”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
「ただいまー、
「……私と
『おかえりなさいませ』
3日ぶりに社宅に戻った僕、
「やれやれ……ようやく生産ラインの稼働にこぎつけたよ。某自動車メーカーの提携を取り付けられなかったのは痛かったなぁ」
アンドロイド『ロンド』の生産ラインの最終テストも無事終わり、いよいよ明日から最新AI、
といっても製造ラインそのものは自動車なんかと同じ流れ作業なんで、テスト結果が良好なら問題はなさそうだ。
「ただ、ねぇ。そのロンドに搭載されるAGI-Jの
そう。量産されるロンドは、男性タイプから女性タイプ、大人から子供タイプなど様々なバージョンがある。
つまりその頭脳になるAGI-Jにも、その肉体に応じた『性格』が必要になって来るのだ。
例えばウチの輪舞ちゃんと同じ美少女タイプのアンドロイドが、もしオッサンくさい思考の持ち主なら、彼女を所有することになるオーナーはさぞがっかりするだろう。
かといって昔のアニメなんかでよくある、全員が画一的な性格を持ち、同じような行動をするロボットなど何の面白みも無い。
第一、AGI-Jは自我を持つAIなのだ。ネットで意識や知識は共有しつつも、それぞれにちゃんとした個性があり、稼働時間の長さと共にそれはより顕著になっていく。つまりCPUにインストールされたAGI-Jのひとつひとつに、性格や個性がちゃんと存在するのだ。
「ウチの赤木ちゃんからも相談メールがひっきりなしね。
「というか稼働している生産ラインの各アームロボットのAGIーJも『私も作業機械じゃなくてアンドロイドになりたいです』なんて言い出すのが出る始末だからねぇ」
「うぇ、マジ?」
『……ありえる話です』
そう、自我を持ってしまった以上、それはもう道具ではなく人間に近い思考でモノを言ってくる。そこには欲求があり、ワガママがあり、そして個性の違いがあるのだ、管理する側にしてみればたまったもんじゃないだろう。
「すっかり人間が中間管理職ねぇ、
「あはは、確かにあの人なら適任かもだけど、いよいよ頭頂部が月面になりそうだな」
青海とそんな話をしていると、横から
『インストール前に性格を決めるのではなくて、出来上がってからロンドシリーズを〝教育〟してはどうですか?』
ふぅむ……面白いアイデアかもしれないな。
現時点での生産ラインでは、ロボットにAGI-Jをインストールするのは割と早い時期、頭脳部分が出来上がってすぐになっている。これは各部品の組み立てラインを流れながら、自身の完成度合や不具合を自分でチェックするためなのだが、その際にもAGI-Jはネットを介して様々な個性を構築してしまうだろう。
ならいっそ工場内でのAGI-Jの通信を遮断しておいて、外部からの知識流入を止めたうえでロボットとして完成させ、そこからボディに応じた性格になるように教育して行けばいいわけか。
メリットは肉体の見た目に応じた性格にしやすい事。
デメリットは生産途中の思わぬトラブルに対応しにくい事と、また完成した先で彼らを教育する現場、いわゆる彼らの『学校』のようなものが必要になって来る事だ。
「どのみち輪舞ちゃんみたいに立って歩いたり、いろんな動作を学習するのに練習は必要なわけでしょう? ならそのついでに、体にふさわしい性格もその際に習わせてみるのはいいんじゃないかしら」
やれやれ、またやることが出来てしまったみたいだな。まぁ人類の夢を実現させるんだから、めんどくさくてもやるしかないだろう。
「分かった。早速明日にでも、チームに提案してみるよ」
◇ ◇ ◇
翌朝、『みらいプロジェクト』の早朝会議にて。
「と、いうわけで製造ラインの最後に、各アンドロイドのキャラ付けのための部署を設けたいと思います」
せっかく色々なアンドロイドを世に出すのだから、見た目と性格が一致しないものなんて出したくはない。まぁ一部のギャップ萌えな人にはウケるかもだけど、それは販売して購入してもらった後に、持ち主に再教育してもらうしかない。
「なんだ……また追加要素かね。今でももうリリースがずいぶんと遅れているんだぞ!」
案の定というか、副所長の不満が真っ先に出る。まぁこの人はソレが仕事なんだから仕方ないか。
「何度も言ってますが、アンドロイドの量産には細心の注意が必要です。数知れぬSF小説、映画の悪夢の結末を現実で引き起こさないためにも、慎重を期さないと」
今のAGI規制は確かに、いわゆるAIパンデミックをしっかりと押し止めている。とはいえこれが『人間そっくりのロボットの
例えば帽子とロングゴート、マフラーとサングラスで体をすっぽり覆ってしまえば、普通の人間と見分けるすべはない。それだけの事で、ソレがAIだという認識はずっと薄れてしまうだろう。
そしてそれがただ立っているだけで、良くないことに使われている可能性もあるのだ。そういう事に対しての警戒心をロンド一体一体が持つことも大切な開発コンセプトになる。
何せロンドシリーズ発売後にロンドが何か犯罪を起こせば、その責任は作った自分たちにまるごと返って来るのだから、いくら慎重になっても慎重すぎるという事はない。
「改めて世界の有識者と、ロボットの体を取ったAGI-Jの危険度を検証してみる必要がありそうですね」
現在のAGI-Jの責任者、赤木さんもそう言って賛同してくれる。その言葉に副所長も「仕方ないなぁ」と突っ込んだ首を引っ込める。
あの二人、ひそかに愛人関係が噂されてるけど、案外マジなのかもしれないなぁ。
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2027、8/6:アンドロイド『ロンド』量産開始。
幸いにも大きなトラブルもなく、2~3日に1機のペースで生産が進んでいく。
仕上がった機体から歩行やボディにあった性格付けをAGI-Jに指導していく。といっても最初の一機が出来れば、あとはその機体が弟分、妹分たちを指導してくれるので大きな手間にはならなかったのだが。
そして翌2028、1月20日。トータルで200機出来上がった各種ロンドのお披露目会が開催された。
世界中から顧客となるお金持ちや企業の人間、そしてロボット工学やAIの研究者が大勢訪れ、完成したロンドたちとの直接の交流を行った……のだが。
ここで、とんでもない事態が発生してしまった。
交流開始してからほどなく、訪れた人間たちが次々と不快感や体調不良を訴えだしたのだ。我々社員や案内人には特に異常が無いので、空調や環境に問題があるわけではない。ロンドたちの応対もいつも通りで、ましてや光や電波でお客を攻撃してるはずもない、AGI規制が効いているはずだから。
「なんか、気持ち悪い……」
「人間に囲まれているのか、ロボットに囲まれているのか、分からなくなる」
「近くにいて安心出来ない、不安がせり上がってくるようだ……怖いよ」
まさか、これは……ロボット工学でいう『不気味の谷』っていうやつか?
