スパイダーマンの存在しない世界に飛ばされたMCU版ピーター・パーカー ~親愛なる隣人再始動……ただしガールとして~ 作:発火雨
投稿し直しましたので、一度お読みになった方々にはご不便おかけします
論文を送った後、しばらくは炊き出しとか、図書館の情報収集に時間を当てていたら、思ったよりも早く連絡が来たんだけど。
なんと、一次面接をパスして、すぐに社長面接をしたいって驚くようなことが書かれてた
「もしかしてどこの会社の社長も科学者だと合理主義なのかな?」
スタークさんもあんな大きな会社のトップだけど、びっくりするくらいワンマンだったからな。
ノーマン・オズボーンさんの人となりは知らないけど、もしかしたらスタークさんみたいな人が出てくるのかもしれない。
そして、面接当日。
なんで面接の日って朝から落ち着かないんだろうね。
「……よし」
鏡の前に立って、自分の姿を確認する。
この日のために、なけなしの予算を使った。
今まで着ていた服ではさすがにまずいと思って、できるだけ小奇麗に見えるものを選んだつもり。
髪も試供品の化粧道具を貰ったからそれで整えて、昨夜はちゃんと風呂にも入った。
爪も切ったし、靴の汚れも落としてある。
「うん。大丈夫」
少なくとも、だらしない格好には見えない……はず。
それだけで十分だ。
少なくてもスタークさんはスパイダーマンスーツにはこだわってたけど、普通のスーツにあれこれ言ってきたイメージはあんまりない。
「第一印象は大事だからね」
そう呟いて、ふと自分の服装を見下ろす。
……まあ、そのために色々と準備したわけだけど。
今の身体になってから、身につけるものについても色々と問題が出てきた。
当然、以前の僕が持っていた服は男物ばかり。
今の身体には合わないものも多い。
仕方なく必要なものを買い揃えた。
その中には、どうしても納得できないものもあったけど。
「……本当に、ここまで適応しないといけないのか」
女物の下着を身につけることには、最後まで抵抗があった。
でも、今の身体で以前のものを使い続けるわけにもいかない。
ジョークとかで女の子の服を着ることはあるかもだけど、今の僕は普通に着れちゃうし、なんだったら大事な面接の日に女装してる気分だ。
「……仕方ない。仕方ないんだ」
って、誰に言い訳しているんだ、僕は!
「しまった。もう出ないと!」
慌てて鞄を手に取った。
中には面接に必要な書類。
それから、研究内容についてまとめたメモ。
論文のコピーも入れてある。
「よし」
最後に、もう一度鏡を見る。
そこに映っているのは、暗いブラウンの髪を整えて、きちんとした服装をした女の子。
なんか元の僕より、格好良い気がするけど。
……やっぱり、まだ慣れない。
何度見ても、自分の顔とは思えない。
だけど、今日はそんなことを気にしている場合じゃない。
「今日の僕はメイシー・ジェーン。ちゃんと名前を呼ばれた反応すること」
自分に言い聞かせる。
ピーター・パーカーではない。
スパイダーマンでもない。
今日だけは、ただの一人の若手研究者として。
「……行ってきます」
誰もいない部屋にそう告げて、僕はオズコープへ向かった。
しばらくして。
「……うわ」
オズコープ本社を見上げて、思わず声が漏れた。
でかい。
とにかく、でかい。
ガラス張りの巨大な建物。
周囲を行き交う社員さんたちは、スターク・インダストリーの人たちと通じるものがあるのかもしれない。
胸の奥が少しだけ高鳴って、面接に来たはずなのに、研究施設への興味の方がどんどん大きくなってきた。
どんな設備があるんだろう。
材料分析装置は?
高性能なコンピューターは?
ロボット工学の研究設備は?
