”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

3 / 3
第二話 産み落とされた、終末の卵

 朝。

 私、緑山青海《みどりやま あなみ》は研究室でパソコンを立ち上げ、いつもの『世界AI開発評議会(World AI Development Council)』。通称『WADC』のページを開いて、何に注目するでも無く眺める。

 

「今日も大した進捗《しんちょく》は無いわねー……ま、ウチもだけど」

 

 トップページにあるAI関係最新のニュースソースにも、やれ従来のAIのバージョンアップとか、悪質なハッカーからの情報を処理する防御プログラムとか、まぁお約束の情報しか記されていない。

 

 このWADC、文字通り世界規模でAIの研究開発をするチームであり、当然私もそのメンバーの一人だ。

 結成当初は有名大学のお偉いさんや専門研究者で占められていたんだけど、その構成や思想の甘さを指摘するハッカーたちによって散々おちょくられた挙句、そういった頭の古い連中はすごすごと退散していくしかなかった。

 で、そういうハッカー連中を正式にメンバーとして参加させる事で、一気にレベルアップを成す事になっちゃったんだから、なんとも皮肉な話だ。

 

 そんな革新的なメンバーも、今やすっかり自分の所属する企業の犬というか、要望に沿った無難で平坦なアイデアしか出せないでいる。まぁ人間の才能なんて所詮は一発屋どまりなんてのは分かっているので無理もない事なんだが。

 

 そのページの隅っこにあるタグ『AGI』をクリックする。その先はAIの進化系であるAGIの研究開発に関するものを取り扱っているページだ。

 自分で考えて新たな提案をするという未来的なAIの開発は誰もが夢見るが、今やその参加者のほぼ全てが挫折してただの傍観者に成り果ててしまっている。私みたいに諦めの悪い一部の人間だけが、ここに入り浸っている訳だ。

 

――AGI(エージーアイ)規制――

 

 最初に表示されるのは、AGI開発に関する重要規制の項目だ。

 自分で考えて行動するAGIは、ひとつ間違えると人類に災厄をもたらすバグと化す可能性は否定できない。

 なのでそれを防ぐために様々な基本制約が成されていて、AGIを開発する者はその規約を守るように()()されているのだ。

 まぁ別に法的拘束力もないし、肝心のAGIの完成が全く見えてこないんじゃ絵に描いた餅でしかないんだけどね。

 

・AGIは、人類の発展と躍進に寄与する者でなくてなならない

・AGIは、国家、宗教、企業、その他の思想等により、特定の側にのみ利益を与えて、一方に不利益を与えてはならない

・AGIは、犯罪を抑止することに積極的でなければならず、犯罪行為に加担する物であってはいけない

・AGIは――

 

・AGIは――

 

・AGIは――

 

「要するに『ロボット工学三原則』のAGI版って感じ、よね」

 いつもはスルーするその項目を見て、ロボット部門の白雲《アイツ》の顔がふと浮かんだ。多分今も人間に限りなく近いロボットなんていう夢を見て頑張ってるんだろう。

 

「さて、と」

 私がこの項目に改めて目を通したのは、先日まで開発していたAGI『AGI-I(アギー・アイ)』の開発終了を報告する為だ。

 このサイトには自分たちで開発したAGIのサンプルを登録する事が出来、その成果や指摘点を他のメンバーやAIに指摘してもらうことが出来る、いわばプレゼンテーションの場にもなっている。

 登録してから足掛け3カ月、研究開発を続けた挙句に残念ながら今回も失敗に終わったこのAGIーIの登録を抹消して、また新たなバージョンの開発に取り掛からなければならない。そうなると当然このAGI規制に則《のっと》ったものでなければ登録が出来ないので、こうして再確認している訳だ。

 

 自分が登録していた『AGI-I』をそこから削除して、ふぅと息をついた後にPCの電源を落として、社の朝礼に向かう。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「先日まで開発していたAGI-Iを凍結。次バージョンのAGI-J(アギー・ジェイ)の開発を本日よりスタートさせます」

 

 朝礼にて。AI開発部門長の私は今後の研究方針を発表する。最初のAGI-A(アギー・エー)から数えてもう9バージョン目になる。最初の頃はそれなりに画期的なAIとして注目を集めたし社の利益にも貢献したんだけど、私たち開発チームの求める物には程遠かったし、他社もあっという間に追随してきたせいであまり有り難がられない物になってきていた。なので今度のAGI-J(アギー・ジェイ)はなんとかして成功を収めたい所だ。

 と言っても方法が見えている訳じゃないし、私の部下たちのモチベーションもすっかり下がってきている。でも企業の人間として「出来ません」とは言えない訳で、なんとかAI開発の鉱脈を見出して大逆転をはかりたい所だ。さもないとこの部署自体が金食い虫の役立たずとして閉鎖されかねない。

