン!
……あれ?
ホモくん、普通にやる気になってリングに上がってますね。まあいいか。やったれやったれ!
中坊に社会の厳しさを教えてやりなさい。まあ、ホモくんもまだ高校生の年齢なんですけどね。
―――――――― スパーリング開始 ――――――――
練習ではなく、イベントなので試合形式でスパーを見れますね。
……お互い最初は手を出しませんね。
宮田君はカウンター狙いでしょうか。
あ、そういえば言い忘れていましたが、このゲーム、ボクシングの試合は自分で操作することもできますが、今回は基本的にオートで戦っていきます。
全部自操作してたらテンポも悪いですし、前に走った時は自操作でクリアしましたからね。
それに自操作だと、極端な話、主人公の能力が多少低くてもプレイヤーの腕でどうにかなっちゃうんですよ。
せっかく育成ゲームやってるんだから、育てたホモ君自身に戦ってもらいましょう。
……お。
ホモ君が仕掛けましたね。
あっ。あちゃ~。
しっかりカウンター合わせられました。さすが宮田君ですね。
これは宮田君が強いのもあるんですが、まだホモ君自身の能力が低いのでしょうがないです。
ただ、さすがにこの体格差。まともにカウンターを食らったのに、ほとんど効いてませんね。
……あっ。
ホモ君が前に出た。
そして――
ショットガン炸裂!
あっ。宮田君ダウン。
…………。
試合止められちゃった。
まあ、そりゃ止めるわ。ということで勝利です!お、経験値が結構うまいですね。
しかも「カウンターのコツ」まで貰えました。
今回のビルドでは別に必要ないんですが、こういうのは持ってて困るものでもありません。
いつか使うことがあるかもしれませんし、ないよりはあった方がいいでしょう。
……あ。ホモ君、会長に説教されてますね。
そりゃそうだ。
中学生相手にショットガンぶち込んでダウンさせたら怒られるに決まってるだろ。
頼むから会長の好感度だけは下げないでくれよな~。
プロテスト受けさせてもらえなくなったら洒落にならないんで。
説教が終わったと思ったら、今度は宮田パパが来ましたね。
どうやら自分の息子からスパーを吹っ掛けたことについて謝ってくれているみたいです。
そしてお詫びということで、今後は宮田パパが空いている時に頼めば練習を見てもらえるようになりました。
なるほど。
つまり宮田パパを宮田君から
…………。
非常に興味深い。
非常に興味深いですが、今回のチャートでは必要ないのでスルーします。
あ、原作未読兄貴のために宮田パパについても説明しておきましょうか。
宮田君の父親にして、元プロボクサーで東洋太平洋チャンピオンにまでなった実力者です。
現役時代に防衛戦にて敗北して引退。
その後アル中になり、奥さんに愛想を尽かされて出ていかれ、酒に酔って息子を殴ったこともある男です。
……。クズじゃないか。(真実)
いやまあ、ちゃんと息子思いのいい父親なんですけどね。
説明する部分を恣意的に抜き出すと、とんでもない奴にしか見えませんね。
とまあ、今回はこんなところでしょうか。
鷹村さんとのスパーリングも解禁できましたし、予定外ではありますが宮田パパの練習も解禁できました。
鷹村さんとのスパーリングが解放されてなかっときはどうなるかと思いましたが育成としてはかなり順調ですね。
まだプロテストすら受けてないんですけど。
ということで、今回はここまで。次回も引き続きプロテストまでの育成を進めていきたいと思います。
それではまた次回。おつかれナス!
