はじめの一歩RTA ブライアンホーク撃破チャート 作:ヨンドゥ
さーて、本日もやっていきましょう。まずは前回までのおさらいです。
ホモ君、鴨川ジムへ入門。
ホモ君、鷹村さんのストーカーになる。
ホモ君、宮田君からパパを寝取る。
以上、三本立てでした。
……ん?違うって?
うるせぇ!
実際は、鷹村さんにボコられて、宮田君をボコって終わりでしたね。
では、その続きからやっていきましょう。とはいえ、この辺りはまだ仕込み期間です。イベントが発生しない限り、やることは単純。
ひたすらスパー。スパー相手がいなければ練習。そして、またスパー。
ボクシングって、意外と地味な競技なんですね。(暴論)
まあ、この地味な積み重ねが後々効いてくるので、チャート通り淡々と進めていきます。
―――――――― 練習中 ――――――――
おっ。宮田くんが、一緒に練習しようと誘ってきましたね。こいつ誘ってやがるぜ。
せっかく誘ってくれてるんだし、一緒に練習するのは当たり前だよなぁ?
宮田くんはツンデレなので、なかなか好感度が上がりにくいキャラなんですが……今回は上がり方がいいですねぇ。
これが『人たらし』の効果でしょうか。さてさて、成果は……。経験値と『距離感』のスキルを習得しました。
『距離感』は、相手との間合い管理が上手くなるスキルですね。アウトボクサーならもちろん、インファイターでも腐ることのない汎用スキルです。
やったぜ。
次週は、さすがに休みましょう。ちょうど鷹村さんもいませんし。
本当は体力回復イベントでも引ければ最高だったんですが、そこは乱数なので仕方ありません。
―――――――― 休み中 ――――――――
では、また練習していきましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
お、会長と八木さんからイベントですね。なになに「ジムには慣れたか」ですって。選択肢がいろいろありますね。
「皆さんのおかげです」
「まだ慣れません」
「もっと厳しくしてください」
……みたいな感じですね。今回は、会長の好感度が上がる選択肢を選んでおけば問題ありません。
ということで――「もっと厳しくしてください」一択です。
このゲーム、会長の好感度はプロテストを受けられるかどうかに関わるだけではありません。
好感度が高いほど、特訓イベントや技習得イベントも発生しやすくなるので、そういう意味でも序盤からしっかり稼いでおきたいところです。
お、好感度アップ。経験値もちょっと貰えましたね。
やったぜ。
―――――――― 練習中 ――――――――
さーて。ジムに入門して、早くも三か月が経ちました。ここで一度、ホモ君の能力を確認してみましょう。
ふむふむ。スパーリング中心の育成なので、能力は全体的にバランスよく伸びていますね。とはいえ、育成方針はパワー型。
初期に能力を振ったおかげで、やっぱりパワーが頭一つ抜けています。いい感じですね。スキルは、『富豪』『鉄人』『人たらし』『鈍感』『距離感』新しく増えたのは『距離感』くらいですね。
まあ、この時期は無理にスキルを集める必要はありません。本格的にスキル構成を整えるのは、プロになって世界ランクを狙い始めてからで十分です。今は、とにかく能力値を伸ばすことを優先します。
……おっと。技では『カウンター』も覚えていますね。これは宮田くんとの練習イベントのおかげです。
インファイター育成なので使用頻度は低いですが、あって困るものでもありません。
さて、次は交流関係を見てみましょう。
お~。さすが『人たらし』。この時期としては見たことがないくらい、全体的に好感度が高いですね。特に鷹村さんと栗田。この二人はかなり伸びています。
宮田くんも、本来なら好感度が上がりにくいキャラなんですが、今回は順調ですね。そして肝心の会長。こちらも、まずまず。これならプロテストを受けさせてもらえない、なんて事故はまず起きないでしょう。
チャートも今のところ順調そのものですね。さて、ここから一か月は夏合宿です。夏合宿は、通常より練習効率が大幅に上がる稼ぎ期間ですね。
合宿先には海と山のパターンがあるんですが、今回は海です。能力値を伸ばすなら、このイベントは絶対に外せません。
