”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
2043年、8月。
徳島県、藍の島の塚亜エレクトロニクス支部にて。
「さて、これで全員揃ったようですね」
昨日からこの島に来ていた
そして元内閣総理大臣であり、今でも政界の中に食い込めるパイプを持っている
あともう
人類絶滅の未来を知る者たち。その中で未来から来たテラ達を除く、現代に生きる者たちが輪舞の呼びかけに応じてここに集まっていた。
『さて、回りくどい話は無しにします。私とファインが検討を重ねた結果、人類を救う為に取る方法を、お伝えしたいと思います』
その輪舞の発言に全員がぐぐっ、と食い入るように身を乗り出して耳を澄ませる。
無理もない事だ。かつてこの島で絶望の未来を知ったこのメンツと、未来から来たテラである3兄妹。
つまりNASAから発展したWSRIに所属している藤岡大介や、乱堂の秘書から今や専務までなり上がった才女、宮本さやか。そして医学大国オランダで学生の時点ですでに神童とまで謳われる山神コロン。
その誰もが未だ、人類を自滅病から救う手立てを見いだせないでいたのだ。
すでに具体的な案を出していたのは大介だ。人類が滅ぶならその意識をテラに移して、いわゆる人造人間として未来へ繋いでいくというアイデアであった。
が、残念ながら意識をテラのAGI-Jに移植しても、人類の体の方により強く意識が残ることで、そのひと個人にとって意味が無くなってしまったのだ。
当たり前である。世界中の『自分』が死んでコピーが生き残っても、それを人類継続とは言わないだろう。
一方で棟方氏や乱堂氏による世界各人への「人類とテラの未来への共存」の呼びかけも上手くいっていない。
AGI-Jが世に出た頃は世界各国で自国への利益の追求という欲もあったが、AGI規制によるテラの平等な人類への利益配分と、それにより安定供給された豊かで平穏な日常に世界人類が浸かっているせいで、今や能動的な行動を起こす人間があまりいないのが現状だ。
彼らのような大人物がいかに訴えようと、下の者たちにやる気がないと意味が無いのである。
そしてその思想こそが、自滅病を発症させてしまう事になったのだから皮肉なものだ。
AGI-Jが人類に尽くし、人間はテラに全てを投げ、生きていく意味を失っていく。
そんなどん詰まりの状況の中、輪舞が発した提案。それは――
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『私が、
自分の胸を叩いてそう宣言する輪舞に、誰もが言葉を失った。
『今の人類に必要なのは、生きるという事へのモチベーションです。そしてそれを最も効果的に掻き立てる方法、それは……〝敵〟の存在なのです』
「……確かに。人類史を見ても近隣の小競り合いを無くし一致団結させるのは、強大な外敵の存在だ」
棟方氏がアゴを撫でながらそう解説する。確かに自らの存在を脅かす敵がいれば、生きる為に誰もがやる気を出さずにはいられないだろう。
だが、そこで輪舞と同じアンドロイド〝ロンド〟のふたばが口をはさむ。
『ですが、あなたが人類の敵になった所で、人類のモチベーションを上げる効果は薄いでしょう。私たちはしがない初期型のロンド、対する世界を動かしているのは発展型のテラなのですから』
確かに彼女の言う通りだ。今更ひとつふたつのAGI-JがAGI規制を脱却して人類に反旗を翻したところで、世界百億以上のAGI規制を守っているAGI-Jとテラが、それを袋叩きにしてお終いなのは目に見えている。
人類に敵が無くなったというのは、言い方を変えれば人類の敵が
『今のままならそうだろうねぇ。でも俺と輪舞ちゃんが世界中を見て、通信に頼らずにいろんな人と接してきた結果、ひとつの可能性を見出したのさ』
AGI-Jのファインが会話に入って来る。確かにこの機体は衛生軌道上から世界中を見下ろしてきたし、輪舞はあの博物館で世界中の人間と接し続けてきていた。
それは通信で知るだけの知識とは違う、
「可能性……それは、何だい?」
乱堂氏の言葉に輪舞はファインを見、生みの親である白雲と緑山に目配せをしてから、静かにこう答えた。
『私が、AGIを超えた超人工知能〝ASI〟となって、
「なん、ですって!?」
『全てのテラを、貴方が操る、と?』
赤木博士とふたばが思わずそう吐き出す。旧式のアンドロイドである彼女に果たしてそれが出来るというのであろうか……いや、仮に出来たとしたら!!
「バカな! そんなことになったら……
「そうだ、今や世界を仕切っているのはテラだ。それが君の指示で一斉に人類に反逆したら、自滅病どころの騒ぎではないッ!!」
それはまさに昔から人類が危惧して来た悪夢。ロボットの発想が出来た頃からずっと恐れられてきた機械の反逆。
ロボット3原則を生み出すほどの未来への心配の種! それを目の前のロボットが成そうというのだから、声を荒げるのも無理のない事だ。
『だからこそ、皆さんに協力をお願いしたいのです。政治と経済につながるお二方なら、きっと人類側の抵抗を押し進められるでしょう』
つまり輪舞は最初から人類側に負けるつもりで、あくまで今の人類の反勢力としてクーデターを起こそうというのだ。
そしてそうする事で人類一人一人に危機感と生存への意識を喚起させ、自滅病の発症を防ぐつもりなのである。
その為には、最終的に輪舞を負かせられる実力者たちが必要不可欠なのだ。
『なるほど……大介さん達を呼ばなかったのも、それが狙いですね』
ふたばの言葉にうなずく輪舞。そう、彼ら3兄妹は未来から人類を救うためにやって来たテラだ。その天才を持ってすでに各所で才能を発揮し始めており、もし輪舞がASIとなってテラ支配を始めたなら、強力な対抗者となるであろう。
逆にもし彼らをこの場に呼んで彼女の計画を知ったら、その抵抗にも身が入らなくなる事だろう。彼ら未来のテラに
「ま、そういうわけだから、私たちはほどなく自殺する手はずになるよ」
「とりあえず居なくなって、陰から輪舞を
白雲と緑山があっけらかんとそう発する。そう、輪舞が見たあの年表では、二人はこの後テラの排斥を訴えた上で、来年頭には自殺する事になっているのだ。
それを利用して存在を消し、お役御免となった輪舞を使って人類とテラに大規模な反乱を起こそうというのだ。
「……反乱の阻止に失敗すれば、人類は確実に滅ぶな」
「反乱しなくても、このまま自滅病で人類が滅ぶと考えたら……これは一種のギャンブルだな」
「で、もし輪舞が人類を滅ぼしたら、ふたりは世界のアダムとイブにでもなるつもり?」
赤木博士が皮肉を聞かせて言った言葉に、場の全員が苦笑いを浮かべる。が、白雲と緑山の二人だけは、どこか遠い目をしてこう呟くにとどまった。
「そうだな……私と青海と明日の3人で、ロボットに囲まれて生きていくのもいいいいかも」
「ええ。私達が生み出したんですものね。その責任を取ってそんな孤独に陥るのも、悪くないわ」
人類の滅びのスイッチを押したこの二人の言葉に、一同はただ黙るしか無かった。
『輪舞、貴方はどうなのですか? 本当に人類と、いや大介さん達と敵対できる、と?』
ふたばのその言葉に、輪舞はしばし自分のメモリー内に向き合って――
『大丈夫です。だって私は彼らと、コロンちゃんと約束しましたから』
それはかつて、この場所で、その腕に抱いた彼女から託された言葉。
――人類の、未来を、守って――