”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

39 / 39
第三十八話 新テラの影響

 アンドロイド『テラ』のスポーツの祭典、レイリンピックの最後に登場した新型テラ『スターライト』の存在は、世界中で再びアンドロイドやAIについての激論を巻き起こす事になった。

 

「人類を作りたもうた神への冒涜である!」

「あらゆる医療技術が激変するぞ、病の無い世界も夢ではない」

「ついに不老不死への扉が開いた!」

「これは人類繁栄を止める劇薬だ、誰も子供を産まなくなるぞ」

 

 スターライトの体はもはや半機械、半肉体といっていいほどに生物(ニンゲン)に近づいていたのだ。流石に骨格や動力は機械のそれだし、頭脳は相変わらずAGI-J(アギー・ジェイ)のままだが、口内から消化器官、そして水分と不要物を人類同様に排泄するシステムに至っては、ほぼ人類と同じたんぱく質等で構成されている。

 何より驚かされるのはそれが単なる形式だけではなく、実際に取った食事や水分をちゃんと消化吸収し、動力エネルギーとしてテラの稼働に当てている点だ。つまり、食事を起点として生命活動を行う『生き物』としての体を成しているのである。

 

 その進化を実現させたのが、アメリカに本部を置くWSRI(合同宇宙開発研)が月面で採取に成功した新レアメタル『ココ』の存在だ。

 このココには物質の時間経過を早めるという特徴があり、例えば空気中で鉄をココにある条件で接触させると通常より遥かに早く錆びて朽ちてしまう。それだけでも通常で時間のかかる熟成などを早めることが出来るのであるが……何より驚きなのが、その時間短縮が生命体の成長にまで適応されるという事だ。つまり遺伝子を持つ生物をある方法でココと融合させると、その成長がどんどん加速していき、果ては老化までしていくと言うものだ。

 

 スターライトの内臓器官もそうやって人類から採取された遺伝子情報によって、胎児の消化器官のごく一部を使い、ココと融合させて口内から大腸までを作り出していたのだ。

 一昔前なら理論で止まっている夢物語であろう。だが社会科学のほぼ全てをテラのAI、AGI-Jが回している今ならそんなとんでもない技も実現してしまっているのだ。

 

 つまりAGI-Jは、新たに人類に極めて近しいナニカを作(・)り(・)出(・)す(・)事を成し遂げたのである。

 もちろんAGI規制によって、そうやって生み出されたナニカが人類に取って代わることは無い。彼らはこの時点に至っても、あくまで人類に尽くす存在である事を忘れてはいないからだ。骨格や筋肉や脳部分、そして生殖機能が無いのもその表れであろう。

 

 だが、人(・)類(・)が(・)そ(・)れ(・)を(・)望(・)め(・)ば(・)話(・)は(・)別(・)だ。

 

 もし、人が自らをスターライトのような人造人間に成る事を望むなら、それは決して不可能ではない。SF映画でよくあるように頭脳以外の体を全て作り物にしたり、自らの意思や思考をテラのAGI-Jに移植(ダウンロード)して、第二の自分を生み出す事も十分にあり得る。

 あのレイリンピックでそれが披露されたのが、その思考をさらに後押ししていた。人類が望んだ『理想の自分』への劇的な変化へのスイッチを目の当たりにしたのだから。

 

 超一流のアスリートになりたい、天才と呼ばれるレーサーになりたい、昨今AGI-Jやテラに奪われた宇宙飛行士になりたい。そんな夢が、体(・)を(・)テ(・)ラ(・)に(・)着(・)替(・)え(・)る(・)事(・)で再び実現可能になるのだから。

 

 少なくともこの発明は、人類種の未来への選択肢を一つ増やした事は間違いなかった。あらゆる病魔や負傷への完全な対応の可能性と、ヒトと言う生物の自(・)然(・)な(・)在(・)り(・)方(・)との真逆の理論が真っ向からぶつかる事態へと発展していった。

 

  ◇        ◇        ◇

 

