”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
「な……そんな、いきなり!?」
相変わらず白雲との夜の蜜月が激論だけで終わった翌日の朝一番、私と彼はこの佐那研究所の所長室に呼び出され……そしてそこで『宣告』を受けた。
私のAI研究室長の剥奪。そして四国は徳島県、藍の島支部への転属命令……つまり、
「バ、バカなっ! 我が研究所が世界に冠たる存在になるための研究を、完全閉鎖ッ!?」
そう叫ぶ白雲の方はさらに悲惨だ。所属するロボット工学研究部の全面閉鎖までが通達され、その上で私と同じ藍の島への左遷が言い渡されたのだから。
AI研究所は赤木さんが新たなリーダーとして引き継ぐことになってるので、まだ私が頑張って来た事を繋いでもらえる。でも彼の方は……今までの苦労が全て無に帰すというのだ。
「ま、君達の研究が全く成果を出せない金食い虫になってるのを自覚したまえ」
副所長の奈川《ながわ》がバーコード頭の下のインテリ眼鏡を光らせてイヤミを言う。正面に座っている谷津実《やつみ》所長も「やむなし」といった表情で頷いて、私たちにトドメを刺す。
「退職するも居残るも自由だ。ただ辞めるにしても1カ月は向こうで勤務してくれたまえ、表向きはいきなりクビという事にはしたくないのでな」
つまりもう復帰は絶望的だと言う事だ。せっかく昨日から新AGI〝
とはいえ、うすうすそんな危機感があったのも事実だ。正直なところ今回の
なにせ具体的に何が足りないのか、どうすればより完全なAGI(汎用人工知能)が出来るのか。その方法すら見えてこないのだから、むしろこの計画を引き継ぐ赤木さんや他スタッフに気の毒な気持ちすらある。
そういう意味では白雲の方はむしろマシなんじゃ、と思って彼の方を見ると……絶望からか真っ白になって固まっていて、「そんな……そんな……」と繰り返していた。
いや
「ま、二人仲良く新婚旅行の前倒しだと思って、南国のリゾートでも楽しんできたまえ。はっはっは」
奈川のハゲが朗らかに笑いながらそう告げる。あーもううっさいわねこの太鼓持ちが!
徳島県、藍の島。
ウチの本社『塚亜《つかあ》エレクトロニクス』のCEOである乱堂徹《らんどうとおる》氏の出身地。
人口わずか30人足らずのひなびた離島で、訪れる人といえば物好きな釣り人くらいだ。しかも往復便の船も一日一便しか出ておらず、TVはおろかネット電波すら届かないという、まさに秘境の島である。
そこにわざわざ支部があるのも、CEOが故郷に錦を飾る……というよりは、そこに住む親族に「ちょっとは地元に貢献しろ」とせがまれて義理で設立したそうで、そこに飛ばされた社員は村民にボランティア同様にこき使われた挙句、例外なく短期間で辞めて行ったそうだ。
まぁそんな所に左遷って事は、私たちはもう用無しということに他ならない。
「向こうにもパソコンくらいあるんでしょう? じゃあ昨日開発したAGI-Jのデータを持ち出させて頂きます」
「あ、じゃあ私も開発中のアンドロイドを一体、持って行かせてください」
決定が覆ることがなさそうなので、せめて自分の仕事の成果くらい手元に残したいと思ってそう提案する、多分白雲も同じ思いなんだろう。
「いかんいかん! 社内の物を持ち出すなど許可できるわけが……」
「かまわんよ。持って行くといい。どうせ研究所《ウチ》ではもう用無しなものだ」
奈川が言いかけた言葉を所長が制してそう許可してくれた。っていうか用無しってコトは、やっぱAGIの開発自体が中止になるのかなぁ。
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部署に戻ると、もう既に赤木さんがリーダーバッヂを付けて部署内の改変にかかっていた。私を見止めると「まぁ、後は任せて下さい」とそっけなく返して、後は私を見もせずに室内の配置をてきぱきと変えていく……どうやら以前からこうなる事は決まっていたようだ。そいうや副所長と仲良かったわよねぇ、この娘は。
でもそんな事でゴネても仕方ない、大企業じゃまぁよくあるコトだろうと、私物をまとめて撤収の準備をする。
最後に昨日アップしたばかりの
ま、頑張ってね。
で、ロボット部門に寄ってみたら、白雲の奴がひとりぼっちで梱包したアンドロイド(だと思う)を抱えたままめそめそと泣いていた……あーもう、男のクセにウジウジしないの! 左遷くらい何よ、『座って半畳寝て一畳』くらいの根性見せんかい!
まぁそんなわけで白雲を引きずって佐那研究所を後にする私達。現場への旅券は貰っているので、今日はどこか宿を取って、明日にでも徳島に出発しますか。
アパートに戻って荷物をまとめ、大きめの物を宅配便で送る手配をしてから、夕方に白雲と落ち合ってちょっとお高いホテルにしけ込む。まぁ会社の金だから最後の横浜くらい良い思いをさせてもらいますか。
あーでも明日から本当どうしよう……給料も大幅に減額されるだろうし、身の振り方も考えなくっちゃねぇ。
「で、あんたそのアンドロイドわざわざ持って来たの? 郵送で送って貰えばいいのに」
ホテルの部屋にまでアンドロイド(梱包済み)を持ち込んでるのにはさすがに呆れる。どんだけロボットバカなんだよこの男は。
ましてこれからは開発もメンテナンスも出来ない所に行くのに……潮風に晒されてサビてボロボロになるのは目に見えているでしょーが。
「こいつは俺の傑作だ! 絶対にいつかリアルな人間の如く動かして見せる!!」
涙を流しながら力説する白雲。いや今更研究所に戻れる事もないし、他の企業だって受け入れてくれるとは思えないんだけど。
「ちなみに、どんなロボットなの、それ?」
「よくぞ聞いてくれた! これこそ人類の夢と希望の結晶、その原石となる第一歩だ!」
そう言って大袈裟に両手を広げるポーズを取って、そこから梱包の端をぴっ、と剥がして、そこから一気にばさぁっ! と包装をほどいて、その姿を露わにさせる――中から出てきたのは……
身長150cmほどの、金髪をツインテールにした、
「えーっと、
「もっちろん! 人類の夢であるアンドロイドさ。メイド的な仕事から夜のお相手まで、なんでもこなす物を目指すぞ。これが実現したら世界中からオファーが来ること間違いなしさ!」
……コイツ、こんなもんを真剣に作っとったんかい。そら部門自体が閉鎖にもなるっての!
「あんたの趣味がこんなだってのはよく分かったわ……どうりでラブホ行っても私を抱かなかったワケよねぇ」
「あ、いや。やっぱ自分で作った『娘』には萌えなくてねぇ。出来れば君に色々と意見を……」
ぴきっ!(怒)
「言うわけあるかあぁぁぁぁぁっ! このドアホおぉぉぉっ!!」
とりあえず、思いっきりぶん殴っておいた。