はじめの一歩RTA ブライアンホーク撃破チャート 作:ヨンドゥ
今回、話自体は全然進んでおりません
ゆるして…ゆるして…
プロデビュー戦を見事勝利で飾ったホモ君の明日はどっちだ。
というわけで、今日も今日とてやっていきましょう。えーまずはおさらいです。何度も繰り返しになりますが、ホモ君の最終目標は世界チャンピオン。もっと言えば――ブライアン・ホーク撃破です。
そのために、まずは日本チャンピオンを目指すというのは前回説明したかと思います。そしてそのためのルートとして、新人王トーナメント優勝を目指すというのにも軽く触れましたよね。
それでなんですが、一応他にも日本チャンピオンを目指すルートが存在しますので、それについて少し説明させていただきます。
今回の実況プレイにはあんまり関係ないので、「興味ないね」「ホモ君のケツを早く見せろ!」という兄貴たちは、シークバーを右に動かして飛ばしてクレメンス。
まず一つ目は、今回選ぶ最も王道なルート。新人王トーナメントで優勝し、日本ランカーになるルートです。これは原作主人公の幕之内一歩も通った道ですね。新人王戦を勝ち上がって、日本ランキング入り、そこからさらに勝利を重ね、ランキングを上げて日本タイトルへの挑戦権を手に入れる。
非常に分かりやすい。そして何より安定して早い。なので今回のRTAでもこのルートを採用していきます。
そしてリセット前提やTASプレイなら、もっと早い邪道ルートも存在するのでそっちも説明しておきましょう。
たとえば海外修行へ行き、金を積んで国外ランカーとの試合を組んでもらうルート。
あるいは非公式の試合に出場して、そこで大暴れして関係者の目に留まり、一気に上位選手との試合へ繋げるルート。
ゲームだから許される、掟破りの何段飛ばしプレイですね。上手くいけば新人王なんてすっ飛ばして、凄まじい勢いでランキングを駆け上がれます。じゃあ、そっちの方がRTA向きじゃないかと思った兄貴。
その通りです。
成功すればな!
問題はこの辺のルート、イベント発生から対戦相手まで運要素がクッソ強いんですよ。下手すると必要なイベントを待っている間に、普通に新人王ルートを走った方が早かった!なんてことになりかねません。
TASやリセット前提なら最速、RTAならチャート崩壊の原因、なので今回は使いません。
まあ、初期特性で『富豪』を取るのでこっちのルートを使うこともチャート構築の段階では考えたんですけどね……金で解決できる部分が多いので普通のキャラよりは狙いやすいです。
ただ海外へ行ったり特殊なイベントを踏んだりする都合上、通常ルートと比べて練習できる回数が少なくなるんですよね。
なので、今回のRTAの軸である鷹村さんとのスパーリング、その恩恵を十分に受けられないのが一番の問題点です。
その分をイベントでの能力上昇やスキル取得で補えればクッソ早い、補えなければ育成不足。つまりここでも運が絡みます。
そして何より――。今回のホモ君『天才覚醒』引いちゃってるんですよね。
せっかく天才になったからにはそれを最大限活かして練習を積ませたいですし、せっかく引いた1/100を捨てるのは、いやーキツいっす。
これがなかったら、初期案が上手くいかなかった時点で路線変更。第二案として、掟破りの地元走り――もとい海外ルートへの方針転換も少し考えてたんですけどね。
今回はもう必要ありません。王道ルートをひた走ってもらいます。
ホモ君には原作主人公と同じく、正面玄関から日本ボクシング界を駆け上がってもらいましょう。
まず目指すは――新人王です。
◇ ◇ ◇
さて、それでは今後のルートも決まったことですし。さっそく始めていきましょう。
地獄の練習カーニバル開催だ!
