”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第三十六話 賽は投げられた

 藍の島での一夜が終わり、私たちは全員がこの島を後にする事になった。

 

 本土との往復便に荷物をまとめて乗り込む私たち。棟方さんだけはもう昨日の便で帰っているけど、他のみんなもこれからまたそれぞれの日常に戻りつつ、それぞれが使命である『人類滅亡の阻止』へと動いていくんだ。

 

 中でも乱堂CEOは残された島民の皆さんとの別れを惜しみつつ、それでも使命感に燃えた目をして渡船に乗り込んで来た。

 彼はこの島の住民に育てられた、いわば『島のみんなの子供』みたいな存在であり、しかもその親代わりである島民の皆さんは未来から人類を救うために来た〝テラ〟。そして今はそれすらも忘れて、残りの余生をここで過ごして死んでいくだけの存在なのだ。

 恩人たちの人生を無駄にしない為にも、問題解決に本気で取り組むだろう。秘書であるさやかお姉ちゃん(テラ)とも協力して、しっかりと解決策を見出してほしいものだ。

 

「ね、コロンお姉ちゃん。結局夕べはあれからどういう話になったの?」

 帰りの渡船の中で隣にいるコロン姉に聞いてみる。が、「あー、うん。まぁ、いろいろと、ね」なんてはぐらかされてしまった。

 が、前の席に居た輪舞お姉ちゃんが代わりに答えてくれた。なんでもそれぞれが別々の方法で未来を変える事に決定したらしく、この島を出たらすぐ何かしらの行動に出るみたい。

 

「方法って……大介兄ぃ以外の方法とか出たの?」

『はい。私はAGI-Jより上の存在である〝ASI(超人工知能)〟を生み出すことが出来れば、何らかの解決策を模索できるのではと提案してみました』

 あーそれ知ってる。確か人間の知能を遥かに超えたスーパーAIだよね。未来の法則やら摂理やら常識やらを全部別ものにしてしまう程の、AIの神みたいなやつだったはす。

 でも、AGI-Jやテラが優秀かつ人類に忠実過ぎたので、すっかり必要のない超技術として手付かずになってるんだっけ、それ。

 まぁ人(・)知(・)を(・)超(・)え(・)た(・)AIなら、AGI-Jみたいに人間(・)が(・)考(・)え(・)た(・)規制で止めることが出来ないだろうから、作るにはリスクが大きすぎるのよねー。

 

「私たちは〝テラ〟のこれからをどうするかね」

『レイリンピックのためのテラをどう設定するか、それによって人類とテラの関係は大きく変わりますから』

 赤木博士とふたばさんが続く。大介兄ぃの提案した人類テラ化計画への入り口となり得るのが、テラの〝アンドロイド〟から〝人造人間へ〟の進歩だ。未来の歴史ではレイリンピックによって改良されたテラが、そうなる大きなきっかけだったみたいだし。

 

「私は現在も世界で活躍している組織や政治の人(・)間(・)にコンタクトを取って、信用できる者にこの事実を伝えて協力を仰ぐつもりだ」

「世界中に出張ですか、忙しくなりますね」

 乱堂CEOとさやかお姉ちゃんは人脈を生かしての協力者探しに奔走する事になるとか。日本じゃもうほとんどテラが社会を回しているけど、世界で見ればまだまだ人間が活躍している国や、テラを受け入れられない宗教のエリアなんかもあったりする。

 そんな人たちの中から、好(・)意(・)的(・)な(・)協(・)力(・)を得られそうな方々に協力を求めるそうだ。〝AGI-J〟や〝テラ〟を生み出した塚亜のCEOである乱堂さんが、自社の損失も顧みずに動くのは、やっぱあの島のテラ達を思っての事だろう。AGI-Jを生み出した会社の最高責任者としての自負もあるだろうし。

 

「さて。明日さんは、どう動きますか?」

「え……私?」

 いきなり赤木博士に話を振られて思わず絶句する。ちょっと、私はただの女子中学生(もうすぐ高校生)なんだし、あんんたたちみたいな大それた行動は出来ないわよー。

 まぁ昨日の大介兄ィの話を聞いて、テラの体に入る実験台とか面白いかなとは思ったけど。

 