今回の参加メンバーは、『鷹村さん』『栗田』『会長』それと、モブが何人か。
残念ながら宮田くんは留守番です。まあ、まだ中学生ですからね。この時期にプロやプロ志望組と同じメニューをやらせたら、普通に死にます。
◇ ◇ ◇
それじゃあ、夏合宿スタートです。いきなり練習に会長がいますね。これは当たりです。
会長がいる練習を選ぶと、地獄の特訓を受ける代わりに、通常より多くの経験値を獲得できます。
もちろん今回のチャートでは、できるだけ全部踏みたいところなんですが……体力が持ちません。
理想は、地獄の練習を三回。残り一回は、精神練習か休養で体力を回復する形ですね。
まあ、たまに合宿中でも体力回復イベントを引けることがあるので、その場合は四回すべて地獄の練習を踏めます。完全に上振れですが。
さて、一週目。砂浜ダッシュに会長と栗田がいますね。迷う理由はありません。これを選んでいきます。
―――――――― 練習中 ――――――――
おほ~、いい経験値だぁ~。(恍惚)
やっぱり合宿は最高ですね。
砂浜ダッシュは、脚力とスタミナが大きく伸びるので、インファイター育成との相性も抜群です。
原作の一歩や千堂みたいに、一瞬で相手の懐へ飛び込める脚を作っていきたいですね。パワーだけあっても、当てられなきゃ意味ないですから。
『縮地』や『踏み込み』みたいな、距離を一気に詰めるスキルを覚えられると理想ですね。
逆にアウトボクサー育成なら、『神速』や『韋駄天』なんかを覚える可能性があります。
同じ砂浜ダッシュでも、育成方針や能力値次第で狙えるスキルが変わる。
この辺りも、育成ゲームとして面白いところですね。お、イベントも発生しました。
……お相手は栗田です。まあ、一緒に練習していますしね。しかし、栗田イベントも何度も踏んでいるせいか、ちょっと愛着が湧いてきました。
まあ、こいつ途中でいなくなるんですけど。
なになに。
「プロになれるか不安だ」
「俺には才能がない」
……そんな相談ですね。いや、プロにはなれるだろ。何故言い切れるかって?
そりゃ、プロになった栗田が出てくる動画を見たことがあるからですね。
まあ、その時は対戦相手として出てきて、一ラウンドでボコボコにされてましたけどね。
プロになれることだけは間違いないので、安心してください。
将来活躍できるかどうかは……ナオキです。
というわけで、ここは素直に「プロになれる」と励ましておきましょう。『人たらし』もありますし、好感度を上げて損はありません。
お、好感度アップ。栗田くん!君ならきっとプロになれるぞ!ワイは未来を知ってるからな!
さて、夏合宿二週目です。今回は会長と鷹村さんが同じトレーニングにいますね。なら、この二人がいるシャドーボクシングを選んでいきましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
おほ~。やっぱり会長付きは経験値がうまい。……ん?
しかも、鷹村さんとのイベントが発生しましたね。なになに……。
え!?海にナンパに行こうって?バカ野郎!ホモ君はホモだぞ!
……あ。断れずに、結局ついていくみたいですね。まあ、合宿イベントですし、たまにはこういう息抜きも必要でしょう。
さて、海にやって来ました。さっそく鷹村さんが女の子を見つけたみたいですね。
「おい本郷、右の子と左の子、どっちが好みだ?」
お、選択肢です。ここはもちろん――
「うーん、やっぱり僕は王道を征く、その奥にいる色黒サーファー系ですかね……この辺がセクシー……エロいッ!」
を選びましょう。
……まあ、そんな選択肢はないんですが。
しょうがないので、「興味ないね」を選んでおきます。
結局声を掛けに行くみたいですね。選択肢の意味とは?果たして成功するんですかねぇ……。
おっと。まずはホモ君が、無理やり話しかけに行かされました。
かわいそう。
……ん?なんか普通に盛り上がっていますね。
さすが『人たらし』。こういうイベントでも、しっかり仕事してくれます。女の子たちも楽しそうに笑っていますね。
これ、普通に成功するんじゃ――。
あっ。鷹村さんが合流しました。…………女の子たち、帰っちゃった。
なんで?