―――――――― 練習中 ――――――――
―――――――― 練習中 ――――――――
幸先よくイベントが発生しましたね。
誰だ!……青木と木村ですね。また君たちかぁ、壊れるなぁ。
あ、そういえば小ネタなんですが。青木と木村このゲームでは原作主人公の一歩を抑えて実装されているイベント数が一番多いらしいっすよ。非公式Wiki調べです。
二人セットのイベントはもちろん、青木単独、木村単独、鷹村絡み、一歩絡み、試合絡みと、とにかく数が多い。まあ、鴨川ジムに所属してプレイする以上、この二人の顔は嫌というほど見ることになるでしょう。星の数ほど見ることになるから覚悟しとけよ~。
さて、今回は何のイベントかな?
なになに……青木と木村がバイトを始めたみたいですね。原作通り青木はラーメン屋。木村は実家の花屋で働いているそうです。もしホモ君がバイト先を探しているようなら紹介してくれるとのこと、これはできるバイトの種類が増えるイベントですね。
ゲーム開始前にも少し説明しましたが、普通この時期はバイトでもしなければやっていけないんですよね。プロデビューしたばかりのペーペーが貰えるファイトマネーだけでは、とても生活できませんから。で、そのバイトをしないで済むように取ったのが初期特性『富豪』です。
初期から選べるバイトは正直どれも微妙なんですよね。体力消費は少ないものの、貰えるお金も経験値も少ないティッシュ配り。ちょっと金額はいいものの、体力消費がキツい引っ越しバイト。
他にもありますが、序盤にイベントで新しいバイト先を発掘しないと時間や体力の消費に対して効果が見合ってないものばっかりです。
なので、こういうバイト紹介イベントは通常プレイなら早めに起こると嬉しいイベントなんですが……。
今回はいらないです。実家が太いので。悲しいなぁ……。
さて、選択肢は――。
「紹介してもらう」
「断る」
「金くれ」
の三択ですね。もちろん、ここは「断る」を選びましょう。そもそも最後の選択肢はなんだよ……。鷹村さんでも選ばないだろ!……いや、選ぶか。
ホモ君が丁寧に断ってますね。すると「もうバイトしてんのか?」と、そのまま雑談が始まりました。
はい、ここで青木と木村にホモ君が金持ちであることがバレました。まあ別に隠してることでもないんですが。
さっそく二人から「金持ちのボンボン」だのなんだのとからかわれてますね。仲良さそうで何よりです。
そんなこんなでイベント終了。さてさて、今回のイベントの成果は……経験値が少々。それから――青木と木村の好感度が上がってますね。
……ん?金持ちってバレただけなのに、結構好感度上がってて草。まあいいか、『人たらし』補正でしょう。好感度はいくらあっても困りませんからね。
それじゃあ練習に戻りましょう。
―――――――― 練習中 ――――――――
またイベントですね今日はイベントの引きが良い。今度は会長かぁ……どうやら、鷹村さんとのスパーが終わったところみたいですね。
なになに……「身体は大丈夫か」だそうです。特に痛むところはないか、疲れが残ってないかと聞かれてますね。
まあ、鷹村さんとのスパーをかなりの頻度でやってますからね。普通ならそろそろ身体の一つや二つぶっ壊れててもおかしくありません。
そして会長、ボディタッチで全身をサワサワしてきます。
やっぱり会長もホモじゃないか!(歓喜)
「うむ、本当に大丈夫みたいじゃな」と、なんか納得してますね。というわけで、ホモ君は問題なし元気いっぱいです。(意味深)
これが特性『鉄人』の強みですね。疲労が溜まりにくく怪我もしにくい。おかげで他のキャラなら休養を挟むところでも、ホモ君はそのまま練習を続けられます。
練習回数を増やせるのは、単純に強い。普通のキャラでこんなことやってたらとっくに怪我だらけになってるはずです。さて、身体に問題がないと答えたところで……。
なになに……次の試合が決まったみたいですね。相手については後で八木さんから聞けとのこと。それと、会長からありがたいお話です。
ボクサーが練習するのは当然。ですが、何のために練習するのか。もちろん試合に勝つためですね。いくら練習して強くなっても本番で力を出せなきゃ意味がない。次の試合に万全の状態で臨めるようちゃんと身体を整えておけとのことです。ありがたいお言葉をいただきました。
はい!気をつけます!たぶん……(無茶な練習を辞めるとは言っていない)
そして次の試合に勝てば新人王トーナメントにエントリーする予定だそうです。
来ましたね。つまり、次戦は新人王ルートへの前哨戦です、サクッと勝って新人王トーナメントに進みましょう。
これでイベント終了――。と思ったら会長が鷹村さんを呼び止めましたね。ちょっと来いとそのまま二人でどっか行っちゃいました、なんでしょうね。
まあいいか。ホモくんは次の試合に向けて練習を続けるみたいです。イベントの効果としては経験値が少々と会長の好感度アップですね。
やったぜ。
会長の好感度なんてなんぼあってもいいですからね。なんでか?ですって?
