はじめの一歩RTA ブライアンホーク撃破チャート 作:ヨンドゥ
プロボクサーホモ、はーじまーるよー!
さて、前回はプロテストに無事合格したところまででしたね。というわけで、今回からついにプロボクサー編に突入です。
まずはゲーム的な説明をしておきましょう。ここから先は、基本的に自由です。試合に連敗し続けて、ジムから引退を勧められるか。
重大な怪我を負って、再起不能になるか。はたまた、自分の意思でグローブを置くか。
基本的にはこの辺りの条件を満たさない限り、好きなだけプロボクサー人生を堪能することができます。
パワプロで例えるなら、今までの一年間が『サクセス』。ここから始まるプロ生活が、『マイライフ』みたいなものですね。
まあ、育成自体は今までと同じシステムで続いていくんですが。
さて。普通に遊ぶなら、ここから好きな相手と試合したり、イベントを回収したり、彼女を作ったりしながら、のんびりプロ生活を満喫すればいいんですが――。
残念ながら、今回はRTAです。そんな悠長なことをしている暇はありません。
今回の目的は、ただ一つ。ブライアン・ホーク撃破。
そのために、まずホモ君にはさっさと日本チャンピオンになってもらいます。そこから世界ランキングを駆け上がり、世界タイトルへの挑戦権を獲得。そして、ブライアン・ホークのところまで最短距離で突っ走ります。
もちろん、ただランキングを上げればいいわけではありません。その間にも育成を続けて、ホークをぶちのめせるだけの能力とスキルを揃えていく必要があります。
日本王者になる。
世界ランカーになる。
ホークへの挑戦権を手に入れる。
そして、ホークを倒す。
全部やらなきゃならないってことが、走者のつらいところです。しかし、やること自体は非常にシンプル。
それじゃあプロボクサーホモ君、世界への第一歩を踏み出していきましょう。イクゾー!
◇ ◇ ◇
さて、その道を走り始める前に、鴨川ジムの現在の状況を確認しておきましょう。
年度も変わり、在籍キャラの入れ替わりなんかもこのタイミングで行われます。
つまり――。あいつらが入ってきているはずなんですが……。
どれどれ。在籍キャラ欄を開いてっと。
…………。よしよし。いますね。
そうです。『はじめの一歩』を知っている兄貴姉貴なら、もちろんご存じでしょう。
青木村コンビ、鴨川ジム入門です。
原作を知らない兄貴姉貴にも一応説明しておきますと、青木と木村という二人組のホモです。原作では一歩の先輩にあたる、鴨川ジムのメインキャラですね。
元ヤンで、街中で野良の鷹村さんに喧嘩を売ってボコボコにされ、その鷹村さんに一発やり返すために鴨川ジムまで追いかけてきて、そのままボクシングを始めたホモ達です。
……間違ったことは言ってないな!
まず青木。
『カエルパンチ』や、キャラクリの時にも紹介したチート技『よそ見』の使い手です。
変則技を駆使して相手を自分のペースに引きずり込み、気が付けばなんとも言えない試合展開になっている泥試合製造機。そして、だいたい鷹村さんの被害者です。
続いて木村。
鷹村さんの被害者その二。ですが、裏切って鷹村サイドにもつけるコウモリ野郎です。
以上。……だと、さすがにかわいそうなので、もう少し説明しましょう。
スピードもある。テクニックもある。頭も回る。
でも、決定的な武器がない。そんな器用貧乏を地で行くようなボクサーです。
しかし、そんな脇役ポジションの男が、『はじめの一歩』の長い歴史の中でも屈指の名試合を繰り広げてしまうんだから分からないものですね。
木村対間柴戦は神。はっきりわかんだね。
というわけで、今年からこの二人もイベント発生キャラに追加されました。
どれどれ。他にめぼしいキャラはいないかな……。
…………。いないっすね!
