スパイダーマンの存在しない世界に飛ばされたMCU版ピーター・パーカー ~親愛なる隣人再始動……ただしガールとして~ 作:発火雨
この世界に来てからの生活は、思っていたよりずっと忙しい。
昼間は研究員としてオズコープの研究室に籠もり、空いた時間にはこの世界について調べる。
篭りって言っても僕一人で勤務してるし、こっそり空いた時間はヒーロー活動してるけどね。
フィールドワークですって言えば、結構なんとかなっちゃう。
その分しっかり結果を残してるから、お咎めとかは今の所ないかな。
スパイダーガールとしてニューヨークを飛び回る。
最初は女の子の体で戦うことに戸惑ったけど、スパイダーセンスも超人的な身体能力も健在だし、ウェブシューターやスーツだって、オズコープの設備でばっちりさ!
今ではもう、かなり板についている。
街の人たちからも、少しずつ“スパイダーガール”の名前が知られるようになってきて。
この前なんかデイリー・ビューグルのエディ・ブロックってカメラマンが写真集を自分に撮らせてくれないかって頼み込んできた。
いや、あちこちの現場に突撃するガッツは認めるけど、どうも撮りたい写真って言うのがモデルみたいな奴らしい。
僕はあくまで親愛なる隣人なわけだから毎回お断りしてるよ。
僕の胸とかお尻の写真撮るのは辞めて欲しいけど、どんなに上手に撮っても全部編集長に却下されてるらしい。
ありがとう、名前も知らない編集長さん!
問題は、元の世界へ戻る方法だ。
そのために、この世界に魔法や異次元に関する研究がないかも調べている。
図書館の資料から大学の論文、オカルト系の文献まで一通り目を通した。
残念ながら今のところ、成果はゼロ。
「……こっちは完全に行き止まりか」
だから最近は、科学方面からのアプローチを試そうかとしてるけど、中々難しい。
「メイシー、ちょっと良いかな?」
研究室のドアがノックされ、ノーマンさんの声が聞こえてくる。
「大丈夫ですよ」
ちょくちょく研究室にも顔を出すノーマンさん。
進捗を見に来ることもだけど、どちらかというと毎回新しいアイデアを持ち込んでくることの方が多い。
秘書の人が一緒の時も多いけど、今日はその隣には、知らない人が立ってる。
「紹介しよう。息子のハリー・オズボーンだ」
「息子さん? 初めまして。メイシー・ジェーンです、あんまりそっちは呼ばれ慣れてないから、気軽にMJって呼んで」
僕と同じくらいの歳かな?
もちろん今の詐称してる年齢じゃなくて、ピーター・パーカーの実年齢の方ね。
僕の顔を見るなり少し目を丸くして、じっと見つめてくる。
「……驚いたな、話には聞いてたけどこんな綺麗な子だったなんて」
「あぁ……ありがとう」
こういう反応にも、最近は少し慣れたけど、顔が引きつってないか心配。
以前の僕なら、こんなこと言われる側じゃなかったし。
勿論言う側でもなかったよ……はずかしいじゃん。
「今日はどうしたんですか?」
僕が聞くと、ノーマンさんはハリーを見る。
「少し気分転換になればと思ってね」
詳しく聞くと、最近ハリーは学校生活があまり上手くいっていないらしい。
友人関係もあまり良くなく、ノーマンさんはそれを心配している。
ただ、無理に聞き出したり、説教したりするつもりはないようだった。
「研究室なんて、気分転換になるんですか?」
「少なくとも、私の会社の中では静かな場所だ。それにハイスクールとは違った刺激に満ち溢れているから、授業とは違って良いだろう」
「それ、気分転換の基準としてどうなんですかね」
僕が笑うと、ノーマンさんも少し笑った。
ハリーも小さく笑っている。
少なくとも、さっきよりは緊張していないようだ。
ハリーは研究室の中を見回し、それから僕の机へ近づいた。
机の上には、ドローンの設計図や計算式を書き込んだ資料が広げてある。
「これ、何を研究してるの?」
「ああ、これ?」
僕は資料を手に取る。
「小型無人機の自律制御」
「自律制御?」
「簡単に言えば、人間がずっと操作しなくても、自分で周囲を判断して飛べるドローンの設計図なんだ」
「自分で動かさないでも勝手に飛べるの?」
興味を持ってくれたらしい。
「まず慣性計測装置から得られる角速度と加速度をカルマンフィルタに通して、姿勢推定を……」
あっ、やばい。
話し始めたけど、全然興味なさそう。
「ごめん。ちょっと専門的すぎた」
すると横からノーマンさんが説明を引き継いでくれた。
「要するに、ドローン自身に自分の位置や姿勢を判断させるということだ」
「ああ、それなら分かる」
そこからはノーマンさんが説明してくれた。
