Re.東方海神録   作:ゆっくり杠葉

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ゆっくりしていってね‼︎


第三話《巫女の修行》

 境内を涼しい風が通る。

 やけに静かで広い。

 

「……ここが……博麗神社……」

 

「そうよ」

 

 霊夢は振り返る。

 

「じゃあさっき言ったけど、まずは掃除ね」

 

 ニコッと笑い、箒を肩に担ぐ。

 

「やっぱりそれ!?」

 

「当然でしょ」

 

 無理矢理箒を渡される。

 

「うぅ……」

 

 叶恵はしぶしぶ箒で境内の落ち葉を掃き始める。

 

 サッ……サッ……

 

「広い……」

 

 思ったよりもずっと広い。

 

「これ一人でやってたの……?」

 

「そうよ」

 

 縁側でお茶を飲みながら答える。

 

 だが、掃除していたとは思えないほど落ち葉が散乱している石畳。

 本当に掃除してたのだろうか? 

 

「霊夢、サボってたでしょ絶対」

 

「バレた?」

 

「バレるよ!」

 

 思わずツッコミを入れてしまった。

 

 そして、一通り落ち葉を集め終えたその時……

 

 ヒュンッ……! 

 

 小さい何かが向かってくるのが視界に入る。

 

「っ……!?」

 

 体が勝手に一歩ずれて、間一髪で回避できた。

 

 飛んできた何かの正体は小石だった。

 

「え……っ!? い、石……!?」

 

「へえ、やっぱそれ、無意識でやってるのね」

 

 霊夢は投げたままのフォームを維持していた。

 

「ちょ、ちょっと霊夢ぅ……! い、今の……!」

 

「まあ、落ち着きなさいよ。今のはあなたの能力よ」

 

「……能力……」

 

「ルーミアの時も避けてたでしょ」

 

「……」

 

 確かに、考えるより先に体が動き、

 それによって致命傷を免れ、今も生きている。

 

「ざっと、視認した攻撃を避ける……ってところかしらね」

 

「……オート回避……ってこと?」

 

「まあ、そんなとこね。ただし──」

 

 霊夢がもう一つ石を投げる。

 しかも今度は死角から。

 

 なんて巫女だ。

 

 ゴンッ! 

 

「いたっ!?」

 

 小石が後頭部に直撃し、叶恵はその痛みに悶絶する。

 

「こういうのは無理みたいね」

 

 一人で勝手に納得したように頷いている。

 

「すっごい痛いんですけど!?」

 

「見えてないでしょ」

 

「うぅ……!」

 

 そういうことじゃない。と叶恵は思った。

 

「まあでも」

 

 霊夢は少しだけ微笑み、

 

「使いようによっては厄介ね。多分ここからも成長しそうな能力だし……

 弱点の克服もできる可能性はあるわ」

 

 慰めているのだろうか。

 叶恵は少し嬉しくなる。

 

 そして、自分の手を見て呟く。

 

「私……こんなところで戦えるのかな……」

 

 霊夢は少しの間黙っていたが、

 

「戦う気あるの?」

 

 叶恵は迷う。

 

 またルーミアみたいな相手と戦わなくてはならないのだろうか? 

 もし再戦を果たしたとして、自分は勝てるのだろうか。

 

 だが、生き残るためだけに霊夢に頼るわけにはいかない。

 

 自分で、自分の力で生き残れる術を身につけて……いつか兄に会う。

 

 もう、迷いはない。

 

「……ある」

 

「……そう、理由は聞いておいた方がいい?」

 

「兄さんに……生きて会うために」

 

 その言葉は力強かった。

 

「この美しく残酷な世界で……生き残る術を身につけたいの。お願い霊夢。私を、博麗神社の現人神にして!」

 

 風が二人の間を通り抜ける。

 木々の葉が揺れ、ざわざわと音を立てる。

 

「……そう、じゃあ決まりね。徹底的にしごいてあげる」

 

 霊夢は立ち上がり、スカートを整える。

 

