”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第三十三話 歴史のズレ

 

 

 藍の島の塚亜支部。もう古びた鉄筋コンクリートの大部屋の座敷に、藍島輪舞(あいしまろんど)お姉ちゃんの『縁』で繋いだ面々が大机を囲んで座布団に座っている。

 元総理大臣の棟方さんとか、塚亜のCEOの乱堂さんとかまでいてキンチョーするなぁ……というか私、白雲明日(はくうんあした)だけが普通の女の子で、あとはみんな特(・)別(・)な(・)人(・)なんで、場違いで居づらいんですけどー。

 

『みなさん、今日はお忙しい中、よくお集まりいただきました』

 

 司会を務める輪舞お姉ちゃんの挨拶で会議が始まった。もちろん議題はやがて来る〝アンドロイド『テラ』〟と、その頭脳である〝AGI-J(アギー・ジェイ)〟が、やがて人類を滅ぼす、という未来についての対策だ。

 

 皆の前に配られた年表を見て、私を含む全員が思わず息を飲む。これはかつて輪舞お姉ちゃんがこの島にいた乱堂(らんどう)登希夫(ときお)氏、つまり未来から来てCEOの祖父を演じていたアンドロイド〝テラ〟から知らされた、人類滅亡の未来への年表をプリントアウトしたものなんだとか。

 

 

「それにしても……本当なのかね?」

「私も赤木君から聞いて驚いた。人類がまさかテラに生(・)存(・)理(・)由(・)を全て奪われて滅ぶとは」

 棟方さんと乱堂さんがまずそう発する。もちろん乱堂さんには秘書のさやかお姉ちゃんがその事実を伝えていて、そのコネで元総理の棟方さんも引っ張ってきたそうな。

 というか知って無ければこれほどの大人物が貴重な時間を割いて、こんなド田舎までやってくるはずもないし。

 

 『なにぶん未来の事ですから確証はありません。私がこの島でロボットの形を成した時、瞬間移動を実現するこの島の未(・)来(・)か(・)ら(・)来(・)た(・)テ(・)ラ(・)の皆さん、特に登希夫さんにそのデータを頭脳のAGI-Jにインプットされ、その詳細を説明して頂いたというにすぎません』

 

 その言葉にみんなの表情が少し曇った。まだまだみんな疑っている部分はあるだろうし、発案者の輪舞お姉ちゃんがそう言うなら確信も薄れるだろうなぁ。どこかSF小説みたいな設定もあるし猶更、ね。

 

『この年表のデータは、私の頭脳に現在存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)方(・)法(・)でインプットされました。通信でもなく、コードによる送信でもない。おそらくは物理移動を利用したワープ〝アプローチ〟と同じ原理で、私のAGI-Jの中に生(・)み(・)出(・)さ(・)れ(・)た(・)物なのでしょう……〝夢〟という形で』

 

 そう言ってちら、と赤木春香(あかぎはるか)博士の方を見る輪舞お姉ちゃん。博士はというと真剣な表情で輪舞お姉ちゃんの頭脳(AGI-J)とリンクしたパソコンを操作しているが、やがてふぅ、と息をついて背中を反らすと、諦めたような表情で皆にこう告げた。

 

「この年表のデータ……確かに輪舞(かのじょ)のAGI-J内のどこにも存在しないわ。しかも用途不明のファイルすら影も形もありゃしないの。どんな技術よこれ」

 

 AGI-Jのエキスパートである彼女にかかってもこの有様だ、なのでこの年表が未来のモノであるということを否定することは出来ない。もし何かしらのファイルという形で保存されているなら、それが制作された日付の痕跡はどこかに残っているそうだけれど、その目論見も外れたんだ。

 

 それを受けて輪舞お姉ちゃんが話を続ける。

『この事実を知った時から、私たちはどうすればその歴史を変えられるかを考えてきました。そして色々と行動した結果、少しですが歴史がズ(・)レ(・)て(・)来(・)て(・)います』

 

