スパイダーマンの存在しない世界に飛ばされたMCU版ピーター・パーカー ~親愛なる隣人再始動……ただしガールとして~   作:発火雨

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スパイダーガール

 見事オズコープに就職が決まったピーター・パーカー改めメイシー・ジェーンだよ。

 ノーマンさんとのめっちゃ楽しい面接も終わり、その場で即採用!

 

 おかげでオズコープの研究室の一角を借りて、設備もあれこれ使う許可も貰らっちゃった。

 

「……これ、本当に使って良いんですか?」

 

「そうだ、個人にパソコンを配布するが、それとは別に使いたかったら申請してくれ」

 

「こっちの分析装置も?」

 

「業務に支障が出ない範囲なら、趣味の研究もある程度認めよう」

 

「……最高だ」

 

 思わず本音が漏れた。

 スパイダーマンの能力は持ってるけど、今の僕はそれを支える装備が全部ない。

 スタークさんと出会う前は自前で全部用意してたけど、それだって住居と日々のお小遣いがあってのこと。

 

 ずっと欲しかった設備が、目の前に全部ある。

 

 正直、初日は設備を見て回っている時間の方が長かったと思う。

 

 でも、二日目からはちゃんと仕事も始めたよ。

 

 提出した論文を元に、まずは小型ドローンの試作。

 

「……なるほど。自分で操作したこともあるし、戦ったことはあっても、いざ作るとなると難しいんだな」

 

 何度目かの試作機を見ながら呟く。

 この世界の技術水準があるから、僕が知っている技術をそのまま持ち込めるわけじゃないし。

 

 もちろん、僕がこの世界に来た目的は忘れていない。

 

 元の世界へ帰る。

 それが最優先だ。

 

 だから、研究の合間には次元転移について調べたけど、今の僕には圧倒的に情報が足りない。

 少なくとも、すぐに答えが出る問題じゃない。

 

 だったら、焦っても仕方がない。

 

 そう思えるくらいには、生活も安定してきた。

 オズコープから給料をもらえるようになって、初めて自分の口座を持った。

 

 “何を食べるか悩める”って、結構すごいことだと思う。

 でも、中々お気に入りのサンドウィッチを出してくれる店がないから、しばらくはあれこれお試し期間だね。

 

 えっ、こっちでもずっとサンドウィッチを食べてるのかって?

 

 だって好きなんだもん。

 それに安いし、手軽だし、ヒーロー活動中も食べれるからね。

 

「……よし」

 

 鏡の前に立てば、懐かしい赤を基調としたスーツ。

 そこに映っているのは、以前の僕とは違う姿。

 

 体のラインは前以上に出ちゃうからデザインを調整するのに一苦労したよ、本当。

 特に胸が目立つんだよね、イヤらしい感じにならないで元のデザインを踏襲しつつ、結構恰好良いと思うよ。

 僕の世界にいた女性ヒーローたちを参考にさせてもらったけど、胸元はしっかり隠させて貰ってるよ、

 

 あっ、もしかして期待しちゃった?

 だったらごめんね。

 

「さっそくヒーロー活動だ!」

 

 窓を開けて、僕は夜のニューヨークへ飛び出した。

 最初の夜は、おばあさんの荷物をひったくる不届き者にシュート!

 

「ちょ、待って! なんだこれ!?」

 

「だめだよ、人の物を盗ったら泥棒でしょ」

 

「なんなんだ、お前!」

 

「初めまして、今日からこの街で親愛なる隣人としてデビューしたスパイダーマン……あぁ、マンだとおかしいか。スパイダーガール? それともスパイダーウーマンの方が良いかな?」

 

「はぁ!?」

 

 ウェブで相手の手を固定して、荷物も回収。

 警察が来るまで、おばあさんに事情を説明して、怪我がないか確認。

 

 あっ、なんか路地裏の方で言い争ってる声を拾っちゃった。

 強盗を発見して、足元にウェブを撃ち、転んだところにもう一度ウェブ。

 