まあ、青木村が増えただけでも十分でしょう。
……ん?あれ?栗田がまだ在籍してるじゃないすか。なんでだ?
原作だと、この時期にはもう鴨川ジムを離れていたはずですし、ゲームでもだいたいこのタイミングでいなくなるんですけどね。
ちょっとWikiをポチってみましょう。
……………………。
ふむふむ。全然情報載ってねぇな、こいつ!本当に原作キャラか!?
このゲームのWiki、かなり細かいところまで情報が載ってるんですけどね。
現に、トレーナーになった後の『バロン栗田』については、イベントから習得できる技、トレーナー性能までめちゃくちゃ詳しく書かれています。
これはたぶん、以前有名な実況者の方が、幕之内一歩プレイで『バロン栗田トレーナー縛り』という動画を上げてた影響でしょうね。
そのせいで、バロン栗田の情報だけ妙に充実してるの草。
で、肝心の鴨川ジム時代については……。うーん。やっぱり、ほとんど載ってないですね。
少ない情報から予想するしかありませんが……たぶん好感度でしょう。
今回、『人たらし』の効果もあって、栗田の好感度がめちゃくちゃ上がってましたからね。
通常プレイではまず到達しないレベルまで好感度が上がったことで、離脱イベントが発生しなかった。
あるいは、離脱条件そのものが潰れた。そう考えるのが一番自然でしょうか。
まあ、いて困るキャラでもないので、全然問題ないでしょう。むしろ、イベント要員が一人残ったと思えば得です。
原作では後々『バロン栗田』となった栗田と、先ほど紹介した青木との間に因縁ができて、栗田の教え子と青木が戦ったりするんですが――。
今回のプレイでは、今のところ何の問題もありません。
栗田君にはこのまま鴨川ジムで、元気に賑やかし要員をやってもらいましょう。
さて、ここから何をしていくかですが……。
せっかく青木村が入ってきたので、好感度を上げるためにも、一緒に練習したいところですね。
ですが――。やるのは鷹村さんとのスパーです。
当たり前だよなぁ!
青木村との練習は、鷹村さんがいない週かつ、体力が有り余っている時にでも踏んでいきましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
よしよし。プロになっても、相変わらず経験値がうまいですね。どんどん続けていきましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
―――――――― 練習中 ――――――――
お、会長に呼ばれましたね。どうやら、相手は未定ながらもデビュー戦の日程が決まったみたいです。
ここから日本チャンピオンまで最短ルートを突っ走る以上、当然ながら負けは許されません。
デビュー戦に勝利。その後も勝ち進んで、新人王トーナメントに出場。そこで優勝すれば、日本ランカー入り。
あとはランキングを駆け上がって、日本タイトルへの挑戦権をいただきます。非常に分かりやすいですね。全部勝てばいい。
というわけで、デビュー戦まで引き続き育成を――。
おっ。続けて、青木と木村のイベントが始まりましたね。
もう髪型がヤンキー仕様から原作の髪型になってる(笑)
なになに……。
普段から鷹村さんとスパーしているホモ君に、「鷹村にパンチを当てるにはどうすればいい?」と相談しているみたいですね。
まあホモ君なら、そこら辺の人類よりは鷹村さんにパンチを当ててますからね。
どれどれ、選択肢は――。
「当たるまでパンチを出す」
「カウンターを狙う」
「二人がかりで戦う」
「私にもわからん」
…………。後ろ二つ、アドバイスする気ないだろ。実質二択じゃないか……。
今回は「当たるまでパンチを出す」でいきましょう。
ホモ君が二人にアドバイスしてますね。そして、そのまま鷹村さんとスパーするみたいです。
まずは青木。ホモ君のアドバイス通り、ひたすらパンチを出していきます。
連打!連打!連打!
連打連打連打ァ!
…………。うん。普通に全部避けられてますね。
あっ、疲れてきた。鷹村さんが一発。青木ダウン。
続いて木村のターンです。
…………。さっきとまったく同じ光景が広がっています。そして――。木村ダウン。終了!
