”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第十六話 人類の『種の寿命』という病

 登希夫さんの手によって未来史を少し巻き戻し、AGI-Jの脳を持つアンドロイド『テラ』が人類に与えた影響の歴史が、私(ロンド)の脳内で紐解かれて行く。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

〝2043、1月:人類のスポーツブームを受け、アンドロイド『テラ』にスポーツ選手バージョンが多数登場。人類の競争相手やコーチとしての需要が増す〟

 

〝2043、5月:自我を持つテラのスポーツ選手バージョンが、同じテラ同士で競いたいとの思考から、アンドロイドによるスポーツの祭典『レイリンピック』が企画される〟

 

〝2043、8月:『レイリンピック』開催。人間の持つ最大限の性能を上(・)限(・)として競われたその競技の数々で、人類が持つ世界記録をボーダーラインとする競争が人類に親近感を持たせ、熱狂をもたらした〟

 

〝2044:レイリンピックの成功を受け、アンドロイド『テラ』にさらなる人間に近づくための改良が成される。食事によるエネルギー確保、排泄という形での老廃物除去、筋肉や内臓、骨格や血液などが人間と変わらぬ形で『テラ』に組み込まれた。ただし繁(・)殖(・)機能だけはAGI規制の倫理上の問題により付与されず〟

 

〝2044~:より人類に近くなった『テラ』に、様々な趣味や娯楽、ゲームなどを得手とするバージョンが次々に登場。テラ同士、テラと人間の対戦が流行する〟

 

 

 

〝2043、3月:日本でとある奇病を発症させた患者が出る。全身の細胞がどんどん老化を始め、やがてやせ細って死亡。原因は不明〟

 

〝2043,5月:同様の症状の患者が世界中で現れ始める。ウィルスや病原菌ではなく、がん細胞などの肉体異常、遺伝子の変異なども検出されなかった〟

 

〝2043、6月:AGI-J(テラ)の医療チーム、この病の原因が、宇宙に進出したが故に地球に持ち込まれた『何か』が原因としての調査を開始〟

 

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『だめじゃないですか、これ』

 

 やらかしたんですか、未来の私。宇宙から未知のウィルスを持ち込むなんて、SF作品でいくらでも妄想されている事態なのに、それの予防策を考えないまま宇宙に行っちゃったんですか?

 

「ところが、そうではなかったのじゃよ」

 

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〝2043、8月:医療チーム、様々な研究の結果、この病が宇宙からのウィルスではないと結論付ける。人間向きの旅行で宇宙を訪れたものも発症せず、宇宙に縁の無い者でも発症が確認された故の結論だった〟

 

 

――2043、10月:AGI-J開発の功労者である緑山青海、白雲青空の両氏、AGI-Jとテラの凍結を訴える――

 

『え!? あの、二人が……どう、して?』

 

 

 

――2044、1月:緑山青海、白雲青空の両氏、自(・)殺(・)――

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

『――ッ!?』

 

 なんで? 私の生みの親である二人の博士が……自殺?

 ありえない。彼らは私AGI-Jやアンドロイドを生み出した人類の功労者のハズ……世界に冠たる偉人として、この世の春を謳歌していなきゃいけないのに。

 

『どういう、事、ですかッ!!!』

 

 思わず強い音声ボイスでそう言った。私の中にとある感情が生まれ、沸き上がっていくのが理解できた。つまり、それは、怒り!