ホモ君が鷹村さんに八つ当たりされていますね。
「てめぇ一人で何いい思いしてやがる!」みたいな感じでしょうか。そのまま砂浜を、全力疾走で追いかけ回されています。
……おっ!かなりの経験値が入っていますね。
ナンパしに来たはずなのに、最終的にダッシュトレーニングになってて草。
まあ、経験値が貰えたならなんでもいいでしょう。結果オーライです。
さて、夏合宿三週目。残念ながら、体力回復イベントは引けませんでした。
さすがにこの体力で地獄の練習を踏むのは怖いので、ここは精神練習でお茶を濁しましょう。
残念ながら、精神練習にはモブキャラしかいませんね。まあ、しょうがないです。
―――――――― 練習中 ――――――――
特にイベントもなし。平和!
では、夏合宿最後の四週目です。
おっ会長、鷹村さん、栗田が実戦練習に揃っていますね。これはもう、ここを選ぶしかないでしょう。
地獄の実戦練習、イクゾー!
―――――――― 練習中 ――――――――
うまい!ホモ君がボコボコにされるたびに、経験値が増えていく。
殴られて強くなるとか、サイヤ人か何か?
お、さらに会長との会話イベントも発生しましたね。
なになに……。「おぬしはパンチのバリエーションが少なすぎる」だそうです。
確かに今のホモ君、基本のジャブとストレート、それにショットガンくらいしか、まともな攻撃手段がありませんからね。
というわけで、会長直々にアッパーを教えてもらえるみたいです。
―――――――― 特訓中 ――――――――
『アッパーのコツ』ゲット!
いいですねぇ。まだまだ先の話になりますが、今考えている最終形では、かなり多彩なパンチを覚えてもらう予定です。
なので、こういうパンチ習得系のイベントはいくら踏んでも困りません。むしろ旨味です。
◇ ◇ ◇
さあ、夏合宿も終わりましたので、普段の練習に戻っていきましょう。
つまり……そうです。鷹村さんとスパーです。
ここからしばらくは代わり映えのしない練習が続くので、体力管理だけ気を付けながら、巻きで進めていきましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
―――――――― 練習中 ――――――――
―――――――― 休み中 ――――――――
―――――――― 練習中 ――――――――
お、イベント発生。会長から『フックのコツ』を教えてもらいました。これで、アッパーに続いてフックも習得ですね。
うん、おいしい。
―――――――― 練習中 ――――――――
―――――――― 練習中 ――――――――
―――――――― 休み中 ――――――――
いやー、本当に代わり映えしませんね。気が付けば、十二月まで来ました。
プロテストまで残り三か月。まあ、だからといってやることは変わらないんですがね。
―――――――― 練習中 ――――――――
―――――――― 練習中 ――――――――
◇ ◇ ◇
新年を迎えました。というわけで、初詣イベントです。神社でお参りですね。初詣では、願い事を一つ選ぶことができます。
「つよくなりたい」
「かのじょが欲しい」
「健康にすごしたい」
選択肢はこの三つ。今回はもちろん、「つよくなりたい」を選んでいきましょう。というか、彼女以外ならどっちでもいいです。
では、お参りして――。
【その願い、聞き届けよう】
【天才として覚醒した】
ん?
ん?
んんんんんんん?
ファーwwwwwwwwwwwwwww
ちょ、待って!?
まさかここで引いたんか!?
1/100で発生する天才覚醒イベントを引いてしまいました。
全能力、微上昇!さらにスキル『センス〇』獲得です!
