”AGI-J(アギー・ジェイ)” ――そのAIは、人類を、滅ぼす   作:三流FLASH職人

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第七話 成長と、その先の不安

 朝。田舎の島には似つかわしくない金髪の少女が、ひょいひょいと手をひらひらさせつつ軽快に足を運んで、『舞』を見せる。

 それはまさしく地元徳島の伝統芸能『阿波踊り』の女踊りだった。しかも、その彼女が最新AIの頭脳を持つア(・)ン(・)ド(・)ロ(・)イ(・)ド(・)だというのだから……。

 

「これは……すごいもんじゃのう」

「こんなえらい(すごい)もん作っとったんか、さっすが博士たちじゃ」

「子供を作らんで娘のロボット作っとったんかいな、ひゃひゃひゃ」

 

 案の定、島民は大驚き&大喜びだ。まぁちょっとセクハラまがいの言葉もあったけど、そのへんは田舎の島のご老人の言う事だからスルーしておく。

 

 昨夜、あれから私、緑山青海と白雲青空の二人は〝AGI-J〟のアドバイスに従い、白雲の持ってきたロボット〝輪舞(ロンド)〟の制御部分のメモリを大幅に増設し、その中にAGI-Jをインストールしてみた。

 ちなみにロンドは首の後ろに接続端子があり、そこにコードを繋いでのPCからの移植になる。あとロンドはまだ喋る(ボイス)機能が付いてないので、当分は繋いだパソコンのモニターを通して会話するしかない。

 

 〝各所動作テスト開始します〟

 

 そう伝えて来てから体中の関節を一つずつ動かし始める。まぁいきなり首を360度回したのにはちょっと引いたけど、腰、肩、ひじ、ヒザ、手首足首に指先まで一通り動かし終えてから、白雲に不具合箇所をいくつか告げる。

 それに応えて関節部のモーターをいろいろイジる白雲と、そのつど動作の再チェックをして〝OK〟〝BAD〟〝GOOD〟なんて返して来るのを見て、思わず感慨に浸る。

 

「なんか……私たちが作ったような気がしないわねぇ」

「あはは、僕はマンガのワンシーンみたいで楽しいよ」

 

 そう。彼の言う通り、今目の前で見ている光景が、どこか現実離れしている未来的なものに感じられて、なんともこう……テンションが上がって来る。

 世界中の誰もが想像し、世界でまだ誰も実現できていないアンドロイドの誕生に、この左遷先のド田舎の島で立ち会っているのだから。

 

〝各部関節動作、オールグリーン。直立と歩行の学習を始めます〟

 

 動き始めてからはそれこそあっという間だった。最初は確かにコケたりよろめいたりしていたが、その都度姿勢制御を修正して行って、あれよあれよという間に人間と変わらない様子で立って歩くことに成功したのだ。

 

「まさに赤ちゃんがハイハイから立って歩くのを、早送りで見てるみたい」

「普通なら失敗の度に一度止めて、データをもとに修正プログラムを組み直すのに……それを全部自分でやっちゃってるよ。しかもごく短時間で。すごいなAGI-J(アギー・ジェイ)」

 

〝早くお喋り機能とマイクイヤーを付けて下さいね。あとコードレスで動きたいから高性能バッテリーもあれば嬉しいです〟

 

 そのリクエストに白雲がキーボードをカタカタ叩いてこう返す。

 

『安心したまえ、今の君はロボット工学界の最先端だ。付属の周辺機器などあっという間に作られるよ』

〝いえ、とりあえず塚亜に戻る前に、ここの皆さんとも触(・)れ(・)合(・)い(・)た(・)い(・)ですから〟

 

 その返信に思わず私たちは顔を見合わせる。「触れ合いたい」なんてロボットやAIのセリフじゃないよなぁ、と言い合って、その後……。

 

 パッチィーン! とハイタッチを交わした。よっし、やった、やったわ!