もしかしたら、僕の知っている技術と組み合わせれば、ウェブシューターとスパイダースーツの改良も。
「……駄目だ」
いけないいけない、今日のメインはそっちじゃない。
「今日は面接。設備見学じゃない」
自分に言い聞かせながら、受付へ向かった。
「こんにちは、メイシー・ジェーンです。ノーマン・オズボーンさんとの面接で伺いました」
「お待ちしておりました、ジェーン様」
受付の人が確認を終える。
「こちらへどうぞ、エレベーターから3階へ行ってもらって、右手の第3会議室で社長がお待ちです」
「はい」
案内されながら、つい周囲を見回してしまう。
研究施設らしき設備が見えて、見たことのない機械もある。
「……すごい」
思わず小声で呟いたけど、慌てて姿勢を正して、一人エレベーターへ乗り込む。
扉が閉まる。
静かな箱の中で、ようやく少しだけ緊張してきた。
これから会うのは、ノーマン・オズボーンさん。
オズコープの社長で、僕の論文を読んで“直接会いたい”と言ってきた人。
それだけなら、僕にとってはただの大企業の経営者だ。
でも、調べたところいくつもの論文を発表している科学者でもあるらしい。
「……科学者で、大企業の社長か」
そう考えると、どうしても一人の人物が頭に浮かんでしまう。
トニー・スターク。
天才で優れた発明家。
そして、巨大企業のトップ。
「……まあ、同じような人とは限らないけど」
思い出せば顔が苦笑しちゃうほど、スタークさんは、とにかく強烈な人だった。
自信満々で、口が悪くて、何を考えているのか分からなくて。
でも、僕が知らないことを知っていて、僕の考えを頭ごなしに否定はしない……いや、あれはスタークさんの考えがあって僕が未熟だったからノーカウント。
……少なくとも、僕にとっては尊敬できる人だった。
だからだろう。
ノーマン・オズボーンさんの肩書きを聞いてから、勝手に期待してしまっている。
何を期待してるんだ、僕は、まだ会ったことすらないのに。
「……いや、でもさ」
僕は自分に言い聞かせるように呟く。
「研究者なら、論文の話くらいはできるだろ」
それだけでも十分だ。
この世界に来てから、ずっと一人。
誰にも自分の知識を話せない。
僕が知っている技術を説明しても、この世界の人間には前提となる知識が違いすぎる。
まして、自分が別の世界から来たなんて話せるわけがない。
だからこそ。
科学の話だけでも良い。
自分の考えを聞いてくれる人が欲しかった。
「……それに」
オズコープの研究設備を使わせてもらえれば、元の世界へ帰る方法を探すための研究もできるかもしれないし。
勿論スパイダーマンの装備もね。
そのためなら、多少の面接くらいどうってことない。
もちろん、現実はそんなに都合よくいかないかもしれないし。
社長なんだから忙しくって、研究者としてどれくらい現場に関わっているのかもわからない。
もしかしたら、ものすごく堅物かもしれない。
エレベーターが止まって、扉が開いた。
「……よし」
一度だけ深呼吸して、鞄を持ち直す。
僕はメイシー・ジェーンとして、一歩を踏み出し、指定された会議室に入る。
そこにいたのは、一人の男性だった。
ネットの写真で見たとおりのノーマン・オズボーンさん。
オズコープの社長であり、この世界では有名な科学者でもある人物だ。
「初めまして。ノーマン・オズボーンだ」
「初めまして。メイシー・ジェーンです」
差し出された手を握る。
「今日は来てくれてありがとう。ここまでの道のりは大丈夫だったかな?」
「はい。すっごく大きな会社だったので、迷わないでたどり着けました」
「そいつはよかった」
穏やかな笑み。
僕は少し意外に思った。
もっと威圧的とは言わなくても、エネルギッシュな人を想像していた。
何しろ、大企業の社長だもん。
でも実際に会ってみると、物腰が柔らかいし、言葉遣いも丁寧だ。
少なくとも、僕が知っている大企業の社長とはかなり違う。
……いや、比べたら怒られそうだな。
「緊張しているかな?」
「ちょっとだけ」
「そうか。私も若い頃は、面接というものが苦手だったよ」
「……社長でも?」
「もちろん」
ノーマンが笑う。
「肩書きが増えても、緊張する時は緊張するものさ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
ノーマンさんが机の上に一冊のファイルを置く。
「では、さっそく本題に入ろう」
「はい」
「君の論文についてだ」
ファイルを開いて取り出したのは、僕が提出した論文のコピー。
「……あれ?」
余白が真っ黒になっている。
僕が提出した時にはなかったものが、ページのあちこちにびっしりと書き込まれていた。
「これ……」
「気になったところに少し書き込ませてもらった」
「少し……?」
どう見ても少しじゃない。
ほとんどのページに何か書いてある。
「すまない。読み始めたら止まらなくなってね」
「……いえ」
むしろ嬉しい。
自分の論文を、ここまで真剣に読んでくれた人がいるなんて。
「まず、君の基本的な発想から聞きたい」
ノーマンさんが最初の図を指差す。
「従来の航空機は、人間が機体を操作することを前提としているし、我が社で製造している航空機もすべてそのタイプだ。それを君は否定した」
「はい」
「なぜだ?」
「人間の反応速度には限界があるからです」
僕は図を指差した。
「例えば高速飛行中に障害物が現れた場合、操縦者が認識して判断して操作するまでに、どうしても時間がかかります」
「だから機体側に判断させる?」
「そうです」
「しかし、それでは機体側の処理能力が問題になる」
「だから、すべてを機体に任せるわけじゃありません」
「ほう」
「人間は目的と大まかな指示を与えて、そこから先の姿勢制御や障害物回避、最短経路の計算を機体側に処理させるんです」
ノーマンは頷く。
「つまり、操縦者をパイロットではなく、指揮官として扱うわけだ」
「そういうイメージです」
「面白い」
ノーマンは論文へ目を落とす。
「では、通信が途絶した場合は?」
「一定時間なら機体側で自律判断を続けます」
「一定時間?」
「完全な自律行動には制限を設けます。通信が復旧しなければ、安全な地点まで退避する」
「なぜ帰還ではなく退避を?」
「空中で通信が切れた場合、帰還経路そのものが危険になっている可能性があるからです」
「なるほど」
ノーマンさんはペンを取ってメモ帳に何か書き込む。
「これは君の論文を見て私が考えたアイデアなんだが……」
ノーマンさんはファイルから別の用紙を取り出した。
そこにはびっしりと僕が書いた論文を元に描かれた、ドローンの試作機の図面が描かれてる。
ちょっと待ってよ!