Side:鴨川源二
「本郷猛火、十六歳です。よろしくお願いします」
そう言って、目の前の青年は深々と頭を下げた。鴨川源二は、その姿を黙って眺めていた。
身体は悪くない。ジュニアミドル級――鍛えれば、その辺りが適正になるだろう。
物腰は柔らかく、受け答えにも妙なところはない。
八木ちゃんの話では、随分と裕福な家の生まれらしい。
『会長、この子、有名な会社の息子さんらしいですよ。プロボクサーを目指してるそうです。ジムの経営のためにも、絶対に入れてください!』
などと、妙に熱心に勧めてきおった。
まったく、あやつは……。
だが、そんなものはボクシングには関係ない。
金持ちの息子だろうが、貧乏人の息子だろうが、リングに上がれば同じボクサーじゃ。
見込みがあるなら鍛える。ないのなら、きっぱりと断る。
向いていない者を続けさせ、身体を壊させるくらいなら、最初に諦めさせてやるのも本人のためだ。
「それで、おぬし」
「はい」
「なぜ、ボクサーになりたいんじゃ?」
入門希望者に聞くには、ごく普通の質問だった。
強くなりたい。喧嘩に勝ちたい。憧れの選手がいる。女にモテたい。
理由など何でもいい。
長年この世界にいるが、ボクシングを始める理由なんぞ人それぞれだ。
だから鴨川も、特別な答えを期待していたわけではない。
青年は少しだけ考えてから、口を開いた。
「世界チャンピオンにならなきゃいけないんです」
「…………」
鴨川は黙った。
世界チャンピオン。まだボクサーですらない十六の若造が口にするには、あまりにも遠い言葉だった。
「……なりたい、ではなく?」
「はい」
猛火は、さも当然のことのように頷いた。
「ならなきゃいけないんです」
「なぜじゃ?」
「……?」
今度は猛火が不思議そうな顔をした。まるで、なぜそんなことを聞かれるのか、本当に分からないとでもいうように。
「世界チャンピオンになるために、ボクサーになるんですから」
「…………」
答えになっとらん。鴨川は眉間に皺を寄せた。
大言壮語を吐く若者なら、これまでにもいくらでも見てきた。自分は世界を獲る。絶対にチャンピオンになってやる。
そう息巻いて入門してきた若者が、練習の辛さに耐えきれず、一月もせずに姿を消すことだって珍しくない。
だが――こやつは、少し違う。夢を語っているようには見えなかった。
自分なら世界一になれると、己惚れているようにも見えない。ただ、世界チャンピオンになることが最初から決まっている。
そんな話し方だった。鴨川は改めて、目の前の青年を見た。
穏やかな顔でこちらを見返している。ふざけている様子はない。
ならば――。
「……よかろう」
今の時点で、これ以上考えても仕方あるまい。本気かどうかなど、口ではいくらでも言える。拳を握らせ、走らせ、殴らせれば嫌でも分かる。
「明日から来い」
「はい。ありがとうございます」
猛火は嬉しそうに頭を下げた。その姿だけを見れば、どこにでもいる礼儀正しい少年だった。
だからこの時の鴨川は、まだ知らなかった。
自分が今、少々――いや、かなり妙な男をジムに入れてしまったことを。
Side:鷹村守
「そういや、新しい奴が入ったんだって?」
ジムへ顔を出した鷹村守は、バンテージを巻きながら何気なく尋ねた。
「ああ、そうそう!」
答えたのは八木だった。
「十六歳で、鷹村君と階級も近いんだよ!」
「へぇ?」
鷹村は口元を吊り上げた。
「なら、俺様が一発もんでやるか」
その一言に、八木は慌てて首を横に振る。
「ダメダメダメ!」
「なんだよ」
「彼は、この貧乏ジムにとって救世主になるかもしれないんだから!」
「……救世主?」
「実家が本郷ホールディングスなんだよ!」
「は?」
「超お金持ち! だから鷹村君とスパーなんかして、ボクシングを辞められたら困るんだよ!」
「…………」
鷹村は露骨に顔をしかめた。
