スパイダーマンの存在しない世界に飛ばされたMCU版ピーター・パーカー ~親愛なる隣人再始動……ただしガールとして~ 作:発火雨
オズコープに採用されてから、数週間。
高校生だった僕の社会人生活は、思っていた以上に順調だった。
もちろん、何もかもが上手くいっているわけじゃない。
ドローンの試作機は作るたびに問題が見つかるし、元の世界へ帰るための次元転移についても、これといった手掛かりはまだない。
ヒーローが誰も居ないからスパイダーガールとしての活動も大忙し。
「メイシー、次の試験は君にも立ち会ってもらう」
「僕が?」
「ああ。今回の試験機は君の設計思想をかなり取り入れている。実際の運用環境で問題がないか、君自身の目で確認してほしい」
「了解です!」
ノーマンさんからそう言われた時、僕は思わず拳を握った。
今回開発しているのは、これまでノーマンさんが開発していたグライダーより一回り小型化されたドローン。
狭い建物内部へ侵入し、搭載したセンサーで内部を自動的にマッピング。
操縦者が直接見えない場所でも地形を把握し、障害物を避けながら目的地まで到達する。
僕がこの世界へ来る前に使っていたスタークさんの技術とは比べるまでもないんだけど、それでも、この世界の技術水準で考えたら結構革命的なんじゃないかな。
オズコープの試験施設には、技術者だけでなく、軍関係者まで集まっている。
その中でも一番偉そうなお年寄りが今回の評価役、スローカム将軍だ。
大口の軍事契約を握る人物で、いままでノーマンさんが商談しても気難しくて食い込めなかったんだってさ。
「これが新しく見せたかった物かね?」
スローカム将軍は、格納庫に置かれた試作機を眺めながら言った。
「随分と小さいな、ついに人を乗せることを諦めたのかね」
ノーマンさんが説明する。
「はい、今までとコンセプトを変え、偵察任務を想定しています。兵士が出動する前に、外部の状況を確認できるように設計しました」
「ふん」
将軍はドローンを眺める。
「なるほど、軍で使うには持て余す高級な玩具から、子供が使うラジコンに質を落としたか」
わぁお、開幕から喧嘩腰だ。
「前回は人間が搭乗して直接操縦することを前提としていました。しかし今回は、危険な場所へ人間を送り込まないことを最優先にしています」
「つまり、兵士に偵察させる代わりにこれを飛ばす、と?」
「正確には、兵士が突入する前にこれを飛ばします」
スローカム将軍は腕を組んで苦虫を嚙み潰したような顔。
その隣では、ストローム博士が試験機の最終セッティング。
僕は今回モニター係だから、そっちは博士にお任せ中さ。
「電源系統、問題ありません」
端末を確認しながら報告する。
「よし」
ノーマンさんが頷く。
「メイシー」
「はい」
呼ばれて、僕は操作盤の前に座る。
「準備OK、いつでもいけます」
モニターには、試験施設の内部構造が表示されていた。
今回の試験では、実際の建物を想定した複雑な区画が用意されている。
複数の通路や階段に加え遮蔽物も盛りだくさん。
普通の人が歩くにはちょっと大変だね。
「では、開始します」
ストローム博士が最終確認を行う。
「ドローン、試作機。起動」
小さなローターが回転して、機体が浮かび上がった。
「飛行モード」
僕が操作すると、ドローンはゆっくりと前進する。
「……本当にこれだけか?」
スローカム将軍が呟く。
「まだ始まったばかりです」
ドローンが通路へ侵入。
壁面のセンサーが周囲を走査していく。
モニター上に、少しずつ三次元マップが形成されていく。
ドローンが角を曲がって、通路に設置された障害物を検知。
機体が一瞬停止する。
そして、障害物の横へ自然に滑っていく。
「ずいぶん静かで、小回りが利くんだな」
将軍さんもちょっと興味持ってくれたかな。
「はい」
そのまま狭い通路へ進入。
「ここから先は人間の侵入が困難という想定です」
ドローンがさらに奥へ進む。
「熱源を検知」
画面に赤いマーカーが表示された。
「ダミーの負傷者という設定で、人間と同じ体温を発するように調整してあります」
「位置を送れるか?」
「もちろん」
僕が操作すると、三次元マップ上に正確な座標が表示される。
「救助隊にこのデータを渡せば、現場に入る前から内部状況を把握できます」
スローカム将軍はいつの間にか黙って画面を見つめ、ドローンがさらに進む。
そして目標地点へ到達。
「よし、ゴール! 手動操作による試験項目、正常終了です」
施設内が静かになる。
数秒後。
「手動操作しなくてもある程度動くと言っていたな、今度は手動介入なしで最後までやらせろ」
「了解です」
僕は操作を解除して、ドローンは完全な自律モードへ移行。
先ほどとは違うルートを選択し、障害物を回避しながら進んでいく。
そして、同じように目標地点へ到達した。
弄ってませんよってアピールのつもりで、手を触れないでヒラヒラ泳がしてたら、御付きの軍人さんが小さくピースして隣の同僚さんに肘鉄を喰らってる。
あっ、もしかして手を振った感じに見えたのかな?
