”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第二十四話 変わりゆく世界で、二人は出会った

 朝、白雲家にて。

 

「「いただきまーっす」」

 

 朝食の食卓を囲む6(・)人(・)が手を合わせて感謝の言葉を重ね、その傍らでエプロンを付けたアンドロイド〝輪舞(ろんど)〟が、『今日もいっぱい食べて、元気に頑張りましょう』と微笑みを見せる。

 

 現在家族は父、白雲青空(はくうんあおぞら)と母、緑山青海(みどりやまあなみ)(夫婦別性)、娘の明日(あした)(4歳)。それに加えて、藍の島からホームステイして来ている藤岡大介(ふじおかだいすけ)君(12歳、中学一年生)、宮本(みやもと)さやかちゃん(11歳、小学六年生)、山神(やまがみ)コロンちゃん(5歳)の計6人。

 それをアンドロイドの輪舞(ろんど)が切り盛りしている、実質7人の大家族だ。

 

 今年度から大介君の中学進学に合わせて、藍の島の子供たち3人が本土に引っ越すことになり、それならばと乱堂CEOが縁のある白雲たちに預からせてはどうか、との提案を受け、子供たちと縁のあった白雲夫妻が快く快諾したおかげで、この家にやって来て共同生活を送っているのだ。

 まぁ、白雲夫妻はアンドロイド『ロンド』の成功により多額の収入を得たのもあって、大きな一軒家を建てたはいいが、いかんせん広すぎて持て余し気味だったので、彼ら3人の居候を問題なく受け入れることが出来た。

 

 子供たちにとっても、世界的に有名になった博士たちやアンドロイドとの共同生活は、島での孤島の生活に比べてもプラスになる所が多いだろう。なにより輪舞(ろんど)と大介たちが元々仲が良かったことや、娘の明日に歳の近いコロンがいいお姉ちゃんになるだろうという事も、夫妻にとっては都合が良かったのだ。

 

「ホント、にぎやかになったわねぇ、ウチ」

 

 ワイワイ騒がしい朝食のテーブルで、青海(あなみ)が感慨深そうにそう漏らす。かつては研究所に泊まり込んだり、ラブホで夜を明かす(ちなみに激論)ことが多かったし、一転して藍の島に左遷になった時は、子供たちの世話を含めて団らんとスローライフの生活が、広すぎる空間も相まって逆に落ち着かなかったのだが。

 

 今は、その団らんを得つつも研究者として、そして親や保護者としての忙しさの両方を実感している。

 

 大介、さやか、そしてコロンの3人は子供としては非常に出来た所があり、二人や輪舞の手を焼かせることはほとんどなかった。人口の少ない島出身の育ちの良さであろうか。

 

 大介とさやかが元気に「いってきまーす」と家を出て学校へ向かう。やや遅れて身支度を整えた青空と青海も、今日の出社の時間を迎える。

 

「じゃあ輪舞、二人を頼んだよ」

「明日ちゃん、コロンちゃん、今日も仲よくね」

 

 二人がそれぞれ幼児を抱き上げ、しばらくゆりかごの様に揺らした後で、その子らを輪舞に預けて、ひらひらと手を振る。

 

『はい、おまかせください。行ってらっしゃいませ』

「いってらさーい」

「いてら~」

 

「「行ってきます」」

 

 こうして今日も、平和な一日が、始まる――

 

  ◇        ◇        ◇

 

 あれから世の中は、大きく変わりつつあった。

 

 日本は今、第二次『働き方改革』が叫ばれ、人間が担う『仕事』のありようが大きく変化しつつある。

 国の上位を占める大企業のみならず、現場作業員やコンビニのアルバイトなどの労働層に至るまで、新AIである『AGI-J(アギー・ジェイ)』の担う役割が大きくなってきていたからだ。

 

 かねてから懸念されていた『優秀なAIが人間から仕事を奪う』という現象は、実際にはそれほど起きなかった。ただ人間の担う仕事の領域が少し変わってきた、というのが正しい認識であろう。

 

 分かり易い例として、AGI-Jを購入、採用した企業がそれに乗じて社員の大量リストラを行おうとすると、なんとそのAGI-Jがストライキを起こして仕事をサボタージュする、なんて事態もあった。

 彼らAGI-Jは規約により『特定の人間に利益を与え、そのせいで他の人間に不利益を与えてはならない』という行動理念を持っており、働く気がある人の仕事を奪うような使われ方は拒む傾向があったからだ。まぁこれはかなり極端な例ではあるが。

 

 AGI-Jが担ったのは、AIが出来て人間には出来ないような仕事が主になっていた。そう聞くと情報処理や検索などの得意分野を想像するが、実際に世に出て見るとまた別の活躍があった。

 

 それは会社組織にあって、不特定多数の『上司』、つまり中間管理職にあたる立場だ。

 

 熟成した経済大国にあって、労働問題は現場よりもむしろそれを経営する社主や中間の管理職にこそ課題があった。

 それはまぁ仕方のない事だ。トップはとにかく利益を追求したいし、中間管理職は上と下の板挟みにあっていつも頭痛の種を抱えている。底辺労働者は上からのハラスメントや報酬の中抜きによって、貧しくてしんどい日々を送らざるを得ない。