「なんだよ。金持ちのボンボンが、道楽気分でボクシングを始めたってことか」
「そんな決めつけはよくないよ!」
「だって、そうだろ」
鷹村は鼻で笑った。
「金持ちの坊ちゃんか。なら、最初の一発で泣いて帰るんじゃねぇの? ボクシングってのは、テレビで見るよりずっと痛ぇぞ」
「だからダメだって!」
八木は慌てて両手を振る。
「会長だって、まずは様子を見ろって言ったんだよ。会長がダメだと思ったら、最初から追い返してるはずだし……鷹村君といきなりスパーなんかして、辞められたら困るんだから」
「あのジジイがか?」
「そうだよ」
鷹村は鼻を鳴らした。
「……ちっ。まあ、あのジジイが認めたんならしょうがねえ。好きにやらせりゃいい。残るか消えるかは、そのうち分かるしな」
そう言って、軽く肩を回す。
「じゃあ、スパーは栗田とやるか」
鷹村はそのまま、リングへ向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
最初に違和感を覚えたのは、ロードワークだった。河川敷を走る鷹村の少し後ろを、一人の少年が黙々と追いかけてくる。
本郷猛火。数日前に入門してきたばかりの新人だった。
(……なんだ、あいつ)
たまたまコースが同じなのかと思った。新人なら、会長に同じコースを走らされることもある。
最初は気にも留めなかった。だが、翌日も。その翌日も。
振り返れば、少し離れた場所に本郷の姿がある。
(偶然……じゃねぇよな)
鷹村は眉をひそめた。特に話しかけてくるわけでもない。追い抜こうとするわけでもない。ただ黙って、自分の後ろを走っている。
(なんなんだ、こいつ)
さらに数日後。ロードワークを終えた鷹村がサンドバッグへ向かうと、少し遅れて本郷も隣のバッグへやって来た。
ダンッ。
ダンッ。
リズムよく拳を打ち込む音が響く。その横で、本郷も黙々と拳を振るっていた。
(またかよ)
思わず横目で見る。フォームはまだ拙い。それでも、一発一発を真面目に打ち込んでいる。
(……栗田なんか、ロードワークだけで倒れてるのによ)
今まさにジムの隅でぶっ倒れている栗田の姿が、頭をよぎる。
走れば「もう無理です」。打てば「腕が上がりません」。
新人なんて、大抵そんなものだ。
だが、この本郷という男は違った。毎日いる。気付けば、いつも近くにいる。
(なんだ、この距離感)
偶然とは思えない。かといって、話しかけてくるわけでもない。用事があるようにも見えない。ただ、練習メニューがことごとく被る。
(……もしかして)
鷹村の頭に、一つの嫌な考えが浮かんだ。
(こいつ……)
(俺に気があるのか?)
いや、ないない。そう思って、首を振る。
だが翌日も。さらに翌日も。本郷は当たり前のように鷹村の後ろを走り、隣でサンドバッグを叩いていた。
(……いや、やっぱホモなんじゃねぇか、こいつ)
◇ ◇ ◇
結局、一月がたった。
ロードワーク。
サンドバッグ。
練習内容こそ違うものの、本郷は毎日のように鷹村と同じメニューを選び続けた。
最初は偶然だと思った。二回目は気のせいだと思った。三回目には、またかと呆れた。そして一か月が過ぎた今。
(……こいつ、絶対俺について来てるよな)
鷹村は確信していた。最初は気に食わなかった。金持ちの坊ちゃん。どうせ、すぐに辞める。そう思っていた。
だが、不思議と練習だけは一度も休まない。走れば最後までついてくる。サンドバッグも、黙々と叩き続ける。音を上げる様子もない。
(……今まで俺の練習に、一月もついてきた奴なんていなかったぞ)
鷹村は小さく息を吐き、横目で栗田を見る。当の栗田は、鼻歌交じりにシャドーボクシングをしている。
(あいつなんか、自分のメニューだけで精一杯だってのに)
その視線を、本郷へ戻した。
(まあ、根性だけはあるみてぇだな)
そう思ったところで、本郷が近付いてきた。
「鷹村さん」
「あ?」