いやー、これはデカい。
『センス〇』は、獲得経験値に微上昇補正がかかるほか、各種スキルの習得率も上昇します。
そして、何よりヤバいのが技の習得補正。自分が実際に試合をした相手はもちろん、試合観戦した選手の技まで、低確率で習得できるようになります。
要するに、『写輪眼』とか『見稽古』みたいなもんですね。もちろん、一度見ただけで何でもかんでも覚えられるわけではありません。
本人の能力値や、技ごとの習得条件を満たしている必要はあります。それでも、十分ぶっ壊れです。
いやー、世界チャンピオンが一気に近づいてきましたね。
最高の引きをしたところで、今回はここまでです。次回は、いよいよプロテストまで行けそうですね。
Side:栗田
正直に言えば、猛火が入ってきてくれて助かった。いや、本当に。
あの悪魔――鷹村守の相手を、これ以上俺一人でやらされ続けていたら、身体が先に壊れていたと思う。
ロードワークでは置いていかれる。スパーではボコボコにされる。少しでも気を抜けば、会長から怒鳴られる。
毎日毎日、よく続けてるよなと自分でも思う。だから、新しく猛火が入ってきた時は少し期待した。
同年代。それも、俺や鷹村と階級が近い。これで少しは、あいつの相手を押し付けられる。
そう思っていた。……実際、その通りになった。
猛火は毎日のように鷹村について回るようになった。ロードワーク。サンドバッグ。そして、スパーリング。
最初は物好きな奴だと思った。いや、今でも思っている。だって、あの鷹村だぞ?
一発もらうだけでも嫌なのに、自分からスパーを頼みに行く。しかも、何度ぶっ飛ばされても、また次の日にはリングへ上がる。
正直、理解できない。
けど――。分かってしまう部分もある。
悔しいけど。猛火や鷹村みたいな奴が、プロになって勝ち上がっていくんだろうな。
鷹村は言うまでもない。あいつは化け物だ。何をやらせても桁が違う。
猛火だって、まだ始めたばかりなのに、とんでもない連打を使う。
俺が何年練習したって、あんなパンチを打てるようになるのか分からない。
才能。そういうものが本当にあるんだと、嫌でも思い知らされる。
「……はぁ」
正直、心が折れそうになる。俺だって、遊びでやってるわけじゃない。プロになりたい。強くなりたい。勝ちたい。そう思って練習してる。
だけど、隣であんな奴らを見せられたら、嫌でも分かる。
ああ。俺とは違うんだなって。生まれ持ったものが。身体も。才能も。何もかも。
それでも。不思議なことに、ボクシングを辞めたいとは思わなかった。
こんなに差を見せつけられて。毎日ボコボコにされて。練習だってしんどい。
なのに、辞めたいとは思わない。むしろ、明日もジムへ来る自分が簡単に想像できる。
「……俺、やっぱボクシング好きなんだなぁ」
口に出してみると、なんだか妙に納得した。才能があるかどうかは分からない。
プロになれるかどうかも分からない。それでも、好きなものは好きなんだから仕方ない。
「よし」
栗田は立ち上がった。そういえば、猛火と鷹村の野郎が、今度会長と一緒に夏合宿へ行くらしい。
最初は自分には関係ないと思っていた。だが、あの二人が行くなら。会長もいるなら。少しくらい、自分も何か掴めるかもしれない。
「……頼んでみるか」
断られるかもしれない。それでもいい。栗田は会長室へ向かって歩き出した。
「会長!俺も合宿、連れてってください!」
せめて。あいつらの背中が見えなくならないくらいには。まだ、食らいついていたかった。
◇ ◇ ◇
そして始まった夏合宿。ついてきたことを後悔したのは、初日の練習が始まってすぐだった。
「ハァッ……ハァッ……!」
栗田は必死に砂浜を蹴る。前を走るのは猛火。同じメニュー。同じ距離。同じ砂浜。
それなのに、少しずつ背中が遠ざかっていく。
(嘘だろ……!?)
足を踏み出すたびに砂へ沈む。普段のロードワークですら、猛火についていくのは楽じゃない。
それが砂浜となれば話は別だった。蹴っても蹴っても足を取られる。太腿も足の指も、とっくに悲鳴を上げていた。
なのに。
(なんであいつは普通に走ってんだよ!?)
猛火のペースはほとんど落ちていない。むしろ後半に入ってから、少しずつ速くなっているようにすら見える。
(おかしいだろ……)
栗田は荒い呼吸を繰り返しながら、必死にその背中を追った。
(あいつ、本当にプロライセンス持ってねえんだよな?)
自分と同じ。まだプロですらない、ジムに入って半年ほどの少年。そのはずなのに。
(実はどっかの特殊部隊上がりとかじゃねえだろうな……)
(ほら、あれだよ。別班!)
(国のために裏で動いてる秘密組織! ドラマで見たぞ!)