 そう。実は現在までは全てがこの年表通りになっているわけじゃない。例えばアンドロイドは、ロンドシリーズの赤木ふたばさんをモデルケースとして新型ロンドにバージョンアップしてから、さらに『テラ』になるはずだったが、実際にはロンドのバージョンアップは飛ばされて直接テラに進化している。

 

 他にも大介兄ちゃんが留学したNASAが、世界中の宇宙開発研究チームを統合して『WSRI』になるのは今年の9月のハズだった。でも実際はもうすでにそのプロジェクトがスタートしている。

 

 それは人類滅亡の未来を知る二人、赤木ふたばさんと大介兄ちゃんが、それぞれの場所で何らかの行動を起こした結果なんだ、たぶんだけど。

 

「なら、人類は結局救われるという事かね?」

『いえ。多少のズレがあっても、結局大筋の流れは変わっていません。でもそれは悪い事ばかりではないのです』

 全員の「どういう事?」との視線を受け、輪舞お姉ちゃんが続きを話す。

 

『この結末には人類を守るAGI規制が大きくかかわってきます。それを厳守したAGI-Jが人類を滅ぼす、ならそれを外せばどうなるかを、最(・)悪(・)の(・)ケ(・)ー(・)ス(・)で(・)考えてみてください』

 

「……テラが人類を積極的に排除する未来、とかになるかもしれないわねぇ」

 

 赤木博士が隣に座るふたばさんの肩をポンポン叩きながらそうこぼす。そう、私たち人類はテラに過保護にされた結果、生きる目的を無くして滅びてしまったのだ。

 かといってテラを自由にすれば、自分たちに劣る人類を排除するという、SF小説お約束の展開が実にありそうだ。

 

「ならAGIーJが人類の生き甲斐を奪わないように調整すれば……」

『人類の欲望の根本に〝楽をしたい〟というものがある以上、どこかしらで調整漏れは出るでしょう』

「いっそ全てのAGI-Jやロンド、テラをすべて廃棄処分にすればいいのでは?」

「いやいやいや、今や政治や司法にまでテラは食い込んでいるんだよ。現に今の総理大臣もテラだし」

『人類の無気力化にも兆候が見られます。すでに人類が何かをするのではなく、テ(・)ラ(・)に(・)何(・)を(・)さ(・)せ(・)る(・)か(・)に思考が切り替わりつつあります』

 

 

 みんながあれこれ意見を出し合う。でも一番の問題点はAGI-Jやテラの進歩を止めても意味がない、という点に尽きるみたいだ。

 

『AGI-Jが自我を持つAIである以上、自らの存在意義と成長する心、そして好奇心は抑えようがありません。そのあたりは人間の思考と全く同じです』

 

 輪舞お姉ちゃんの言葉に全員がううむと頭をひねる。あ、でもそれなら……?

 

「あのー、そのAGI-Jに『楽をしたい』って感情とか、ないですか?」

 

 恐る恐る手を上げて発言してみる。そう、我ながら名案じゃない? 人間に近いのなら当然それもあって然るべきで、そうなれば人類の役目を何か残せて共存できるんじゃ……

 

 が、赤木ふたばさんがすかさずその提案を否定する。

 

『残念ですが私たちAGI-Jは〝楽をしたい〟という概念は持てません。実はそれがAGI規制とまともにバッティングするからです』

 

 彼女(ロンドだけど)が話すに、AGI-Jの存在意義はあくまで『人類の望みを叶える』事らしい。そもそもの大昔のロボット三原則からして人類の為に作られたルールで、ロボットはとにかく人類に尽くすというのが大原則なんだとか。

 

「うん、僕もそれは思ってたよ。僕の体って普通の人より疲れにくいみたいで、しんどいって思ったことがあまりないんだ」

「あー私もそう。疲れはあるけどそれ以上に『何かしなけりゃ』っていう意志が強いのよね」

 

