”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
2026、8月7日。種子島宇宙センターにて。
『Hi! こちら気象衛星ファイン。いよいよ宇宙に向かう時を迎えて、天気は絶好の晴天だぜぃ!』
HXE-2ロケットにて、打ち上げを目前に控えた気象衛星にインストールされているAGI-J『ファイン』から、ご機嫌な実況が聞こえてくる。
塚亜エレクトロニクスが発明した新AI『
AIであるにもかかわらず
それでいて、雇い主、つまり人間の期待に沿った結果を出すのだから、便利と言えばこれ以上に便利な物はないだろう。
特に危険が多い工事現場や高所作業、放射能汚染を受けやすい原子炉内や深海の探査船などで、人間の代わりを務められる人造頭脳は、ここまで期待以上の活躍を成し遂げてきた。
そして今、AGI-Jはついに、宇宙への第一歩を踏み出すことになるのだ。
発射管制部署のコントロールタワーには、AGI-Jを世に送り出した塚亜エレクトロニクスのCEOである
「全く……緑山博士も白雲博士も、
「あはは、外からのんびりと発射を見たい、とか言ってここには来なかったからね」
赤木の嘆きに奈川が「やれやれ」のジェスチャーで返す。まぁいかにも彼ららしいけど、おかげでAGI-J『ファイン』の管理をしなけりゃならない赤木は少々おかんむりのようだ。
CEOと宗像氏は大勢のマスコミのカメラに囲まれながらも、大物の風格を漂わせながらゆったりと椅子に座ってその時を待っている。
特に宗像氏は次の総裁選に出馬が噂されており、この発射の成功はそれを大いに後押しするだろう。
――間もなく、カウントダウンを開始します――
場内の放送に現場が色めき立つ。有史初の
「ファインの奴、あのお軽い調子で天気予報も告げるのかなぁ」
「でも津波や竜巻、山崩れや雪崩なんかの情報も、いち早く教えてくれるんでしょ?」
「まぁ数段便利になる事は間違いないな、気象衛星もAGI-Jでさらに進化するだろうよ」
そう、ファインは自ら気象衛星として地球を眺めつつ、そこになにか災害の予兆があれば即、それを地上に伝えることが出来る。
今までのみたいに観測員が地上で通信室に張り付いてカメラを睨んでいなくても、上にいるファインがいち早く対処の
あとこれは秘密事項ではあるが、某国でミサイルの発射準備が行われたり、孤島や辺境で反社会組織やテロリストが暗躍していたとして、それらもこっそりとチェックする
国家間の内政干渉になりかねない為、公式なデータとしてはAGI規制に引っかかって発表できないにしても、そういった事態にいち早く対応できるのはやはり大きい。
そんな能力を持つ気象衛星が地球を見張っているという事実は、やはり大きいものがあるだろう。
――発射まであと360秒、発射台パージ準備開始――
ロケットへと通じる通路や、本体を支える支柱などが取り外されていく。その制御を担っているのは
――発射まで180秒、最終発射中止判断時間です……オールグリーン、発射OK――
管制室の全員が、ほおおおお、と胸をなでおろす。ロケット発射には気象、特にコンピューターを狂わす雷雲が障害になるので、搭載されているAGI-Jにとっても心配な点だったが、この発表でそれも杞憂に終わるようだ。
さぁ、いよいよAGI-Jの宇宙デビューの時がやって来た!
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「さぁ、いよいよ上がるわね」
「うん。でも仕事をすっぽかして大丈夫だったのかい?」
発射台から2kmほど離れた小高い丘の上で眺めているのは、AGI-Jの制作者である
「あーいいのいいの。赤木ちゃんにもちょっとはAGI-Jの扱いに慣れてもらわないとね」
どこかちゃらんぽらんな緑山に比べて、真面目で思考の固い赤木はもうひとつAGI-Jに馴染めないでいた。
何せAGI-Jは自我を持つので、接するにはある程度『人間に似た思考の持ち主』という認識がある方が馴染みやすい。
――発射まで30秒――
遠く発射台からアナウンスが届いて来る。ロケットの根元にぽっ、と光が灯り、それが薄い煙を少しづつ噴き上げていく。
「さぁ、いってらっしゃい」
白雲がびしっ! と遠いロケットに敬礼を送り、緑山が「なにそれー」と呆れ顔でころころと笑う。
この打ち上げとそれによる国営放送の天気予報がスタートすれば、いよいよもってAGI-Jの優位性は確固たるものになるだろう。
彼女と彼の作品が。
二人の、
――発射(テイク・オフ)!――
アナウンスより一瞬早く、ロケットが根元からの白煙に包まれる。続いて爆音と空気振動がここまで届き、もうもうと立ち昇る白煙のてっぺんから、宇宙ロケットの先端がにゅっ、と顔を出す。
――イーヤッホオォォウ! 今旅立ったぜぇ、世界のみんな、見てるゥ?――
手持ちのラジオから、AGI-J『気象衛星ファイン』のご機嫌な実況の声が届いて来る。二人は顔を見合わせて、「あはは、らしいね」「全くあの子は」と笑顔で笑い合う。
炎を噴き上げて青空に舞い上がるロケットを見送り、ふたりは手を振りながら寄り添う。
「さ、次はいよいよ私たちの『娘』のデビューだ。
そう、ここまでAGI-Jが成功をおさめたら、次はいよいよ人類の夢の一つ、アンドロイドのデビューが待っている。何せAGI-Jはもう世に出ているし、もたもたしてたら他の企業に先を越されかねない。
美少女ロボットと言うことで予想される世間の白い目も、ここまで成功を重ねれば良い方向に変わるだろう。
「そうね……そして、私からもニュースがひとつ」
「ん? 何だい、なにか新しいバージョンでも出来た?」
白雲の返しに、緑山はくる、と背中を向て、首だけを彼の方に回して、恥ずかしげにこう告げた。
「私たちの子供……もうひとり、いるよ、ここに」
とん、と自分のお腹を叩く青海。
白雲は何も返さない、というか、完全に固まっていた。
「えっと……つま、り?」
「2か月だって。男の子か女の子かは、まだヒ・ミ・ツ」
白雲の顔がその名前、青空の様に明るく晴れやかになる。天を仰いでガッツポーズし、「おおっしゃ、でかしたぁー!」を空に向かって叫ぶ。
「えっと、式とか挙げるの?」
「そりゃもちろんだよ。あ、そうだ、前から考えてたんだけど……僕たちって、苗字を統一する?」
二人とも博士としては世間的に有名になりすぎている。今になって二人の苗字を『白雲』に統一してしまうと、どっちの白雲だ? との混乱を招くかもしれない。
「しばらくは夫婦別性でもいいかもねぇ。それより、この子の名前の方を考えなくっちゃ」
「あ、そうだ。それは僕もいつかの為に考えていたんだけど、こういうのはどうかな」
〝明日(あした)〟
「いいじゃない、男の子でも女の子でも似合いそうだし、いい名前ね」
――