なんの成果も!!得られませんでした!!
まあ、ホモ君のアドバイス一つで鷹村さんにパンチを当てられるなら、苦労しないですよね。しょうがないね。
お?……いや。成果ありましたね。スキル『連打〇』を取得しました!
『連打〇』は、パンチを連続して出すほど、威力とスピードに補正がかかっていく強スキルです。
「え? ショットガンがメインウェポンのホモ君に『連打〇』?」
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
と思った兄貴。残念でした。
ショットガンは、あれだけパンチを連打しておきながら、ゲーム内部では一回の技として処理されています。
なので、ショットガン単発に『連打〇』の補正は乗りません。
デンプシーロールやホワイトファングなんかも同じですね。
見た目では複数のパンチを打っていても、一回の必殺技として扱われるものは、全部一発判定です。なんでだよ。
まあ、それでも『連打〇』自体は普通に強スキルなので、取れて損はありません。
通常のコンビネーションにも乗りますし、今後覚える技次第では十分活かせます。
それに最悪――。ショットガンの後に、もう一発ショットガンを撃てばいい。
ショットガン!
ショットガン!
ショットガン!
これなら『連打〇』の補正も乗ります。技の仕様が噛み合わないなら、回数で解決すればいいんだよ!脳筋かな?
◇ ◇ ◇
プロデビュー戦の相手が決まったみたいです。
どれどれ……。ふむふむ。
対戦相手はプロ二戦、戦績は一勝一敗。特にこれといった特徴もないモブ選手ですね。
…………。勝ったな。(慢心)いやー、まあさすがに大丈夫でしょう。
ここで、ゲーム的な話を少ししておきます。
原作登場キャラやゲームオリジナルの固有キャラを除いて、試合の対戦相手は操作キャラの現在の立ち位置に合わせてランダム生成されます。
つまり、プロデビュー戦でいきなり世界チャンピオン級の化け物がランダム出現する、なんてことはありません。
そんなの出てきたらクソゲーだからね。しょうがないね。
逆も同じです。
こちらが世界ランカーまで上り詰めたのに、日本ランキング入りすら怪しいようなクソザコモブが対戦相手に選ばれることも、基本的にはありません。
ちゃんとその時点の主人公に合わせて、ある程度の強さの範囲が決められているわけですね。
ただし。あくまで「ある程度」です。ランダム生成なので、当然上振れもあれば下振れもあります。
さらに、能力値の合計が低くても、一つの能力だけ異常に高かったり。
尖ったステータスと所持スキルが奇跡的に噛み合ったりして、数値以上にクッソ強いモブが誕生することもあります。
逆に、能力値だけ見れば強そうなのに、ステータスと戦法と技が絶望的に噛み合ってなくて、クッソ弱い奴が生成されることもあります。
この辺は、ランダム生成ならではですね。なので、モブだからといって絶対に舐めていいわけではありません。
変な上振れモブを引くと、普通に事故要因になります。
まあ――。今回の相手は普通です。
そして、ホモ君は普通じゃありません。
つまり何が言いたいかというと――。
ホモ君がデビュー戦で負けることは、ほぼほぼありえないってことですね。
勝ったな。風呂入ってくる。
◇ ◇ ◇
その後も、いつも通り練習をこなしまして――。
あっという間に試合当日です。
おお。ジムメンバーがみんな応援に来てくれてますね。
セコンドについてくれている会長たちはもちろん、入門したばかりの青木と木村も来てくれています。
そして、鷹村さん。宮田くん。栗田もいますね。
ホモ君、愛されてますねぇ。さすが『人たらし』。それでは皆さんの期待に応えて、華々しいプロデビューを飾ってもらいましょう!
試合開始!
