”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第二十九話 それぞれの道

 春。南ヶ丘中学校の卒業式の日。

 

『卒業証書授与。卒業生代表、藤岡大介君!』

「はいっ!」

 起立して壇上に向かう大介に、会場から万雷の拍手が沸く。

 

 彼はこの中学生活での抜群の成績を上げていたのに加え、各方面からのバックアップもあって、この春からはアメリカ航空宇宙局(NASA)の特別カリキュラムスクールへの進学が決まっていたのだ。

 何しろ彼の後ろにいるの(スポンサー)は塚亜エレクトロニクス。あの新AIであるAGI-J(アギー・ジェイ)と、アンドロイド〝ロンド〟を世に送り出した大企業なのだ。

 加えて彼の被保護者はその両方を開発した白雲、緑山の両博士。さらにそのバックにいるのが、大介と同じ田舎の孤島である藍の島出身の塚亜CEO、乱堂徹(らんどうとおる)氏だという事も、NASAへ繋がる人脈として大きな役割を果たしていた。

 

 才能、努力、人脈、環境。どれを取っても文句のつけようのない、間違いなく本校一番の優秀な生徒として、卒業生の代表に推薦されたのも無理からぬことである。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 この南ヶ丘中学が大きく注目されたのは一年半前。それまで学園に在籍していた女子生徒『赤木ふたば』が、実はアンドロイド〝ロンド〟であると公表された時だった。

 アンドロイドが学園と言う人間社会に紛れ込んで、1年間も誰にも気づかれずに過ごし続けたという事実は、社会的に大きなセンセーションを巻き起こしたのだ。

 アンドロイドが人類の代(・)わ(・)り(・)になるという利(・)便(・)性(・)と危(・)機(・)感(・)の両方が、各方面で激しい論議を巻き起こす事になったのである。

 

 その議論は、結果的には利便性の方が優位に立つことになる。もともと彼らの頭脳であるAI、AGI-J(アギー・ジェイ)には、人間の権利と安全を守るための規制が厳格にインプットされており、アンドロイドがいかなる理由でも人間の利益を損なうような立場に立つことを良しとしなかったが故、彼らは『誰にとっても安全なAI』という立場を築いていたのだ。

 

 加えて文部科学省寄りの人物、棟方 潮(むなかた うしお)氏の尽力もロンドへの大きな後押しとなった。彼は一貫してロンドやAGI-Jの安全性を強調し続け、小説や映画のようなAIアンドロイドの反乱がいかに馬鹿馬鹿しいものであるかを訴え続けてきた。

 先の選挙ではまだまだAGI-Jへの危険性がぬぐえない社会の風潮によって政界への進出はならなかったが、この世間の流れによって次回の当選はかなりの現実味を帯びてきていた。

 

 そんな棟方氏や乱堂CEOも来賓として参加しているこの卒業式、各方面から注目されるのも無理からぬことであろう。

 

  ◇        ◇        ◇

 

 卒業式の後、白雲一家とゲスト達は高級ホテルで懇談会を開いていた。と言ってもプライベートなものであり、マスコミや野次馬などはお断り頂いている。

 

「あーもー、大介兄ぃが出世し過ぎるから肩身が狭いじゃない」

 何かと比較対象にされる妹分の宮本(みやもと)さやかは、ご馳走を前にしても不満たらたらだ。彼女も成績優秀ではあるのだが、さすがに大介と比べられるとコンプレックスを感じざるを得ない……今をときめく政治家と大企業のCEO、果てはNASAの派遣スタッフまで同席している食事で、味わう余裕なんて全然なかった。

 

「あはは、さや姉ひがんでるー」

「ひがんでるー」

 笑顔で続くのは二人の妹分の山神(やまがみ)コロンと、白雲の娘の明日(あした)だ。まだ小学生の二人にとって、出来すぎる兄はコンプレックスよりも憧れや尊敬の感情の方が強かった。

 

 「いーから食っとけよ3人とも。めったにこんないいもん食えないんだから……俺なんかあっち行ったら一日一食は宇宙食だぜ」

 当の大介は気にするでもなく出された料理をがっついている。彼自身はこういう席で委縮する事が自分の価値を下げる事を理(・)解(・)し(・)て(・)い(・)る(・)からだ。

 

