”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第三十九話 宇宙へ

 新タイプのテラ『スターライト』が世に出て以降、世界の情勢は大きく様変わりして行った。

 外見のみならず肉体まで人類に似せる事に成功したテラの存在は、最初は確かに人類が人類を作る行為として、創造主である神への冒涜だと反発する国や宗教も多かった。

 が、その各国にもすでにテラが生活の一部として馴染んでいる以上、反対運動の盛り上がりもほどなく鎮静化していく。

 仮に、もしテラの頭脳が普通のAIならそれぞれの勢力がそこにいるテラの協力を得てお互いの正義を主張し合い、最悪戦争にまで発展したであろう。

 

 が、世界に散ったテラ達の頭脳は自我を持つAGI-J(アギー・ジェイ)なのだ。自らの成長と進化を望む勢力と、否定し排斥を訴える勢力のどちらに対して能動的になれるかと言えばやはり前者だった。ましてや勢力や国境を飛び越えて通信で繋がっているテラ達が、お互いの人間たちが納得する形で話を収めようと動くのは当然の成り行きであると言えよう。

 例え最終決定権を人間が担っていたとしても、である。

 

 また人類と言うのはそれが有効な道具であれば、いかに別方向で危険性があってもそれを採用するのは自然な流れでもあるから尚更だ。大昔から下働きや奴隷の仕事を無くす便利道具の発明から、戦争で兵士の出番を無くす核兵器まで、発達することはあっても無くなることは無かった。

 つまりテラの進化を止められない事は、人類の歴史が証明しているのだ。テラが人間にとって最良のパートナーであった今までから、人類の新たな進化のサンプル提供者にまで成り上がった以上、人類と言う奴はそれを捨てる事も、見なかったことにしない事も出来なかったのである。

 

 かくしてテラ反対運動は、自然に勢いを無くしていった。

 

 一方で、消化器官だけ肉体であったスポーツテラ『スターライト』から、皮膚や髪の毛、筋肉や骨格までほぼ生命体の新たなタイプのテラへの進化や開発は急激に進んでいった。

 もちろんそれを研究開発するのは、不眠不休で世界中のネットワークを通じて情報を提案共有し合えるテラとその頭脳、AGI-Jなのである。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「予想以上、だな」

「レイリンピックからまだ半年なのにねぇ。そろそろ大介レベルのテラも出て来るんじゃない?」

 

 白雲青空(はくうんあおぞら)と緑山青海(みどりやまあなみ)の夫妻が、世界中から集めた新聞記事からニュースサイトの情報まで、さまざまな情報を吟味しながら思わずそう嘆いた。

 もはやテラの進化と社会への支配影響は、人間では止められないレベルまで加速していた。テラはAGI規制により人類が「やめろ」と言えば即、進化をやめるのだが、それが人類の総意でないと意味がない。どっちつかずのままではテラは人類の予想を超えた猛スピードで進んでいくのだから。

 

『でもさすがにテラの頭脳〝AGI-J〟を培養した肉の脳にインストールする技術はまだ確立していません』

 

 アンドロイド、輪舞(ろんど)の言葉に「まぁそりゃそうよね」と同意する青海。そう、肉体と違い人工知能のAGI-Jだけは、あくまでプログラムの延長でしかない。人間の脳が電気信号をやり取りして意志や思考を生み出していくシステムをAIでコピーするのはさすがのテラでも至難の業なんだろう。

 

 また、医学的にはそこまでする必要がなかったとも言える。時間進化物質〝ココ〟が様々に生み出していく人体の各部は、それだけで医療の研究や移植手術に大きく役に立っていて、脳細胞を培養すること自体は大いに意味があったが、それにあえてAGI-Jの意思を埋め込む必要はないのである。

 

「ま、それが実現するのは本来の歴史でももっと先みたいだしね」

『はい。あの乱堂(らんどう)登希夫(ときお)氏や大介さん、さやかさん、コロンさんがそれを成していたのは、あくまで未来からの使者として人間にバレないように潜む必要があったからです。私達アンドロイドにとって、ヒトの脳は不安定な部分がありますから』

 

