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第1話

去年の夏に祖父が癌で亡くなった時、正直現実味も無かったし、全く寂しいとか悲しいとか感じませんでした。

 

高齢だったし仕方ないだろうな。とかそういうことしか思っていませんでした。

それから祖父の家に行って祖父の顔を拝んでも、別になんとも思わなかったし、何も感じませんでした。

お世話になった人だし、色んなこと教えてくれた人だし、大切な人だったから、少し意外でした。

僕って薄情な人間だなとか、自己嫌悪になったことを今でも覚えています。

 

そんなことを思ってるうちに時間が過ぎて、祖父の棺に贈り物を添える事になりました。

僕は祖父が生前よく被っていた帽子を添える事になりました。

手紙とか書けばよかったな、とか後から後悔したけど、その時にはもう遅かったです。

 

血筋が遠い人から先に贈り物を添えていくんですが、皆泣いていて、僕と数人だけが泣いていなかったんです。

その数人というのも僕より幼い親戚の子供で、恐らく状況を分かっていないから泣いていなかったんだろうと思います。

僕も子供だけど、彼らとは違って状況を理解できる位には歳を重ねていました。

 

また自己嫌悪に陥りそうになりました。僕は他の子供より祖父にかなり可愛がられていたと思います。

外食に連れて行ってくれたり、沢山褒めてくれたり、その他も色々と。

なのに全く悲しくならなかったです。恩知らずだと思いました。

 

しばらくして、僕の番がやってきました。

ふと祖父との記憶がそこで蘇ったんです。

祖父は豪快で元気で頑固で明るくて、感情を身振り手振りで表現する人だったんです。

そんな祖父が僕を褒めてくれる時によくやってくれたのが手を握って親指を立たせる、所謂 グッジョブサインでした。

よくグッジョブサインをして「グー」と言って褒めてくれました。多分goodの覚え間違いだと思います。

正直それをされるのは恥ずかしかったけど、でも嬉しくて、とても印象に残っていました。

 

不謹慎だし、恐らく罰当たりだと思うし、絶対褒められたことじゃないと思います。

でもここで返しておかないと、何か駄目な気がしました。

 

僕は帽子を祖父の棺に添えて、笑顔でグッジョブサインをしました。

周りがざわついたのを感じたけど、どう思われても良いと思いました。

非常識な子供だとか、罰当たりだとか、クズだとか。どうでもよかったです。

僕は祖父にこのサインが届けばそれでいいと、笑顔を崩しませんでした。

崩さないはずでした。

 

その時祖父との記憶が一気に流れてきたのを覚えています。

小さなことから大きいことまで、何から何まで蘇ってきました。

言葉も行動も体験も表情も、全部。

僕はそこで初めて涙が出ました。

止めようとしても止まらないぐらい涙が溢れ出してきました。

嗚咽するように泣きました。あれだけ悲しくなかったはずなのに、寂しくなかったはずなのに、ずっと流れ続けました。

あの時の感覚は今でも忘れられません。というか、これからの人生ずっと忘れないだろうなと思います。

 

祖父が亡くなる前日、僕は家で暇を持て余していました。祖父へのお見舞いへ行こうかなと悩んでいましたが、結局行かなかったんです。

自転車を数十分も漕げば祖父のもとへ行けました。

 

もし戻れるのなら、もしそれが可能なら。

最後に祖父へ、感謝を伝えたかったです。


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