…………。
一瞬、そんなくだらない疑いが頭をよぎる。
いや、もちろん、そんなわけがないことくらい分かっている。
猛火は十六歳だ。まだプロライセンスすら持っていないアマチュア。
そんなことは分かっている。分かっているのだが――。
(……そうとでも思わなきゃ、やってられねえよ)
前を見る。必死に走っているはずなのに、猛火の背中はどんどん遠ざかっていく。
自分だって遊んでいるわけじゃない。毎日練習している。少なくとも、ここまで簡単に置いていかれるほど怠けてきたつもりはなかった。
それでも、追いつけない。特殊部隊だとか、別班だとか。そんな馬鹿げた理由でもつけなければ、今の自分では納得できない。
それくらい、目の前を走る少年との間には、どうしようもない差があった。
◇ ◇ ◇
そんなことを考えていたからだろうか。その日の練習が終わったあと、栗田はつい、猛火に愚痴をこぼしてしまった。
「なあ、猛火」
「はい?」
「俺さ……プロになれんのかな」
口にしてから、しまったと思った。こんなことを年下の後輩に聞いてどうする。だが、一度こぼれた弱音は止まらなかった。
「鷹村はあんなだろ。お前だって、入って半年も経たないのに、もうこんなに強い」
「それに比べて俺は……」
栗田は自嘲するように笑った。
「才能ねえんじゃないかなってさ」
「このまま続けても、プロになんてなれねえんじゃないかって……たまに思うんだよ」
猛火は何も言わなかった。栗田はますます惨めな気分になる。
何言ってんだ、俺。そう思った時だった。
「なれますよ」
「……え?」
「栗田さんなら、プロになれます」
迷いのない声だった。慰めるような言い方でもない。気を遣っているようにも見えない。
猛火はただ、真っ直ぐ栗田を見ていた。本気でそう思っている。そんな目だった。
「…………」
栗田は何も言えなくなった。
(……嫌な奴だったらよかったのにな)
ふと、そんなことを思う。猛火が嫌な奴だったなら。才能を鼻にかけて、自分を見下すような奴だったなら。
(あいつのせいにできたのに)
こんな天才と一緒じゃやってられない。そう言って辞めることだってできた。他のジムに移ることも考えられた。
でも。こいつは自分を馬鹿にしない。それどころか――。
『栗田さんなら、プロになれます』
あんな目で、そんなことを言いやがる。
(……ずりぃよなぁ)
栗田は小さく息を吐いた。思えば、猛火がジムに入ってきてから随分と楽になった。何より――。
(鷹村の相手しなくてよくなったしな)
以前は何かにつけて、あの悪魔のスパー相手にされていた。殴られる。吹っ飛ばされる。また殴られる。
あれは本当に辛かった。猛火が来てからというもの、鷹村の相手はほとんど猛火が引き受けている。
(……そう考えたら、こいつが来てなかったら俺、とっくに辞めてたかもしれねえな)
栗田は自分の拳を見る。才能がない。それはたぶん事実だ。
少なくとも、鷹村や猛火みたいな選手にはなれない。でも――。
(俺、ボクシング嫌いじゃねえんだよな)
むしろ好きだった。だから、才能の差をこれだけ見せつけられても辞められない。
それに。自分にだって、得意なことくらいある。自分ではできない。同じ動きをしろと言われても無理だ。
だが――。
(人のボクシングを見るのは、得意なんだよな)
相手の癖。得意な距離。パンチを出す前の予備動作。どういう時に攻め、どういう時に守るのか。
自分で再現することはできなくても、見ることならできる。分析することならできる。
栗田は顔を上げた。その視線の先には、猛火がいる。そして頭の中に浮かんだのは――。鷹村守。
(……そうだ)
一つ、思いついた。
(俺が見つけてやればいいんだ)
あの化け物を研究する。何度でも見る。癖を探す。弱点を探す。どんな小さなものでもいい。そして全部、猛火に教える。
(俺が猛火を――)
(鷹村に勝たせてやる)
そう考えた瞬間、不思議なほど気持ちが軽くなった。
「よし!」
「?」
突然立ち上がった栗田を、猛火が不思議そうに見上げる。
「猛火!」
「はい」
「明日からも頑張ろうぜ!」
「……? はい!」
理由なんて、まだ言わなくていい。まずは自分にできることをやる。鷹村を見て。研究して。いつか、こいつがあの化け物をぶっ倒す。その手助けをする。
(なんか一気にやる気出てきたぜ!)