まあ以前にも話したように好感度が高ければ高いほど、特訓イベントや技習得イベントが起きやすくなるっていうのもそうなんですが……。
一番の理由は別にあります。それが――。
会長の好感度をMAXまで上げると始まる連続イベント。それを最後まで完走することで入手できるこのゲームでも最強クラスのスキルです。正直、鴨川ジムスタートでこのスキルを取らないのは舐めプと言ってもいいレベルです。なのでできるだけ早く会長の好感度をMAXまで持っていきたいところなんですね。
では、次の試合も決まったところで今回はこのぐらいにしておきましょう。次回は二戦目。ここをサクッと突破して、新人王トーナメントに殴り込みます。
それでは今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。
side 青木・木村
「お前ラーメンなんて作れんのかよ」
木村が笑いながら言うと青木はムッとした顔をした。
「お前俺を舐めんなよ!めちゃくちゃ美味いラーメン作れるわ!」
「へえ……もう客に出してんの?」
「……まだ出させてもらえてねえけど」
「ダメじゃねえか」
「うるせえ!そのうち出せるようになるんだよ!」
木村が声を上げて笑う。
「じゃあ出せるようになったら教えろよ。栗田さんと本郷連れて食いに行ってやるから」
「しっかり金は払えよ」
「友達価格とかねえの?」
「ねえよ。むしろ多めに払え」
「ぼったくりじゃねえか」
軽口を叩き合いながら青木は少し羨ましそうに木村を見る。
「お前はいいよな。実家で働けるからよ」
「まあな。どの面下げてって話ではあるけど」
木村は苦笑する。一度グレて親には散々迷惑をかけた身だ。なんなら喧嘩した相手に店をボロボロにされたことだってある。それでも話をしてみれば、なんだかんだで働かせてもらえることになった。ありがたい話ではある。
「そういやさ」
不意に青木が言った。
「本郷ってバイトしてんのかな」
「あー……どうなんだろうな」
考えてみれば聞いたことがない。ジムではよく顔を合わせるが、あいつがボクシング以外で何をしているのかは意外と知らなかった。
「もし探してんなら俺んとこ紹介してやろうかな。まだ人手足りねえって言ってたし」
「お前にそんな権限あんのかよ」
「聞くぐらいできるわ!」
青木はそう言ってから少し照れ臭そうに頭を掻いた。
「まあ……あいつには色々世話になってるからな」
「それはそうだな」
鷹村に一発ぶち込む。そのために本郷には何度も付き合ってもらっている。この前だって自分たちの無茶な相談に嫌な顔一つせず付き合ってくれた。なら、こっちも何か返してやりたい。
「聞いてみるか」
「だな」
そうして二人は、練習を終えた猛火に声をかけた。
◇ ◇ ◇
「バイトですか?」
「ああ。お前今なんかやってんの?」
「いえやってませんけど……」
「おっ、じゃあちょうどいいじゃねえか!」
青木が嬉しそうに猛火の肩を叩く。
「俺が働いてるラーメン屋、まだ人募集してんだよ。よかったら紹介してやるぜ」
「ありがとうございます。でも大丈夫です」
「遠慮すんなって。店長には俺から話してやるからよ」
「いえ、本当に大丈夫です。バイトする必要がないので」
「……必要がない?」
青木と木村が揃って首を傾げた。
「お前、ボクシングだけで食えてんの?」
「いえ生活費は親に出してもらってます」
「あー、なるほど」
そこまでは二人も納得した。まだ高校生の年代なのだから、親に養ってもらっていても何もおかしくはない。だが話を聞いていくうちに――。