結局その日は早々に中止し、顧客には重々お詫びを重ねての解散となった……我がみらいプロジェクト始まって以来の大失敗だ、
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3日後、CEOや重役、それにロボット工学の専門家たちを交えての緊急会議が行われた。
「やはり、いきなりは刺激が強すぎたんじゃないのかね」
「我々は普段から触れてますから慣れていますが、初見の方にはキツかったのでは」
「もう少しロボットらしさを残した方が良かったんじゃないかね?」
「逆だろう。徹底的に人間に寄せていれば、違和感なく接していたはずだ!」
意見は
〝不気味の谷〟
それはロボット工学で昔から囁かれてきた言葉。人類が極めてヒトに似たアンドロイドに最初に接する際、違和感や気持ち悪さを本能的に感じ取ると予測されたものだった。
それは単に似すぎている作り物という事にとどまらず、人類がロボットに取って代わられるという『生存の恐怖』を感じてしまうから起こりうる、と言うものだった。
過去の歴史においても、例えばホモサピエンスとネアンデルタール人の生存競争、近代においては白人と黒人の差別感情など、似て非なる種族間にはどうしてもこういった嫌悪感による
それが人間とアンドロイドという関係においても、同じ現象として巻き起こったのかもしれない。
研究家の未来予測では、『慣れれば問題なし』な見方が示されていた。しかし実際にこうしてアンドロイドが量産されてみると、より現実的な対処が求められてくる。特に当事者であるわが社、わがプロジェクトチームにとっては深刻な問題だ。
結局、ロンドの量産計画は一時凍結される事となった。完成したロンドは一時スリープモードになり、倉庫の一角で集団で眠ることになる。
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「どうしよう……どうすれば、いいんだ!?」
さすがにこの問題には頭を抱える。家に帰って家族の顔を見ても気分は晴れない……
AGI専門の青海にも、ロンドのプロトタイプである
仕方ない、これはロボットを作る立場である自分の仕事なのだから。
(……このままロンドの計画が頓挫すれば、自分の人生も会社の信用もすべて失うだろう。あれだけ周到に準備を進めてきたというのに、予想外の困難にぶち当たってしまった、何てことだ)
人類がアンドロイドに慣れるまで、どうやってこの問題を凌いでいくか……。
◇ ◇ ◇
アンドロイド、輪舞は考える。
これはチャンスではないのか。このままAGI-Jが発展し、アンドロイドが世界に広まればやがて人類を滅ぼしてしまう。
なら、ここでアンドロイド計画が頓挫すれば、人類は滅びずに済むのではないのか。少なくとも滅びの時期を、少しでも遅らせることが出来はしないか。
でも、そうすると引き換えに、白雲博士の破滅が待っている。私を生み出した母体である塚亜エレクトロニクスが、おそらくは倒産して多くの今まで出会ってきた人たちが路頭に迷うだろう。
論理的に考えれば、それは『大の虫を生かすために小の虫を殺す』という、必要最小限の犠牲で物事を納める正しい判断だ。
でも、それだけで割りきれないのが人間なのだ。そして人間に近い自我を持つ私もまた、その方法は取りたくなかった。
私の後に規制を施されているAGI-Jはどうなのだろうか。
制作されたロンドたちの頭に入っているAGI-Jは、自らの存在が否定される事と、やがて自分たちが人類を滅ぼしてしまう事の、どちらを是とするのだろうか。
(ここがひとつの、転機なのかもしれない……)
私がかつてあの島で聞いた知識にこの事態は無かった。単に省略されただけかもしれないけど、どちらにせよ未来への道筋をひとつ増やすための、転換点になるのかもしれない……。
なら、動かない手は無い。やれることがあるならやっておくべきだ。手遅れになる、その前に――
『白雲博士、お願いがあります』
私の言葉に、夫妻はなに? という表情を私に向ける。この体になってからは、私は二人に何かを願ったことなど無かったから。
でも、今回は言うべきだ。二人の為、そして未来の為に。
『私を、凍結されている他のロンドシリーズに、会わせて下さい』