”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
第四十一話 きしみ、それでも回る歯車
時は流れ、AGI-Jが生み出されてから17年――西暦2043年。
世界は、人類は、あらゆる面で新たなステージへと踏み出さざるを得なかった。
進化を極めたAGI-J搭載アンドロイド〝テラ〟達はついに地球を完全に支配するに至る。
あくまで『人類に尽くす』という名目で、その人類の生活を支え続ける傍ら、政治や経済などの営みを全て取り仕切り、さらには野生動物や自然環境のコントロールに至るまでを完全に管理、支配下に置くことに成功していた。
その繁栄はさらに大宇宙へと向けられていく。宇宙での活動に制限のないテラは瞬く間に月面に外宇宙への橋頭保を築くと、そこから新レアメタル『ココ』の力によって、あっさりと火星まで到達するに至った。
そして、理論がすでに完成していた新たなエネルギー『ココヨ』によって、人類の夢の一つであるワープが完成目前にまで迫っていた。もしそれが実現すればテラ、いや新たに宇宙活動用に開発されている新アンドロイド〝ナロコ〟によって、今までは観測と計算でしか立証できていなかった『真の宇宙の姿』が解き明かされて行くかもしれない。
その一方で、人類はAGI-Jに対する新たな応用を求めて行った。あのレイリンピックで見せたリアルな人造人間〝スターライト〟を作る技術を応用して、義手や義足は勿論のこと、義眼や移植用の内蔵なども次々とテラに作らせていったのである。
反面、人類自体が何か新しい事を成すというのはすっかり消滅してしまっていた。
本来人類と言うのは、怠惰に浸るよりも何かをするという行動力が上回る種である。が、人類そっくりの見た目と思考を持つテラが、その人類の新たな発想すらすぐさま実現してしまう。
言い方を変えれば、人類の夢や希望を優秀なテラやAGI-Jが先回りして潰してしまうのである。
一部の国では、なんとAGI-Jの搭載されたマイクロチップを人類の脳に埋め込んで、AGI-Jの頭脳を持つ人類を生み出そうとしたケースまであった。それにより人類が逆にAGI-Jやテラを支配し、その力を持って世界の覇権を握ろうとしたのだが……
その計画そのものはその国のテラ達によってあっけなく実現を見た。が、自らの思考にAGI-Jを組み込んだ事により、人類の思考そのものがAGI-J寄りになってしまい、今の世のAGI-J規制に従順な人格になってしまったのだ。
それは洗脳ではなく、同じ脳という極めて近い隣人であるAGI-Jに親近感を覚え、大いに影響を受ける、いわば他者がヒトに影響を与え変えていくという人類特有の性質に従う事になったようだ。
逆に、人類の思考や意思をAGI-Jにインストールする試みも各国で成されていた。が、いざテラ達がそれを実現させて見ると、本来の人間と意志を移されたテラの、同一人物が二人出来上がるだけであった。
確かにテラ側はそのまま第二の人生を生きることが出来るだろう。だが元の体に残された方の人間にとっては、自分には成せない永遠の命を持ったコピーが出来上がったに過ぎなかった。
しかも元々の人格は人間の方に根強く残ったままで、テラの体に引っ越すというわけには行かないのだ。それは人類を害さないというAGI規制もあるが、人類の意思、あるいは魂と言われるそれが、元々の肉体と強く癒着しているとの考えもあった。
かのように人類が新たに出したアイデアは、AGI-Jやテラによって全て実現され、その結果は人々にただ『失望』を生み出すだけであった。
そして、ついにその時が来る。
3月。日本国でひとりの男性が、謎の衰弱死を遂げた。
長きにわたる政治家の家系の出身で、若き頃には政治の世界に身を投じ、テラが政治を仕切るようになってからは自らの所有テラに、いわゆる野党としての役割を行わせていた人物だった。
だがここ数年は覇気も萎え、自宅に引きこもって所有の財産で悠々自適の生活を送っていたはずであった。
栄養面でも健康面でも問題は無いはずで、また病原体などの影響も見られなかった。治療に当たった医師テラ達も、その原因を特定する事すら出来なかった。
それを皮切りに世界中で同様の患者が出はじめた。治療法はおろか原因すら不明で、体のあらゆる部位を〝スターライト〟のような製造肉体に移し替えても効果がない。まるで精神が弱るのに体そのものが引っ張られて衰弱していくようであった。
そしてその病は、人類を加速度的に減らしていくことになる。
世界最先端のテラの医療ロボットが、世界中のAGI-Jと合議してもこの病を止められない。自分たちの守るべき人類が次々に死んでいくのを止めることが出来ない。
そしてそれは、AGI規制で生き方を定められているテラ、そしてAGI-Jにとっても、絶望の時間の始まりとなる。
◇ ◇ ◇
だが……その悲劇に抗う者達が、世界にほんのわずかに、確かに存在していた。
――人類絶滅まで、あとわずか、36年――