「……ちょっと待て」
木村が話を止めた。
「お前ん家、もしかして金持ち?」
「そうですね」
「どのくらい?」
猛火が答える。青木と木村は顔を見合わせた。
「…………」
「…………」
そして――。
「お前、ボンボンだったのかよ!!」
「ていうか俺でも知ってるぞ、本郷ホールディングスって!」
「青木でも知ってんのかよ!」
「どういう意味だテメェ!」
「そのままの意味だよ!」
「テレビでもCMやってんだろうが! 俺だってそれぐらい知ってるわ!」
「そうなんですか?」
「お前が知らねえのかよ!」
思わず二人揃ってツッコんだ。自分の家の会社だというのに、当の本人が一番興味なさそうなのだから困る。
「なんで今まで黙ってたんだよ!」
「聞かれなかったので」
「そりゃ聞かねえよ!」
ジムに来れば誰よりも練習している。服装だって別に派手じゃないし、本人も金持ちであることを鼻にかける様子など一切ない。まさかそんな家の人間だとは思わないだろう。
「いやー本郷!いや、本郷君!」
青木がすかさず猛火の肩を組む。
「俺は前々から、お前は将来有望な男だと思ってたんだよ」
「おい離れろ、急に金の匂い嗅ぎつけてんじゃねえよ」
「うるせえ!これは人生の先輩後輩の親睦だ!」
「さっきまでラーメン屋紹介してやるって言ってた奴が!」
「いいじゃねえか!なあ本郷、今度なんか奢ってくれよ!」
「いいですよ」
「いいのか!?」
「お前も簡単に了承すんな!」
ひとしきり騒いだところで、木村がふと思った。
「……でもさ」
「あ?」
「本郷ん家、そんな金持ちなんだろ?」
「はい」
「だったらお前――」
木村は首を傾げる。
「なんでボクシングなんてやってんだ?」
青木も「ああ」と声を漏らした。言われてみればそうだ。金に困っているわけではない。今までの付き合いで分かるが喧嘩が好きなタイプでもない。ボクシングで一発当てて人生を変えたいわけでもない。むしろ、そんな危険なことをしなくても将来は約束されていそうな人間だ。
それなのに毎日ジムに来て、誰よりも練習して。あの鷹村に何度ぶん殴られても次の日にはまたリングに上がっている。
「確かにな。お前なんでそこまでしてボクシングやってんの?」
「世界チャンピオンになるんです」
猛火は迷うことなく答えた。
「いや、お前の目標は知ってるけどよ」
青木が苦笑する。
「なんでそんなに世界チャンピオンになりてえんだって話だよ」
「…………」
猛火が少し黙った。
「例えば、憧れてる選手がいるとかか?」
青木が言う。すると木村がいやいやと手を振った。
「もしかしたら好きな女に『世界チャンピオンにならなきゃ結婚してあげない』とか言われたのかもしれねえぞ」
「なんだよそれ。どんな女だよ」
「分かんねえだろ。金持ちの世界じゃそれぐらいあるかもしれねえ」
「ねえだろ」
「世界チャンピオンにならなきゃいけないんです」
不意に猛火が言った。青木と木村が口を閉じる。冗談を言っているようには見えなかった。猛火はただ真っ直ぐに二人を見ていた。
「……なりたい、じゃなくて?」
「はい。ならなきゃいけないんです」
「…………」
「…………」
二人は顔を見合わせた。その言葉の意味はよく分からない。何か理由があるのかもしれない。だが、猛火自身がそれ以上話す様子もなかった。
「……変わってんな、お前」
結局、青木はそう言って笑った。
「まあいいんじゃねえの。世界チャンピオン」
木村もそれ以上は聞かなかった。
「何ができるかは分かんねえけどさ、俺たちも協力するぜ」
