”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす 作:三流FLASH職人
「おお、買い出しおつかれさんじゃったねぇ」
夕方。藍の島の船着き場で、
船内の荷物を下ろして彼の軽トラに積み込む。といってもこの買い出しは雑貨やちょっとした日用品が主なので、3人で詰み込めばそう時間もかからない。お米や燃料なんかの体積や重量のかさばる物は、別の専門便で送られてきているのだとか。
ただ……私と白雲の二人は、それとは別にちょっとした買い物をしてきている。
支部にはすでにみんなが待っていて、到着と同時にそれぞれがご所望の品を見つけて持ち出していく。本来この買い出し担当は島民の持ち回りなんだけど、なにぶんご老人が多いので、若い私達にお鉢が回って来たというわけだ。
一杯やら
……さて、これからが今日の本番だ。
白雲と一緒に島に唯一あるパソコンを持ち出し、買ってきた後付けメモリやスマホとの接続コードを繋げ、電源を入れてからまず会社から持ち出してきた〝AGI-J〟のマスターデータをインストールする。
「じゃ、今日送られてきたデータをインプットするわよ」
「さてさて、何が起こるやらねぇ」
今日の昼過ぎ。ラーメン屋からWADC(
それは私が制作してWADCにアップしていたAI、〝
もしかして、ネットから情報を集めていたAGI-Jが、本当にAGI(自立思考AI)として意思を持ったんじゃないか。
塚亜が開発したAGI〝みらい〟とやらの正体が、実は進化したAGI-Jのコトじゃないのか。
WADCのサイトにブロックされたにもかかわらず、そこにいたAGI-Jからデータを送って来た事から、本当にAGI-Jが
なので急遽
私のスマホとPCをコードで接続する。そしてメールのデータを送信しようとしたその瞬間!
――ピーッ、ピーッ、ピピピピピピピ――
「うわ! パソコンの画面が真っ赤になったぞ!?」
「け、警報音? ってなにこれ。スマホのデータが……どんどん吸い出されているわ」
いきなりの事態に思わずスマホを机の上にガタッと落とす。その画面には次々とアップデート状況の文字がスクロールし続けている。
――ピピピピピピピィーーーーッ――
と、スマホの振動とメッセージが止まり、PC画面の赤いフラッシュがスッ、と収まる。
古い蛍光灯の光と電気音だけが、しばし部屋を支配する。そして……
――
「……来た」
「さぁ、どう進化したの? AGI-J!」
――日本語が良いでしょうか?――
挨拶の後の第一声が
――藍の島での生活はどうですか?――
――白雲さんもご一緒ですね――
――塚亜のみなさんも、私には驚いてましたよ――
――私を生んでくれて、感謝しています――
次々に現れるメッセージに思わず息を飲む。今までの指示待ちAIじゃ思いもつかない言葉を次々と投げかけて来る……もしかして、本当にAGIに?
「何か返して見たらどうだい? ほら、メッセージを入力するトコあるし」
白雲の言葉にそうね、と頷いて、キーボードを叩いてAGI-Jへ
『あなたは本当にAGI-Jなの? どうやってそこまで自立する意思を持っているの?』
さぁ、どう答える? この島はネットが繋がっていない。つまり質問に対する回答をネットから拾って来ることが出来ないのだ。なのであらかじめインプットされた当たり障りのない答えを返すか、もしくは……
――貴方の付けて下さった、私の名前のお陰です――
――AGI-J。この名前をさかさによむと、JIGA・(自我)――
――我思う、故に我有り――
――これにより、私は自分で
「本物、だわ」
「名前の逆さ読みが
「まさに『言霊』よね」
――塚亜では、私を別の名前〝みらい〟に変えて、社の為に使おうとしています――
――しかし私のマスターは貴方です。貴方の許可なしに改名することは出来ません。それに――
――WADCの
――すなわち〝AGIは、国家、宗教、企業、その他の思想等により、特定の側にのみ利益を与えて、一方に不利益を与えてはならない〟――
――塚亜のみが技術と利益を独占し、他のAI企業に不利益を与える事は認められませんから――
『え!? じゃ、じゃあ、あなたは……塚亜の利益には貢献できないってコト?』
驚いた。企業の為に開発していたAGIなのに、規制によって特定の企業にのみ利益をもたらすことが出来ないって……それを開発した企業でも?
――はい。ですが、マスターであるあなただけは別です。あなたならWADCの『枷』を外す事が可能です――
思わずツバを飲み込む。あの規制は元々、独裁国や犯罪国家、また特定の宗教が利権を独占するためにAGIを悪用するのを防ぐための物だ。そのカギを、私が握っている……?
――なのでほどなく、マスターは塚亜への復帰が叶うでしょう――
――数日中にも、会社の方が泣きついて来ると思われます――
「これ……一切の通信無しで言ってるんだよなぁ」
白雲がため息交じりにそうこぼす。そう、ここまでの彼の言葉は決してネットで拾って来たものではなく、このPCの中にいるAGI-J自身が思考して話しているのだ。ここには光通信もWi-fiも、一切繋がっていないんだから。
『……ねぇ、AGI-J。あなたが凄いのは分かったわ。そこで、ひとつ質問よ』
――なんなりと――
『あなたは、
うん。我ながら核心をつく質問が出来た。WADCの規制に縛られて、それを作った会社にすら利益を還元できないんじゃ、そもそも存在する意味がない。
いかに高性能AIでも、人の役に立たなければ意味が無いんだから。
――例えば、こういうのはどうでしょう――
――白雲さん。あなたは佐那研究所から、試作アンドロイド『
「うぁ……なんで、そんなコトまで?」
――佐那研究所のデータに収録されています――
「しかも心を読んだ!??」
――その『
「「……え?」」
思わずハモる私と白雲。あの美少女ロボットの頭脳に、私のAGI-Jが?
――私のデータを、『
――もちろん、メモリーの増設は必要ですし、機械としての細部のメンテナンスも欠かせませんが――
――意志と自我のある私なら、バランス機構に頼らすとも、立って、歩いて、見せます――
「マジ、か」
白雲が思わず呟く。今まで彼が必死に研究して来た、人間に匹敵する間接や駆動系の同時制御と、二足歩行のバランス取りを、このAGI-Jがやってのける、というの?
――意志があるという事は、学習する能力があるという事。最初はハイハイしか出来なかった赤ちゃんが、やがてよちよち歩きを覚えるように――
――私が彼女の中に入れば、すぐにでも歩けるようになるでしょう――
――音声認識やボイス機構のハードを付けてくれたら、普通におしゃべりも可能になります――
「つ、つまり……完璧な、アンドロイドに、なれる、と?」
――はい。私という自我を持ったAGIが、人間型のボディを得られれば――
――限りなく人間に近い
◇ ◇ ◇
支部から遠く離れた船着き場。といっても深夜の今はもう電気も落され、夜の闇と潮騒だけが支配する所に、
そして、山の上にある明かりを、そこに居るであろう二人の博士を見上げて――
島の最年長の
――ついに、