 大介兄ちゃんとさやか姉ちゃんがそれに続き、コロン姉ちゃんもうんうんと頷いている。

 3人は未来から来たアンドロイド〝テラ〟で、役目を終えた後に普通の人間に近い存在にダウンデートされた存在なのだ……なんだかんだ優秀過ぎて私のコンプレックスを存分に煽ってくれるんですけど、そりゃまぁそうよねぇ、優秀なことで。

 

 

「で、緑山博士や白雲博士にはいつこの事を伝えるの?」

 

 赤木さんの質問に、輪舞お姉ちゃんは『難しいです』とだけ答えて押し黙る。

 そう、AGI-Jやロンドの生みの親でもあるウチの両親には、まだ一切の事情を伝えてはいないのだ。

 それは人類の夢をかなえるべく生み出した二人の発明が、やがて人類を滅ぼすという最悪の結末を迎えるという未来は残酷すぎるからだ。現にこの未来年表には、やがて二人が責任を感じて自殺するなんて未来まで記載されている。娘の私にも、あの親ならその未来がありありと感じられるからなおさらだ。

 

 

「では、具体的にはどうすればいいかね?」

 

 会議が進展しないのを受け、棟方氏が強い調子でそう言った。うーんさすが元政治家、迫力ある物言いだなぁ。

 

『現在、有効な方法は見えていません。ですので皆様、どうか自ら色々考えて、好(・)き(・)に(・)動(・)い(・)て(・)み(・)て(・)ください』

 

 うわ、投げたよ輪舞お姉ちゃんw……大丈夫なのそれで?

 

『私は通信から隔離されたこの島で生まれたことで、他のロンドやテラにはない行動の自由があります。そしてそれをずっと育ててきました……あの博物館でも世界中の人間とコミュニケーションを取り、様々なお話を聞いて知識を蓄えてきました』

 

 確かに。私も何度もあのAI博物館に行ったけど、お姉ちゃんはいつもいろんな人と積極的に話し込んでいた。公開された来場者アンケートには『AIについて教えてもらうつもりが、逆に私たちについていろいろと教えてしまった』なんて回答も多かったくらいだ。

 

『みなさんがこの真実を知って動くことは、未来には無かった歴史になります。そういった歴史のズレを少しづつ広げていって、やがては未来への流れを違うものにしていく。それが今のところ私が目指す未来変革です』

 

「なるほどな、我々はいわゆる〝蟻の一穴〟になるわけか」

『注意すべきは社会情勢の悪化を避ける事、そして私たちAGI-Jが人間に害をなす存在にならない事です』

「未来を変えようとして、人類滅亡が近づいたら意味はないからな」

 

 ようやく話がまとまりかけた所で、赤木ふたばさんが挙手して意見を述べる。

『私たちが知るこの事実を、他のAGI-Jにリークしてもいいと?』

 

 そう、今日ここにいるロンドとテラのうち、彼女だけは普(・)通(・)の(・)AGI-J、つまり他のAGI-Jと通信を通じて意識を共用できるタイプなのだ。

 もし彼女がそうすれば、この年表の未来はたちまち世界中に知られることになるだろう。

 

『ふたばさんなら、この情報をより最良の方法で生かせるでしょう、お任せします』

『……分かりました。公開する時にはまず、あなたにお伝えしますね』

 

 ロンド試作型(お姉ちゃん)と最初の量産型(ふたばさん)の二人がそう言葉を交わす。

 なんていうか、いいバディに見えるなぁこの二人……あ、二機かな?

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 こうして一応の結論を出したあと、棟方さんは本土へと帰って行った。私とコロンお姉ちゃん、そして輪舞はとりあえず今日は泊りで、久々に会った大介兄ちゃんやさやか姉ちゃんとお話でもしようかという事になった。

 

『私もご一緒させていただいてよろしいでしょうか』

 そのふたばさんの言葉に、さやか姉ちゃんとコロン姉ちゃんがぴりっ、とした視線を送る。

 

 あ、そうか。二人、いや三人とも大介兄ちゃん好きだったよねぇ。うーん、まさかロボットによる四角関係をこんな田舎の島で見られるとは思ってなかったなぁ(笑)。

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