「そうそう、お前には色々世話になってるしな」
「ありがとうございます」
「おう!」
青木は猛火の肩を叩く。そして何か思いついたように、ニッと笑った。
「よし!じゃあまず俺のラーメン食いに来い!」
「ラーメンですか?」
「おう!金持ちのボンボンのお前でも食ったことねえくらい美味いラーメン俺が作って食わせてやるよ!」
「お前まだ客に出せるようなラーメン作れねえだろうが!」
「これから作れるようになるんだよ!」
「じゃあ作れるようになってから誘えよ!」
「うるせえ!すぐだから待ってろ!」
二人の言い争いを見ながら猛火が笑う。いつの間にか、先ほどまでの妙な空気は消えていた。
「楽しみにしてます」
「おう!任せとけ!」
「だからまず、客に出せるようになれって!」
side 鴨川会長
鴨川は険しい顔でリングを見つめていた。リングの上ではいつもの二人がスパーリングをしている。鷹村の拳を受けながら、それでも前へ出て拳を返す猛火。
いつもの光景ではある。だが、だからこそ鴨川には気になることがあった。
(……こやつ、本当に身体は大丈夫なのか?)
鷹村とのスパーはもはや日常といってもいいほどだ。それ以外の練習量も多く、休んでいるところをほとんど見たことがない。
たまにふらっと何日もジムに来なくなることはあるが、それを除けば常に何かしら身体を動かしている。当たり前だが鴨川は練習熱心な選手は嫌いではない。
むしろプロとしてボクシングに生きる以上日々の鍛錬を怠らないのは当然のことだと思っている。だが、それにも限度というものがある。
いくらなんでも身体を酷使しすぎているように見えた。スパーを終えリングから降りてきた猛火に鴨川が声をかける。
「本郷、身体をちょっと見せてみい」
「はい?」
鴨川は猛火の肩に手を置いた。首、肩、腕。筋肉の張りを確かめ先ほど鷹村の拳を受けた箇所にも触れる。
「ここは?」
「大丈夫です」
「こっちは?」
「痛くないです」
肩を回させる。肘を曲げ伸ばしさせ身体も捻らせる。だが、どこにも動きに不自然なところはない。
(……これは)
鴨川の表情が変わった。あれだけ身体を酷使しているはずなのに筋肉に妙な強張りがない。関節の動きも滑らかで、可動域も十分にある。腫れや熱を持っている箇所も見当たらない。そして何より――身体が柔らかい。
ただ筋肉がついているだけではない。必要な時には力を込めそれ以外では余計な力を抜ける。衝撃を受けても、身体全体で受け流せる柔軟さがある。
(なるほどのう……)
鴨川はようやく手を離した。
「うむ。本当に大丈夫なようじゃな」
「大丈夫です。問題ありません」
「自分では気づかん怪我もある。確認しておくに越したことはないわい」
そう言いながらも鴨川は内心で舌を巻いていた。頑丈なのだ。単純な打たれ強さだけではない。柔軟性があり、これなら疲労も残りにくいだろう。
これまであれだけの練習を続けながら翌日には何事もなかったように動いていたことにも納得がいく。
(こやつ……元々、故障しにくい身体を持っておるのか)
だが――。
「頑丈だからといって無茶をしていいわけではないぞ」
鴨川の声が少し低くなる。
「ボクサーが練習するのは当たり前じゃ、強くなるために練習する。それは何も間違ってはおらん」
猛火は黙って聞いている。
「じゃがな、おぬしらが練習するのは――試合のためじゃ」
どれだけ走ったか。何発サンドバッグを叩いたか。何ラウンドスパーリングをしたか。積み重ねた練習は確実に力になる。