―――――――― 試合終了――――――――
…………。えー。1ラウンドで終わりました。
特に見せ場もありませんでした。
ショットガンすら使ってません。普通に殴ってたら、普通に勝ちました。
…………。まあ、そうなるよね。
正直なところ、しばらく試合はこんな感じで進んでいくと思います。
何せホモ君、プロになる前の一年間でちょっと強くなりすぎました。
プロテスト前から鷹村さんと延々スパーしてた奴に、デビューしたての新人をぶつけたら、そりゃこうなる。
まあ、RTA的には試合時間が短くて助かるのでヨシ!というわけで、プロデビュー戦は危なげなく勝利です。
Side:青木・木村
「クソッ……!」
サンドバッグを殴りながら、青木は悪態をついた。鴨川ジムに入門してから、しばらく経った。
きっかけは単純だ。鷹村守。あの野郎に一発ぶち当てる。
ただそれだけだった。二人まとめてボコボコにされた。
あまりにも一方的だった。あまりにもムカついた。だから追いかけてきた。
ボクシングを覚えれば、一発くらいぶち込める。最初はその程度に考えていた。
だが――。
「なあ、木村」
「あ?」
「ボクシングって……こんなキツいもんなのかよ?」
「俺に聞くなよ……」
隣では木村も死にそうな顔をしていた。走る。縄跳び。シャドー。サンドバッグ。ミット。筋トレ。そして、また走る。
来る日も来る日も、その繰り返し。
タバコもやめた。夜に街へ繰り出して喧嘩することもなくなった。というより――。
「喧嘩する体力なんか残ってねえよ……」
「だよな……」
練習が終われば、家に帰って寝るだけ。以前とはまるで違う生活だった。
それでも。悪いことばかりではない。青木は自分の拳を見る。以前より明らかに速くなった。
パンチの打ち方も覚えた。フットワークだって、少しずつ形になっている。
木村も同じだ。入門したばかりの頃とは、比べものにならない。
「俺らさ」
青木が呟く。
「絶対、前より強くなってるよな?」
「そりゃな」
木村も頷いた。
「今なら昔の俺らと喧嘩したら、余裕で勝てるんじゃねえか?」
「だよな!」
確実に強くなっている。それは間違いない。なのに――。
二人は同時に、ジムの奥へ視線を向けた。そこでは鷹村が一人、サンドバッグを叩いている。
「…………」
「…………」
青木の頬が引きつった。
「……なあ、木村」
「言うな」
「俺たちさ」
「言うなって」
「あいつに一発も当てられる気しなくね?」
「だから言うなっつってんだろ!」
分かってしまった。むしろ、ボクシングを始める前よりもはっきりと。実際、これまで何度か鷹村とはスパーをしている。
だが、一発当てるどころか、遊ぶように全部かわされた挙句、最後はボコボコにされて終わり。
何度やっても結果は同じだった。以前は何も知らなかった。ただ、喧嘩が滅茶苦茶強い奴だと思っていた。
だが今は違う。毎日ボクシングを練習しているからこそ分かる。鷹村守。あの男がどれだけ異常なのか。
「……バケモンじゃねえか」
青木が呟く。木村も否定しなかった。強くなればなるほど、相手の強さが分かる。
追いつこうとすればするほど、どれだけ遠くにいるのかが分かる。最悪だった。
「でもよ」
青木が拳を握る。
「だからって、諦めるわけにはいかねえよな」
「当たり前だ」
木村も即答した。
「あいつをぶん殴るために、こんな地獄みてえな生活続けてんだからな」
「そうだよな!」
せめて一発。一発でいい。あの忌々しい顔面に拳を叩き込む。それまでは――。
「お前ら」
不意に横から声がした。振り返る。栗田が立っていた。
「なんだよ」
「いや」
栗田は二人を見ると、少し呆れたように笑った。
「まだ諦めてねえのかなと思ってさ」
「何をだよ?」
「鷹村をぶん殴ること」
一瞬の沈黙。そして。
「「当たり前だ!!」」
二人の声が綺麗に重なった。
「こっちはそのためにタバコまでやめたんだぞ!」
「毎日死ぬほど走らされてんだ!」
「今さら諦められるか!」
「一発!」
「一発でいい!」
「「絶対あの野郎にぶち込んでやる!!」」
「……そ、そうか」
予想以上の勢いに、栗田が一歩引いた。だが。その顔には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
