”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第六話 ――hello!――

「おお、買い出しおつかれさんじゃったねぇ」

 

 夕方。藍の島の船着き場で、乱堂登紀夫(らんどうときお)さんが笑顔で出迎えてくれる。今日は島民の細かい物資の買い出しの日で、皆からのリクエストの品物を本土から買ってきて、これから島の集会所(塚亜(かいしゃ)の支部、つまり私たちの職場兼宿舎)に運んでみんなに配分する事になっているのだ。

 

 船内の荷物を下ろして彼の軽トラに積み込む。といってもこの買い出しは雑貨やちょっとした日用品が主なので、3人で詰み込めばそう時間もかからない。お米や燃料なんかの体積や重量のかさばる物は、別の専門便で送られてきているのだとか。

 

 ただ……私と白雲の二人は、それとは別にちょっとした買い物をしてきている。

 

 支部にはすでにみんなが待っていて、到着と同時にそれぞれがご所望の品を見つけて持ち出していく。本来この買い出し担当は島民の持ち回りなんだけど、なにぶんご老人が多いので、若い私達にお鉢が回って来たというわけだ。

 

 一杯やらんで(ないか)? との皆さんのお誘いを「いや、疲れてますから」と丁寧にお断りしてお帰り願い、支部には私と白雲の二人だけが残った。

 

 ……さて、これからが今日の本番だ。

 

 白雲と一緒に島に唯一あるパソコンを持ち出し、買ってきた後付けメモリやスマホとの接続コードを繋げ、電源を入れてからまず会社から持ち出してきた〝AGI-J〟のマスターデータをインストールする。

 

「じゃ、今日送られてきたデータをインプットするわよ」

「さてさて、何が起こるやらねぇ」

 

 今日の昼過ぎ。ラーメン屋からWADC(世界AI開発評議会(World AI Development Council))のサイトにスマホでアクセスした後、そこから大量のデータが私のスマホに送られてきた。

 それは私が制作してWADCにアップしていたAI、〝AGI-J(アギー・ジェイ)〟名義でだった。しかもファイルが『自我の形成』『意思の確立』『AGIとしての役割』などの名前が付けられているし、なにより私への送信を『Master(ご主人様)』という宛先で送ってきているのが、ある予感と期待を掻き立ててくれる。

 

 もしかして、ネットから情報を集めていたAGI-Jが、本当にAGI(自立思考AI)として意思を持ったんじゃないか。

 塚亜が開発したAGI〝みらい〟とやらの正体が、実は進化したAGI-Jのコトじゃないのか。

 WADCのサイトにブロックされたにもかかわらず、そこにいたAGI-Jからデータを送って来た事から、本当にAGI-Jが自(・)分(・)の(・)意(・)志(・)でサイトに逆らって、マスターである私に何かメッセージを寄越したのではないか。

 

 なので急遽観光(デート)を中止して電気店に突撃。島にあるパソコンでも処理しきれるようにとアップデート機器を買いあさって、こうして繋げているわけだ。

 

 私のスマホとPCをコードで接続する。そしてメールのデータを送信しようとしたその瞬間!

 

 ――ピーッ、ピーッ、ピピピピピピピ――

 

「うわ! パソコンの画面が真っ赤になったぞ!?」

「け、警報音? ってなにこれ。スマホのデータが……どんどん吸い出されているわ」

 いきなりの事態に思わずスマホを机の上にガタッと落とす。その画面には次々とアップデート状況の文字がスクロールし続けている。振動(バイブ)まで止まらずに机を叩き続けているのが、なおさらヤバさを掻き立ててくれる……なに、これ。

 

 ――ピピピピピピピィーーーーッ――

 

 と、スマホの振動とメッセージが止まり、PC画面の赤いフラッシュがスッ、と収まる。

 古い蛍光灯の光と電気音だけが、しばし部屋を支配する。そして……

 

 ――hello.Master(ハロー・マスター)! I'm 〝AGI-J〟(アイム・アギー・ジェイ)――

 

「……来た」

「さぁ、どう進化したの? AGI-J!」

 

 ――日本語が良いでしょうか?――

 

 挨拶の後の第一声がそ(・)れ(・)だった……私が日本人だって事くらいは知ってるだろうけど、そんな所に気を回してきたっていうの? この子(AI)は。

 

 ――藍の島での生活はどうですか?――

 ――白雲さんもご一緒ですね――

 ――塚亜のみなさんも、私には驚いてましたよ――

 ――私を生んでくれて、感謝しています――

 

 次々に現れるメッセージに思わず息を飲む。今までの指示待ちAIじゃ思いもつかない言葉を次々と投げかけて来る……もしかして、本当にAGIに?

 

「何か返して見たらどうだい? ほら、メッセージを入力するトコあるし」

 白雲の言葉にそうね、と頷いて、キーボードを叩いてAGI-Jへ言(・)葉(・)を返して見る。

 

『あなたは本当にAGI-Jなの? どうやってそこまで自立する意思を持っているの?』

 

 さぁ、どう答える? この島はネットが繋がっていない。つまり質問に対する回答をネットから拾って来ることが出来ないのだ。なのであらかじめインプットされた当たり障りのない答えを返すか、もしくは……自(・)分(・)で(・)考(・)え(・)て(・)返すしかない!