それだけやってきたという事実が自信となり苦しい試合の中で最後の一歩を踏み出す力になることだってある。鴨川自身それを否定するつもりなど毛頭ない。むしろ誰よりも信じている。
だが――。
「ボクサーは練習量を競っておるわけではない」
猛火が鴨川を見る。
「相手の倍練習したから勝てる。誰よりも練習したから負けん。ボクシングはそんな単純なものではない。どれだけ練習を重ねた者でもリングの上で敗れることはある」
そして、いくら強くなったところで。試合当日に疲労を残し満足に拳を振るえなければ意味がない。
「練習することだけがボクサーの仕事ではない。試合の日に、自分の持っておる力を出せるよう身体を整える。それも立派な仕事じゃ」
「……はい」
「ましてやおぬしは少々やりすぎじゃ。身体が頑丈なのをいいことに無茶を続ければいつかツケが回ってくるぞ」
「分かりました」
素直に頷く猛火に鴨川も一つ頷いた。
「ならばよし」
そして、思い出したように続ける。
「それと本郷、ちょうどいい機会じゃから伝えておく」
「はい?」
「次の試合が決まったぞ。詳しくは後で八木ちゃんに聞いてくれ」
「分かりました」
「次の試合がある、それを忘れるな」
鴨川は猛火の肩を軽く叩いた。
「強くなることに夢中になって、試合に負けたら本末転倒じゃからな」
「はい」
素直に頷く猛火を見て鴨川も頷き返した。練習熱心なのは悪いことではない。むしろ指導者としては喜ぶべきことだ。
だが――練習すればするほど強くなっていく。そんな実感を持つ者ほど止まれなくなることがある。
(休む勇気も覚えねばならん)
それもまた長くリングに立ち続けるために必要なことなのだから。
◇ ◇ ◇
猛火との話を終えると、鴨川はリングの方へ振り返った。
「鷹村!」
「あ?」
タオルで汗を拭いていた鷹村が面倒臭そうに振り返る。
「なんだジジイ!俺様に今さら練習のペースがどうだの言うつもりか?そんなもん分かってるぞ!」
「違うわい!ちょっと来い!」
「なんだよ」
ぶつくさ文句を言いながらも鷹村は鴨川についていく。他の選手たちから離れ二人は地下へと降りた。
「で、なんだよジジイ」
「本郷とのスパーのことじゃ」
「あいつがどうかしたか?」
「おぬし――どの程度の力でやっとる?」
鷹村が眉を上げた。
「あ?」
「本郷とのスパーじゃ。どの程度、本気でやっとると聞いておる」
「そうだな……」
鷹村は少し考える素振りを見せるとあっさり答えた。
「三割ってところかな」
「…………」
鴨川は黙って鷹村を見る。
「なんだよ」
「……ふん」
(強がりおって)
三割。そんなわけがない。鷹村を見てきた鴨川には分かる。もちろん本気で倒しにいっているわけではない。だが、本郷を相手にしている時の鷹村は明らかに違う。本郷の力がそれだけの力を鷹村から引き出しているのだ。
「なんだその顔は!三割っつったら三割だ!」
「分かった分かった」
「絶対信じてねえだろテメェ!」
「それより鷹村」
鴨川の表情が再び真剣なものに戻る。
「おぬしから見て、本郷の身体はどうじゃ?」
「身体ぁ?」
「何度もおぬしと拳を交わしておる。それだけではない普段の練習量も多い」
鴨川は先ほど猛火の身体を確かめた時の感触を思い出す。
「あれだけの練習をこなしておきながら、身体に全くガタが来ておらん」
「ああ。それは俺も前から思ってたぜ」
鷹村も珍しく素直に同意した。
「もし身体の頑丈さってのも才能に入るんなら――あいつの一番の才能は、そこなんじゃねえのか?」
「……おぬしもそう思うか」
「何度かあるんだよ。あいつを殴った後にちっとやりすぎたかって思ったことがな」