「スパーリング、お願いできますか」
「…………」
来た。一か月も同じ練習を続けた理由は、やはりこれだったらしい。鷹村は肩を鳴らした。
「いいけどよ。怪我しても知らねぇぞ」
その瞬間だった。
「お、おい……猛火」
横から栗田が慌てて本郷の腕を引っ張る。いつの間にか、栗田は本郷のことを名字ではなく、下の名前で呼ぶようになっていた。
栗田は鷹村に聞こえないよう、小声で囁く。
「やめとけって……。あいつ、本物の化け物なんだぞ」
「…………」
「下手したら死ぬぞ」
二人でこそこそと何か話している。
鷹村には内容までは聞き取れなかったが、どうやら栗田は本郷を止めているらしい。
(何こそこそやってんだ、あいつら)
少し呆れたように息を吐く。
だが、本郷は栗田の制止にも首を横に振ると、そのまま迷いなくリングへ上がっていった。
◇ ◇ ◇
鷹村はリング中央へ歩く。
「好きに打ってこい」
軽く左手を振る。相手は新人だ。まずは力量を見る。本郷は小さく頷くと、一歩踏み込んだ。
右。
左。
ワンツー。
(……なるほど)
鷹村は難なく捌く。
ブロック。
スウェー。
バックステップ。
まともに拳を受けることすらない。
(練習見て分かってたが、やっぱりファイター型か)
拳は重い。だが、まだまだ粗い。だからこそ、教える。
「いいか」
ジャブ。
「こうだ」
ストレート。
「こう繋げる」
ワンツー。
新人教育のつもりだった。もちろん、手加減はしている。それでも鷹村の拳だ。ヘッドギア越しとはいえ、本郷の身体が大きく揺れる。
(……ほぉ。よく耐える)
普通なら、この辺で心が折れる。だが、本郷は下がらない。
むしろ、一歩。
また一歩。
距離を詰めてきた。
(まだ来るのか)
鷹村は自然と口元を吊り上げた。
(面白ぇ)
その瞬間だった。本郷の肩が跳ねる。
(……!?)
拳が止まらない。一瞬で、視界が拳に埋め尽くされた。
(なんだ、この連打!?)
慌てて腕を上げる。
だが、二発。
三発。
四発。
ブロックの隙間を縫うように、拳が突き刺さる。
(チッ!)
思わず一歩下がる。それでも、拳は止まらない。
(なんだそりゃあ!?)
「この野郎ッ!」
思わず声が漏れた。鷹村の拳が唸る。
新人相手に見せるような速度でも、重さでもなかった。
ドゴッ――!
鈍い音が、ジムに響いた。
本郷の身体が宙を浮き、そのままキャンバスへ叩きつけられる。
「……!」
(しまった!)
鷹村は我に返った。完全に熱くなっていた。
見たこともない連打に意識を持っていかれ、反射的に本気の拳を返してしまったのだ。
「お、おい!」
慌てて駆け寄る。周囲も異変に気付いたのか、いつの間にか練習の手を止め、リングへ視線を向けていた。
「やりすぎじゃ……」
「相手、まだ新人だろ」
そんな声が耳に入る。
(クソ……やっちまった)
鷹村が手を伸ばそうとした、その時だった。本郷の指先が動く。ゆっくりと。本当にゆっくりと、身体を起こし始めた。
「おい、無理すんな!」
鷹村の制止など聞こえていない。本郷は膝をつき、ふらつきながらも立ち上がる。その目だけは、まだ鷹村を真っ直ぐ見据えていた。
「…………」
鷹村は思わず息を呑んだ。足元はふらついている。肩で息をしている。
それでも、その目だけは少しも死んでいなかった。まるで――まだできます、と。そう語りかけてくるような目だった。
鷹村は思わず構えを解いた。今の一撃で終わりだと思っていた。普通なら、立ったとしても続けようとはしない。だが、目の前の少年は違った。
(まだやる気かよ……)
その時だった。
「やめい!」
ジム中に怒号が響く。鴨川会長だった。会長は素早くリングへ上がると、本郷の前へ立った。
何かを話している。本郷も、何かを返している。距離があるせいで、会話の内容までは聞こえない。
ただ、本郷の表情を見る限りでは――。
(……まだ続けさせてくれって言ってるのか?)