「……前回のグライダーとは、まるで別物だな。これなら兵士を危険に晒さずに偵察できる」
「それだけではありません」
僕が口を挟む。
「災害救助、火災現場、放射線区域。人間の侵入が困難な場所でも使えます」
「武装させることも可能か?」
「技術的には可能です」
「なるほど……使えるな」
その一言で、ノーマンの表情が明らかに緩んだ。
「契約については、前向きに検討しよう」
「ありがとうございます」
将軍が去った後。
試験施設に残ったのは、ノーマンさん、ストローム博士、そして僕だった。
二人ともホクホク顔で、肩の荷が下りたような笑みを浮かべてる。
あれだね、テストが終わって、案外良い線行った時の顔だ。
「想定以上の好感触でしたね。戦闘以外の有用性も証明できれば、民間に払い下げた時の布石にもなりますし、軍のお墨付きがあれば、この分野で他所の介入を易々とはさせません」
「あぁ、マイナス評価が平均値に戻ったどころか、プラスまで好転して大きなチャンスを得たぞ。軍との契約が成立すれば、オズコープの経営状況も大きく飛躍するぞ」
ノーマンさんは興奮気味に語りだす。
わかります、新しい発明が順調だとワクワクするよね。
「グライダーもウィングスーツも廃棄するわけではないが、ドローンで得られる制御技術、素材、推進システムの知見を反映させて、将来的にブラッシュアップする」
こうして、僕の初プレゼンは大成功!
最初の頃こそ、“謎の新人研究員”という扱いだった僕だけど。
今では、すっかり状況が変わっちゃって。
「メイシー、例の解析結果は?」
「今朝まとめました。メールで送ってあります」
「次の試験の日程だけど……」
「明日の午後なら空いてますよ」
社内を歩くだけで、次々と声をかけられる。
スタークさんに認めてもらえた時は本当に嬉しかったけど、まさか高校生じゃなくて社会人として認められることになるなんて思いもしなかった。
「メイシー!」
「はい?」
「今日のランチ、一緒にどう?」
「あー、ごめん。今日は忙しいから研究室で食べる予定なんだ」
「じゃあ明日は?」
「ごめん、また今度ね」
最近、こういう誘いまで増えた。
男女問わず……いや、特に男性から。
スパイダーマンだった時は誰からも声を掛けられたけど、こんなに素顔を褒められることなんてなかった。
なんだろう、物凄くキャリアウーマンっぽくない?