僕も横から補足するけど、ノーマンさんの方が説明もわかりやすいみたい。
専門的な内容を、ちゃんと相手が理解できるところまで落とし込んでいる。
さすがだね。
でも、説明しているうちに問題点が出てくる。
「ただ、そうすると通信遅延が……」
「そこは予測制御を使えば良い」
「でも、それだと予測誤差が大きすぎて」
「なら補正をもう少しかけてみたらどうだ?」
しばらく喋り続けて……そこでカカシになってるハリーの存在を思い出した。
「あっ、ごめん。退屈だった?」
「……別に、構わないよ」
そう言って笑う。
でも、その笑顔は少しぎこちなかった。
「父さん、そろそろ帰るよ」
「もうか?」
「うん。予定があるから」
僕は時計を見る。
まだ帰るには少し早い気がした。
でも、予定があるなら仕方ない。
「じゃあ、また今度、いつでも遊びに来てよ」
「あぁ」
ハリーはそう言って、研究室を出ていった。
ドアが閉まって、僕はしばらくその方向を見ていた。
「最近、ハリーとは少し関係が難しくてね」
「学校のことですか?」
「それもあるが……息子と何を話せば良いのかとなると……どうにも難しい。オズコープ社長の息子という肩書で、苦労を掛けてしまっているようでね。我儘でも言ってくれたら良いんだが、私に迷惑をかけないように我慢してるようなんだ」
ノーマンさんは少し寂しそうに笑うと、突然爆発音が響いた。
研究室の窓ガラスが震え、天井から細かな埃が落ちてくる。
「……今の、かなり近かったですよね? 爆発するような実験って予定に有りましたっけ?」
廊下に出ると明らかに軍事目的と思われる装備をしたドローンが、四枚のローターで空中に浮かびながら廊下を駆け巡って移動している。
「ノーマンさん! あんな試作機作りましたっけ!?」
「違う、うちではまだ武装を取り入れたタイプは作ってない!」
同じタイプのドローンが何機も飛び交い、逃げる人間を追い回すように銃口を向けていた。
警報が鳴って、誰かが叫び続けてる。
状況を理解するのに十分な情報だった。
オズコープが何者かに攻撃されている。
「メイシー、君はここに残りなさい。すぐに警備部が来るはずだ」
「でも」
「私はハリーを探してくる」
その名前を聞いた瞬間、僕も何も言えなくなった。
ノーマンさんは迷うことなく廊下へ走っていく。
僕は頷いて足音が遠ざかるのを確認して、大急ぎでスーツとマスクを着用、ウェブシューターを手首に固定する。
数秒前まで研究員だった少女は、もうそこにはいない。
「よし」
窓を開ける。
「スパイダーガール、緊急出勤!」
最初に向かったのは、さっきドローンが向かった廊下。
こういう場所では、ドローンの大きさが逆に弱点になる。
狭い通路では旋回するための空間がないし、速度を出せば出すほど壁にぶつかる危険が増える。
僕は壁を走りながら、逃げている社員たちの前へ回り込んだ。
「皆さん、避難はこちら! ドローンとは逆方向に!」
「誰!?」
「説明は後で!」
その瞬間、頭の奥が警告を発する。
振り返れば、ドローンが廊下の向こうから迫ってきていた。
「伏せて!」
発射したウェブが機体の絡みつき、軌道が強引に変わって壁へ押し付けられた。
すかさず連続シュート!
「はい、壁ドン」
動かなくなった機体を確認して、僕は小さく頷く。
「まずは一機、ドローン退治は嫌って程やったからね」
そして、その廊下の向こう側から大量の飛行音が聞こえてくる。
「……嫌な予感しかしない」
走り抜けた先は、会社自慢の広大な吹き抜けエントランス。
そして、その空間を埋め尽くすように無数のドローンが飛び交っていた。
「……うそでしょ」
数十機はいるよこれ!
さっきの廊下と違って、こっちがドローンの本領発揮場所だ。
あれ……僕を認識したのか、次々と機体がこちらを向いた。
「やぁこんにちは、オズコープに売り込みだったらアポは取ってる?」
銃口が一斉に動く。
「……取ってないみたいだね、知ってた!」
床を蹴って手すりを飛び越え、そのまま吹き抜けへ身を投げる。
ウェブを天井に張り付け、振り子みたいに大きくスウィング。
ちょっと、銃撃が腕を横切ったんだけど!
当たってないけど熱いよこれ!
「わああっ! 今のはちょっと近い! ハチの巣は勘弁」
ドローンの群れの間をすり抜けながら。ついでにいくつかにウェブを発射。
二機が進路を譲り合うことなく接触する。
そのまま片方がバランスを崩し、もう一機を巻き込みながら落下していった。
「よし、まず二機!」
さらに別方向から飛んできたドローンが、その糸の間を通過しようとして引っ掛かった。
もしかして蜘蛛の糸を認識できてない?