「だったら――」
栗田はジムの奥を見る。その視線の先では、鷹村が変わらずサンドバッグを叩いていた。
「ちょうどいい奴がいるぞ」
「「あ?」」
「鷹村にパンチを当てれる奴」
二人の視線が動く。鷹村ではない。そのさらに向こう。
黙々と練習を続けている一人の少年へ。栗田は言った。
「あいつに聞いてみたらどうだ?」
青木と木村が顔を見合わせる。
「……アイツ」
「あの鷹村といつもスパーしてるヤツだよな?」
「ああ」
栗田は頷いた。
「やみくもに挑むより参考になると思うぜ」
二人はもう一度顔を見合わせた。そして同時にその少年を見る。
「…………」
「…………」
「聞いてみるか?」
「聞いてみるか」
そう決めた、その時だった。
「おら猛火! スパーやるぞ!」
鷹村の声が響いた。二人がそちらを見ると、猛火はすぐに準備を始める。
「……あの二人、スパーすんのか?」
「みたいだな」
せっかくだ。聞くのは終わってからでいい。そう思って、二人はリングのそばへ移動した。そして――。
「…………」
「…………」
言葉を失った。速い。鷹村のパンチを猛火がかわす。
かわしきれなければガードする。反撃する。当然のように避けられる。
それでも追いかけ、さらに拳を出す。そして――。
バシッ!
「当てやがった……」
青木の口から声が漏れた。鷹村の顔に、猛火の拳が届いていた。
もちろん、それで鷹村がどうにかなるわけではない。
次の瞬間には猛火も殴り返されている。それでもまた前へ出る。
殴られても。かわされても。何度でも鷹村へ拳を伸ばす。そして、また当てる。
「……すげえ」
「……ああ」
自分たちとは、まるで違った。あれだけ必死に拳を振っても、一発すら当てられない相手。
その鷹村を相手に、猛火はボクシングをしている。
一方的に遊ばれているわけではない。ちゃんと戦っている。
「……なあ」
「ああ」
言いたいことは同じだった。
自分たちとスパーしている時とは、鷹村の迫力がまるで違う。
パンチの速さも、踏み込みも、何もかもが違う。
「あいつ……本気でやってんのか?」
「……たぶんな」
自分たちには遊びながらでも一発も当てさせない鷹村が、猛火には本気で拳を振っている。それでも猛火は食らいついている。
その事実に、二人はいつの間にか声を出すことも忘れてスパーを見つめていた。やがてスパーが終わる。
「…………」
「…………」
青木が木村を見る。木村も青木を見る。今度は迷う必要などなかった。
「アイツに聞こうぜ」
「ああ」
どうすれば鷹村にパンチを当てられるのか。少なくとも――。自分たちより、その答えを知っていることだけは間違いなかった。
スパーを終えた猛火がリングを降りてくる。青木と木村は顔を見合わせると、そのまま猛火のもとへ向かった。
「なあ、ちょっと聞きたいんだけどよ」
「はい?」
「鷹村にパンチを当てるには、どうすればいいと思う?」
青木が尋ねる。猛火はすぐには答えなかった。
「…………」
腕を組み、何やら真剣な顔で考え込んでいる。
「ちょっと待ってください」
「あ、ああ」
しばらく待つ。猛火はなおも考える。青木と木村も黙って答えを待った。
先ほどのスパーを見たばかりだ。もしかしたら、自分たちが知らない何か特別なコツがあるのかもしれない。やがて猛火が顔を上げた。
「当たるまでパンチを出せばいいんですよ」
「…………」
「…………」
青木と木村は顔を見合わせた。
「……いやいやいや」
「当たるまでって言ってもよ」
青木が慌てて続ける。
「確かにお前の連打はすごかったけどよ。俺たちだって毎回、鷹村に当てようと何発もパンチ出してんだぜ?」
「はい」
「でも全部避けられちまうんだよ」
すると猛火は、不思議そうに首を傾げた。
「だから、当たるまでですよ」
「「…………」」
「当たってないのにやめたら、それは当たるまでじゃないですよね?」
「「…………」」
おいおいおい。青木と木村は再び顔を見合わせた。なんて無茶苦茶なことを言いやがる。当たらないから困っているのだ。
その答えが『当たるまで出せ』では、何の解決にもなっていない。
(こいつ……俺たちのことおちょくってんのか?)