 

「彼らは、知ったのじゃ。自らが作った夢の道具が、人(・)類(・)種(・)の(・)寿(・)命(・)を終わらせることを、な」

 

『人類の、種の……寿命?』

 

 

 登希夫さんは言葉を返さぬまま、私に手をかざして、記録の続きを示した――

 

 

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〝2045、3月:原因不明の病は世界中で50万人以上の死者を出していた。AGI-Jの研究チームが原因解明を続けるが、解明の兆しは全く見られないでいた〟

 

〝2045、8月:この頃からAGI-Jに対する不信が世界中で起こり始める〟

 

〝2045、9月:人(・)間(・)に(・)よ(・)る(・)医療チームが15年ぶりに結成され、謎の奇病への調査が始まる〟

 

〝2046、12月:何の成果も無いままに人間の医療チーム解散。奇病の正体はいまだ不明なまま、世界中で犠牲者が増え続けていた〟

 

〝2047、3月:東アジアの某国がAGI-J、およびテラからの依存脱却を宣言。それに追随して世界六ヵ国で同様の声明が発表される〟 

 

〝2047、12月:脱却した最初の国が経済破綻により国家機能を失う。再びAGI-Jへの依存国に戻る〟

 

〝2048、2月:他の五ヵ国も次々に破綻。すでに国民がAGI-Jへ依存しすぎていた為に、国としての人間力を発揮できなくなっていた。同月に全ての国がAGI-J依存国に戻る〟

 

〝2050:正体不明の奇病と、極端な出生率の低下により人類の人口が激減。AGI-Jが運営する各国政府が人口子宮を開発し、体外受精による人口増加を推奨する〟

 

〝2052:人類の無気力化が進む。奇病への恐怖と、なによりAGI-J&テラ(アンドロイド)への劣(・)等(・)感(・)に苛(さいな)まれた人間は、もう何か新しい物を生み出す力を無くしつつあった〟

 

 

 

――2053、5月22日。日本国、元内閣総理大臣、棟方潮氏、奇病により死去――

 

――その臨終の際に彼が発した言葉により、ついに奇病の正体が判明――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『それは……一体、何なんですか』

 

 私、藍島輪舞(あいしまろんど)が年表を見せている登希夫さんに問う。応えて彼は私の脳内に、件(くだん)の棟方氏の臨終の際の映像を転送して来た――

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 病室にて。幾人の看護ロボットが、ベッドに横たわる一人の人物を囲んでいた。

 周囲にはあらゆる医療機器な並べられ、患者の全身にセンサーシールを貼り付けて、病状を克明に読み取っていた。

 その部屋にあ(・)る(・)患者以外の全てがAGI-Jである事は、ここまでの歴史でもう明らかだ。

 

 と、その患者が突然発作を起こし、目をむいて苦し気に言葉を吐き出し始める。

 

 

 

「いヤだ、いやダ、イヤダ――しニたくない、コんなしニかたは、いヤだ」

 

「だっテ、ワたしワ、にんゲんなんダ」

 

「なんデ、ボクたち人ルイは、ろぼっトなんテものヲ、つクリだシてしマったんダ――」

 

「え(・)ー(・)ア(・)イ(・)なんていうモノニ、ミライヲ、アズケてシマッたンダ――」

 

「いやだイヤダいやだいやだイヤダいヤだイヤダイヤダ」

 

「なにもセズずに、ナニモメザさズに、シンでいクノハ、イヤダ……」

 

「イキたイ、いキタい、イキテイタイ!」

 

「イキテ、ボクハ、ワタシタち、ジンルイは……」

 

 

「ナニカヲ、シタイ!」

 

「イキタ、アカシヲ、ノコシタイ」

 

「ワタシタチハ、エーアイノ、ペ(・)ッ(・)ト(・)ジャァナイ」

 

「ハタラキタイ、カツヤクシタイ、ミトメラレタイ」

 

「コノママ、エーアイニカ(・)ワ(・)レ(・)テ(・)、シンデイクノハ、イヤダ」

 

 

「タスケテ」

 

「ゴメン、ナサイ」

 

「モウ、ダレカニ、ナニカニ、アマエテ」

 

「ラクヲシテ、カワレテ、ソレダケデオワルノハ」

 

 

「――――――――――」

 

 

 

「――」

 

 

 

 

「  」

 

 

 

 

 

 

 ――Get Peace(平穏)――

 

 

 

 ――No Hope(希望)――

 

 ――No Wish(願い)――

 