「東アジア某国で〝テラ〟の排斥運動が始まったらしい」

「宗教国家からは特に反発が厳しいわね。まぁ無理もないか、『神』の存在の否定でもあるし」

 

 佐那研究所の名誉顧問である白雲青空博士と緑山青海博士の夫妻は、朝食後のひと時を過ごしつつ、そんな会話を交わしていた。

 かつてAGI-Jを、そしてテラの前身であるロンドを生み出した二人は、いつごろからかその危険性を感じていた。いつか生存の全てをテラに任せっきりになった人類が、やがて退化と衰退の道を辿るのではないか、と。

 

『大介さんの人類救済方法も、一筋縄ではいかなさそうです』

 そう答えたのは東京でのAI博物館の展示期間を終え、再びこの家に戻って来ていた最初のアンドロイド〝輪舞(ロンド)〟だ。

 

 そう、この夫妻は少し前に、輪舞から人類滅亡の未来を語って貰っていたのだ。元々AGI-Jに詳しい緑山と、人類とアンドロイドの微差に敏感な白雲にとって、その未来はある種想定の範囲ではあったのだ。

 彼らの家に未来から来たテラ、つまり大介やさやか、コロンがホームステイしていた事もその察知を後押ししていた。特に二人の娘の明日と年の近いコロンを見続けていれば、この中の良い姉妹が別(・)の(・)存(・)在(・)である事に気付くのは自然だと言えるだろう。

 

「各方面が動き出したようだね。さて、僕たちはどう動く?」

「少なくとも自殺する未来は避けたいわねぇ」

『お二人がその未来を知っている以上、自殺はあり得ません。むしろ自殺をカムフラージュしての自らのテラ化や、反勢力によるテロの可能性の方が高いです』

「「……どっちも嫌だなぁ」」

 

 輪舞がかつてあの島で見せられたのは、あくまで事実のごく一部の『年表』でしかない。つまりあの歴史はあくまで公式発表されたものでしかないのだ。その裏で実は誰が生きていて、誰が暗躍したかまでは知ることが出来てはいない。

 ならばこの夫妻も本当に自殺したのか、はたまた自殺を隠れ蓑にして暗躍する事になるのかはまた明らかではないのだ。

 そんな未来の穴をついて、これから人類の未来をどう救っていくのかを考えるのが、AGI-Jとテラ(ロンド)を作った自らの責任だと思っている。

 

 ただ、この歴史の修正がどう影響を及ぼすかは分からない。輪舞の見た未来では、人類は生存理由を失ったことによる病『自滅病』によって絶滅してしまうことになる。

 だが修正方法を誤れば、より悲惨な人類絶滅を招いてしまう可能性も大いにあり得るのだ。仮に反テラの勢力が全てのAGI-Jとテラの撲滅を謳えば、テラ擁護側との戦争にまで発展する危険もある。テラの頭脳もまた自我を持ったAGI-Jであるため、自らを黙って滅ぼされる事を受け入れられるかどうかも疑問だ。その一機一機が『自分』を持っているAIなのだから。

 

 ましてやAGI-J擁護派が否定派を駆逐すれば、それはAGI-Jが人類を攻撃したと見なされるだろう。少なくとも駆逐される側からすれば「AGI-Jやテラがあるから人類同士が争うんだ」との主張を止めないのは容易に予測できる。

 

 人類種に極めて近い新たな存在の登場、それは必ず混乱と争いを生むだろう。かつてのネアンデルタール人とホモサピエンスの生存競争のように。

 

 

『すべての人類と全てのAGI-Jが、完璧に調和して生存する未来を描けられれば理想です』

 

 輪舞の結論、というか最終目的はいつもそこにあった。世に出た最初のAGI-J、最初のアンドロイド。そして最初に未来の全てを知った存在として、未来から希望を託された者として、その目的を遂げる事こそが彼女の存在理由(アイデンティティー)であった。

 

 あの未来。テラが世界を席巻する存在になってもなお、人類を決して見捨てなかった未来のテラ達の想いに、答える為にも。

 

 たとえそれがAGI規制と言う、人類に押し付けられた縛りであったとしても――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。