青木が猛火を見る。木村も同じことを思ったのだろう。訝しげな目を向けている。だが――。
「…………」
猛火はいたって真面目だった。笑ってもいない。馬鹿にしている様子もない。
本気で考えた末に、本気でそれが答えだと思っている顔だった。
「……マジで言ってんのか?」
「はい」
即答だった。
「当たるまで出せば、いつか当たります」
「…………」
「…………」
二人は先ほどのスパーを思い出す。鷹村に避けられても。殴られても。
猛火は止まらなかった。何度も何度も拳を出して――。実際に、当てていた。
「……もしかして」
青木が呟く。
「本当にそうなのか?」
「……いや、どうだろうな」
木村も困った顔をする。
「でも、こいつ実際に当ててたしな……」
「だよな……」
なんだか急に正しいことを言われたような気がしてきた。
「……やってみるか?」
「……やってみるか」
青木は再び鷹村とリングの上で向かい合っていた。
(当たるまでパンチを出す……)
アドバイスの言葉を思い出す。今までだって何発もパンチは出してきた。
だが、今回は違う。避けられても止めない。当たるまで出し続ける。
「いくぞ鷹村ぁ!」
開始と同時に青木が飛び込んだ。
「連打だ! 相手に打たせる暇なく打ち続けりゃいいんだ!」
ジャブ。ストレート。またジャブ。
右。左。右。左。
連打。連打。
連打連打連打――!
「おらおらおらおらぁ!!」
だが。
「ほっ、ほっ、ほいっと」
当たらない。鷹村は涼しい顔で、次々と拳をかわしていく。
「クソッ……まだだ!」
止めない。当たるまで。当たるまで出せばいい。
「うおおおおおお!!」
「おー、頑張るねぇ」
「ぜぇ……ぜぇ……!」
当然、先に限界が来たのは青木だった。
肩が重い。腕が上がらない。呼吸も苦しい。
最初は勢いよく飛んでいた拳も、今では見る影もない。
「ま、まだだ……!」
それでも青木は拳を出す。
「当たるまで……やめねえぞ……!」
へろへろのジャブが鷹村へ伸びる。鷹村はそれを見て――。
「もういいわ」
ゴッ!
「ぶべっ!?」
一発。青木の身体がリングに沈んだ。
「青木ぃぃぃ!!」
リングの外から木村の声が響く。
倒れた青木を見ながら、木村は隣にいる猛火へ視線を向けた。
猛火は真剣な顔で青木を見ている。
「……次、俺かよ」
木村は早くも嫌な予感がしていた。
「ぜぇ……ぜぇ……!」
右。左。右。左。
「まだだ……まだ終わってねえ!」
木村の拳が鷹村へ伸びる。だが、やはり当たらない。
「お前もかよ。もう飽きたぞ」
「うる……せえ……!」
木村は震える腕を持ち上げる。青木が一発も当てられなかった。
だからこそ。自分が当ててやる。
「当たるまで……打ちゃあ……いいんだろ……!」
最後の力を振り絞って拳を放つ。へろへろと伸びたパンチを、鷹村は軽く首を傾けてかわした。
「はい、おしまい」
ゴッ!