「ほんと!?」

 

「ただし!」

 

 霊夢はニヤリと笑って言う。

 

「掃除とか家事はやってもらうわね」

 

「結局それ!?」

 

 笑い声と風の音が、境内に混ざる。

 

「でも……巫女さんの戦い方は分かんないよ?」

 

 結局、巫女のイメージの中に「戦う」なんてものは皆無である。

 

「とりあえず、今はあなたの戦い方を教えてちょうだい。見た感じ剣士だけど」

 

 叶恵は縁側に置いてあった自分の刀を手に取り、振るって見せる。

 

 ヒュンッ、と空を切る高い音が響く。

 

「うん、そうだよ。刀でなら戦える」

 

 霊夢は感心したように呟く。

 

「ふぅん……外の世界にもまだそういうのあるのね」

 

「まあね。私みたいな人の場合だけど……ね?」

 

「こっちじゃ、人里の物好きが飾りで刀持ってるくらいよ。

妖怪退治に参加する人間の数なんて指で数えられるくらいしかいないもの。」

 

「でも……」

 

 叶恵は構える。

 

 足の位置、重心、視線。

 どれも自然に整う。

 

 いつも、血反吐を吐くような努力をしてきた。

 兄を一人にしないために。

 

 ルーミアとの戦闘ではパニックになり、

 あの様だったが、これでも刀の達人だ。

 

「私は……これしか知らないから」

 

「あっそ……じゃあ試してみなさいよ」

 

「え?」

 

 叶恵は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

「え? じゃないわよ。実戦するの」

 

 実戦? 今、実戦と言ったか? この巫女は。

 

「えぇ!?」

 

「安心しなさい。いきなり妖怪とやらせるほど鬼じゃないわ」

 

 霊夢が指をひらひらさせる。

 

 その瞬間、チラチラと光が現れる。

 

 小さな羽音を立てている、弱い妖精だ。

 

「あら、ちょうどいいところに。ほら、あれ相手にしてみなさい」

 

「た、倒しちゃうかも……」

 

「大丈夫よ。あいつら死なないから」

 

「死なないってどういうこと!?」

 

 妖精はこちらに気づき、笑いながら攻撃を仕掛けてくる。

 

 光の弾が次々と飛んでくる。

 

 叶恵は一瞬だけ身構えたが、すぐに力を抜いた。

 そして、自分の体に身を委ねるようにして弾幕を回避する。

 

「……これが、能力……」

 

 弾幕の間をすり抜けるように、叶恵の身体が自然と動いていく。

 

 余裕すら感じた、その時。

 

 妖精が放つ弾幕の密度が上がる。

 

「ちょ、ちょっと多いよ!」

 

 なんとか回避をし続けるが、死角から弾幕が迫る。

 

「……っ!」

 

 叶恵は間一髪でそれを視界に入れ、身体を捻った。

 

 弾が頬のすぐ横を通り過ぎる。

 

「やられっぱなしで……いられるかぁ!」

 

 叶恵は妖精に向かって駆ける。

 

 弾幕を避けながら距離を詰めていく。

 

 そして……

 

 間合いに入った! 

 

(集中……!)

 

 ザァァァァ……!! 

 

 波のような音が境内に響く。

 

 どこか優しく、柔らかい。

 ずっと聴いていると心が静まりそうだ。

 

(この音は……呼吸の音?)

 

 霊夢は首を傾げるが、観察を続ける。

 

 叶恵は刀を逆手持ちし、身体を捻る。

 

 霊夢には、叶恵の刀が水を纏っていたように見えた。

 

「海原流刀術……二式【海波斬】ッ!!」

 

 神速の逆手斬りが妖精を襲った! 

