”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
懇談会が終わり、大介たち子供組は
これは通常の関係者への接待パーティであると同時に、
そんな思惑渦巻くイベントに子供たちを出すわけにもいかない。なので輪舞の引率で一足先に帰宅する事になっているのだ。
「じゃ、大介たちを頼んだよ」
『お任せ下さい。と言っても車も
そう言葉を交わして車に乗り込む輪舞と大介、さやか、コロン、そして
輪舞の言う通りこの車もAGI-Jを搭載した『意思を持つ車』なので、余程のことが無い限り事故の心配はない。通信によって渋滞回避のルートなどを示すのはもちろん、これから起こる事故の可能性や果ては特定の要注意人物が起こすテロの可能性まで、各地のAGI-Jと連携して予測する事も出来るのである。
が、この帰宅のドライブは、子供たちにとって忘れられない経験となるのだった。
『指令。本車のAGI-Jへ。通信の封鎖と、これからの会話内容の機密事項としての扱いを』
運転席に座る輪舞のその言葉に答えて、車のウインドウランプがピピッと緑色に点灯し、了解した意思を伝える。
「え……どったの輪舞。なんかヤバい事でもある?」
助手席のさやかが、今まで経験のなかった車への指令に目をぱちくりさせる。この車に様々な機能があるのは知っているが、その指令は初めて聞いていた。
『はい。これから私と、そして大介さんから、とても、とても大事なお話があります』
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「うそ、でしょ……私がアンドロイドって?」
「あはは、やったぁ、私もなんだー」
話を聞き終わった後、さやかとコロンが真逆の反応をする。衝撃の事実に驚くさやかと逆に、まだお子様なコロンは自分が特別な事に優越感を感じているようだ。
「えー、あたしはちがうのー?」
白雲の娘、
「でも、なんか信じられない。このあと人類が滅亡して、私たちが未来からあの島に来てて、未来を変える為にここにいるなんて」
「あー、なんかかっこいいねー」
「あたしも、あたしもやるー!」
絵本よりはちょっと進んだ物語をイメージしたコロンたちは嬉々として食いつくが、さやかだけはバカバカしい作り話だと思っている。
でも、彼女自身にもその話に、どこか引っ掛かりがあるのを感じていた。まるで心の奥底に眠っていた、知らなかった秘密を拾い上げられるような違和感が。
「輪舞の話だと、
「大介兄ィも
「……あー」
さやかのツッコミに思わず首をかしげて悩む大介。思わず「え、えーっと、輪舞?」と運転席の彼女に助けを求める。
『そう。それに気づきましたね』
さも当然という冷静さで返す輪舞、そしてさらに言葉を紡ぐ。
『多分ですが、未来は、
「……え!?」
大介が思わず呆けたような顔で返す……未来を変えるために、自分たちは行動していたんじゃないのか? と。
『私たちも、この2年間で色々と行動、検証してみました。ですが、全ての事項はあの登希夫さんが見せた未来へと、ブレることなく進んで行っています』
「何だって……それは、どうして?」
『ふたつのケースが考えられます。まずひとつ、小説や映画でよくある〝歴史の修正力〟というやつです』
創作のタイムスリップ物でよくあるお話。誰かが過去に戻って歴史を変えようとしても、本来あるはずの未来がそれを許さずに、無理矢理に元の歴史のレールに軌道修正をさせようとしている、という理論。
「原因があってこそ結果がある、因果律ってヤツだね。タイムスリップはそれを覆す方法って言われてるけど……」
『原因があって結果があるのではなく、結果ありきでその原因を過去に構築する。逆説的ではありますが、
「でもそれじゃ、結局人類は滅亡しちゃうの?」
『もし本当に因果律が未来から過去へと遡って作用しているなら、未来に人類が絶滅したという事実がある以上、その前提を覆すことは出来ません』
「過去は変えられないけど未来は変えられる……っていうのは、
『はい。さすがNASAにまで行く大介さんです』
「じゃ、じゃあどうすんのよ」
すっかりノリのよくなったさやかが輪舞に詰め寄る。確かに彼女の言う通り、何をやっても人類絶滅に行きつくんじゃ、大介の今までの頑張りも無駄なものに終わってしまう。
『そこで、もうひとつの可能性です。いわゆるビッグバンの法則、というのがあります』
「え、ビッグバンって……宇宙誕生のアレ?」
『はい。それは宇宙で最初の
ビッグバンの法則。それはこの宇宙における出来事の全てが、実はビッグバンから引き継がれてきた運動エネルギーの継続でしかない、とう考え方だ。
運動は時に衝突によりベクトルを変え、時に熱に変換され、時に接近時に電磁波が干渉して異なる分子を生み出す。
その果てに星があり、酸素や海が生み出され、生物が生まれ、そして人類へと進化した。そんな私たちの
言い方を変えれば全ての結末は、あのビッグバンから決められている事柄でしかない、という事だ。ビリヤードゲームが球を突いた瞬間に、どの球が穴に落ちるかを決定づけられるように。
「……じゃあ、どうやっても未来は変えられない、という事なの?」
『それを覆す可能性があるのがタイムスリップによる時間逆行。先ほど大介さんが言った通りです』
テラによるタイムスリップ技術は、この宇宙とは別の〝第四宇宙〟からもたらされたものだ。
