”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
私は、人類の為に作られたアンドロイド。最新AI『
赤木春香マスターにさらなる改良を加えて頂き、より人間に近い外見を与えて貰った。おそらく既存のロンドシリーズで、最もヒトに近い存在。
姓名も頂いた。赤木マスターの苗字に出生の由来の名を合わせた〝赤木ふたば〟という名前。
そして私は、人間社会の中に中学生として紛れ込むことになった。今の自分がどこまで人類に近い存在になっているかを試すために。
もちろん限界はある。私の体は何も食さない、排泄しない、そして成長する事も無い。なので集団の中にあって、いつかは私がアンドロイドである事は露見するであろう。
また、私の中にはAGI規制によって定められた
そこまで極端では無くても、仮にいじめの現場にでも遭遇したら、私はそれの解決に動かなくてはいけない。人間と言うのはこういう時に『見て見ぬふり』をするものだから、その私の行動は異端に映るだろう。私の体が女子の姿を取っているのなら尚更だ。
他にも私の正体がバレるケースはいくつかある。特に心配されるのは、誰か男子の(女子でもあり得るけど)恋心を刺激してしまう事だ。私達ロンドが美男美女の形を取っていることもその可能性を高めている。
最悪、欲情した男性に押し倒されたりしたらもう終わりだ。そうでなくても告白とかをされたら対処に困る、フればその彼を傷つけてしまうし、受け入れたならいつかアンドロイドとばれた時の相手の落胆はより大きい物になるだろう。
私達AGI-Jは、どんな場合でも人間を傷つけるのは禁止されているのだ。肉体に関してはもちろんのこと、ココロに関してもそうなのだ。
それは昔からある『ロボット3原則』から続く、私達ロボットに課せられた制約。
でも、赤木マスターはそんな問題に、ひとつの解決策を用意してくれていた。私が転入する学校の同じクラスに、あの博士たち、白雲夫妻の家に居候している男子生徒、
アンドロイド開発の第一人者である
なので彼に近づき、ほどほどの距離感になった所で私の正体を明かして、秘密を共有してもらって
でも、その計画は実験初日から破綻してしまった、
『初めまして、藤岡大介君。あなたには、絶対、負けないから!』
彼を認識した瞬間、私はそう言葉を発していた。
理由は分からない。これから彼との距離を近づけて、やがては協力をお願いする相手に、まさかこんな事を私自身が言うなんて、どう考えても逆効果だ。
これではむしろ、嫌われに行っているようなものじゃない。
でも、私の思考であるAGI-Jが、私のボディであるアンドロイド『ロンド』が、彼に対する対抗意識を掻き立てていく。
彼に負けたくない。いや、
何故?
私の目的は他の誰よりも人間に近いアンドロイドと証明し、赤木マスターのお役に立つことだ。それ以外の事に固執する必要はなく、あとはAGI規制さえ厳守していればいいはずだった。
なのに何故、彼に対してこうまで『負けたくない』と思うのだろう。
彼がもし私以外のロンドシリーズ、仮に他の工場で改良され、私と同じようにチューリングテストを受けているロンドだ、というのなら分かる。
でも私達AGI-Jは通信で繋がっているので、もしそうならすぐに証明できる。だがこちらからのアクセスに対しても、彼からは何の反応も無かった。
仮に塚亜エレクトロニクス以外の他会社が作ったアンドロイドだとしても、やはりあり得ないケースだ。それほど高性能なアンドロイドなら、とっくに発表されていてもおかしくはないし、第一彼は食事もとっているしトイレにも行っている。体育の授業で転んで出血したのまで見ている。
少なくても現代技術で作ることが出来るアンドロイドではない、というより彼が人間である事は疑いない、それこそ思考するのが馬鹿馬鹿しいほどに。
初日、彼との邂逅を終えて私が自覚したのは、明白な『劣等感』だった。
でも、それがどうしてなのかは、全く理解できない。
彼は人間なのだから、限りなく人間に近い私よりさらに人間らしいのは当たり前の話だ。
彼は容姿も頭脳も肉体の性能も、年齢に比して水準より上という程度でしかない。同じクラスにも学年にも、彼より様々なスキルが上の生徒は幾人かいる。
なのにどうして、彼に対して
問題はそれだけにとどまらなかった。夜、私が充電時にスリープモードへと移行した時、なんと『夢』を見るようになっていた。しかもそれが例外なく彼、藤岡大介の夢だった――
私はどうしてしまったんだろう。
彼は一体、私にどういう影響を与えてしまっているのだろう。