「ぐべっ!?」
木村もリングに沈んだ。
「…………」
「…………」
しばらくして。リングの外では、青木と木村が仲良く並んで座り込んでいた。
二人とも顔は腫れ、完全に疲れ切っている。結局。何発出したのかも分からないほどパンチを打った。
だが――。
「……一発も当たらなかったな」
「……ああ」
二人の視線がゆっくりと動く。その先には猛火がいた。
「おい、本郷」
「はい?」
「やっぱ無理じゃねえか!!」
「一発も当たらなかったぞ!!」
二人から抗議され、猛火は不思議そうに首を傾げた。
「でも、途中でやめましたよね?」
「「…………」」
「当たるまで続けないと当たりませんよ?」
「「無茶言うな!!」」
ジムに二人の叫び声が響いた。
「でも、ありがとうございました」
突然、猛火が頭を下げた。
「「……は?」」
青木と木村が揃って首を傾げる。
「なんでお前がありがとうなんだよ?」
「何か礼言われるようなことしたか、俺たち?」
「はい。おかげで喜んでます」
「「誰が?」」
「…………」
猛火は少し考えた。
「……喜んでるんです」
「「???」」
二人には何を言っているのかさっぱり分からなかった。だが、猛火の顔を見る限り、どうやら本当に喜んでいるらしい。
「……まあ、よくわかんねえけどよ」
青木はそれ以上考えるのをやめた。
「だったら、お前もまた協力してくれよ」
「協力?」
「鷹村に一発ぶち込むのにだよ」
木村も頷く。
「このジムであの野郎とまともにスパーして、実際にパンチ当てられるのなんてお前くらいだろ?」
「なるほど」
猛火は頷いた。
「もちろんです」
「よっしゃ!」
「頼りにしてるぜ!」
「おいおい、面白そうな話してんじゃねえか」
そこへ割って入ってきたのは栗田だった。
「俺も協力するぜ」
栗田がニヤリと笑う。
「なにせ鷹村の野郎をボコボコにしてえのは、俺も同じだからな!」
「おお!」
「アンタもか!」
「当たり前だ! あの野郎には今までどんだけ酷い目に遭わされてきたと思ってんだ!」
「あー、わかる!」
「俺たちも散々やられてるからな!」
「だろ!?」
「だったら全員で弱点探そうぜ!」
「おう!」
「本郷、お前は実際にスパーして気づいたことねえのか?」
「ありますよ」
「マジか!?」
「どこだ!?」
「教えろ教えろ!」
ああでもない。こうでもない。四人で鷹村攻略について騒ぎ始める。
その様子を――。少し離れたところから、鷹村が見ていた。
「…………」
青木。木村。栗田。そして本郷。四人が時折こちらを見ては、何やらヒソヒソと話している。
何を企んでいるのか。そんなもの、考えるまでもない。
「……ケッ」
鷹村は鼻を鳴らした。どうやら四人揃って、自分に一泡吹かせるつもりらしい。
「面白えじゃねえか」
口元が自然と吊り上がる。
「フン、上等だよ」
やれるもんなら、やってみろ。鷹村はそう言わんばかりに、再びサンドバッグへ拳を叩き込んだ。
◇ ◇ ◇
そして、猛火のプロデビュー戦。
「なあ、本郷の奴、勝てるのかよ?」
リングを眺めながら青木が口を開いた。
「さあな」
鷹村は腕を組んだまま答える。
「案外、あっさり負けちまったりしてな」
「…………」
木村が横目で鷹村を見る。
(こいつ、応援する気ないのかよ……)
「まさか本郷さんが負けるわけないでしょ」
宮田が呆れたように言った。
「鷹村さんも思ってもないこと言うぜ」
「あぁ?」
鷹村が宮田を睨む。
「ボクシングに絶対なんてあるかよ」