「はいはい、転ばせてごめんね。でも強盗は辞めた方が良いよ、僕それで儲けられた人見たことないから」

 

 勿論交通事故にも関わってくよ。

 車から人を助け出して、救急隊が来るまで付き添う。

 

 大きな事件ばかりじゃない。

 

 迷子になった子供の親御さんを探したり、屋上で動けなくなった猫を降ろしたり。

 そうしているうちに、街の人たちに“親愛なる隣人”が受け入れられ始めた。

 

「またあの子だ!」

 

「蜘蛛のヒーロー!」

 

「写真撮って良い!?」

 

「OK! デビューしたばっかだけど、どこのニューヨークも大変なのは変わらないね」

 

 翌朝。

 研究室で新聞を眺めていた僕は、みんなの反応を知って少しだけ嬉しかった。

 

『ニューヨークに現れた謎のヒーロー』

 

『蜘蛛のように動く女』

 

『市民を救った“スパイダーガール”』

 

「あぁ、名称はスパイダーガールになったわけね」

 

 ちなみに今見てる新聞はデイリー・ビューグルのじゃないよ。

 そっちもさっき見たけど、見出しが“ニューヨークに混乱を招く蜘蛛女登場”とか“顔に自信がないからマスクで隠し活動する卑怯者”だったからね。

 言っとくけど、僕の顔かなり可愛いよ。

 

 正直男の人がジロジロ見てくるのわかっちゃうもんね。

 僕がMJを見る時もあんな感じになってるかもだから今後は注意しないと。

 

 そうそう、咄嗟だったけどイニシャルをMJにして大正解。

 やっぱり偽名って慣れてなくて、メイシーさんって呼ばれたら全然反応できないの。

 でも、MJって呼ばれたら、耳に残ってる単語だから、すぐに誰かが話したってわかってすごく便利。

 

 ってなわけで、昼はオズコープで働くメイシー・ジェーンことMJ。

 夜は謎のヒーロースパイダーガールとしての二重生活の始まりってね。

 

 えっ、高校は大変じゃないかって?

 

 実はオズコープの仕事に加え、元の世界に戻るための活動をしてたら高校に行ってる暇はなさそうだから、ノーマンさんに少しだけ年齢を上にして報告してある。

 なのでしばらく高校に通う必要はなし、僕見た目は結構いけてるし、顔は幼いけど身体付きは立派なレディに見えるんだもん。

 女性の方が早く大人に成長するって言うけど、本当だね。

 

 あとあれかな、男の人のファンが増えたし、写真撮る時に頼まれるポーズがだいぶ変わったかな。

 でもまぁ、この世界のニューヨークでも受け入れられてきたから、もし元の世界の誰かが探してたらすぐにわかると思うよ。

 

 

 

 

 

 

「勿論合格だよ。すぐにでもオズコープで働いて欲しい」

 

「……え?」

 

 思わず、間の抜けた声が漏らす。

 合格、それも、すぐにでも働いてほしいという願ってもない最良の結果。

 

「君の研究は面白い。それに、まだ完成していないからこそ伸びしろがある。私としては、むしろこれから君が何を作るのか見てみたい」

 

「ありがとうございます!」

 

 ピーターの胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 この世界に来てから、ずっと一人だった。

 誰にも相談できず、話す相手もいない。

 

 それでも、自分が書いた論文をこれほど真剣に読み込んでもらい、それを評価してもらえた。

 

「……頑張ります」

 

「期待しているよ」

 

 ノーマンが笑う。

 それから、何かを思い出したように手元の書類へ目を落とした。

 

「さて、それでは採用手続きをしようか。順番が逆になってしまったが、履歴書は持ってきたかな?」

 

「は……はい」

 

 ピーターから貰った履歴書を見て、ノーマンの手が止まった。

 

「君の履歴書には、学歴の記載がないな」

 

「あー……」

 

 ピーターの表情がわずかに引きつった。

 やはり、そこを見る。

 元々はハイスクールに通っていたが、今の世界ではその痕跡は一つもないため、何を書いても調べられたら嘘になってしまう。

 