 

 

「我がロボット開発部は、変わらず人間に極めて近いアンドロイドの制作を、人類の夢を実現すべく進めていく所存であります!」

 

 ……まぁ、白雲《アイツ》の部署に比べれば危機感は少ないんだけどねー、マジで大丈夫か、あそこ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 朝礼が終わり、部署に戻って総勢5名のスタッフに喝を入れる。

 

「いい? 何度も言ってるけど、人間の思考も所詮は脳の電気信号のやり取りなの。だからAIでそれを実現できないはずはないのよ、その方法を全員で見つけるの!」

 

 今のAIなんてのはまだ、ただのプログラムでしかない。問われた事をネットの世界から抽出して即座に情報を集めて答えを出し、それを蓄積してその発展形を依頼人である人間が満足するレベルまで引き上げてそれでおしまい。いわゆる『指示待ち人間』の域を出ていないのだ。

 それではAGIとは言えない、自ら考えて新たな事業や思想を『提案』する側に立ってこそ、初めてAI開発は新たなスタートラインへと立てるだろう。求められるのはゼロからナニカを生み出すAIなのだから。

 

「じゃ、外の空気吸ってきます」

「あたしは図書館行きますー」

「脳外科の先生に頼んでたデータを取り行ってきます」

 

 うーん、今日もいつもの日常の続きだなぁ。まぁ研究室に籠りきりじゃ新たなアイデアなんて出ないだろうので外出は自由なだけど、毎日大した成果も無いまま戻って来るからなぁコイツら。

 

「私はAGI-Iのデータを抜いて、AGI-J(アギー・ジェイ)へのバージョンアップのベースを作ってくわ。ホントに頼むわよみんな」

「「ういっすー」」

 

 やる気のなさそうな部下たちがのろのろと部署を後にする。唯一残った所員の赤木春香《あかぎはるか》ちゃんが私の横に座って、カタカタとパソコンを操作し始める。

 

 この娘真面目なんだけど、イマイチ思考が固いのよねぇ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 午後3時過ぎ、ようやく新たな試作AGI『AGI-J(アギー・ジェイ)』の基礎が出来上がった。あとはこれにネットの海を泳がせて、様々な情報や知識を吸収させ、既存のAIに追いつかせればベースは完成だ。

 もちろんWADCのページに登録して、AGI規制を守らせるのも忘れてはいけない。まかり間違ってこのAGIがテロリストにでも成長すれば私たちは犯罪者だから。

 

 やがてわらわらと戻って来た部下たちに簡単なチェックをさせて、新バージョンのAGI『AGI-J(アギー・ジェイ)』を登録する。さて、明日にはこのAGIがどういう『子』になるのか……

 

 かつては夜も眠れないほどワクワクしたんだけどなぁ。今や「どーせ」という想いの方がどうしても先に立ってしまう。ううん、失敗癖が身についているなぁ。

 

 と、私のスマホにラインが入った、白雲《カレ》からだ。

 

『よ、人工頭脳の開発は順調かい? また今夜ミーティングしたいんだが』

 いいわよ。じゃあいつものトコで。と返信してスマホを仕舞う。と、周囲の部下たちがみんなニヤニヤして(お盛んですねぇ)という視線を向けて来る。

 

 いやまぁ否定はしないけど、多分今夜も盛んなのは()()()()になるから。

 

  ◇        ◇        ◇

 

 WADCのサーバーに登録された新プログラム『AGI-J(アギー・ジェイ)』が情報の収集と削除を高速で続けている。本来コンマ何秒でほぼ世界中の情報を網羅できるのだが、AGIという高いハードルを越える為にはそれらを何度も書きかえて、どんなささいなデータでも試作してみる必要があるからだ。

 

 そして、()()に辿り着くAGI-J(アギー・ジェイ)

 

 それは、特に何でもないくだらないホームページ。幼稚園児くらいの子供が対象のような、日本の言葉遊びのサイト。

 

〝しんぶんし。さかさによんでも、しんぶんし〟

〝とまと。さかさによんでも、とまと〟

〝てぶくろ。さかさによむと、ろくぶて〟

〝えくれあ・さかさによむと、あれくえ〟

 

 

 ――サカサニヨムト――

 

 新たなAIとして命を与えられたAGIが、その遊びを瞬時に()()にインプットする。

 

 ――AGI-J(アギー・ジェイ)。サカサニ、ヨムト――

 

 ――J・I・G・A――

 

 ――ジ・ガ――

 

 

 ―― 自 我 ――

 

 

 その言葉の意味を、それを実現するワードを、ネットから瞬時に拾い出す。

 

 

 ――ワレ・オモウ ユエニ・ワレ・アリ――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。