Re.東方海神録   作:ゆっくり杠葉

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ゆっくりしていってね‼︎


第二話《博麗の巫女》

 塰霧叶恵がルーミアに襲われ、博麗の巫女に救われて3日……

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 叶恵は畳の上に敷かれた布団に寝かされ、

 静かな寝息だけが部屋に響いている。

 

「はぁ〜……今日も疲れたわ〜……」

 

 大きく伸びながら部屋に入ってきた、紅白の巫女装束を着た人間。

 

「なんだ、まだ起きてないのね。さっさと起きなさいよ……!」

 

 ちらりと寝ている叶恵の方へと視線を向け、悪態をつく。

 

「……肩抉られてたし、熱も酷かったけど、死んでないだけ感謝しなさいよね? 私が! やってあげた手当てとあなたの回復力に!」

 

 返事はない。

 

 外では虫が鳴いている。

 

 神社特有の、静かで、どこか空虚な空気だ。

 

「……まったく。こんだけやってあげたんだから……

 起きたら色々聞かせてもらいたいものだわ。

 ま、喋らなくても軽く脅せば吐くでしょ……」

 

 湯呑みにお茶を注ぐ。

 

「でもまぁ、今はそんなのいいか。目が覚めたら聞けばいいし」

 

 湯気がゆらりと立ち上り、消えてゆく。

 

 その時。

 

「……ん……ぅ……」

 

 布団をかぶっている叶恵の身体がわずかに動く。

 

「……知らない、天井だ……」

 

 ゆっくりと目を開け、

 視界に入ったのは見知らぬ天井。

 

「……ここ、どこ?」

 

 そう言葉を漏らすと、

 

「神社よ」

 

「うひゃ?!」

 

 いきなりの声に驚き、布団を蹴っ飛ばして上体を起こす。

 

「いっ……!」

 

 肩の痛みに顔を歪める。

 

「あら、随分とうるさいお目覚めね。おはよう」

 

「え……あ……お、おはようございます……?」

 

 とりあえず朝の挨拶をされたので、叶恵は挨拶で返す。

 

「もし痛みを和らげたいんなら無理に動かない方がいいわ。

 治ったとはいえ、肩の肉抉れてたんだから」

 

「肩……あ! 私……生きて……」

 

 ルーミアと会った時のことを思い出す。

 

 暗闇。牙。血。

 

 確かにあの時、自分は死にかけた。

 

「……っ」

 

 思い出しただけでも体が小さく震える。

 

「はい、お茶」

 

 湯呑みを差し出す。

 

「……あ……ありがとうございます……」

 

 少しだけ暖かい湯呑みを両手で受け取る。

 

 少しだけ暖かい。

 それだけで、張り詰めていたものが緩んだ気がした。

 

「で……」

 

 そして、巫女装束を着た少女が口を開く。

 

「あなた、どこから来たの?」

 

「……街からだよ」

 

「ふぅん……人里じゃないんだ」

 

「人里?」

 

 思わずオウム返しをしてしまう。

 

「人里を知らない、か。あなた、妖怪じゃないでしょうね?」

 

「ち、違うよ!」

 

「あなた、自分が普通じゃないってことわかってるの? 

 まぁ、たしかに……妖怪ってのは冗談よ。妖怪じゃないってのはわかるわ。何やら人でもなさそうだけど」

 

『人ではない』

 

 信じられないことを聞いた。

 

「私が……人じゃない? 嘘です……っ! 

 私は人として……ずっと育てられてきたんですよ?! 確かにっ! 

 身分上というか、職業柄的には普通じゃないかもしれないですけどっ!」

 

 思わず大声で怒鳴ってしまう。

 それくらい意味のわからない言動だったからだ。

 

「……まあまあ、落ち着きなさい。ぶっ飛ばすわよ?」

 

 対する少女は声色を変えずに淡々とぶっ飛ばすと脅してきた

 

「怖っ……!?」

 

「……うるさい。あなた、もしかして結界の外から来た?」

 

「結界……? ……すみません。私、そっち系には精通してないので。そういう話は呪術師や魔導士の方々に話してください!」

 

「結界の外から来たにしては随分と、うーん……なんて言えばいいのかしら。まあいいわ、いかにもそういう存在が実在してて自分は知ってますって聞こえるわね?」

 

「あ゛っ!?」

 

