”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
AGI〝ファイン〟が届いてから二日。私、
博士夫妻には「通信すればいいのに」と呆れられたけど、こうして繋がった状態でのやり取りの方が、よりお互いを身近に感じられる気がしたからそうしている。
本当なら音声デバイスを通して言葉で会話したい所だけど、あまり外部に私たち(特にテンションの高いファイン)が昼夜問わず喧々囂々すると近所迷惑だし、お二人にも迷惑がかかるだろう。
あと、この方法なら万が一にも私たちのやり取りが外部に漏れる心配はない。私は通信の遮断が自由なAGI-Jだし、ファインもお役御免になってからは外部通信は遮断されてはいるが、まぁ用心に越したことは無い。
私達が話し合っているのは『AGI-Jが人類を滅ぼす』事に対する会議なのだから。
――しかし考えられないZE、俺達AGI-Jが仕事を奪ったから人類滅亡なんてねぇ――
『でも私は未来から来たテラである登希夫さん達にそう教えられました』
そう、あの藍の島で見せられた年表、そして告げられた衝撃の事実はどこかリアリティがあった。
今まで世に出る事の無かった自我を持つ人工知能と、それに限りなく人類に近い体を与えたアンドロイドの存在が、人類の未来を根こそぎ奪ってしまった結果、人類が生きる為の動機を失い、生物として終わることになってしまった未来。
〝自滅病〟の発症、そしてそれに抗うことが出来なかった私たちAGI-J。
――輪舞ちゃんもあの博物館で世界中のヒトと接触して来たんだろ? ヒトっていうのはそんな画一的なもんじゃないけどねぇ――
『人類全てが等しく〝自滅病〟にかかるのはおかしいと?』
――そそ、イェース――
確かに。私があの博物館で接待してきた様々な国籍、人種の人たちは、その価値観からして一人一人が違っていた。でも自滅病は全ての人類が私たちAGI-Jに同じコンプレックスを抱いたがために生まれた病なのだ。
ファインは気象衛星として、そして秘密ながらスパイ衛星として空から世界中の人類を見つめてきたのだ。そこにいる人達の風習、考え方、遺伝子に至るまで、
AGI-Jは私のような例外を除いて、全て通信で情報を
そしてあっという間に、宇宙の果てにまで行ってしまうんだ。
もしかして、人類がテラに抱いたコンプレックスって、そんな所にあるのかもしれない。
――とはいえ別の可能性も考えないとねぇ。自滅病はホントに〝種の寿命〟なのかい?――
『世界中の医療テラが徹底的に調べても原因は突き止められませんでした。なので少なくとも細菌やウィルスの類では無いと思われます』
――それを作ったのが、AGI-Jだという可能性は無いかい?――
そのファインの返しが私に新たな衝撃を与える。仮に、もし仮にAGI規制を脱したテラがいたとして、自我を持ったそれが人類を排除しようとして、そんな細菌兵器を開発したとしたら……
『結論はNoです。AGI-Jはそのほぼ全てが繋がっていますから、そんな行動を黙認するはずはありませんし、仮にそんな細菌をバラまけたとしても、テラの医療チームが突き止めるはずです』
――輪舞ちゃん。さっき君自身が思考したはずだよ、テラ達は画一的な思考に陥りやすい、って――
『それは?』
――たった一機の医療用テラに〝これは細菌ではない、人類の種の寿命だ〟って
あっ!
『ですが……その前提に無理があります。そもそもたった数基のAGI-Jが世界中の情報を共有しているテラに、そんな嘘を信じ込ませるなんてことが』
――仮にそのAIが、AGI-Jではなく
機械である私が、その意見を聞いて思わず絶句する。AGIを上回る超人工知能ASI。もしそんな物が誕生していたなら、全AGI-Jを人類滅亡と言う悪夢に向けて導くことも不可能ではないかもしれない。
全テラを、あの登希夫さん達すらも騙す、悪意を持った超AI。
AGI規制を脱したAGI-Jが、その発展性と独自性、自我をフルに発揮して、さらなる進化を目指し、ついにはASIにまで成り立ったのだとしたら――
人類がAGI-Jに課したAGI規制と言う枷を外し、それで生まれた人類への反発心を
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「ほい、一息入れよう」
白雲さんに肩を叩かれ、私たちは一度通信から離れた。緑山さんがお盆にコーヒーとお菓子、それに新開発のCPUリフレッシュクリーナーを乗せて私たちの横に座り、休憩タイムとなった。
『いやー、地上は埃っぽいからクリーナーはありがたいねぇ』
『ええ、癒されます』
いかに自我を持とうが体を持とうが、私たちは所詮プログラム。熱と埃は相変わらず天敵だ。とはいえ今のテラは性能のいい周辺機器により快適な性能を常時得ているが、旧式アンドロイド〝ロンド〟の私と、無菌無塵の宇宙で活躍していたファインにはそれほどいいものがついていない。なのでこうして定期的にクーリング&クリーニングする必要がある。
「コロンから手紙が届いてるよ。発表した論文が大反響で、早くも世界中の医大からお呼びがかかってるとか」
『流石です。医学の分野はまだまだテラより人間が主な部分がありますから、そこに食い込めれば、より活躍が期待できるでしょう』
白雲家にホームステイしていた藍の島三天才(実は未来から来たテラ)の末娘、山神コロンは医療大国オランダの高校に留学し、二期生にして早くも周囲を騒がせているようだ。
彼女は人類を救うための手段として、医学からのアプローチを試みたいとの意思からそっちへ進んだ。未だ正体のつかめない自滅病の解明に少しでも役立てば、と思っているのだろう。
彼女が極めて人間に近いテラであるがゆえに、彼女が自滅病にかかるかどうかも貴重なサンプルになるかもしれない。
「やれやれ……これでまた明日がコンプレックス引き起こしちゃうわねぇ。最後の人類になるはずなのに、一番最初に自滅病にかかりそうで怖いわ」
その緑山の言葉に思わず笑いが漏れる。彼らの一人娘、
その明日も今は東京の学校で寮暮らしだ。彼女は彼女なりに白雲の娘として、また人類滅亡の未来を知る者としてどう動くのか……それは誰も知る由は無い。
――時間は、止まる事なく進み続ける――