さっきまで才能がないと落ち込んでいたのが、馬鹿らしく思えてきた。栗田はもう一度、猛火を見る。
(お前が俺に期待してくれてる間くらいは――)
(俺も、もう少しボクシングを続けてみるか)
Side:鷹村守
夏合宿も終わり、鴨川ジムはいつもの日常へと戻っていた。鷹村はリングの上で、本郷猛火のパンチをかわす。
右。左。
さらに踏み込んできたところへ、軽くジャブを合わせる。猛火が一歩下がった。
「まだまだ遅ぇぞ!」
すぐに構え直して向かってくる。その姿を見ながら、鷹村は口元を吊り上げた。
(しかし、こいつもよくやるぜ)
何度殴られても、次の週にはまたスパーを頼んでくる。最初こそ変な奴だと思っていたが、もう慣れた。
それどころか――。
(まあ、俺様が世界最強の男で、世界一なのは絶対の事実としてだ)
鷹村の中では、そこに疑問を挟む余地などない。自分が一番。それは決定事項だ。だが。
(こいつも……そうだな)
猛火のパンチを受け流しながら考える。
(このままいきゃ、相当なところまで行くんじゃねえか?)
もちろん、まだまだ自分には遠く及ばない。技術も足りない。経験なんて話にならない。パンチだって、まだ粗い。
だが――。
(夏合宿が終わってから、また伸びる速度が上がってやがる)
以前なら簡単に避けられたパンチが、少しずつ面倒になっている。踏み込みも速くなった。
スタミナもついた。パンチの種類も増えている。そして何より――。
(教えたことを覚えるのが早ぇ)
一度教えたことを、次のスパーではもう試してくる。失敗しても、また次に修正してくる。それを繰り返すたび、少しずつ動きが良くなっている。
(まだプロにもなってねぇガキにしちゃ、上出来だ)
鷹村が他人に下す評価としては、それでも十分すぎるほど高かった。
(ま、俺様にはまだ百年早ぇけどな)
猛火が踏み込む。鷹村はその拳を軽くいなし、空いた頭へジャブを叩き込んだ。
「ほら! またガード下がってんぞ!」
「はい!」
「返事してる暇があったら打ち返せ!」
猛火がすぐさま拳を返してくる。鷹村はそれをかわしながら笑った。
(ったく、面白ぇ野郎だぜ)
その時だった。ふと、リングの外に人影が見えた。栗田だ。
「…………」
鷹村は眉をひそめる。
(……またいやがる)
最近、妙に視線を感じると思っていた。気のせいではない。栗田がこちらを見ている。しかも、普通に見ているわけではない。柱の陰から、じーっと。鷹村の動きを観察している。
「…………」
(なんなんだ、あいつ)
最初は気にしていなかった。同じジムの選手がスパーを見ることくらい、別に珍しくもない。だが、一度気付いてからというもの、やたらと目につく。
ロードワークでも。
サンドバッグでも。
スパーリングでも。
気付けば栗田が、少し離れたところからこちらを見ている。しかも最近は、何やらメモまで取っている時がある。
(気持ち悪ぃな……)
やがてスパーが終わる。猛火がリングから降りると、今度は栗田がそそくさと近寄っていった。
「猛火、さっきのところなんだけどよ」
何やら小声で話している。猛火が頷く。栗田が身振り手振りを交えながら何かを説明する。そして二人して、ちらりと鷹村を見る。
「…………」
鷹村の眉間に皺が寄った。
(俺の練習をコソコソ盗み見て)
(終わったら本郷と二人でコソコソ話して)
(しかも、たまに俺の方見てやがる)
しばらく二人を眺める。猛火が何かを尋ねる。栗田が答える。そして、また鷹村を見る。
「…………」
一つの可能性が頭をよぎった。
(栗田の野郎……)
まさか。
(あいつもホモになったのか?)
「…………」
鷹村は本気で少しだけ二人との距離を取った。