”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第五話 黒い疑惑

 私(あなみ)と白雲(カレ)が、この藍の島にセットで左遷されて一週間が過ぎた。

 

 確かに何にもない島ではあったけど、それでもここでの生活はそれなりに充実していた気がする。

 朝はラジオ体操(今どきカセットテープ)をみんなと一緒に踊って、お昼まで色んな雑務をこなす。午後からは漁に出てた漁師さんを出迎えて荷下ろしを手伝ったり、子供たち(五歳男の子、四歳女の子、一歳女の子)のお守りをしたり、渡航してきた釣り人と一緒に竿を出したりと、都会の研究所では体験できない日々を送っていた。

 

 ちなみにここの三人の子供たちは全員が育児放棄された子なんだとか。何でも児童相談所の依頼を受けて、借金を抱えたりヤクザに追われたりして蒸発するしか無かった親御さんの子供を、ここでこうして預かってるらしい。

 確かにこの子たちが悪人に人質に取られるようなリスクもあるから、この僻地の孤島でかくまっておけば、両親も少しは安心できるだろう。

 

 あとは……まぁ。夜は白雲《カレ》と二人っきりだし、激論を交わす必要もなくなったから、まぁそれなりに、ね。

 

 って、誰に解説入れてんの、私?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 今日は週に一度の休日。と言っても島民の皆さんに頼まれて、白雲と二人で本土への買い出しに来ていたりする。

 日曜日だけはあさイチと夕方終便の二回、渡船が出ているので、朝に徳島の街にやって来て、いろいろ買いつつ休みを満喫してから夕方に帰ることになる。

 

「えーっと、洗剤にタオルにオムツ、雨漏りの補修材にトイレットペーパー。細身の針金に梱包ヒモ、それに……」

「自転車のパンク修理液、青と黒の油性ペンキ。あ、子供たちにオセロとか買ってってあげよっか」

 

 大きめのホームセンターで買うものをいろいろ物色する。ちなみに領収書は塚亜《かいしゃ》名義で切ってかまわないんだとか……あの島での勤務に収益なんて無いんだろうに、本当にCEOのゴリ押しでやってるんだろうなぁ。

 

 一通り買う物を揃えて、夕方にはここのトラックで船着き場まで送って貰う。藍の島からの買い出しはここのホムセンにとっては恒例で、店長さんに「お! あの島にもついにお若いカップルが!」なんて笑顔で言われてしまった。

 なんか私達、退職しづらい雰囲気だなー。

 

「さて、と。じゃあお昼にするか、何食べたい?」

「徳島ラーメン!」

 白雲の提案に速攻で返す私。そう、ここに来た日には道中の香川で讃岐うどんを食べたのもあって、徳島《ココ》のA級グルメ(ラーメン)はまだ未経験だったので、手近にあるラーメン屋へと突撃する事になった。

 

「うーん美味しい、濃厚なのにスルスル入るしー」

「ご飯との組み合わせもハマるね、ダブル炭水化物でも気にならないよこれは」

 

 いやもう予想以上に絶品だった。バカ盛りやチャーシュー攻めに頼ったラーメンとは全然違ってて、濃厚でコクもキレもある豚骨醤油スープを麺やご飯と共にすするだけで、体にエネルギーが満ちて行くような幸せ気分にさせてくれる。

 

 食後、店内が空いていたのでしばらくくつろがせてもらう。こういうのんびりも都会のラーメン屋では味わえない余韻だわぁ……しばし店のTVを眺めながら、しあわせ気分を堪能する。

 

『それでは一時のニュースです。先日、塚亜《つかあ》エレクトロニクスの佐那《さな》研究所より、世界に向けて発表された新AI〝みらい〟に世界中からの注目が集まっております』

 

「……え?」

 

『なんと自分で考えて新たな提案をすることが出来る新AI〝AGI〟を世界で初めて実現したと言われるこの〝みらい〟。世界的な発明として、名前通りの人類の未来を変える存在になると――』

 

「……うそ、でしょ?」

 

 思わず言葉が漏れる。私が抜けてからたった一週間で、新たなAGIを作り上げたというの……信じられない。

 

「うーん、君の後釜ってずいぶん優秀だったんだねぇ。こりゃそのチャンスを狙って君を左遷したのかも……」

「違う、違うわ! 赤木さん……私の後を継いだ彼女は確かに優秀だけど、発想が固い所から抜けないタイプなの!」

 

 思わず白雲に力説する。そう、赤木さんは私がいた時でもAIに対しても他の事でも、どこか枠にハマった考え方しか出来ない人だった。

 そもそも彼女はWADC(世界AI開発評議会(World AI Development Council))のメンバーですらない。世界の研究者とのコネもなく情報収集すらロクに出来ない状態で、新たなAGIを生み出すなんて……。

 

「だとすると……君のAIを盗んだ、というか、引き継いだのか、な?」

 

 白雲の言葉に「あ!」と我に返る。もし、あの日に私が新規にサーバーにアップしたAGI『AGI-J(アギー・ジェイ)』がもし、この短期間で何か劇的な進化を果たして、名実ともにAIを超えるAGIになり得たとしたら――

 

「でも、一体何が? 今まで散々失敗して来たAGI(アギー)シリーズが、どうしていきなり、たった一週間でここまで……」

「とりあえず君名義でWADCのサイト覗いてみたら? ほらここWi-Fi使えるみたいだし」

 

 あ、そっか。ここ一週間スマホなんてほとんど電話にしか使わなかったからそれ忘れてたわ。早速WADCのサイトを開いて、私名義のパスワードを入力する。

 

――現在そのIDは使用されています、不正アクセスは犯罪行為となります――

――Retry(リトライ)? y/n――

 

「……乗っ取られてる」

「と、なるとやっぱ佐那研究所だな。あそこなら君のIDが残ってるからアクセスは簡単だろうし」

「あいつら……やってくれたわね!」

 

 そりゃ会社なんだから、前任者の研究を引き継ぐのは当たり前の話だ。でも個人のパスを勝手に使われるのはプライバシーの侵害だし、そもそも私が作ったAGI-Jを勝手に名前まで変えられて、いかにも「自分たちが作りました」なんて公言されるのはさすがに腹が立つ!

 

「アッタマ来た! もうこうなったら……」

 辞表を書いて叩き付けてやる! と言おうと思ったその時、私のスマホにメールの着信音が、やたらとけたたましく鳴り響いた。

「え、何?」

 スマホ画面を見る。そこに映っていたのは着信メッセージ、それが次から次へと折り重なって流れていく画面だった。白雲も私のスマホを覗き込んで「え、これウィルス?」と言葉を漏らす。

 

 でも、違う。何故だか分からないけど、そう確信していた。その理由のひとつが、発信先がWADCになっていたからだ。

 

 そして何より発信者の名義……その名が

 

 私(・)の(・)よ(・)く(・)知(・)る(・)名(・)前(・)だった、から。

 

――AGI-J(アギー・ジェイ)――

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