『明日さんは白雲、緑山の両博士のご令嬢ですから』

 うぐ、そう来ましたか。

 

 確かに私の両親はAGI-Jとテラの前身であるロンドの生みの親なんだけど、今まではみんな暗黙の了解で、それらが未来で人類を滅亡させてしまうのは秘密にしていた。

 もし本当にそうなれば制作者としては責任感じちゃうだろうし、それが明るみに出たら世界中から非難されるだろう……とは言っても未来からタイムマシンで来たテラ達の情報なんて、笑い話にされるだけで信じないかもだけど。

 でも……お父さんお母さんは未来でこの事実に自分たちで辿り着いて、テラやAGI-Jの排斥を訴えた挙句に、絶望感に苛まれて自殺してしまったんだ。

 

 私が人類最後の一人になるのも、もしかしたらそんなお父さんやお母さんの仇を討とうとして、いろいろと頑張ったのが功を奏して、あの無気力病にかかるのが遅れたせいなのかも知れない。

 もし、お父さんお母さんにこの未来の事実を伝えるなら、その役目は多分……私だ。あー気が重いなぁ。

 

 そうこうしている間に本土の港へ着いた。ここで私たちは解散し、それぞれの日常へと戻っていくことになる。大介兄ぃはアメリカへと戻り、CEOと秘書のさやか姉は塚亜本社でそれぞれが行動を起こすだろう。

 赤木博士とふたばさんは次代のテラ、人類を滅ぼす事になる『限りなく人類に近いアンドロイド』への開発に入る。それにいかに人類が滅ぶ病気、つまり人類のテラに対する劣等感(コンプレックス)を持たせないようにするかが勝負みたい。

 

 で、輪舞(ロンド)お姉ちゃんは間もなく本来の業務であるAGI博物館での展示ロボとしての任期を終える。多分一度は佐那研究所かウチの両親の所に戻って来る事になるだろうけど、それからどう動くのかは予想がつかない。ひょっとして自分がAIの神であるASIになろう、なんて考えているんじゃないでしょうねぇ。

 ま、今までずっと周囲の人たちに尽くしてきた輪舞姉ちゃんなら、そうなってもきっと人類を幸せにしてくれるでしょうけどね。それは赤ちゃんの頃からずっとお世話になって来た私が保証してもいい。

 

「では、我々も頑張るから皆も頼むぞ」

「グッドラック!」

「さーて、誰が何をやらかしますかねぇ」

『赤木博士、縁起でも無いですよ』

『いずれにしてもこれから世界は大きく動きます。私たちAGI-Jと人類、そのどちらも込みの運命に』

 

 みんなで輪になって拳をコツコツと合わせる。あはは、なんか部活動でもやってるみたいだなぁ。

 

 別れの挨拶を済ませた後、それぞれがタクシーやバスで去っていく。さて、残された私とコロン姉は、卒業旅行の残り二日を堪能するとしますか。

 

「明日、とりあえず何か食べようよ。何がいい?」

「徳島ラーメン!」

「了承!」

 

 難しい話ばかりで不足していた頭の栄養分を補う為(大ウソ)、私たちは近くのラーメン屋で早めのお昼を取ることにした。お父さんお母さんからも美味しいって聞いてたし、楽しみ♪

 

  ◇        ◇        ◇

 

 赤い看板のラーメン屋に入る少女たちを、二人の人物が建物の影から遠めに眺めて感想を漏らす。

「ふふ、懐かしいわねぇ。私達があそこに立ち寄ったのが全ての始まりだったし」

「うん。今あそこに明日やコロンがいるのは皮肉だねぇ」

 

 その二人の人物……共に『博士』の異名を取る夫妻は、自(・)分(・)の(・)娘(・)達(・)がかつての自分たちの行動をトレースしている光景に思わず笑みをこぼし、そこから後ろにいる人物に向きなおって、余裕の表情で言葉をかける。

 

「や、輪(・)舞(・)。こんな所で会うとは偶然だねぇ」

「こらこら、映画のシーンじゃ無いんだから、遊ぶな」

 

『ご苦労様です、白(・)雲(・)博士、緑(・)山(・)博士』

 

 

 ――かつての始まりの場所。ここ徳島の地から、新たな流れが動き出す――

 

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