”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
第十九話 最新人型汎用アンドロイド『ロンド』デビュー
2026、9/10。
塚亜エレクトロニクス本社のイベント会場にて、新AIである
様々な提携会社が仕事や生活、防犯や娯楽の為の機器を発表し、見学に来ていた大勢の企業関係者や研究者、マスコミや親子連れの一般人まで、様々な人がその発明品を目にして感心し、新たな未来予想図を描き出していた。
そして、最後のトリに塚亜専属のプロジェクトチーム『みらい』の、ここまで秘匿されていたとっておきが発表される。
――さぁ、ヒト型自立歩行アンドロイド『ロンド』の登場です、どうぞ!――
そのアナウンスに会場全体がざわっ、と色めき立つ。誰もが妄想し、誰も実現できなかった人型ロボット、果たしてどの程度の出来なのか……?
と、舞台袖から一人の背の高い男性が、全身をギクシャクしながらの不自然な歩き方で登場して来た。その後ろから二人の女性がやれやれ、という表情で、
「なんだありゃー」
「人間がロボットのフリしてるだけじゃん」
「って、あれ
会場に少し冷めた笑いが起こる。
そう、ロボットのパントマイム歩行をしながら歩いて来たのは、今や時の人の一人、プロジェクトみらいの最高責任者、
やがて彼らが舞台中央に止まり、二人の博士が大勢のギャラリーに向き直る。残りの一人は二人の後ろに隠れるように控えている、アシスタントか何かなのだろうか。
「エー、ワタクシハ、エージーアイノロボット……デハアリマセン」
喋りまでロボットっぽくマイクに向けて喋る白雲に「わかっとるわい」「一瞬期待したわ」とツッコミが飛ぶ。
が、次の瞬間に両博士はアイコンタクトを交わし、マイクを受け取った緑山博士がすぅっ、と息を吸いこんで、大きな声で会場へ、その発表する。
「彼女が、わが佐那研究所・みらいプロジェクトの申し子、アンドロイドの『ロンド』ちゃんですっ!」
二人が左右に別かれ、後ろにいた金髪の少女が中央から前に出て来る。それは……少なくとも遠目に見た限りでは、どう見ても普通の可愛い少女でしか無かった。
『初めまして、皆様。私はAGI-Jを頭脳に持つアンドロイド〝ロンド〟。親しい方には〝
そう喋ってぺこりと頭を下げるロンド。観客たちはみな一様に「え、マジで?」「冗談だろオイ」と、戸惑いと疑惑を隠せないでいた。
『お約束ではありますが、はい』
そう言って自分の頭を掴んでカチャ、と首をひねり、そしてそのまま……
「「えええええええ----っ!!???」」
一気に会場が沸き立つ。一見するとごく普通の少女にしか見えない彼女が、なんと首と胴体を分離して持ち上げて見せたのだから。
「す、すげえぇぇ!」
「いや確かにお約束だけどさぁ……」
「確かに、首の中に機械が見える、マジでアンドロイドだよ、あの娘」
舞台上の大スクリーンに映し出される
首を戻し、カチリ、とロック音が響く。彼女は両手の平を下腹部に合わせて客席にかしこまり、無表情なままで言葉を次々と紡いでいく。
『私は佐那研究所謹製のアンドロイドとして生を受けました。AIはこちらの緑山博士に、この体はロボット担当の白雲博士に頂いたものです』
『御覧の通り、まだまだ機械然とした所はありますが、そういった箇所を消していけば、将来的には人間と見分けがつかないほどのアンドロイドになり得るでしょう』
『もちろん世界AI開発評議会(World AI Development Council)のAGI規制はバッチリ効いてますから、私や私の後継機たちが、皆さん人類に
『私は自立した自我を持つAGI-Jのアンドロイドとして、いままでのAI では不可能だった新しい提案やアイデアを様々に出し、それを実現するために能動的に動くことが出来ます。あ、でも犯罪や反社会的行為は出来ませんのであしからず』
様々に語られる彼女の性能や将来性に観客たちはすっかり夢中だ。さっきまで別の新製品を提示していた企業の面々まで、彼女に比べて自社製品のガッカリを通り越して、このアンドロイドの未来発展形に想いを馳せている。
それはプレゼンの後半に用意された質問タイムにてさらに熱を増す。
「すいぶんリアルに動いてますけど、全身の可動部分は今、何か所ありますか?」
『全身の関節部は人間には及ばない100か所ほどです。将来的には人間と同じ200か所に増やすか、または少ない関節でも人間と違和感ない動きを実現させるかでしょう』