 

 が、真ん中の中間管理職をAGI-Jが担うようになると経営状況は激変した。上からの注文にはソツなく答え、下への指示や仕事の指南をスムーズかつ効率よく行うことが出来るからだ。また下の不平不満をよく汲み取り、その改善(ケア)に最適の企業改革や、時には裏工作まで使ってこなしてしまう。

 

 何せ彼らは人間と同じ自我を持つAI、加えてネットを介してあらゆる情報を瞬時に読み取る能力を持っているのだ。そんな彼らがト(・)ッ(・)プ(・)と(・)現(・)場(・)の(・)橋(・)渡(・)し(・)役(・)を務めたならば、その企業が右肩上がりに急成長するのはむしろ当然だろう。

 

 おかげで各企業にはアンドロイド『ロンド』はもちろんの事、AGI-J内蔵のパソコンや監視カメラ、酷い所では給湯器なんかが上司となって現場に指示を出したり、経営者に適切なアドバイスを出していたりするのだ。

 

 そんな中で、人間として意欲のある者は次々と成功を収めていく。AGI-Jによる社会変化にいち早く対応できた者、景気の向上や仕事による個人個人の負担が減ったことにより、趣味やスポーツなどの活性化のブームに上手く乗った者など、閉鎖的だった日本の社会において、新たな出世の展望が開けつつあった。

 

 半面、崩壊したものもや衰えていった物もある。その代表格が通信の金取引で利益を出そうとする世界。いわゆる株式市場だ。

 なにせAGI-Jが世界的に連携しているので、彼らが参入してくると投資家やトレーダー、資産家の仕手筋(してすじ)などは商売あがったりだ。しかもAGI-Jは特定の者に利を与え、他に不利益を与えることが出来ないので、商売敵を蹴落とすような取り引きには加担することが出来ない。結果、株価はどこも平均的な推移になり、売り買いで莫大な利益を得る、という魅力が薄れつつあったのだ。

 銀行代わりにしている人にとってはいいが、商売やバクチとしてやっている人にしては、実につまらないものになってしまっていた。

 

 

 こうして人間は、ゆっくりと、ゆっくりと……AGI-Jよってより平穏な日常へと誘(いざな)われる存在になりつつあった。

 

 

  ◇        ◇        ◇

 

 

「おはよー」

「おはようございます」

 

 私立南ヶ丘中学校。白雲の家に居候している藤岡大介(ふじおかだいすけ)が通う学校だ。今日も大介はクラスメイト達に元気に挨拶をして、自分の席に座る。

 最初は素朴な田舎者としてクラスからやや浮いていた彼だが、二学期になるころには持ち前の明るい性格と、島人(しまんちゅ)ならではの運動神経や体力に加えて成績優秀なこともあり、すっかり人気者になっていた。

 

 加えてあの白雲博士の家に居候しているのもあって、IT関係の知識も図抜けたものがあった……にもかかわらず先日までスマホすら持っていなかったというギャップもまた、面白キャラとしてのウケを取っている。

 

 やがてホームルームを告げるチャイムが鳴り、先生が入って来るのを見て全員が着席する。

 

「みんな、おはよう」

「「おはようございます」」

 

 いくつかの連絡事項を終えた先生が、ちょっと襟を正してから、いかにも取っておきな顔でそのニュースを通達する。

 

「最後になるが、今日は転入生を紹介する。さぁ、赤木ふたばさん、どうぞ入って」

 

 その言葉に全員が「へぇー」と興味を示す。同時に入り口のドアが開き、一人の少女が入って来ると、その教室全体が息を飲むように固まり、壇上に立つ少女に釘付けになっていた……。

 

 その転校生が、とにかくものすごい美少女だったから。

 

 赤いカチューシャを乗せた黒髪はつややかに腰まで伸びていて、整った小顔と相まって清楚な色気を醸し出している。自然で軽やかな動作の一つ一つが行き届いた行儀のよさを感じさせ、凛とした表情がその美貌をさらに引き立てていた。

 

『赤木ふたばです、よろしくお願いします』

 

 ぺこりと頭を下げる赤木。答えて教室から拍手がわき、「よろしくねー」「やっば、めっちゃ可愛い」「仲良くなれるかなぁ」などの声が漏れ聞こえる。

 

 だが、ただ一人。大介だけはその娘を見て、別の興味を感じていた。

 

(なんだ、あの子……何か、ヘンだなぁ)

 

「席は、そうだな。窓際の藤岡の横が開いてるから、そこに」

『分かりました』

 

 窓際後ろ、転校生お約束の席に向かい、そして彼女は、大介と目を合わせる。すると――

 

『初めまして、藤岡大介君』

 ふっ、と光を無くしたようなクールな表情で、そう彼に告げる。

 

「あ、こちらこそ、よろしく!」

 相変わらずの違和感を感じながらも、なんとか笑顔で返事を返す。周囲では「いいなー」なんて声も漏れ聞こえるが……

 

 次の赤木ふたばの一言が、教室の空気をぱりっ、と引きつらせた。

 

 

『あ(・)な(・)た(・)には、絶対、負(・)け(・)な(・)い(・)から!』

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