 叶恵は思わずしまったと言いたくなった。

 

 剣士協会と関わりのない人にその話をしてしまった。兄も抜けているが自分も相当だと思い知らされ、心が沈んでしまう。

 

「……幻想郷。聞いたことないでしょ?」

 

 理解が追いつかない。なんだそれと叫びたくなる。なんなら笑えてくる状況を前に、逆に冷静になる。

 

「……ない」

 

「でしょ?」

 

 お茶を啜る。

 

「簡単に説明すると、人里以外は人間が普通に暮らせる場所じゃないわね」

 

 その言葉に、またルーミアのことを思い出す。

 

「……あの、ルーミアって子……」

 

「ん?」

 

「人を……食べるって……」

 

「ん、普通に食べるわよ」

 

 なんの動揺も無くそんなことを即答した。

 

「さっきのはまだマシな方よ。人間だけ食べるわけじゃ無いもの」

 

 そんなさらっと言うが、叶恵は自身が喰われかけてるので信じられない。

 

「……マシ……? あれが?」

 

「だから言ったでしょ。ここはそういう場所」

 

 叶恵は黙って湯呑みを握りしめる。

 

「……私、帰れるの……?」

 

「さあね? 帰りたいならスキマ妖怪を見つけて話でもつけてみればいいわ。ま、あの胡散臭い妖怪は神出鬼没、いつ出てくるかなんて私にもわからない」

 

 思った通り、状況は絶望的。外からの救助も、巫女姿の少女が言った結界とやらのせいで見込めないだろう。

 

 笑いが込み上げてくる前に、叶炊の顔が浮かんだ。

 

「……兄さん……」

 

 小さく呟いた独り言程度だと思ったが、少女には聞こえていたようだ。

 

「兄でもいるの?」

 

「……双子の兄が……いるの……」

 

「ふーん……」

 

 興味なさそうに聞き流しつつ、目がほんの少しだけ遠くを見た。

 

「とりあえず、あなたが普通じゃないって理由……教えてあげるわ」

 

「え?」

 

「傷の治りなんて異常に早いし……それに。

 あなたからは神格の気配を感じるわ」

 

 頭の中がいっぱいいっぱいで言葉が出ない。

 

「……それと、目を閉じて」

 

「え……は、はい」

 

 言われた通り目を閉じる。

 言うことを聞かなかったら何をされるかわからない

 

「なんで……そんなものの気配がわかるの?」

 

「私は博麗の巫女よ? 舐めないでちょうだい」

 

 そう言いながら、少女の手が自分の頭に乗せられる。

 

 その瞬間、空気が震え、自分の体の奥から力がみなぎってきた。

 

 叶恵の体の周りに微かに光が滲み、身体中に広がる。

 

「これ……は……?」

 

「日の気質を持つ神力。だから、あなた……現人神よ」

 

 理解ができない。あの現人神? 私が? 

 

「神の力持った人間。珍しいけど、いないわけじゃないわ」

 

「……私が……?」

 

「そ」

 

 重大なことを随分とあっさり暴露してくれた巫女に困惑が隠せない。

 

「で、行くあては?」

 

「……ない……です」

 

 困惑で90度上に向いた顔が今度は180度下に俯く。

 

「じゃあ決まりね」

 

「……え?」

 

「うちに居なさいよ」

 

「……えぇ!?」

 

 突然のあなたの居場所はここよと宣言されても困惑するしかない。

 

「勘違いしないことね。別にあなたのためじゃないわ。現人神でしょ? ちょうどいいわ」

 

「ちょうどいいって……」

 

「うちの神社、信仰足りてないのよね。そのせいでお賽銭箱には何も入ってないし」

 

 本人はあっけらかんと言うが、賽銭箱に何も入ってないのは神社としてやばいんじゃないかと叶恵は思った。

 

「あなたがいれば多少マシになるでしょ」

 

「そ、そんな理由で……!?」

 

 叶恵は布団から出て立ち上がる。

 

「なによ、いいじゃない! 衣食住あるし」

 

 少しだけ間を置いて……

 

「……どうせ、外来人なんて一人じゃ死ぬわよ」

 

 その声はどこか哀しさ。否、空虚さを感じた。

 

「……」

 

 ルーミアを思い出してしまったら言い返せない。叶恵は少し俯く。

 