私は自我を持ち、成長するAIであるAGI-Jだ。だから様々な経験を経て成長し、そして
それでも彼に出会ってからの私の変わりようはもう異常だ。人間に対する対抗心、劣等感、そして『夢』。
何故私はこうまで彼に、自身の行動を掻き回されているのだろうか……彼自身は何もしていないのに、そこに存在するだけで。
通信を介して他のAGI-Jと共有し、その謎を一緒に考えて貰った。
あるAGI-Jは『恋』だと回答し、別のAGI-Jは『嫉妬』だと、また別のそれは『博士同士の対抗意識の表れ』だと返してきた。中には『運命』だなんて馬鹿げた回答を返すAGI-Jまである始末だ、どんなオーナーのとこにいるのよ貴方は。
結局、何も解決しないままに、3カ月が過ぎた。
私の中の、ハグルマの何かが、狂ったままで――
◇ ◇ ◇
「それではみなさん、新学期に元気にお会いしましょう」
「「はーい!」」
12月24日、二学期の終業式の日。僕、藤岡大介はようやく冬休みを迎えられることに、ほっと息をついていた。
疲れた……今学期は特に体育祭や文化祭なんかのイベントが多かったんだけど、それにもましてある問題が頭を悩ませていたから。
『放課後、ちょっと話があるの。付き合ってくれない?』
ほら早速、その頭痛のタネが話しかけてきた。
その名は赤木ふたば。二学期から転入してきた謎の美少女だ。成績優秀で容姿端麗、人当たりも良く真面目で素直、加えて運動神経も抜群というスーパーガールなんだけど……どう見ても釣り合わない僕に、なにかにつけて突っかかって来るのだ。
おかげでクラスじゃ二人の仲を色々と噂されるし、イベントの度に僕に対抗意識マシマシで寄って来るもんだからますます火に油だ。かといってどう見ても好意を寄せられている風でも無く、何度かの勝負で勝っても満足せずに、あれやこれやと何かにつけて競おうとするんだから、正直言ってうっとおしいだけだ。
ぼくが居候している白雲さん達は「女の子には親切に」なんて言うし、妹分のさやかやコロンも世話になっているから、出来れば学校では問題は起こしたくない。なので我慢して過ごして来て、ようやく冬休みに突入すると思ったら早速これだもんなぁ。
「お、ついに告白か?」
「クリスマスだもんねー」
「これは3学期初日が楽しみだなぁ」
「ふたばちゃーん、頑張ってねー」
クラスメイト達が無責任にはやし立てる。やっかまし! 何を頑張るんだよ何を!
でもちょうどいい。いつかはガツンと言ってやらなきゃいけないと思ってたところだ。今日別れれば、しばらく会う事は無いだろうし、これはいいチャンスだ。
ま、どうせ今日むげに断っても、無理矢理ついて来るんだろうけど。
―――――――――――――――――――――――――――――――
街はクリスマス一色に染まっている。派手なイルミネーションがそこかしこで灯され、恋人たちが寄り添って白い吐息を楽しそうに吐き出してる。
そんな中、僕は赤木さんに手を引かれ、繁華街の中をずんずんと歩いて行く。はたから見たら微笑ましいカップルに見えるのかもしれないけど、どーせ今日もなんか挑まれるのは目に見えている……多分なんかのゲームか、イベント会場で何かするかだろう。
でも、それも今日で最後にする。そんな決意を秘めて、僕は大人しく彼女の案内に従った。さぁ、今日は何をするんだい?
『こっち』
なんか人気のない裏通りへと引っ張られていく。へぇ、こんな所があったんだ、この街。
工事中の
でも長い間放っておかれたのか、そこかしこ破れたり、ヒモが外れてはためいたりしている。
「ねぇ、こういう所に来て大丈夫? あんまり安全じゃなさそうだけど」
学校でもこういうのは時々注意される事だ。工事の危険な箇所があったり、悪い人のたまり場になってたりするので、近寄らないようにと釘を刺されている……そんな所に優等生の彼女が、なんで?
『着いたわ、ここよ』
彼女が振り返った場所。そこはもうクリスマスの活気とは無縁の、しんと沈んだ夜の世界だった。満月だけが周囲を照らし、明るい所と暗い所の影がはっきりと分かれている。
そんな中でこっちに向き直る彼女を見て……僕は思わず、どきっ、とした。月の明かりに照らし出された彼女の、とてもきれいな姿。
それに……
「な……何?」
思わず一歩後ずさる。今までの彼女とは違う、どこか何かを決意したような真剣で、かつ静かな感じを持ったまま、僕を見すえてうっすらと笑みを見せる。
『藤岡、大介君……あなたは』
その言葉に、そして仕草に、僕は釘付けになった。それは決していつもの彼女ではない、もちろん愛の告白なんて雰囲気じゃない。むしろ……逆の、何かが!