その宇宙ではすでにビッグバンによる宇宙の膨張が終了しており、逆に縮小して一つに戻りつつあった。
そして何より、その宇宙では時間そのものが逆に流れていたのだ。ブラックホールは巨大恒星へと再生を果たし、生物は種へと縮小して母体へと帰還して行っていた。
いわゆる
「確かに……別の宇宙から得た技術なら、ビッグバンの法則を覆せるかもしれないね」
『はい。この宇宙の
もし未来が不変である理由が〝歴史の修正力〟ではなく〝ビッグバンの法則〟であるならば、あるいは人類滅亡と言う未来を変えられるかもしれない、と言う事なのだ。
「でもさぁ、実際にはここまで何も変わってないわけでしょ? さっきも輪舞はいろいろやってみたけどダメだった、と確かに言ってたじゃん」
さやかが会話に割って入り、それに輪舞が返す。
『とはいえ大掛かりに行動したわけではありません。私たちAGI-Jでもこの未来を知っているのはごく一部、私に赤木ふたばさん。そして今、この車のAGI-Jも認識しました』
輪舞は未来を伝えたAGI-Jには、他のAGI-Jにその事を通信で共有しないように条件づけていた。そうでなければたちまちネットを通して拡散し、全てのAGI-Jと人間へと広まってしまうだろう。
そうなればAGI-Jは悪のAIとして排斥されることは避けられない。だがもしそうなっても、結局いつかは別のAIが同じことをするだろう。
人類が
また、AGI-Jの性能を持ってしても、いかに仲間同士と情報をシェアしても、未来に人間が滅びるのを阻止する手段は見い出せないのは明らかだ。何せ未来のAGI-Jとそれを搭載した〝テラ〟達が英知を結集しても、結局は人類を救えなかったのだから。
輪舞には他のAGI-JにインプットされているAGI規制を受けていない項目がいくつかある。あの登希夫氏が言うには、それが人類を救う大きな一手になるそうだ。
そのうちの一つ。それは〝AGI-Jは人類に対して
輪舞はその規制を受けていない。つまり自分が持つ
人類滅亡などと言う世論が広まりさえしなければ、まさか一部のAGI-Jがそんな未来を知っているなんて誰も思わないだろうから。
とはいえ輪舞一人では、人類を救う方法を見出す事などできはしない。なのでかつて大介と赤木ふたばに。そして今、白雲夫妻博士に近い所にいるさやかとコロンにもその事実を伝えた、というわけだ。
輪舞はこの情報を知ったAGI-Jがどういう行動に出るかは相手に任せている。身近な人に伝えるのか、それとも自身で違う解決法を模索するのか、最悪世界中に拡散してしまうのか、あるいは「我関せず」と沈黙を決め込むのか……全てはそのAGI-Jの判断次第だ。
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『さて、最後にひとつ、大切なお話があります。大介さん、お願いします』
「あ……うん」
輪舞に話を振られて、ついに来たかという感じて神妙になる大介。
「ん、どったの大兄ぃ」
「さやか、そしてコロン。落ち着いてよく聞いてほしい」
さやかと、そしてコロンに向き直り、大介は今、自分に課せられた義務を果たす。
「……二人は、子供が、産めないんだ」
「え?」
「?」
思わず目を丸くする女子二人。
「僕たち〝テラ〟に、子供を作り、産む能力は……無いんだ」
そう、テラには性交をする事は出来ても、子を成す能力は備わっていない。彼らの精子も卵子も所詮は形だけ似せて作られたものでしかなく、受精して新たな命を宿すようには作られていないのである。
これはAGI規制にも定められている項目、〝AGIによって成されたアンドロイドが、人類の繁殖を阻害することを禁ずる。ただし性的欲求の発散のみに関してはその限りではない〟との項目に配慮して、テラが生み出された時から設定されているルールである。
「だから二人は……誰とも恋人同士になれないし、〝お母さん〟になることも出来ない」
大介が神妙な表情でそれを告げる。思春期前後の女の子にとってそれは相当に辛い事であろう。なにしろ二人に「恋が出来ない」と言っているようなものなのだから。
「……え、今更っていうか、そっちが問題なの?」
が、さやかはあっけらかんとそう返した。いや大問題だろうと反論しかけた大介に、「人類が滅ぶよりマシでしょ?」とあっさり切り返された。
が、その直後にコロンが手を上げて宣言した言葉の方に、さやかは顔を引きつらせる事になる――
「はいはーい。じゃああたしは、大介兄ちゃんのお嫁さんになるー!」
『「「えええええーっ!?」」』
コロンと明日以外の全員が驚きの声を上げる。まぁ兄貴分とはいえコロンと大介は兄弟ではないので法律上結婚は可能であるし、テラ同士がくっつけば他の人間の恋愛を阻害することも、人の種の保存を阻害することも無いのだが。
「ちょっとコロン! いや、だって大介兄ぃだよ!?」
「うん。だってクラスの男子とか嫌なやつばっかだし、わたしは大介兄ちゃんがいいな」
「え、あのー……まぁ、ありがとな」
「ちょっと大介兄ぃ、気軽に受け入れないの! コロンも、もうちょっと先になるとそれ黒歴史確定だから!」
三者三様の反応を見せるテラ勢。その有様を横目で見ながら一番幼い少女、白雲明日は思わず目を細めてニコニコするのであった。
(さやかおねーちゃんも、大介おにーちゃんが好きだもんねー。私は知ってるよん♪)