 

 妖精は避けきれず、斬撃が直撃する。

 

「きゃっ……!」

 

 妖精はその場に倒れ、霧のように消えてゆく。

 

「えっ!? し、し、しし……死んじゃった!? れ、霊夢ぅっ!?」

 

「慌てないの。言ったでしょ? そいつら死なないから。

 死んでも一回休み、どうせすぐに湧いてくるわ」

 

 一回休み。

 

 幻想郷には何度も驚かされる。

 なんなのだここは、常識が通用しないのか。

 

「な、なんか罪悪感……」

 

「はぁ……まったく、そんなザマじゃやってけないわよ?

  とりあえず、あなたの戦い方、だいたい分かったわ」

 

 霊夢は呆れた顔から、すぐに真剣な顔になる。

 

「え?」

 

「まず、巫女向きのものじゃないわね」

 

「えぇ!?」

 

 せっかく巫女の修行を受けようとしていたのに。

 

「少なくとも、私とは違うってこと」

 

 腕を組み、叶恵に視線を向ける。

 

「私は遠距離で叩くタイプ。でもあなたは、近づいて……仕留める!」

 

「……」

 

 その通りだった。

 

 霊夢と何度か会話していて分かった。

 彼女の言動は適当だが、的を射ていることがほとんどだ。

 

「筋金入りの剣士ね」

 

「……うん……」

 

『《《筋金入りの剣士》」』

 

 その言葉が、すとんと落ちる。

 まあ、当然といえば当然だろう。

 

「まあ、巫女もやってもらうけど」

 

「両立なの!?」

 

「当たり前でしょ!」

 

 鬼畜で大変なことをさらっと言う。

 

 なんて巫女だ。

 

「現人神で剣士なんて、むしろ珍しくて面白いわ」

 

「面白いって……」

 

「いいじゃない。個性よ」

 

 少しだけ笑い、また真剣な顔になり口を開く。

 

「ほらほら、次はあなたの技を一通り見せてみなさい!」

 

「急だなぁ……いいの? 12個以上型があるけど……」

 

「だからいいって。早くやって」

 

 霊夢から催促がかかり、叶恵はしぶしぶ刀を構える。

 

「あ、一応離れておいてくれる? 危ないから」

 

「ん」

 

 霊夢は神社の縁側に腰掛ける。

 

 それと同時に、叶恵は目を閉じる。

 

「よし……」

 

 叶恵が目を開いた次の瞬間、目つきが変わる。

 

(集中……!)

 

 ザァァァァ……!! 

 

 波の音のような呼吸音が、また聞こえ始める。

 

「海原流刀術……一式【海鳴閃】!」

 

 見事な横一文字斬り。

 

 空を斬る音から、かなりの威力があることが察せる。

 

 叶恵は納刀すると、霊夢に問いかける。

 

「あ、技の説明とか……」

 

「いや、いいわ。大体わかるもの。さ、続けて続けて」

 

 霊夢は湯呑みを口に運びながらそう答える。

 

「わかった……フゥー……」

 

 叶恵は再び目を閉じ、集中する。

 

 そして……

 

 霊夢による技の鑑定が終わった。

 

「……なるほど。大体分かったわ」

 

 叶恵は少しだけ誇らしそうに胸を張る。

 

「ちゃんとした流派なんだよ?」

 

「そりゃ見れば分かるわよ」

 

 軽く肩をすくめ、身体を伸ばす。

 

「で?」

 

「え?」

 

「なんで“海”なの?」

 

「えっと……斬撃を“波”みたいに重ねるのが特徴だからだよ」

 

「波ねぇ……」

 

 霊夢は腕を組む。

 

「まあ、確かにさっきの、なんか“広がる”感じだったわね」

 

「ちゃんと見た?」

 

「見たわよ。最後の方なんて速すぎてよく分からなかったけど」

 

 なんともまあ曖昧な答えだ。

 

「えぇ……」

 

 少し風が吹き、境内の木々が揺れる。

 

 その中で……

 

「……ねえ、霊夢」

 

 叶恵が少しトーンを落とした声で、霊夢に問いかける。

 

「なに?」

 

「私のこの技……ここでも通用するかな」

 

 どれだけ自分の身につけた技に信用があっても

 ここは未開の地。

 