「それだけ動かして、二足歩行を実現させているテクノロジーって一体?」
『あ、バランス機構とかそういうんじゃなくて、単純に
「じゃあ他に、何かを見ただけでそれを練習して習得できるってコト?」
『はい。でも人間に言われた事だけじゃなくて、私がこれをしたい、って思った事にもチャレンジしていってます。現在では自分の体のメンテナンス、子守り、釣り、阿波踊り、竹馬遊び、将棋やオセロ、チェスに囲碁なども習得しております』
「空を飛ぶとかできないの?」
『とりあえず、この腰からのコードを早く内臓バッテリーにしてほしいです。で、まずは縄跳びの習得からですね……飛行の夢への先は長そうです』
時に真面目に、時にユーモアを挟んで受け答えするロンドに、いつしか観客たちは彼女がロボットであるという認識が薄れて行く。
彼女ともっとコミュニケーションを取りたい、自分をアピールしたい、そして彼女に自分を認識してもらいたいという感情で接するようになる。
わずか1時間足らずの時間で、藍島輪舞は人間との距離を劇的に詰める事に成功したのだ。
◇ ◇ ◇
プレゼン大会が終了し、私、緑山青海は、(白雲)青空の運転する車で社宅への帰路につく。彼とはすでに同棲生活を始めており、輪舞ちゃんもより人間との距離を縮める意味で、島から帰還して以来はずっと同居を続けている。
「まぁ成果は上々、これで上もロンドのバージョンアップにOKを出すだろう」
『はい。高性能バッテリーを内蔵できれば、いよいよ縄跳びに挑戦できます』
ご機嫌に語る青空とロンド。元々彼女の体は青空によって作られていて、私のAIは頭脳として存在しているだけに、ロボットの
……まぁ、ロンドを初めて見た時が、あのラブホテルだったからねぇ。
「でも、どうしてAGI規制のバージョンアップをしないの? それに通信も遮断して、他のAGI-Jとの共有も拒んでいるみたいじゃない」
不思議と、貪欲に経験や知識を取り入れたがるはずのAGI-J搭載のロンドが、島から帰ってきて以来、他のAGI-Jとの接触を拒んでいるのだ。またAGI-J発表以降に厳しくなったWADCのAGI規制も、インストールを拒んでいるし……。
『先にお話した通り、私はあの藍の島で、データに頼らず自ら見聞きした経験だけで成長する事を覚えました、それを大事にしていきたいのです』
相変わらずの返事が返って来る。確かに私達が本社にいる間、この子は釣りや子守りなんていう、あの島の人たち独特の影響を受けて、普通のAGI-Jが覚えないようなことを学んで来ていた。
でも、そのついでに『人間らしいこだわり』みたいなものまで学習しちゃったんだろうか。
「
『今の私の容量には限界があります。ネットにつないで膨大な情報を仕入れれば、今までの記憶が上書きで消される可能性があります。それは嫌、です』
確かにネットで記憶を共有していない彼女の現状では、後から来たデータに容量を奪われたら過去の記憶は消さざるを得ないだろう。でも、好奇心こそが信条のAGIが、自我や自制心でそれを抑える、なんてことがあるのかしら?
「あはは、まぁいいじゃないか。AGIが『嫌です』なんて言うのは彼女がより完璧なアンドロイドの証拠だよ」
青空がご機嫌にそう返す。うーん何だか叱られている娘を父親が庇ってるみたいねぇ。
「青海もそろそろ産休に入るから、ロンドも彼女をよろしく頼むよ」
『はい、お任せください。赤ちゃん楽しみですね』
「ちょっとぉ、私がロンドちゃんに面倒を見られるみたいに聞こえるんですけど」
それ、主従関係が逆じゃないのコラ!
「あはははは、まずは掃除と洗濯を覚えないとな。あと料理も」
『お任せください。島で一通りは習得していますから』
「だーかーらー! 私が生活力ゼロみたいな言い方しないで!」
『……とりあえず、米を電子レンジで炊こうとしない所から始めましょう』
くっ、やはりこの二人……父と娘がグルになって私を攻め立てている気がする。お母さん悲しいわ。
「……ねぇ
とりあえずお腹をさすりながらそう反撃してみたら、何故か車内は爆笑になっていた。悔しいので私も笑い飛ばしてやったけどね。
でも、私も青空も、その時は知らなかった。この、藍島輪舞というアンドロイドが、その頭脳であるAGI-Jが……
悲壮なまでの、ある決意を胸に秘めている事に。