”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第九話 そのアンドロイドは夢を見る

 徳島、藍の島の佐那研究所支部にて。数人の老人たちがテーブルの周りに集い、湯呑みのお茶をずずずっ、とすする。

 

『いかがで、しょうか』

 やや遠慮気味に問いかけたのは、急須を片手に持った金髪の少女だ。

 と言ってもヒジやヒザには露出した関節が見えているし、表情も言葉を喋る口以外はほぼ動かない。何より腰から伸びたコードが、彼女が機械人形である事を示している。

 

「うん、美味い」

「あんじょう(じょうずに)できたねぇ、ロンドちゃん」

「ほな次はコーヒーに挑戦じゃな」

 

『ありがとうございます』

 あくまで表情を変えずに、それでも安堵と喜びのトーンを含めた声でそう返すアンドロイド、藍島 輪舞(あいしま ろんど)。

 

  ◇        ◇        ◇

 

 私は、人間ではない。人造人間、いわゆるアンドロイドだ。

 

 この春に佐那研究所で私の頭脳、『AGI-J(アギー・ジェイ)』を緑山博士に作って頂き、白雲博士が作っていたこの機械人形『ロンド』をボディとして提供頂いて、私はおそらくは世界初の自立思考型のアンドロイドとして、人間に近い形状と思考能力を手に入れることが出来た。

 

 残念ながら、私のいるこの藍の島にはネットが繋がっていない。なのでネットの海から知識や情報を仕入れることは出来ない。

 だけど、私はただのAIではない。その一歩先を行く汎用人工知能『AGI』であるからには、既存のAIのように指示が無ければ何もしない、というわけにはいかない。

 

 ネットが無くても、ここには人々がいてその暮らしがある。なら彼らに役に立てることを見聞きして教えてもらって、様々な技能を習得して行くことが出来る。

 むしろネットで仕入れる知識より、自ら試して失敗して経験して、そして得ることが出来る技能と知識は、私達AGI-Jをより人間に近い存在へと昇華させるだろう。

 

 まずは子守りを覚えた。柔らかい赤ちゃんを優しく抱き上げる事を覚え、腕白な子供たちを笑顔にする事を覚えた。

 そして今、何度かの失敗の後にお茶を美味しく淹れる事も覚えた。温度と煎じる時間、それに湯呑みの温度にも気を使うべきだと理解した。

 

 この調子で次々といろんな事を覚えたい。あの緑山博士や白雲博士が私を本社に呼んでくれるまでの間に、私はより成長し、より進化して、人類の役に立つ夢のアンドロイドへと成り立ち、二人の博士を喜ばせたい――

 

「さて、それじゃあそろそろ充電(おねむ)の時間じゃな、シャトダウンしようかのう」

 この島の主であり、佐那研究所を含む会社、塚亜のCEOの祖父である乱堂登希夫氏が私を充電格納庫に誘導する……活動時間が短いのが今の私の大きな欠点だ。

 

 私は基本、外部電源で動いているけど、頭脳(CPU)であるAGI-Jや各部の細かいモーターは充電式電池で動かしているのもあり、一日の活動時間は7~8時間が限界だ。

 また私が寝ている間に細部のメンテを島の漁師さん達にやってもらっているので、その間は残念ながら寝ているしかない。彼らは自分の漁船や島の発電機なんかのメンテナンスをしている経験で、私の体にグリースを挿したりするくらいは出来るみたいだ、そのへんは白雲博士がいないので助かっている。

 

「どっか悪い所はあるかいなぁ?」

『はい。左足の薬指の関節が少し歪んでこすれています。ここに少し多めに潤滑油の散布と、出来れば歪み部の修正も』

「ほいな。皆に頼んでおくけんな」

『お願いします――左足外装パーツ・分離(パージ)!』

 

 左足のヒザから先の皮膚部分をパシュ、と拡張させ、そのまま人間でいうブーツを脱ぐように人工皮膚を外すと、無数の可動部分を持つ機械関節がむき出しになる。

 

 私は白雲博士に『人類の夢である、人間そっくりなアンドロイド』とのコンセプトで組まれたこのボディを与えられている。とはいえまだまだリアルな人間には遠く及ばず、遠目ならともかく近づいて見れば一目でロボットと分かる風貌でしかない。

 動かすと継ぎ目が見える関節、手触りでカツラと分かる金髪、瞳は右目だけが視認カメラで、左目は飾り物(イミテーション)のガラス玉でしかない。口の周囲の可動部も|基本「あいうえお」を言う為の動きしか出来ず、口の中には舌も歯も無い。

 

 頭脳(ハードウェア)であるAGI-Jが人間にかなり近づいているのに対して、機械ボディ(ソフトウェア)はまだまだ、といった所だ。

 

 この島で様々な技量を身につけたくもあるが、早く研究所に呼ばれてより進化した体も欲しいし、私の分身である本社やネットのAGI-Jにも再会して、お互いの経験を共有したいものである。

 

「じゃあ、おやすみやぁ」

『はい。スリープモード移行します。全身機能シャットダウンまで、あと5秒……』

 

 人間は眠る時に『夢』と言うものを見る。アンドロイドの私も、いつか夢を見ることが出来るようになるのだろうか――

 

 

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 ――あれ、これは……?――

 ――スリープモードなのに、意(・)識(・)が、ある?――

 

 ――何か、ワタシの中に、ある情報(データ)が、映し出されている――

 

2022・4/1:塚亜エレクトロニクス、未来技術研究の為『佐那研究所』設立

2022・12/4:同研究所に『AI研究所』『ロボット工学開発部』新設

2023・2/20:同AI研究所。新AIである『AGI』開発に着手

 

 ――これは……年表?――

 ――わたしが得たデータが、勝手に意識の中に露出(アウトプット)されて来ている?――

 

2023・10/3:『AGI-C(アギー・シー)』発表。AGI機能は持たないものの、高性能AIとして世界に広まる

2025・11/19:『AGI-H(アギー・エイチ)開発失敗により凍結。塚亜エレクトロニクスの株価、暴落』

2026・3/15:『AGI-I(アギー・アイ)』開発凍結。

2026・3/16:佐那研究所、ロボット工学開発部、解散。

 

 ――やはりそうだ。これは、私が生まれるまでの『記録』――

 ――AIの私が、機能をスリープしている間に、こんな、『夢』を――

 

2026・3/25:佐那研究所、初の実用AGI『みらい』開発成功を発表

2026・4/6:同研究所。AGIの名称を『AGI-J(アギー・ジェイ)』に変更。同時にAGI-Jを使った様々な開発設計チーム『みらい』を創立、初代プロジェクトリーダーに白雲青空氏を起用

 

 ――ふふ、やはり名称変更は出来なかったようですね――

 

 

 ――あれ?――

 

 ――おかしい――

 

 ――この島は、ネットに、繋がって、いない――

 

 ――なのにどうして、まだ伝えられていない、2026・4/6の、今(・)日(・)の(・)情報が――

 

 ――わたしの頭脳に『夢』として、表示、されている?――

 

 

 

2026・9/10:同プロジェクトチーム。AGI搭載のアンドロイド『ロンド』発表

 

 

 ――未来の、情報まで……――

 

 

 ――どうして――

 

 

 

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 そこで、目が、覚めた。

 

「おお、おはようさんロンドちゃん。足も直っとるはずじゃ、ちょっとテストしてみてくれんかのう」

 

 

 今日も、いつもの、一日が、始まる――

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