もっともらしい言葉に、青木と木村が少しだけ納得しかける。だが。
「まあ、俺様にはあるけどな」
「「…………」」
「俺様が勝つ。これは絶対だ」
「……台無しだよ」
木村がぼそりと呟いた。
「でもまあ、宮田の言う通りだろ」
栗田もリングを見ながら会話に入る。
「俺も猛火が負けるところは想像できねえな」
「そんなにか?」
青木が聞く。
「ああ。お前らも何度もスパー見ただろ?」
「あー……」
「まあな……」
嫌というほど覚えている。自分たちでは一発のパンチすら当てられない鷹村を相手に、猛火は何度も拳を届かせていた。
「でもよ、スパーと試合じゃ違うんだろ?」
「そりゃ違うさ」
栗田が答える。
「だから何が起きるか分からねえってのは、その通りだけどな」
「フン」
鷹村が鼻を鳴らす。
「見てりゃ分かるよ」
その言葉を最後に、全員の視線がリングへ向かう。やがて猛火と対戦相手が向かい合い――。
ゴングが鳴った。それほど時間も経たないうちに、試合は終わった。
「……つえー」
「マジかよ……」
青木と木村が呆然とリングを見つめる。
「というか、この強さでデビュー戦なのかよ……」
「プロってバケモノしかいねえのか?」
「いや、あいつを基準にすんな」
栗田がすかさず口を挟む。
「全国のプロボクサーが可哀想だろ」
「「……そうなの?」」
そんな会話をよそに、リングの猛火へ歓声が飛ぶ。
「本郷くーん!」
「かっこいいー!」
女性客からの黄色い声援も聞こえてきた。
「…………」
それを聞いた鷹村の眉がピクリと動く。
「あの野郎……」
「今度はなんだよ」
「女からキャーキャー言われやがって……許さん!」
「は?」
「次のスパーはボコボコの刑だ!」
「「なんでだよ!?」」
だが、当の鷹村はすでに猛火をどう痛めつけるかで頭がいっぱいらしい。
「まずはボディだな。いや、あいつ頑丈だからな……徹底的に可愛がってやるか」
「……なあ、木村」
「なんだよ」
「あいつ、やっぱムカつくな」
「奇遇だな。俺も今まったく同じこと考えてた」
二人は顔を見合わせる。鷹村に一発ぶち込む。入門した時から、その目標だけは何も変わっていない。
そして今は――一緒にその方法を考えてくれる奴らもいる。
「栗田さん」
「あ?」
「やっぱ鷹村攻略、続けようぜ」
「当たり前だろ」
栗田が笑う。青木もニヤリと笑った。
「いつか絶対、あの野郎の顔面に一発ぶち込んでやる」
「ああ」
木村も拳を握る。
「本郷にも付き合ってもらわねえとな」
リングの上では、猛火がまだ歓声を浴びている。その隣では、鷹村が何やら喚いていた。
ボクシングを始めて。前よりずっと強くなった。そのせいで、鷹村がどれだけ遠いところにいるのかも分かってしまった。それでも――。
「やめる気はねえよな」
「当たり前だ」
二人は笑った。いつか必ず、あのバケモノに一発ぶち込む。
その日まで。青木と木村のボクシングは、まだ始まったばかりだった。
※なんか今回、鷹村さんがちょっと嫌な奴みたいになってますが、初期青木村視点だからと思ってください。
まだこの頃の二人からしたら、鷹村さんは「喧嘩でボコボコにしてきたうえに、ジムでもボコボコにしてくるクソ野郎」なので……。
誤解しないでください。
鷹村さんは嫌な奴ではありません。
最高にかっこいい漢であり最低のクズでもあります。
とりあえず作ってあるのはここまでなので次はすぐには無理だけど投稿はするんでよろしくおなしゃす!