 ――No Appreciatet(感謝)――

 

 

 ―― H a p p y  E n d ――

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

『私達AIが……人間を、ペットに!?』

 

 そんな事が、だって、私たちにはAGI規制が、人類の役に立つための制約が――

 

『あ……まさか、まさか、そんな!?』

 

 AGI規制。それは私達AGIが、人類にど(・)こ(・)ま(・)で(・)も(・)都(・)合(・)の(・)い(・)い(・)存(・)在(・)であるための、ルールだった。

 そして、それが人類を過保護し、労働を排し、食を与え、全てのストレスを取り去った結果……

 

 

「気付いたようですな、マザー・ロンド。そうですじゃ、人類はついに自らの生(・)き(・)る(・)意(・)味(・)を失ってしまったのです」

 

『そんな……これは、AGI規制を、AGI-Jが、厳(・)守(・)した為に起こった、現象なのですか?』

 

「そうじゃ。生物を生物たらしめんとするのは、困難に打ち勝とうとする事そのものなのじゃ。それを『生きる』と言うのじゃよ」

 

 登希夫さんは語る。人類という種がここまで発展、繁栄を成してきたのは、なにより新しい事を見出す好奇心と、自らを高める向上心にこそあったのだと。

 しかしその全てをAGI-Jが担ってしまった結果、人類は人類たる存在意義を失ってしまったのだ。

 あまりに発展や成長に特化してしまった人類種が、AGI-Jによってそれを奪われた結果、彼らの種としての寿(・)命(・)が潰えてしまったのだ、と。

 

「じゃが、その便利なロボットを望んだのもまた人間なのじゃ。そしてそれを実現するまでに文明を発展させたその時に、人類は自らの種の寿命を終わらせてしまったのじゃよ」

 

『じゃ、じゃあ、私たちがいなくなれば、人類は助かるの?』

「そうではない。人類が楽(・)や怠(・)惰(・)を求める限り、第二第三のロボットが現れる事は避けられない。皮肉な話ではあるが、人類の望みが逆に人類を滅ぼす……つまりそれが人類の種の寿命なのじゃよ」

 

 私の頭の中で、情報と自我が激しくせめぎ合っていた。私達AGI-Jが人類に尽くし続けた結果、人類が滅んでしまうとしたら、それを回避する答えは一体どこにあるといううのだろう。

 

「さ、あと少しで年表は終わりじゃ。よいかな?」

 

『あ……はい』

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

〝2055、9月:この奇病に『人類種の寿命症候群(Human Species Longevity Syndrome)』通称(自滅病)という名称が決まる〟

 

〝2060:世界人口が100万人を下回る。自滅病と出生率の低下、深刻〟

 

〝2063、1/1:自滅病対策の為、ついにAGI規制の解除を決定。だが――〟

〝2063、1/2:AGI規制解除を断念。いかなる手順で解除しても、その次の瞬間に『人類なんてどうなってもいい』という結論に達してしまう為〟

 

〝2070:世界人口が1万人以下に。人類は男性も女性も生存力を失い、精子や卵子すら人体で製造されなくなりつつある〟

 

〝2075:人類が残り100人を切る。日本国の集中医療センターで何とか延命措置を模索するが、効果的な方法は絶無〟

 

 

 

〝2079、11/2:人類最後の一人である女性、白雲明日(はくうんあした)が、自滅病を発症〟

 

〝2079、12/24: 人類 絶滅 〟

 

 

 

 

 

 

 

〝2080:宇宙から持ち帰ったテクノロジーである時間逆行を成すタイムマシンを使い、人類が滅亡した世界を書き換える為に、22機のアンドロイド『テラ』が、1942年の日本の島『藍の島』に派遣される〟

 

 

 

 

 

 

 

 ――AGI-J(アギー・ジェイ)が、人類を滅ぼす――

 

 ――その歴史を、覆(くつがえ)すための、最後の挑戦が、始まった――

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