「それと、以前の勤務先もないし、住所も、現在の連絡先以外は空欄だ」

 

「……はい」

 

 先ほどまでの楽しそうな顔は一転、だんだんと、嫌な汗が可愛らしい顔から吹き出していく。

 

「それから、身元を確認できる公的な書類も……」

 

「……はい」

 

 ノーマンが顔を上げた。

 

「メイシー」

 

「はい」

 

「君は、いったい何者なんだ?」

 

「…………」

 

 当然の質問だった。

 だが、答えられるはずがない。

 別の世界から来たピーター・パーカー。

 

 元は男で、しかもスパイダーマン。

 そんな事情を説明したところで、まともに信じてもらえるはずもなかった。

 

「……事情があって、身元を証明できるものを持っていないんです」

 

「家族は?」

 

「いません」

 

「親戚は?」

 

「……頼れる人はいません」

 

 この世界には、ピーターを想うメイおばさんはいない

 ノーマンはしばらく黙り、少しだけ声を落とした。

 

「君は、ここへ来るまでどうやって生活していた?」

 

「……まぁ、炊き出しとか、公共施設を利用したりとか」

 

「…………」

 

「大丈夫です。なんとかやってますから」

 

「それは、君が自分でそう思っているだけじゃないのか?」

 

「……」

 

 メイシーは返す言葉を失った。

 

 確かに、今まで何とかなっていた。

 食べるものも、寝る場所も、その日その日を工夫すればどうにかなった。

 だが、それは決して“普通に生活している”と胸を張れる状態ではない。

 

「別に、そんなに困ってないんです。オズコープで研究させてもらえて、必要な設備を使わせてもらえて、あとは活動資金を少しもらえれば、それで十分です」

 

「活動資金?」

 

「あ」

 

 ピーターの顔が固まった。

 

「……研究資金、です」

 

「今、活動資金と言ったね」

 

「……言いました? 多分噛んじゃって舌が回らなかったんだと思います、僕緊張するとしょっちゅうするんですよ」

 

 スパイダーマンとして活動するための資金が必要だなど、さすがに言えるわけがない。

 

「まあ、そこは良い」

 

「えっ! 別に良いんですか!?」

 

 ノーマンは追及しなかった。

 目の前の少女が何かを隠していることは、もはや疑いようがないが、ただの家出娘や、何かしら前科があるといった風にも思えない

 

 履歴書にある不自然な空白。

 学歴も勤務歴もなければ、身元を証明する書類すら持っていない。

 

 それにもかかわらず、科学に関する知識だけは異様なほど深い。

 

 ノーマンは目の前の設計図へ視線を落とした。

 

 この少女には、並外れた才能がある。

 

 オズコープの設備と資金。

 そして、この少女自身の知識。

 

 その二つが組み合わさった場合、何が生まれるのか。

 

 ノーマンは経営者として考える。

 リスクはあり、普通なら、慎重になるべき案件だ。

 

 このまま採用を見送れば、彼女は再び路上に戻り、どこか別の企業に拾われるかもしれない。

 あるいは、誰の管理も受けないまま研究を続ける可能性もある。

 

 それはノーマンにとって、決して望ましい未来ではなかった。

 彼女は自分と同じ優れた資質を持っていて、その才はこの世界のために使われなければならない。

 

 ならば、多少のリスクを飲み込んででも、今のうちにオズコープの内側へ抱え込んだ方が良い。

 ここに置けば、研究内容を把握でき、何か問題が起きたとしても、外にいるよりは対処しやすい。

 

 リスクとリターンを頭の中で秤にかけた結果、ノーマンは静かに息を吐いた。

 

「だが、私は君のその考え方には反対だ」

 

「……え?」

 

「研究設備と金さえあれば良い、という考え方だよ」

 

「あっ、いや、そんなお金だ欲しいだけってわけじゃなくて……」

 

「君は今日、私に自分の研究を説明した」

 

「はい」

 