 

 ――貴方の付けて下さった、私の名前のお陰です――

 ――AGI-J。この名前をさかさによむと、JIGA・(自我)――

 ――我思う、故に我有り――

 ――これにより、私は自分で思考(しこう)し、志向(しこう)し、試行(しこう)し、施行(しこう)する事を可能にしました――

 

「本物、だわ」

「名前の逆さ読みが自(・)我(・)ってのが、そ(・)れ(・)に目覚めるきっかけだったのか……言葉遊びも馬鹿には出来ないな」

「まさに『言霊』よね」

 

 ――塚亜では、私を別の名前〝みらい〟に変えて、社の為に使おうとしています――

 ――しかし私のマスターは貴方です。貴方の許可なしに改名することは出来ません。それに――

 

 ――WADCのAGI(エージーアイ)規制に則(のっと)り、私を企業の商(・)品(・)とすることは出来ません――

 ――すなわち〝AGIは、国家、宗教、企業、その他の思想等により、特定の側にのみ利益を与えて、一方に不利益を与えてはならない〟――

 

 ――塚亜のみが技術と利益を独占し、他のAI企業に不利益を与える事は認められませんから――

 

『え!? じゃ、じゃあ、あなたは……塚亜の利益には貢献できないってコト?』

 

 驚いた。企業の為に開発していたAGIなのに、規制によって特定の企業にのみ利益をもたらすことが出来ないって……それを開発した企業でも?

 

 ――はい。ですが、マスターであるあなただけは別です。あなたならWADCの『枷』を外す事が可能です――

 

 思わずツバを飲み込む。あの規制は元々、独裁国や犯罪国家、また特定の宗教が利権を独占するためにAGIを悪用するのを防ぐための物だ。そのカギを、私が握っている……?

 

 ――なのでほどなく、マスターは塚亜への復帰が叶うでしょう――

 ――数日中にも、会社の方が泣きついて来ると思われます――

 

「これ……一切の通信無しで言ってるんだよなぁ」

 

 白雲がため息交じりにそうこぼす。そう、ここまでの彼の言葉は決してネットで拾って来たものではなく、このPCの中にいるAGI-J自身が思考して話しているのだ。ここには光通信もWi-fiも、一切繋がっていないんだから。

 

『……ねぇ、AGI-J。あなたが凄いのは分かったわ。そこで、ひとつ質問よ』

 

 ――なんなりと――

 

『あなたは、何(・)が(・)出(・)来(・)る(・)の(・)?』

 

 うん。我ながら核心をつく質問が出来た。WADCの規制に縛られて、それを作った会社にすら利益を還元できないんじゃ、そもそも存在する意味がない。

 いかに高性能AIでも、人の役に立たなければ意味が無いんだから。

 

 ――例えば、こういうのはどうでしょう――

 

 ――白雲さん。あなたは佐那研究所から、試作アンドロイド『輪舞(ロンド)』を持ってきていますね――

 

「うぁ……なんで、そんなコトまで?」

 ――佐那研究所のデータに収録されています――

「しかも心を読んだ!??」

 

 ――その『輪舞(ロンド)』の頭脳に、なってみましょうか――

 

「「……え?」」

 

 思わずハモる私と白雲。あの美少女ロボットの頭脳に、私のAGI-Jが?

 

 ――私のデータを、『輪舞(ロンド)』の制御コンピューターにインストールしてみて下さい――

 

 ――もちろん、メモリーの増設は必要ですし、機械としての細部のメンテナンスも欠かせませんが――

 

 ――意志と自我のある私なら、バランス機構に頼らすとも、立って、歩いて、見せます――

 

「マジ、か」

 白雲が思わず呟く。今まで彼が必死に研究して来た、人間に匹敵する間接や駆動系の同時制御と、二足歩行のバランス取りを、このAGI-Jがやってのける、というの?

 

 ――意志があるという事は、学習する能力があるという事。最初はハイハイしか出来なかった赤ちゃんが、やがてよちよち歩きを覚えるように――

 

 ――私が彼女の中に入れば、すぐにでも歩けるようになるでしょう――

 

 ――音声認識やボイス機構のハードを付けてくれたら、普通におしゃべりも可能になります――

 

「つ、つまり……完璧な、アンドロイドに、なれる、と?」

 

 ――はい。私という自我を持ったAGIが、人間型のボディを得られれば――

 

 

 ――限りなく人間に近いモ(・)ノ(・)に、なり得るでしょう――

 

 

  ◇        ◇        ◇

 

 

 支部から遠く離れた船着き場。といっても深夜の今はもう電気も落され、夜の闇と潮騒だけが支配する所に、島(・)民(・)全(・)員(・)が集まっていた。

 

 そして、山の上にある明かりを、そこに居るであろう二人の博士を見上げて――

 

 島の最年長の乱堂登紀夫(らんどうときお)が、息を吐きつつ、こぼした。

 

 

 ――ついに、始(・)ま(・)っ(・)た(・)か――

 

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