そんな風に見えた。会長は何度か首を横に振る。本郷は黙ってその話を聞いていた。
やがて、小さく頭を下げる。そして鷹村へ一礼すると、静かにリングを降りていった。
鷹村は、その背中を黙って見送った。新人が、鷹村を相手に立ち上がった。それだけでも十分異常だった。
なのに。最後まで諦めきれないような、あの目。あれだけは、どうにも頭から離れなかった。
「熱くなりすぎじゃ、馬鹿タレ」
リングを降りた鷹村へ、鴨川が渋い顔を向ける。
「……悪ぃ」
鷹村は頭をかいた。
「あいつが変なパンチ打ちやがるから、ついな」
「あれか……」
鴨川はリングを見つめた。
「凄まじい連打じゃったな。あの数秒で何発打ったのやら、ワシでも数え切れんかった」
「さしずめ……ショットガンとでも呼びたくなる拳じゃ」
「ああ」
鷹村も頷いた。
「しかも、一発一発が軽くねぇ。ただ数だけで押す連打じゃない」
「全部、ちゃんと力が乗ってやがった。ありゃあ普通じゃねぇよ」
鷹村は眉をひそめる。
「本当にあいつ、素人だったのか?」
鴨川は静かに首を横へ振った。
「あんな拳、ワシは教えとらん。入門して、まだ一月じゃぞ」
「教えたのは、基本のジャブ、ストレート、ワンツーぐらいのもんじゃ」
「じゃあ、何なんだよ」
「……たまにおるんじゃ」
鴨川は、遠くを見るような目をした。
「生まれつき、自分だけの拳を持っとる者がな」
「誰に教わるでもなく、自分に一番合った拳を自然と振るう」
鴨川の視線が、リングを降りた本郷の背中へ向く。
「あやつも、その類なんじゃろう」
◇ ◇ ◇
(……さすがに今日は来ねぇだろ)
鷹村は、そう思っていた。前回は完全にやりすぎた。
ヘッドギアがあったとはいえ、自分の拳をまともにもらって立ってきた奴など見たことがない。
普通なら、何日か休む。少なくとも、もう一度スパーを申し込んでくることはない。
そう思っていた。
「鷹村さん」
「……あ?」
振り向く。そこには、いつも通りの本郷猛火が立っていた。
「今日もスパーリング、お願いできますか」
「…………」
(マジかよ)
鷹村は思わず額を押さえた。結局、その日もリングへ上がることになった。
前回のようなことは繰り返さない。本郷の攻撃を丁寧にいなし、隙を見て拳を入れる。
あの連打も、出す前に止める。倒さない程度に。だが、痛みだけは身体に覚えさせる。そんなスパーだった。終了のゴングが鳴る。
本郷は肩で息をしながらも、自分の足でリングを降りた。
「おい」
鷹村は本郷を呼び止めた。
「体は大丈夫かよ」
本郷は一瞬だけ、きょとんとした顔を見せる。
「はい。大丈夫です」
そして迷いなく続けた。
「またスパーをお願いします」
「…………」
鷹村はしばらく黙っていた。やがて、ふっと笑う。
「お前さ。なんで、そんなに俺とスパーしてぇんだよ」
本郷は少しも迷わなかった。
「強くなれるからです」
短い返事だった。だが、それだけでは終わらない。
「鷹村さんとスパーするのが、世界チャンピオンへの一番の近道なんです」
「…………」
鷹村は思わず目を丸くした。冗談ではない。目の前の少年は、本気でそう信じている。
(……なんなんだ、こいつ)
しばらく本郷を見つめていた鷹村は、小さく息を吐いた。
「……まあ、お前がそれでいいんなら、付き合ってやるよ」
その言葉に、本郷は嬉しそうに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
Side:宮田一郎
ジムの隅で、宮田一郎は黙々とシャドーボクシングを続けていた。父は会長に呼ばれ、会長室へ向かっている。
今なら、自由に動ける。宮田は、ある方向へ視線を向けた。そこでは、鷹村守がサンドバッグを叩いている。
(……やっぱり凄えな)
癪ではある。普段の素行は最悪。人として尊敬できる相手では、決してない。
それでも、ボクサーとしての強さだけは本物だった。