僕、男なんだけどさ。
「……複雑だなぁ」
むしろ評価されるのは嬉しいけど“女の子としての自分”が周囲に受け入れられていることに、戸惑いがありまくり。
スパイダーマンとして正体を隠してるのとは全然別だからね、これは。
そんなことを考えながら研究室へ戻る。
「よし」
扉を閉めて、周囲を確認。
誰もいない。
「今のうちに調整しちゃおう」
机の引き出しから、小さな部品を取り出した。
僕御手製ウェブシューター。
スパイダーガールとして活動するための、必需品さ。
オズコープの設備を使わせてもらってから、何度か調整を重ねて、かなり良い出来に仕上がったと思うんだ。
「ちょっと出力を落とした方が良いかな。体のバランスが変わったから、なんかしっくりこないんだよね」
手首に装着して、内部機構を確認。
「ウェブの予備ももう少し用意しとこうかな」
ウェブシューターそのものは、そこまで大きく変わっていない。
構造も基本設計も、内部に仕込んでいるウェブ液も、以前使っていたものとほぼ同じ。
僕が何度も改良してきた装備だから、そこは自分の知識だけでも十分に再現できた。
問題はスーツの方。
スタークさんから貰ったナノテクスーツは、当然ながらもう手元にない。
あれは僕の世界の技術だから、この世界で同じものを作ろうと思っても簡単にはいかない。
設計思想は理解していても、使われていた素材や製造技術まで完全に再現できるわけじゃないからね。
そもそもの話、身体そのものが変わっちゃってるんだよなぁ
肩幅、腕の長さ、脚の長さ……人のは見ちゃうけど、自分に付いてたら邪魔な胸。
全部違えば身体の重心も当然違う。
スパイダーマンとして活動する以上、ただ着られれば良いわけじゃなくて、激しい動きに耐えられる必要がある。
幸い、今の僕はオズコープの設備が使い放題だから、社内で扱っている高機能繊維を色々試してみた。
軽量素材に耐摩耗素、伸縮性のある人工繊維に防護素材。
スポーツウェアの試作品ってことで、材料も融通してもらったんだ。
以前のスーツとまったく同じものは作れないけど、結構な自信作ができあがった。
赤を基調とした、見慣れた蜘蛛のスーツ、デザインそのもの変わらないけど、胸元の蜘蛛のマークだけは何度か試作するうちにあえて大きくした。
いや、胸元にワンポイントだけマークがあると、逆に目立つんだよ。
だったらいっそのこと、大きくした方がマシだと判断。
そして、会社が休みの日。
「よし、新型スーツの実戦テスト開始!」
試作を重ねた新しいスーツを身にまとい、僕は窓からニューヨークへ飛び出した。
ウェブをビルに引っ掛け、一気に加速。
「おお、軽い!」
身体を捻っても、生地が引っ張られる感覚がない。
壁を駆け上がり、屋上からジャンプ。
「可動域も問題なし!」
空中で一回転して、別のビルへウェブを射出する。
「新型ウェブシューターとの相性もばっちり!」
そのまま街を縦横無尽に飛び回る。
途中でひったくりを捕まえたり、交通事故の現場で人を助けたり、迷子の子供を警察へ送り届けたり。
大事件はなくても、やることはいくらでもある。
「このスーツ、かなり良いじゃん!」
屋上に着地して、僕は満足げに拳を握った。
「……うん。これなら十分戦える」
遠くからサイレンが聞こえる。
「おっと、次の仕事だ!」
僕は再びウェブを射出。
「親愛なる隣人、出動!」
一人の男が、新聞を見ている。
連日ニューヨークを騒がす、親愛なる隣人スパイダーガール。
無論最初こそ彼女の存在に対して賛否が巻き起こったが、今ではおおむね市民たちから信頼を得て、ファンを増やし続けている。
そんな彼女を忌々しくにらみつける。
「まさか女のスパイダーマンが現れるなんて、一体どうなってるんだ! せっかくコロンビア大学で放射線を浴びた蜘蛛だけじゃなく、実験データも全部破棄したのに」
男は机を拳で叩く。
「ようやくヒーローも私以外のヴィランもいない世界にたどり着いたんだぞ!」
手に持った新聞に視線を戻し、市民に手を振る宿敵に嫌悪感を隠さない。
「忌々しい蜘蛛め、次元の壁を越えてまで私の邪魔をするのか! 良いだろう、今度こそ貴様を叩き潰してやる」
新聞紙を放り投げ、いつの間にか手の中に現れたのは盗み出したオズコープの内部資料。
「オズコープを襲うついでだ。この世界のスパイダーマンのお手並み拝見といこうじゃないか」
今回の作品から試験的に登場人物のセリフとセリフの間にも改行を加え、余白を作るようにしたのですが、これって読みやすくなってるんですかね?
次回投稿は9/27の22時23分となりますのでよろしくお願いします。