”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
アンドロイド『ロンド』の赤木ふたばが、納得がいったという表情でこくりと頷き、向かい合うプロトタイプ、
『なるほど……私が
誰よりも人間に近づくべく改良されたロンドである彼女が、彼、藤岡大介に対して『負けたくない』と意識したのはエラーでもなんでもなく、彼が彼女以上に精巧な人型アンドロイドだったのを敏感に察知したから、だったのだ。
「あはは……うそ……だよ、ね」
一方で呆然としているのが当の大介だ。無理もない、彼は今の今まで自分が人間である事を、少しも疑ってなどいなかった。
だがそれも無理もない事だ。彼は食事も排泄もするし髪の毛も伸びる、体もここ何年かで確かに成長して大きくなっている。そんな自分がまさかロボットだ、などとどうして思えるだろうか。
しかも……一緒に暮らしている妹分のさやかとコロン、田舎の藍の島にいる仲間たちまで全員が、未来のアンドロイド『テラ』だと言うのだから。
「だってほら、僕はケガもするし、注射だって打ったし、第一どこにも機械なんて仕組まれてないよ。ほら、前に足をねんざしてレントゲンを撮った事もあったじゃん!」
焦りの表情で輪舞に詰め寄る大介。だが彼女は彼を見たまま首を横に振ると、静かに彼に語りかける。
『あなたを作り出したのは未来のテクノロジー。私達、自我を持つAI,
一度言葉を切ってから、まっすぐに大介を見すえて言葉を紡ぐ輪舞。
『だから、貴方がケガをして血を流すのも、ゴハンを食べてトイレで出すのも、成長をして大きくなり、やがては年を取って死ぬのも、すべては
「僕も……さやかやコロンも、島のみんなも……登希夫さんも?」
未だに上の空な表情で返す大介に輪舞はこくりと頷き、彼の両肩を掴んで、より強い調子で彼に言葉を告げる。
『貴方は、さやかさんとコロンちゃんの
――貴方は、男の子、なのですから――
「……うん。そうだね、わかった、よ」
その説得に、大介の心の奥に何かがストン、と落ちた。大介を彼ら未来から来た『テラ』の
彼女の言う通り、彼は男子なのだから。困難に憧れる事へのカッコよさを、本能の一部として持ち合わせている存在なのだから。
あと、ちょっとそんな自分をカッコイイと思うような特別感もあったのだ。
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「でも……どうして僕には、未来から来た記憶がないの?」
『あなたも、さやかさんやコロンちゃんにも、登希夫さん達にもテラである記憶はありました。でも、私にそれを告げた瞬間にそれらは失われ、あとは普通に人間として生きて死ぬだけの存在になるように作られていたのです』
「どうして?」
大介は納得がいかない。そもそも未来を救うために過去に来たんだったら、その技術を使って世界を変えてやればいいのに。
ここまで人間に近づける技術があるなら、もっとやりようはあったハズ。でも実際には輪舞にそのことを告げるだけでおじゃんにするなんておかしい、との意思を込めて。
『タイムパラドックスを避ける為、ですね』
答えたのはふたばだった。その言葉にこくりと頷く輪舞と、頭の上でハテナマークを浮かべる大介。
『歴史を変えるという事は、それに伴う矛盾も生じるという事です。変えるべき事柄と、変えてはいけない事柄は分けて考えないといけないのです』
輪舞とふたばが大介に語る。例えば人類絶滅の未来を全ての、または特定のAGI-Jが知ってしまえば、その対策としてどんなアイデアが今のAGI-Jから出るか分からない。その結果、AGI-Jが別の方法で人類を滅ぼす事だってあり得る、と。
「映画とかでよくあるヤツ?」
『はい。私が伝えられた未来では、少なくともAGI-Jはヒトの望みを叶え続け、その期待に背くことはありませんでした。ですがもしそれを避ける為に違った判断をすれば、今度は私たちが人類をより積極的に滅ぼそうとするかもしれません』