鴨川が眉をひそめる。
「おぬし……」
「なんだよ、わざとじゃねえぞ!」
鷹村は面倒そうに頭を掻いた。
「最初の頃なんか特にな。あいつこっちが思ってるより踏ん張りやがるからな、ついつい力が入っちまうんだよ」
それでも猛火は立ち上がった。スパーが終われば多少ふらつくことはあっても、しばらくすればいつも通りに動き始める。翌日になればまた何事もなかったかのようにジムへやって来た。
「最初は意地張ってんのかと思ったけどよ。どうもそうじゃねえ」
鷹村は腕を組む。
「あいつ、本当に平気なんだよ」
「……うむ」
鴨川もそれは先ほど確認したばかりだった。
「あの連打でもねえ。覚えの早さでもねえ。パンチ力でもねえ」
鷹村がニヤリと笑う。
「あいつの一番おもしれえところは、どんだけ鍛えてもへばらねえ、どんだけ殴っても次の日にはケロッとしてやがる――あの身体なんじゃねえかってな」
「……なるほどのう」
鴨川は腕を組んだ。技術は教えられる。筋力も、スタミナも、鍛えることで伸ばすことができる。だが、生まれ持った身体の強さだけは、そう簡単に手に入るものではない。
あれだけの練習量に耐えそれを積み重ね続けられる。それもまた、立派な才能なのだろう。
「まあ――」
鷹村が鼻を鳴らした。
「その打たれ強さってやつだけなら、もしかしたら俺でもあいつに負けてるかもしれねえな」
「ほう……」
鴨川が僅かに目を見開く。鷹村が自分より上かもしれないと口にする。そんな言葉は、鴨川も初めて耳にした。
「おぬしの口からそんな言葉が出るとはのう」
「まあ俺はあいつみてえにボコボコ殴られたことねえからな、本当にどっちが上かは分かんねえけどな!」
「…………」
「比べようがねえんだよ。俺様打たれねえから!」
「……少しでも感心したわしが馬鹿じゃったわ」
「なんだよ!事実だろうが!」
鷹村はケラケラと笑う。
「それにな――俺様には必要ねえ才能だ!」
「……何?」
「打たれ強えってのはそりゃ立派な武器だ」
鷹村の口調から、ふっとふざけた調子が消えた。
「けどな、どれだけ打たれ強かろうがダメージがなくなるわけじゃねえ。パンチなんざもらわねえに越したことはねえだろ」
それは鷹村なりのボクサーとしての考えだった。打たれても立ち続ける強さは確かにある。
だが、最初から打たせない強さもまた存在する。鷹村は自分の拳を突き出し不敵に笑った。
「俺様はパンチを貰うことがねえ!だからそんなモンが必要になったことがねえんだよ!」
「…………」
先ほどまで感心していた鴨川の顔からすっと表情が消えた。
「少しはまともなことを言うようになったと思えば……」
「なんだよ。間違ったこと言ってねえだろ?」
「ならばワシが必要だと教えてやるわい!」
「いでっ!?」
鴨川の杖が鷹村の頭を打つ。
「いでっ!ちょっ、やめろ!」
「ほれ!打たれ強さなど必要ないんじゃろう!」
「ボクシングの話だろうが!杖は関係ねえだろ!」
「うるさい!さっさと練習に戻らんか!」
「なにしやがんだクソジジイ!呼び出したのはテメェだろうが!」
地下に鷹村の怒鳴り声が響いた。
えー前書きにも書かせてもらいましたが全然話が進んでおりません
作中でスキルについてちょこっと説明して次行こうと思ったらキャラ視点が長くなりすぎてこうなりました
本当に申し訳ない(メタルマン)
次回はもっと巻きで行く予定なので許して
それとこの場を借りて読んでいただいてる方、感想評価をしてくれた方、誤字報告していただいた方本当にありがとうございます!