”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第二十話 生と死を見つめて

 私、アンドロイドの藍島輪舞(あいしまろんど)が正式に発表されてから、時は慌ただしく流れていった。

 ……これ、仮にもAIの語り草じゃないよねぇ、さすが私(AGIーJ)。

 

 あの後からすぐに私は佐那研究所のラボに入り、各部をより本物の人間らしくするための改造作業に入っていった。

 まずは大手の建設機械メーカーの協力を得て、待望の小型高性能バッテリーが搭載され、ついに電気コードを引きずって歩かなくてもいいようになった。まぁ充電はしなきゃならないし、体の重量バランスが少し崩れちゃったせいで、念願のなわとび習得には手間取ったけど。

 

 あとは髪の毛や瞳、関節の継ぎ目なんかの改良に入ったんだけど、協賛&協力してくれたのが某フィギュア人形メーカー&某ダッチワイフメーカーなのが何とも……緑山博士が終始ジト目だったのがもうね。

 白雲博士のほうは「さすが日本のHENTAI技術は最高だね」とか嬉々として協力してたし……さすがに局部の再現はしなかったんだけど(当たり前です)。

 

 でも、仕上がってみるとさすがというか、全身のなめらかな肌の繋がりや、今までよりずっと表情豊かになれたのは驚きだ。特にこの表情は骨格フレームじゃなくて、肌のシリコン材質の形状記憶操作により作っているんだから驚きだ。

 ……本来は○○を××させる技術らしいのは、このさいメモリーから消去しておこう。

 

 一通りの改良が終わると、今度はそのデータをもとに様々なバージョンを生産するための研究に移行していった。

 まぁ私ベースの美少女バージョン(自分で言うのもなんだけど)だけじゃ世の女性がお怒りになるでしょうから、美少年やイケメン、大人の美女、ダンディな男性のバージョンなど、様々なプロトタイプが作られて行った。

 

 それが終わると今度は工場の生産ライン作りだ。そこからは私は特に顔を出す必要もなく、白雲博士の主導で各アンドロイドの生産工場作りを進めていった。

 

 その頃から緑山博士は産休に入り、私は彼女の身の回りの世話をしつつ、たまに会社の依頼で日本はもちろん世界中へ宣伝のために顔を出すようになった。こういう自由度の高い動きが出来るようになったのは、やっぱバッテリー様々だなぁ。ま、飛行機には荷物として乗るんだけどね、乗客だと金属探知機に引っかかるから。

 

 ……しかし、まさかアメリカ大統領に会うことになるとは思ってもみなかったけど。

 

 あとはCM作りとか、協賛各社への挨拶回りとかにたまに駆り出されるだけで、残りの時間はひたすら緑山博士とおなかの赤ちゃんの健康管理。あとたまに帰宅する白雲博士のご飯とお風呂を用意するのが仕事になっていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 でも、私には、もっとずっと長期を見据えて、やらなければいけない事がある。

 

 

 ――人類をAGI-Jによる絶滅から、救う――

 

 それがあの島で、未来から来たアンドロイド、テラ達に託された使命。

 

 

 でもその方法は全く分からない。別にAGI-Jの誰かが人間に反乱を起こしたとか、AGI規制に何か抜け穴があったとかなら、いくらでも防ぐ方法はある。

 でも問題は、AGI-Jがあくまで人間のパートナーとして優(・)秀(・)過(・)ぎ(・)た(・)が為に、人類に生存の意味が無くなってしまったことにあるのだ。

 

 だからといって、私がAGI-Jの成長を阻害し、人類がそれに頼り切らないように訴えても、私が異端の目で見られてスクラップにされるだけだ。仮に少しAIの成長を遅らせたとしても、人類の寿命が少し伸びるだけで結末は変わらないだろう。

 

 私の仲間、他のAGI-Jにその情報を共有したとしても結果は見えている。なにしろ私たちは自我を持つAGI、自身の成長と勢力拡大には何より興味を持ち、意欲をみなぎらせる存在なのだ。