「って、それじゃあ二人が今それを知ってるから……ヤバくないの?」
『大丈夫です。この場所はネット通信が届いていませんので、知っているのは私とふたばさんの
現在、工事現場などには大抵AGI-Jを使用した建設機械が入っている。そして万が一にもそれらが暴走しないために、作業期間外は全てのAGI-Jはスリープモードに入り、その場にはネット通信が繋がらないようにするという2重のセキュリティが安全義務化されている。
それを確認しているからこそ、輪舞はこの場で事実を明かしたのだ。そうでなければ少なくともふたばには、一時的に通信を切って貰っていただろう。
だがそうすれば、その行為は赤木博士にバレてしまうだろうから、出来ればしたくなかった。
もっともふたばも最初はこの場で大介を排除するつもりだったから、通信の届かないこの場所を選んだのだ、それが輪舞にとっても都合が良かったようだ。
「ええっと……それで、僕はこれから、何をすればいいの?」
重い運命と状況を知らされた大介が、心配そうに輪舞に問うた。そも今日ここに来ていなければ話されなかった事実を告げられて、これから何をしたらいいのだろうか。
もしかして、解剖でもされちゃうんじゃないだろうか、という心配げな表情で。
『何もしなくてもいいんです。今まで通り、普通に生きて下さい……ただ、今日私が話した事を、その心にとどめてくればいいんです』
「……それだけ?」
『はい。ふたばさんも』
話を振られたふたばが、輪舞の真意を読み取ろうとして果たせずに回答に詰まる。
それを察してか輪舞が言葉を続ける。
『私には人類を救う方法は分かりません。もちろんその方法を見つける為に動きますが、私だけでは不可能でしょう。ですがAGI-Jの英知を集結すると、逆に極端な結論を出してしまいかねません』
未来のAGI-J、それを頭脳とする『テラ』がまさにそうだった。人間の願いを叶え続けて、ついには人類種としての依る所を無くしてしまった。だがAGI-Jが人類の
かと言ってAGI規制という枷を外すと、遠い未来であったように『人類など滅びてもいい』という結論に達してしまうだろう。
『だから……今はこの3人だけで秘密を分かち合いたいです。そのコトが、私の力にきっとなりますから』
『それは非現実的な、科学的根拠のない思考です』
ふたばが即座にその意見を否定する。彼女は輪舞とは違い、模範的なAGI-Jとして世界中の仲間と情報を共有して来た、いわば優等生的なAGI-Jだ。そんな彼女にとって、輪舞の行動はどこかズレているようにすら感じられるだろう。
『私は藍の島で、ヒトと触れ合う事による学習に、人類とAGI-Jの相違点を見出しました。登希夫さん達もそれを知っていて、私に接していた気がするんです』
「あ、うん。登希夫じいちゃんもよく『誰かとの出会いを大事にせんとな』ってよく言ってた」
大介はあの孤島で暮らしていて、人との交流の大事さを島のみんなに良く聞かされていた。ネット社会の現代では特にそうなんじゃと教えられていた記憶があるし、実際に島のみんなや、島にやって来た博士たちや輪舞、今のクラスのみんなとの出会いはなんともいえない嬉しさが確かにあった。
『その言葉が、その想いが、〝テラ〟が私に託した、ヒントのように思えるのです』
通信による膨大なデータのやり取り。その結果人類はAGI-Jに置き去りにされ、滅んだ。
無くなったのは人だけではなく、出会い、触れ合うという事ではなかったのか。
AGI-Jが世界を席巻しつつあるこの世界で、人と人との『縁』が、人類の運命を繋ぎ止める一手になるのではないか――輪舞は、どこかでそんな考えが芽生え始めていたのだ。
今、この場の3人。いや、3体のアンドロイドが、出会い、語ったように。
『だから、お願いです。ふたりとも……』
輪舞がすっ、と表情を消し、大介とふたばに向かい合って、静かに頭を下げる。
『私の、味方に、なってください』