あんまり詰め込み過ぎたら良くないと思って、ドローンの基本的な部分を細かく書いたつもりなのに。
いろいろと盛り込んだせいでかなり複雑になってしまったけど……それでもドローンとしては成立している。
「複数機の連携を考えてみた。君は一機ずつを独立したシステムとして設計している。しかし、通信と演算能力が確保できるなら、機体同士で情報を共有した方が効率が良い」
「……!」
僕は思わず身を乗り出した。
「それ、考えてました」
「やはり?」
「まだ論文には入れていませんけど……複数機でセンサー情報を共有できれば、単独では見えない範囲まで把握できると思って」
「なら、なぜ書かなかった?」
「実証するための計算資源が足りなくて」
いきなりものすごい軍事用に使える物を提出するわけにもいかないから、少しづつこの時代に不自然じゃない形で技術を馴染ませてくつもりだったのに。
「正直で良い」
ノーマンさんが笑いながら、論文の別のページを開く。
「だが、自動で動かすのにも問題がある」
「どこですか?」
「君は機体の自律性を高めることで人間の負担を減らそうとしている。しかし、自律性が高くなればなるほど、人間が介入できる余地は減る」
「……はい」
「ならば、どこまでを機体に任せ、どこからを人間に戻す?」
「それは……」
僕は考える。
「状況によります」
「具体的には?」
「平時の飛行や障害物回避は機体に任せる。でも、重要な判断については人間の承認を必要にする」
「つまり、最終的な責任を人間に残す」
「そうです」
ノーマンさんは黙って僕を見る。
そして、小さく頷いた。
「それも良い答えだ」
その言葉が妙に嬉しかった。
それからしばらく。
面接だったはずの時間は、いつの間にか研究討論になっていた。
ノーマンさんが質問して、僕が答える。
僕が自分のアイデアを説明する。
するとノーマンさんが、そこに潜んでいた問題を鋭く指摘する。
「その場合、重量が増えすぎて飛行機能に問題が起こらないか?」
「だったら、センサーを小型化して」
「小型化すれば精度が落ちる」
「じゃあ、複数のセンサーを分散配置して、互いを補う前提でリンクさせたらどうかな?」
ノーマンさんが紙に簡単な図を書く。
「この配置なら重量を抑えながら、ある程度の冗長性を確保できる。試作機ならある程度の拡張性を最初から考えた方が良い」
「……なるほど」
僕もペンを取ってノーマンさんの描いた図に書き込んでいく。
「でも、それだとこの部分に負荷が集中するので」
「確かに」
ノーマンさんもすぐに書き直す。
気づけば、二人で一枚の紙に次々とアイデアを書き込んでいた。
僕は思わず笑ってしまう。
「……面接って、こんな感じでしたっけ?」
「さあ?」
ノーマンさんも笑う。
「私も面接するのは久しぶりなのでね」
そこで、ふと気づいた。
この人は、僕のことを試している。
でも、知識をひけらかしているわけじゃない。
僕の間違いを笑うこともしない。
むしろ、僕の説明の中から面白い部分を見つけると、そこをさらに掘り下げてくる。
「そうそう、メイシー。面接の合否なんだが」
あっ、一瞬誰のこと言ってるのかわからなかったけど、メイシーって僕のことだ。
「勿論合格だよ。すぐにでもオズコープで働いて欲しい」
次回投稿は9/24の22時23分となりますのでよろしくお願いします。