今の鴨川ジムで、宮田が純粋に強さを認めている相手は鷹村しかいない。その鷹村が、ここ最近、一人の新人と何度もスパーを繰り返していた。
本郷猛火。一月前に入門してきたばかりの新人。
宮田は、その存在が気になっていた。
鷹村と何度もスパーをしている。今までなら、一度や二度で心が折れ、辞めていく新人ばかりだった。それなのに、あの本郷は違う。
(俺は、やりたくても断られるけどね)
宮田は苦笑した。実際、一度頼んだことがある。
『ガキとスパーなんかできるかよ』
そう言われて終わりだった。ならば。あの新人に頼むしかない。
宮田は父の姿を確認する。まだ戻ってきていない。今なら止められない。そう判断すると、本郷のもとへ歩み寄った。
「本郷さん……で合ってるよな」
本郷が振り返る。
「俺とも、スパーしてくれよ」
断られるかと思っていた。だが、本郷は少しも迷わず頷いた。
◇ ◇ ◇
リング中央。互いに構える。
野次馬の一人が、ゴングを鳴らした。
宮田はすぐには動かない。
相手の癖。
踏み込み。
距離。
そのすべてを見極めて、カウンターを合わせる。それが、宮田一郎のボクシングだった。
先に動いたのは、本郷だった。
大振りの右。
(来た!)
宮田は鋭い左を合わせる。
カウンター。
拳が綺麗に突き刺さった。
(よし)
手応えは完璧だった。
会心のカウンター。
タイミングも、角度も申し分ない。
だが――。
「……っ」
本郷は止まらない。僅かによろけただけで、何事もなかったかのように前へ出てくる。
(効いてない?)
宮田の表情が曇る。
(いや……効いてはいる)
(でも、止まらない)
その瞬間だった。本郷の肩が揺れる。
(来る!)
宮田の脳裏に、数日前のスパーがよみがえった。鷹村を驚かせた、あの連打。
(その技は見ている。避けられる!)
そう思った。だが、現実は違った。
右。
左。
右。
左。
あまりにも速い。見えている。それなのに、すべては避けられない。
「くっ……!」
苦し紛れに上げたガードの隙間を、拳が突き抜ける。
一発。
二発。
三発。
連打が止まらない。
最後の一撃で身体が浮き、そのまま宮田はキャンバスへ倒れ込んだ。
(鷹村さんがスパーし続ける理由が分かったぜ)
悔しかった。だが、認めるしかない。この男の拳は重い。階級差だけでは説明がつかない。
一発一発に、恐ろしいほどの威力が乗っている。
(まだだ)
宮田は歯を食いしばった。こんなところで終われるか。
両腕に力を込め、ゆっくりと身体を起こそうとした、その時だった。
「一郎!」
聞き慣れた声が、ジム中に響く。
「何をやってるんだ!」
父だった。会長室から戻ってきたのだろう。リングへ駆け寄ってくる姿が見える。
(あーあ……タイムオーバーか)
宮田は心の中で苦笑した。立ち上がりたかった。
まだ終わりたくなかった。このままでは、負けたままだ。
(でも……)
本郷はまだジムにいる。
(次は絶対に負けない)
そう心に決めると、宮田は大人しく父に肩を貸された。
「……ごめん」
珍しく、素直に頭を下げる。父からの説教は、しばらく続いた。
「聞いているのか、一郎!」
「……うん」
返事だけはする。だが、宮田の頭の中は、まるで別のことを考えていた。
本郷猛火。
あの異様な連打。見えていた。なのに、避けきれなかった。
(タイミングが悪かったのか)
(いや、距離か)
(最初の一発を外させれば……)
(いや、それでも全部は避けられない)
気付けば、頭の中で何度も本郷とのスパーを繰り返していた。
「あの連打から、カウンターを合わせるには……」
思わず、小さく呟く。父はすでにリングへ上がり、本郷と何かを話している。
(次は勝たせてもらうぜ……本郷さんよ)
宮田一郎の頭の中にあったのは、父の説教でも、敗北の悔しさでもなかった。
ただ一つ。あの男を、どう攻略するか。そのことだけを考えていた。