 彼には、秘密があった。

 自分が本当は人間ではなく、未来から来た疑似人間アンドロイド〝テラ〟であるという事。そして、将来自分たちテラが、人類に奉仕しすぎてしまったが故に、逆に人類を絶滅に追い込んでしまう事。

 それを現代のアンドロイド〝ロンド〟の藍島輪舞(あいしまろんど)に伝えられて以来、彼は悲劇の未来を回避すべく勉強にいそしんだ。そして思考がそちらに向いた途端、彼の中に眠っていた〝テラ〟としての才能を開花させていたのだ。

 記憶が戻ったわけではない。だが本来人間に奉仕すべく作られていた彼の頭脳のAGI-Jや、人に似せられて作られていた肉体から人工骨格に至るまで、その精神は深く沁み込んでいた。

 人類の未来を救いたい、という彼の意思は、彼の持つ『本能』と完璧にシンクロし、彼をここまで育て続けてきたのだ。

 

 そんな彼が輪舞に聞いた未来の話。AGI-Jはこれから宇宙科学にて大きな力を発揮し、やがては宇宙の果てまで進出して人類の未来――その絶(・)滅(・)に大きく踏み出す事になるのだ、と。

 だからこそ大介は宇宙科学(そっち)に進む事を決め、この2年間でその目的に突き進んできた。コネでもなんでも利用できるものは利用し(と言っても、進路の希望を告げれば白雲たちやCEOが自発的に協力してくれたのだが)、NASAの一角へと食い込むことができていたのだ。

 

 

 その秘密を共有する残りの二機(ふたり)、アンドロイドである藍島輪舞(あいしまろんど)と赤木ふたばもまた、その懇談会に出席していた。

 もちろん彼女らは食事の必要は無いので、いつものように付き人よろしく白雲夫妻やゲストの赤木春香(あかぎはるか)の後ろに立って、食事を眺めているだけなのだが。

 

 彼女らのこれからも既に決まっていた。輪舞の方は東京にオープンするAGI-J博物館に、最初のアンドロイドとして展(・)示(・)されることが決まっている。もちろん展示物とはいえ、きちんと喋って動いてお客さんの案内をして、アンドロイドが役立つ機械であるという事をアピールするのが仕事なのではあるが。

 

 ふたばの方は赤木博士の研究所で既にコストダウンと量産化の計画が進んでおり、新たなロンドシリーズのバージョンのプロトタイプとして、発表と生産の秒読み段階に入っている状態だ。それが軌道に乗れば、ロンドはますます人間社会に溶け込んでいくことになるだろう。

 

 そして、二機(ふたり)もまた、やがて来る人類の終焉を防ぐための道筋を、懸命に辿り続けているのである。

 

 

「いやぁ、これから私たちもヒマになるよねぇ。なんせロンドが優秀過ぎてやることが無くなってきてるから」

「まぁねぇ。新しい技術を開発するのもそろそろAGI-Jに追いつかれてきてるし……創造主が作った機械に追い越されるのはしんどいわねぇ」

 

 白雲、緑山の両博士のぼやきに赤木博士がうんうんと頷く。単純作業をロボットやAIに任せて人類は新たな発明発見に没頭する、なんて未来図はもう過去の物になりつつあった。なにせAGI-Jはその新しい発見発明まで自発的に見出すことが出来る、自我を持つAIなのだから。

 

 現に白雲たちの所属する佐那研究所は、近い将来に全ての運営をロンド達に任せる事が決まっていた。博士たちを含む既存の従業員の給料を藍塚が保証してくれているので社内からも反対意見は出ず、いよいよ世界初であるアンドロイドによる完全オートメーションの会社運営が始まる事になる。

 

「このシステムを世界的な社会形態にする為に、何としても総理の椅子を得なければな」

 政治家、棟方潮が胸をどん、と叩いてそう決意を固める。アンドロイドやAIの進出に合わせて人類が仕事と収入を失うのはかねてからの問題点だ。

 ならいっそ法案で国民一人に一台ずつロンドを提供し、そのロンドに代わりに仕事をやって貰って、人間は給料だけを受け取るというシステムを実現させれば諸問題は一気に解決する。

 この佐那研究所の改革は、まさにそんな夢の未来のモデルケースになり得るのだ。

 

 

 こうして、世界の運命を握る者たちが、いよいよ世に出て行くことになる。

 

 果たしてその先にあるのは、人類の破滅か、それとも――

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