 

「ざまぁみろー、塚亜、佐那研究所、ほんで世界中のAI技術者ーっ!」

「お、方言出(なまっ)てる」

「なんか島のみんなのがうつっちゃったかな。まぁええんやないん?」

「ほうじゃねぇ、ほれがええかもじゃのう」

 

 ……

「ぷっ、あはははははは」

「わはははは、浮かれてるねぇ僕たち!」

 

 お馬鹿な会話に大笑いした後、AGI-Jがこんな事を提案して来た。

 

〝島の皆さんと馴染みたいので、今から徳島の名物、阿波踊りを練習したいと思います〟

 まぁそんなわけで部屋にあった古雑誌の中から阿波踊りの本を引っ張り出して(よくあったなぁ)、何度も踊りの練習と、その度に負荷がかかって動作不良となった各部を細かくメンテしながら、なんとか朝までに形にして、こうして披露している訳である。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

〝私の名前はロンドといいます。体は白雲博士、頭脳は緑山博士に作って頂きました、どうかよろしくお願いします〟

 

「どちらいか(こちらこそ)ー、よろしくじゃわい」

「早うしゃべれるようになるとええねぇ」

 

 PC画面に映る彼女からのメッセージに、島民の皆さんも嬉々として返事を返す。まぁ、それをキーボ-ドで打ち込むのは私なんだけどね(笑)。

 

「しかしさすがじゃのう。これで本社への復帰は確実じゃないか?」

「えー、ほんなん困るわー、せっかく若いコが来てくれたんじゃのに」

 

 うん。確かにまぁこのロンドを研究所に披露すれば、私と白雲の研究所復帰は確実だろう。加えて白雲のロボット部門の復活も十分にあり得る。

 

 でも、一つだけ懸念がある。果たして本社はAGI-Jをどう取り扱うつもりなんだろうか。もちろん私が復帰したら早々に、AGI-Jを塚亜に利益を得られる『商品』として改造させられるのは避けられない。

 

 でもそれはWADC(世界AI開発評議会(World AI Development Council))の規約の枷を外す事になるのだ。世界中のAI研究者が、AGIのあらゆる危険性を想定して立てたその枷(・)を外せば、もしかしてSF映画みたいに人類に災いをもたらす存在になるかもしれない。

 

「僕はそれまでに、出来るだけロンドのバージョンアップを図りたいね。なにせ優秀であればあるほど、所長や副所長の驚く顔が見られるだろうから」

「そーね。あの副所長が目を丸くして驚く姿は見たいわねぇ。でもいつもの仕事もあるから忙しくなるわよー」

 

 一応、島民のみんなに頼りにされている都合上、復帰の辞令が来るまではここの仕事をおろそかにするわけにはいかない。それまでにAGI-Jことロンドをより優秀なアンドロイドにするとなると、かなり激務になりそうだなぁ、特に白雲《カレ》は。

 

「まぁ、ワシらも及ばずながら協力はするわ」

「ほうじゃねぇ……必要なものがあるなら買い出しにはいっちゃるわ。ほなけん力仕事は頼むでよ」

「ロンドちゃん子守りは出来るんじゃろか? この子たちのお世話をしてくれたら助かるんじゃけどなぁ」

 いやさすがにそれは無理。ロボットなんて子供たちの憧れの的だし、力加減をしらない5歳児にかかったら速攻で壊されかねないから。

 

 そんなこんなでそれから一週間。私たちは日頃の肉体労働をこなしながら、AGI-Jの制御するアンドロイド、『藍島(あいしま) 輪舞(ロンド)(乱堂登紀夫(らんどうときお)さん命名)』の調整とバージョンアップに腐心し続けた。

 ボイス機能とイヤーマイクに、音声認識機能を付けて待望の会話機能を収得し、育児や教育の本やDVDなんかを買って来てもらって、いともあっさり子守り機能まで身に着けてしまった……もちろん子供たちは大喜びだ。

 

 そして……私たちが島に来てから18日後。ついに塚亜からの電話が入った。

 

『乱堂CEO、並びに所長と私。あと君の部下の赤木君が〇月〇日、藍の島に直々に出向く。くれぐれも失礼のないようにな』

 

 あー久々に聞いたなぁ、あのバーコード頭の副所長、奈川《ながわ》の上から目線の嫌味ったらしい物言いを。

 まぁこっちは塚亜の莫大な利益を生み出す金の卵を握ってるんだから、そうそう邪険には出来ないだろう、こっちが色よい返事を返さなければ、アイツの土下座とか見られるかもしれない。ちょっと楽しみかも。

 

 でも同時に不安も尽きない。AGI-Jをあくまで利益優先で使うとなれば危険も伴うし、何より自(・)我(・)を(・)持(・)っ(・)た(・)AGI-Jをモ(・)ノ(・)のように扱われるなら、あまりいい気分じゃない。

 このAGI-J(ロンド)ちゃんの頑張りを見ちゃったから、尚更そう思う。

 

 

 

 夜。私はロンドのメンテに追われる白雲に、考えていた事を話す。

 

「ねぇ……貴(・)方(・)と(・)そ(・)の(・)娘(・)、この島に残らない?」

 

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