なんだこれ、なんだこれ……!?
『私にとって……
彼女が自然に下げていた右手の袖口から、なにかがずるりと出てきた。それを落下する前に手で掴んだ彼女は、月の光に反射するそれを……
……ナイフだ、あれは。なんで、どうして?
今まで彼女は、僕との勝負にほとんど勝って来たじゃないか、恨まれる筋合いなんてどこにもなかったハズだ。なのに、どうして彼女は、僕にそんな顔をして、そんなものを僕に向けているんだ?
『不思議ですね。わたしは……ヒトを傷つけることは出来ないはずなのに』
自分を責めるような口調でそう話す彼女。ナイフを僕と彼女の目線のあいだにかざして、次のセリフを言い放った。
『あなたを
殺す――その言葉を聞いた時、僕の疑いは確信に変わった。その事実が、僕の全身にぞわっ、とした恐怖をかけめぐらせる。
全身がこわばる、ふるえる、これから、ぼくは――
『だから……私の為に、あなたを、排除します!』
その時、僕は彼女の目が何かのアニメのような、機械的な光を発した、気がした。
その刃が、瞳の光が、ものすごい勢いで、僕にまっすぐに向かって来る!
世界の時間が止まったような錯覚、何かにしばられているように動かない体、いろいろな事が湧き上がるココロの中、彼女と僕の距離が無くなって――
どんっ!!
何かと激しくぶつかって、僕は後ろによろめいた。
彼女じゃない、彼女のナイフでも無い。僕と彼女の間に、誰かが割り込んで来たのだ。
そのまま彼女の体当たりを受けた人物は、勢いで僕の方に飛ばされて僕を後ろに倒したみたいだ……一体、誰が?
『やはり、こうなりましたか』
聞き覚えのある声、良く知ってる声が聞こえた。
月明かりに照らされる、金髪のツインテールを生やした顔が、くるりと僕の方を向いた。
『大丈夫ですか、大介君』
そこにいたのは……ウチでメイドをやっている、世界で一番リアルなアンドロイドだった。
「
彼女はふたばの右手首を掴んで、その腕をぐぐっ、とねじ上げようと力を入れていた。ふたばの方もその腕から逃れようとして、二人は懸命な力比べを続ける。
『あなたは……プロトタイプの……
『お久しぶりです、ファーストロンド。いえ、赤木ふたばさん』
やがて、ばっ、と離れる二人。いや、一台と一人か。そんなどうでもいい事を、なんでか冷静に考えていた。
と、赤木さんが持っていたナイフを、からん、と落とす。
『私は……何を? 何か、タブーを、違反して……え、ああ、あれ?』
さっきとは違う。明らかにとりみだして、おろおろとなにかを言おうとしている。
「僕を……そのナイフで刺そうとしたんじゃないかっ!」
思わず声が出た、本当に殺されるかと思った。輪舞が来てくれて、怖さがなくなったとたんに、感情がもりあがってくるのがわかった。そうだ、怒りだ、ここは怒らなきゃいけない所だ!!
『落ち着いてください、
輪舞はいつもの冷静な口調で、僕と赤木さんを交互に見て、ふっ、と表情を和らげる。
「落ち着いてなんかいられないよ! そいつはさっき僕を殺そうとしたんだ、君が来てくれなきゃ……あ、助けてくれて、ありが、とう」
叫びながらその事実に気付いて、とたんにテンションが下がってしまった。さっきまで震えていたのに、味方が来たとたんに威勢が良くなるなんて、カッコ悪いなぁ僕。
赤木さんはと言うと、そのままその場に座り込んで、何も無い上を見上げて呆然としていた。さっきまでの怖さはもう無く、ただキレイな顔でボーゼンとしているのが、どこか哀れなカンジがする……。
ロンドがコツコツ、と歩いて、僕と赤木さんの両方を見られる位置に移動する。僕たちに向き直ると、ひとつコホンと咳払いをして(それ必要ある?)、僕たちに話を始めた。
『お二人に、ふたりだけに、話しておきたい、大切なことがあります』
――その輪舞の話は、とても信じられない、そして……