「良いアイデア思いついたかも」
ウェブを撃つたびに、自分の移動経路とドローンの飛行経路を少しずつ繋いでいく。
数本、十数本と増えていくにつれて、空中に白い線が増えていく。
ドローンがその間を飛び抜けようとしたら、別の糸に引っ掛かる。
その動きで、さらに別の糸を巻き込み、それを避けようとした別のドローンが、今度は別の糸へ突っ込んでくる。
「そうそう、その調子!」
僕は空中で一回転しながら巨大な蜘蛛の巣を作り出す。
「意外と芸術点高いな、これ」
そして最後に残ってる、何機ものドローンが僕を狙い続けていた。
今度は一斉に向かってくる。
「おっと、全員参加? 歓迎しちゃうよ」
僕は一気に上昇し、ドローンたちも追ってくる。
そして、次々と白い糸に絡みついた。
ホールを一周するたびに、白い線が一本ずつ増えていく。
気が付けば空中に複雑な網目が広がっていた。
「君、結構頑張るね」
最後の一機をウェブで捕まえて、蜘蛛の巣目掛けてハンマー投げの要領でシュート!
ドローンが空中に張り巡らされた糸の中心へ吸い込まれていく。
「……完成」
どの機体も糸が絡み合って、もう自由に飛べるものは一機もいない。
「我ながら、蜘蛛っぽい」
戦いながら思いついた即興だったけど、結果的にはかなり上手くいったんじゃない?
ドローンも停止して、ようやく少しだけ静かになった。
「皆さん! 動きは止めたけど、また何かしてくるかもしれないから、慌てないで避難してください!」
僕が一息つきながら避難勧告をしてると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「ハリー、離れるな」
「分かってるよ、父さん」
ノーマンさん?
僕は吹き抜けの手すりから下を覗き込んだ。
やっぱりそうだ。
ノーマンさんが武装した警備員を伴ってこちらへ向かってきている。
その隣には、さっき別れたばかりのハリーもいる。
どうやら無事だったらしい。
よかった。
ノーマンさんが僕の姿を見上げて、一瞬だけ目を見開いた。
「……君が、スパイダーガールか」
「あ、はい」
そういえば、この姿で直接会うのはこれが初めてだった。
ニュースで名前くらいは知っているだろうけどね。
まさか研究室にいた人間と、目の前のスパイダーガールが同一人物だなんて普通は思わないだろうな。
僕は手すりから軽く飛び降り、蜘蛛の巣に引っ掛かったドローンを見るノーマンさんの前に着地。
「これは……君が一人で?」
「ちょっと数が多かったので、まとめて動けなくしてみました。あぁ、後片付けは慎重にね、他にどんな武器を持ってるかわからないから」
「見事だ」
ノーマンさんの視線が、ウェブとドローンを追っていく。
「他に負傷者は?」
「何人か転んだりはしてますけど、大きな怪我をした人はいないと思います。逃げ遅れていた人も何人かいたので、安全なところまで誘導しました」
「社員たちを守ってくれてありがとう、君も怪我してるじゃないか! 過ぎに医療スタッフも来るから、治療してくれ」
あれ、今気づいたら掠れてた腕の所から血が出ちゃってる。
心配してくれるのはありがたいけど、あんまり話してるとボロがでちゃいそうだし、このマスクも脱げないからね。
「大丈夫、僕ってとっても身軽で丈夫なんで、他にドローンが残ってないか見てきますね」
「待ちなさい。それだったら警備の人間と一緒に」
「一人作業が得意なんで任せてください、それじゃ!」
突如として謎のドローンに襲われたオズコープ社。
逃げた先で合流したノーマンとハリーは、武装した警備部門を引き連れて、騒動の中心地まで来たが、すでにスパイダーガールの活躍でドローンたちは機能停止にさせられていた。
颯爽と去るスパイダーガールの姿を見送っていたハリー。
ノーマンも同じように、しばらく通路の先を見つめ、腕を組みながら科学者らしく考え込んでいる。
「なんて身体能力だ……あの薄いスーツなら外部からの補助も最低限だろうし、素であれほどの力を持っている……まさか、身体能力増加薬の欠点を克服した物を誰かが開発していたのか?」
「身体能力増強薬?」
「あぁ、すまん。ちょっと彼女のことを考えてしまってね」
ノーマンの声には、驚きと純粋な科学的興味が混じっていた。
蜘蛛の巣へ近づき、絡み合ったドローンを見上げる。
「興味深い人物だな、彼女なら私の作ったグライダーや武装も使いこなせるかもしれん」
その言葉を聞きながら、ハリーは黙っていた。
自分の父がこんな風に誰かを評価するのを聞くのは、久しぶりだった。
ハリーの頭に、先ほど研究室で見た光景が蘇る。
父と対等に科学の話をしていたメイシー。
自分には理解できなかった言葉を、当たり前のように口にしていた。
そして今。
父は得体のしれないスパイダーガールを絶賛している。
「……父さん」
「なんだ?」
「いや、なんでもない」
ハリーは一度言葉を止め、そんなことを考えても無駄だと頭を振る。
そんな一連の動きを、一台のドローンが蜘蛛の巣に固定されながらじっと見つめていた。
お読みいただきありがとうございます。
実は当初親愛なる隣人杯の日程は一週間の予定であり、それに合わせて一週間連続更新を予定しておりました。
当初の予定通り一週間連続更新で一区切りとし、次回開催までしばしお休みを頂きたく思います
次回投稿は10/7(水曜日)の22時23分となりますのでよろしくお願いします。