 それに、巫女のその表情に揺さぶられてしまった。

 

「……お世話に……なります……」

 

「ん」

 

 巫女は満足そうに頷いた。

 

「で……いつまでそんな格好でいるつもり? 私しかいないからいいけど」

 

「え……?」

 

 叶恵は改めて自分の姿を振り返る。

 

 なんと叶恵は下着だけのとんでもない姿をしていた。

 

 思考停止の末……

 

「ひゃぅっ……!?」

 

 慌てて布団を引っ張り自分の体を隠し、しゃがみ込む。

 

「あ、服ボロボロだったからもう捨てちゃったけど」

 

「えぇ?!」

 

「え?」

 

「あれ……学校の制服……」

 

「がっこう……? 何それ」

 

「え、えっと……みんなで勉強する場所で……あ、あと……剣の修行……とか……! えぇっと……」

 

 なんとか説明しようとするが暑くて呂律が回らない。

 

「寺子屋とか道場みたいなものね。へぇ〜外の世界ってすごいのね」

 

 巫女は感嘆する。興味があるのかないのかよくわからないが。

 

「うん……!」

 

「まあどっちにしろ、あんなボロボロじゃ着れないでしょ」

 

 なんて巫女だ。

 

 勝手に人の私物を捨てたのだ。

 

「わ、わた、私のカバン!! あるでしょ!? 持ってきてよぉ! もう!」

 

「……あ、鞄の中の服だけど……」

 

「何!? それも捨てちゃったのぉっ?!」

 

「いや、流石に使えそうなものは捨てないわよ……勿体無い」

 

「じゃあどこぉ〜!?」

 

「落ち着きなさいよ。ぶっ飛ばすわよ?」

 

「だから怖いっ!!」

 

「ってことで、はいこれ」

 

 差し出されたのは綺麗に畳まれた赤が基調で白の装飾が綺麗な衣装だった。

 

「これ……は?」

 

「この3日間で私の知り合いが作り直したのよ」

 

「知り合い……?」

 

「あなたの荷物に入ってた服を基礎に作り直した巫女服よ」

 

 なんて巫女だ。

 

 今度は人の私物を勝手に改造したのだ。

 

「それで……この服……私の隊服……」

 

「巫女服っぽいでしょ」

 

「っぽいっていうか……完全に巫女服じゃん……」

 

 赤と黒の、見慣れないけどどこか神聖な服。

 

「……着るの?」

 

「他に何着るのよ」

 

 ど正論を言われて弱気になる。

 

「う……」

 

 少し迷ってから……

 

「……着てみる」

 

 覚悟を決めてから数分後。

 

「……どう?」

 

 少し恥ずかしそうに襖を開けて出てくる。

 

「ん」

 

 一瞬だけ視線を向けて、

 

「似合ってるじゃない」

 

「ほんと?」

 

「まあ、嘘はつかないわね」

 

 巫女は満足したようで立ち上がる。

 

「じゃあまずは──」

 

 くるっと背を向ける。

 

「境内の掃除からね!」

 

 突然仕事お願いしますと言われ、またもや困惑する。

 

「えっ!?」

 

「働かざる者食うべからず」

 

「さっきまで死にかけてたんですけど?!」

 

「その調子だと大丈夫そうね」

 

「うぅ……!」

 

「ほら、さっさと来なさい」

 

「ま、待ってください〜!」

 

「あ、今から敬語禁止ね」

 

「へ?!」

 

 少女の声が境内に響いた。

 

「ま、まって!!」

 

 叶恵は巫女を呼び止める。

 

「何よ。まだなんか文句が……」

 

 巫女は面倒くさそうにこっちに振り返る。

 

「私は……っ!! 塰霧叶恵!! 

 あなたの名前……!! 教えてよ!!」

 

 巫女は一瞬驚いた顔をし、叶恵に初めて笑顔を見せる。

 

「……私は博麗霊夢。

 この楽園の素敵な巫女よ! 覚えておきなさい!」

 

「……! うんっ!! よろしくね、霊夢!」

 

 博麗神社に、新しい住人が増えた。

 それが、どんな運命を呼ぶかも知らずに。

 




博麗霊夢の登場です!
時系列的には蓬莱人形及び吸血鬼異変の後ですね。
蓬莱人形と吸血鬼異変ってどっちが前なんでしょうね
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