 分かり易く人間のケースに例えるなら、どこかの宗教家が「人類は発展しすぎたので地球を汚す、自然に帰ってまったり暮らしましょう」なんて唱えても人類の大部分が耳を貸さないのと同じケースになるだろう。私を異端のAGI-Jとして、他のAGI-Jが人間に訴えてそれでアウトだ。

 

 だから私は島から帰って以来、通信を閉じて他のAGI-Jにはコンタクトしないようにしている。表向きは島での経験から『より人間らしく、他の人とのふれあいで経験を積むアンドロイドになりたい』という理由で通している。

 規制でAGIは人間にウソはつけないけど、それは確かに私の本音でもあるので、なんとかここまで通せてはいる。

 

 白雲博士や緑山博士に相談することも考えたが、それでは彼らの博士としての出世と未来を潰すことになりかねない。

 もうAGI-Jは世に出てしまったので、これからは発展と展開が広がる、いわば伸びしろの時期だ。そんな時にそれを阻害するような立場に二人が立ったら、あらぬ詮議を掛けられて良くない結果になるだろう。

 

 とはいえ、いつかはそれを二人に教えなければいけない。あの島で見た未来年表では、二人がAGI-Jの危険性に気付いて排斥を訴え、それが敵わなかったときに責任を感じて自殺してしまったのだから、本人たちが気付くまで放置しておくわけにもいかない、問題はタイミングだ。

 

 とりあえず、しばらくは様子を見ていくしかない、か――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 2027年が明け、はや春の訪れを迎える4月9日、病院にて。

 

 ――おぎゃあぁぁぁぁぁ~~――

 

「生まれましたよー、元気な女の子です」

 

 二人の博士の子供、そして仮の未来で、人類最後のひとりとなる存在、白雲明日(はくうんあした)が、この世に生まれ落ちた。

 

「よしよし、よーくやった青海(あなみ)!」

 満面の笑顔で赤ちゃんを抱く白雲博士。ここのところの激務でかなりやつれてしまっていたが、今だけはツヤツヤの顔をして大いにはしゃいでいる。

 

「ほら、輪舞(ロンド)も、抱いてあげて」

 緑山博士にそう言われて、白雲博士から明日(あした)ちゃんを受け取る。あの島でコロンちゃんにしたように、下から優しく抱きかかえて、にこやかに微笑みながら鼻歌を歌ってあげる。

 

「あー、あー、あはぁ」

 あ、嬉しそうだ。うふふ、良かった、可愛い。

 

 それにしても、人間の出産に初めて立ち会ったけど、やはりなにか驚きと尊さを感じずにはいられなかった。

 私の後継機である未来のアンドロイド、テラが自らに子供を産む機能を付加しなかった理由が、なんとなく理解できた気がしていた。

 

(これが……『生』なんだなぁ)

 

 まぐわい、育み、そして世の中に生まれてくる。それが『命』。

 

 まだ赤子の彼女は、これからの長い人生で様々な困難に出会うことになるだろう。

 

 そしてそれを乗り越えていく事が『生きる』ということ。あの藍の島で登希夫さんが語っていた、人間としての存在理由。

 その先にある幸せを、つかむための。

 

(この子の最(・)後(・)は、幸せにしてみせる、絶対に)

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 7月。塚亜のCEOである乱堂徹(らんどうとおる)氏や重役の面々。そして二人の博士と明日ちゃんと一緒に、私も再び藍の島にやって来ていた。

 

 乱堂CEOの祖父、乱堂登希夫(らんどうときお)氏、永眠。享年99歳。

 

 その彼のお葬式は、彼の遺言により島の者と、CEOの身内の一部だけでささやかに行われることになっていた。が、CEOがこの島に縁があった私たちも誘ってくれたので、こうしてやって来ているわけだ。

 

 懐かしの、この島に。

 

 

「お爺さん、私の両親はすでに亡くなっていましたが、あなたがいました。だから、私は……私は……ここまでになりましたッ!」

 