 まだ何も知らない。

 

 だから、どこまで行こうと心配なのだ。

 

「……」

 

 霊夢は少しだけ真面目な顔になり、答える。

 

「通用するわ」

 

「ほんと?」

 

「でも! ここでは“弾幕ごっこ”がルールなの」

 

「弾幕……ごっこ?」

 

 叶恵はその単語をそのまま反復する。

 

「簡単に言うと、殺し合いじゃない戦いってこと」

 

「……」

 

「あなたのそれ、そのままだと危なすぎるのよ」

 

 さっきの地面の跡を見て言う。

 

「当たったら即終わり、じゃダメ」

 

 それはそうだ。

誰も傷つかないなら、傷つかないに越したことはない。

 

 叶恵だって、毎度毎度相手を傷つけて、

命を奪ってしまうのは本望ではない。

 

「……じゃあどうするの?」

 

「魅せるのよ」

 

「……見せる?」

 

「綺麗に、避けられても楽しいように」

 

「戦いなのに……?」

 

「だから“ごっこ”なの」

 

 そう言って霊夢は少しだけ微笑む

 

「その決闘で勝つのが、ここのやり方よ」

 

 叶恵は少し考える。

 

 斬撃は必ず相手を傷つけ、命を害する。

 

 どうすれば傷つけるにしても、

 命を取らないようにできるのだろうか。

 その結論には、自分一人では辿り着けない。

 

「……難しいね」

 

「でしょ? だから、調整するのよ」

 

「調整……私の技を?」

 

「そう、あなたの剣、弾幕にしてみなさい」

 

「弾幕……そうか。私はさっき……

 力の使い方をなんとなくで掴んだ……」

 

 さっき掴んだ、自分の中に眠る神性の力……

 

「でも、今のあなたはその神力が垂れ流し状態。

てか、よくそんな垂れ流して平気でいられるわね。

実はとんでもない神様の力が宿ってるんじゃないの?」

 

「た、垂れ流し!? な、なんか嫌だなぁ……

で、でも……それを応用して、剣技に乗せれば……!」

 

「その意気よ。あなたならできる」

 

 初めて、霊夢に励まされた気がする。

 なんだか認められたみたいで、とても嬉しい。

 

 やっぱり霊夢はいい巫女さんなんだ。

 

「その調子で強くなって、賽銭箱を一杯にしてちょうだい♪」

 

 前言撤回。

 なんて巫女だ

 

「今ので台無しだよ〜……もう……」

 

 叶恵はとりあえず手を前に出す。

 

 目を閉じて、自分の手から弾幕を放つイメージを浮かべる。

 

 だんだんと叶恵の手に光が集まっていき、その光は球状で安定した。

 

「……できた……! できた! できたよ霊夢!! 

 って、あっつぅ!?」

 

 満面の笑みを霊夢へと向けた後、弾幕があまりにも熱くて悶絶する

 

「ふふっ……初めてにしてはやるじゃないの。

あとは、さっきの技を元にスペルカードを作るだけね」

 

(わかってたけど、やっぱり……ただの外来人じゃないわね。現人神だとしても、飲み込みが早すぎる……塰霧叶恵。一体、外ではどんな環境にいたのかしら)

 

「そういえばさ、弾幕ごっこだなんてここに来てから一回も聞いたことないんだけど……」

 

「ん? えぇ、そりゃまだ思いついたばっかだし……弾幕ごっこ自体は幻想郷の中に教えた奴もほぼいないわ」

 

 叶恵は博麗神社に来て何度も思ったことを、もう一度だけ思う。

 

 な(・)ん(・)て(・)巫(・)女(・)だ(・)

 

「えぇ!? それで弾幕ごっこがここのやり方って豪語したわけ!?」

 

「うっさいわねぇ! どうせ私がこれから広めるのよ!」

 

「めちゃくちゃだーっ!」

 

 叶恵の剣術は、弾幕へと変わる一歩を踏み出した。

 

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