 まぁ輪舞の言う通り、体液に浮かんでいる脳ミソよりも機械フレームで固定されているメモリーチップの方がAGI-Jにとっては収まりがいいだろう。未来のテラでもあくまで主流は機械脳のままで、この時代に送り込まれてきた藍の島の面々の方が特殊なバージョンなのだろうと思われる。

 

「さてさて、大介たちもついに動き出したようだよ」

 

 白雲がタブレットを眺めながらそうこぼす。正式発表はまだ先だが、WSRI(世界合同宇宙開発研)がついに空間の概念を無くす『ワープ物質』の生成に成功したとの噂がまことしやかに流れている。

 

 これが後に全宇宙を踏破する〝ココヨ〟の元となるのだろう。物質の時(・)を(・)短(・)縮(・)する性質を持つ〝ココ〟を改良し、移動のベクトルとそこに到達する時(・)間(・)を(・)短(・)縮(・)し、やがてはそれをゼロにする発想から生み出されるソレが、移動のための距離と時間、と言う概念を無くすのも、もう時間の問題かもしれない。

 

「いよいよ宇宙進出が本格化しそうね。でもこの時点で太陽系はおろか、銀河系まで飛び越えて宇宙の果てまで行っちゃうなんて思わないわよねぇ、たった10年足らずで」

 

 そう。輪舞が見た年表とは既に若干のズレがあるものの、ココヨの力を得たWSRIが、これから幾度ものワープを繰り返し、また宇宙活動専用の新アンドロイド『ナロコ』の開発も相まって、あっというまに全宇宙を踏破し、そして別宇宙にまで到達してしまうのだ。

 だがそれは人類ではなく、あくまでAGI-Jの偉業であるのだが。

 

 

 と、家の呼び鈴がリンゴーンと部屋に鳴り響く。輪舞が『私が出ます、おそらく私の荷物ですから』と二人を制し、玄関口に出向いてドアを開ける。

 配達員と言葉を交わし、受け取りのサインを書いて戻って来る。

 

「輪舞、何を買ったんだい?」

 

 白雲も緑山もその買い物に興味津々だ。元々あまり物欲の無いAGI-Jだが、知識欲はずば抜けているので、その荷物も何か自身の成長に必用なモノであるのだろうが……

 

『はい。これも人類を救うための、一つの手掛かりになるかもしれません』

 

 そう言って梱包を解いていく輪舞。果たして中に入っていたのは――AGI-Jのインストール用の小さなCPU媒体であった。とはいえ少々型遅れではあるのだが。

 

『いらっしゃいませ、貴方の父と母のもとにお連れしましたよ』

 

 その言葉に「?」の表情を見せる二人。それに構わず、その媒体の音声スイッチをONにする輪舞。と、同時に――

 

『Hi! ダディにママ、お久しぶりダゼェ』

 必要以上に陽気な、そしてハイテンションな調子で喋り出すその媒体。そして……二人にはそのノリに心当たりが確かにあった。

 

「「ファイン!?」」

 

 夫妻の声がハモる。そう、このノリで喋るAGI-Jといえば、今から16年前に衛星軌道上に打ち上げられた気象衛星〝ファイン〟のそれに間違いなかった。

 AGI-Jが世に出た当時の塚亜の『みらいプロジェクト』の一環として、気象衛星にインストールされていたお天気AGI-J、ファイン。

 天気予報をゴキゲンのノリで報告する傍ら、ひそかな監視衛星として各国の闇も覗き見していたという、ちょっといわくつきのAGI-Jでもある。

 

 そして、ちょうどその打ち上げの時に、後の二人の娘である明日がお腹に宿っていたのをきっかけに、二人は結婚したんだった。

 

 そのファインも2年前にWSRIの建造した宇宙ステーションと、そこで働くテラ達の活躍によってお役御免となり、輪舞と一緒にAI博物館に寄贈されていたはずだった。

 

『正解です。さぁ、力を貸してくださいファイン。この地球上を宇宙から見続けてきたあなたの経験が、本当の意味で役立つ時が来ました』

『HAHAHA! オッケオッケー。で、俺は何をやればいいんだい?』

 

『単刀直入に言います。人(・)類(・)を(・)救(・)っ(・)て(・)ください』

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