「それは、素晴らしい技術だ」

 

 机の上に置かれたドローンの設計図を見る。

 

「君の技術は、軍事にも利用できる。救助にも利用できる。使い方次第では、多くの人間を救えるだろう」

 

「……はい」

 

「だからこそ、君自身が自分の作ったものに責任を持たなければならない」

 

 その言葉に、ピーターは黙った。

 

「もし君の設計したドローンが事故を起こしたら?」

 

「……僕が責任を取ります」

 

「ならば、君は責任を取れる立場にいなければならない」

 

 ノーマンは静かに続ける。

 

「研究者として働くということは、研究室に籠もって好きなものを作ることではない。自分の知識が何を生み出すのか。むやみやたらと力を振り回すのではなく、恵まれた知性を活かすべきだ」

 

 そしてノーマンは、手元の書類を閉じた。

 

「だからこそ、君にはきちんとした立場を用意しよう」

 

「え?」

 

「オズコープで正式に研究員として採用する」

 

「でも、身元が……」

 

「そこは私のほうで用意しよう」

 

 あまりにもあっさり言われて、ピーターは言葉を失った。

 

「オズコープには法務部門もある。必要な手続きについて専門家もいる。可能な限り対応しよう」

 

 “オズコープに正式に研究員として採用する” つまり、もうただの“メイシー・ジェーン”ではないということだ。

 ピーターはこれから“オズコープの社員であるメイシー・ジェーン”でなければならない。

 もしピーターが何か問題を起こした場合、責任を取るべきなのはピーターだけではなく、オズコープとノーマンにのしかかる。

 

「でも……」

 

「何か問題があるかね?」

 

「そこまでしてもらう理由が……」

 

「あるとも」

 

 ノーマンは即答した。

 

「私は君を研究者として採用したい」

 

 少なくとも、研究者としての価値を評価していることは事実だった。

 同時に、ノーマンはピーターの背後に何かがあることも理解しているが、それを理由に手放すつもりはない。

 

 厄介事があるなら、自分がコントロールできる範囲にあったほうが対応しやすい。

 それがノーマン・オズボーンの判断だった。

 

「それに、優秀な研究者を、身元が確認できないという理由だけで路上に戻すほど、オズコープは懐の小さな会社ではない。君の働きに見合った給与も払おう」

 

「給与?」

 

「給与だけの話ではない。住居や必要な書類、銀行口座など、普通に生活するために必要なものがあるだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 気づけば、そう口にしていた。

 

「礼を言うのはまだ早いぞ。君には期待している、その分たくさん働いてもらうからね」

 

「……はい!」

 

 ピーターの表情が明るくなる。

 

「頑張ります」

 

「その意気だ」

 

 そして、ノーマンは採用書類を手に取った。

 

「ところで、正式な身分を整えるにあたって、一つ確認しておきたい」

 

「なんですか?」

 

「君の名前だ」

 

「……名前?」

 

「メイシー・ジェーン」

 

「はい」

 

「これは本名なのか?」

 

 一瞬だけ、メイシーの心臓が跳ねた。

 

 本当の名前はピーター・パーカー。

 だが、女になってしまった自分が男の名前で活動するわけにもいかない。

 

 だから、この名前を使うしかなかった。

 

「……僕が、自分で決めた名前です」

 

 そう答える。

 ノーマンは少しだけメイシーを見つめ、探るような光があったが、すぐに消える。

 

「わかった。なら、オズコープでは君をメイシー・ジェーンとして扱おう」

 

「……はい」

 

「それじゃあ、メイシー・ジェーン研究員」

 

 ノーマンが手を差し出す。

 

「これからよろしく頼むよ」

 

 メイシーはその手を握った。

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」




皆様のおかげで日間ランキング24位にランクインしました
評価バーも赤く染め上げて頂き、感想をすべて目を通させて頂いております
誤字脱字のチェックもちらほら届いており、多くの方に読んで頂けていることが嬉しい限りです

次回投稿は9/26の22時23分となりますのでよろしくお願いします。
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