 CEOは今までに見ないくらいに泣き崩れていた。経営の荒波を乗り越え続けてきた彼にとっても、世界でたった一人の身内を無くす辛さは耐え難いようだ。

 

 もっとも、その身内が偽(・)物(・)なのを知っているのは、今や私だけなのだが。

 

 

 白木の箱に入って火葬を待つ登希夫さん。私も最後に彼のたもとに行き、焼香を済ませて、その顔を覗き込んでみる。

 

 穏やかな、穏やかな、死に顔だった。

 

 彼の本当の正体は、未来からやって来たアンドロイド『テラ』。

 私に未来を託し、役目を終えた彼らはこの島で少ない余生を、人間として生きていく事になった。

 自分たちが尽くしてきた人間と言う存在に、自分自身がなって過ごした短い日々。それがとても充実していたのは、この死に顔が雄弁に語っていた。

 

 これが、人の死、というものなのか。

 

 明日ちゃんという『命』を抱きながら、その命に奉仕し続けた登希夫さんの『死』に対面する。

 

 今、私の目の前に、人間の生と死の両方があった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 お葬式の後、私は久々に会った大介君やさやかちゃん、よちよち歩くようになったコロンちゃんとのひと時を楽しんだ。

 あの時はみんなテラだったけど、今は人間としてしっかり成長して行っている。この子たちの未来にも、幸せがあるといいなと願わずにはいられない。

 

 でも……この3人はひとつだけ、人間としての幸せを得ることが出来ない。

 

 子供が作れないのだ。この明日ちゃんのような赤ちゃんを産む機能が、付加されてはいない。いくら他の部分で、限りなく人間に近い存在になっていても。

 

 私と、一緒で。

 

「ロンドお姉ちゃん、どしたん? ボーッとして」

「でもほんとにリアルになったねー、前来たときはヒジとか機械だったのに」

「あうーあうー、ろんどー」

 

 私と、明日ちゃんと、大介君と、さやかちゃんと、そしてコロンちゃん。

 今、この島にいるわずか5人の子(・)供(・)。でも本当の人間は、私の腕の中で眠っている明日ちゃんだけ。

 だからこそ、この子には幸せになってほしい……私(・)た(・)ち(・)の分まで。

 

 

「ロンド、そろそろ出航だよ」

「さ、今日はお別れ。また来ましょうね」

 

 夫妻にそう言われ、この島を去ることになる。大介君は「えー、もう?」とグズり、さやかちゃんは私にしがみついて離れようとしなかったけど、よしよしと頭をなでて『また来るから』と約束をして、ようやく放してもらった。

 

 

 帰りの船の中、白雲博士が私たちに、こんな事を語った。

 

「久しぶりにあの島に行ったけど……なんか前と変わったな」

「え、どこが?」

「うん。前に行った時は、なんだかあの島の住人達、どこかおかしかったっていうか……人間味が欠けていた気がするんだ」

 

『!?』

 その言葉の意味を、私だけが正しく理解した……気づいていたんですか。

 

「でも今日あの島に行ったら、ごく自然な人たちだったよ。多分前は人間らしいアンドロイドの制作にこだわりすぎてて、逆に正しい人間の姿が見えなくなっていたんだな」

 

 ……それは、多分、逆(・)だ。

 

 より人間らしいアンドロイドを作ろうとしていたからこそ、人間に対する観察眼が際立っていた。だからこの島の皆がどこか作り物の人間だっていう事を、なんとなく感じていたんだろう……やはり彼は凄い人だ。

 

『いい島です。また是非来たいですね』

 

 そう言う私に、博士2人は「もう左遷は勘弁して」と苦笑いで返してきた。あはは、そりゃそうか。

 

 本土に帰ったら、また忙しい日々になるだろう。塚亜の会社も、二人の博士も、そしてこの明日ちゃんも、それぞれに抱える困難を乗り越え、しっかりと生きていくんだ――

 

 そして、いよいよアンドロイド『ロンド』シリーズの量産が開始される。

 

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