龍神が目覚めた日
甲龍歴330年─中央大陸北部の森
「どういうことだ…」
『ヒトガミ』を倒して数日ほど経った頃、俺は見慣れた森の中で目を覚ました。
『ヒトガミ』を倒すことで本来ならば役目を終える秘術─それがなぜまだ続いているのか。
「…まさか、殺し切らなければ解除されないのか…?」
『ヒトガミ』を殺す。それは無の世界の破壊を意味しており、六面世界の崩壊に繋がる…前回のループでは、『ヒトガミ』の封印に留めることで世界の崩壊を食い止めつつ、『ヒトガミ』が手を出せない状況を作った。しかし、殺さなかったことで再びループしたと考えられる。初代龍神はなぜ、世界の崩壊に至ってしまうような秘術を生み出したのか…。
「これは…やるべき事が増えたな…」
思わず苦笑してしまう。しかし、前回のループで様々な魔導具の制作方法や新たな魔術の使い道を知ることができた。これも全て、「ルーデウス・グレイラット」や「ナナホシ・シズカ」達、転生者や転移者によるおかげだ。恐怖される呪いの軽減方法や魔力の回復、効率的な魔術の行使も更に磨かれた。
今は魔力の大半を失ってはいるが、しばらくのうちは回復に専念しつつ魔導具の製作に没頭すればいいだろう。
そして、再び会えるのであればルーデウスやナナホシと合流し、前回よりも早期から準備に入ることを考えた。
「先は長いが…上手く行けば今度こそ必ず…」
思わず笑みが零れる。今までのループでこのように笑みを零したことなど無かったが、仲間を信じて共に戦うことの喜びを知った今、今まで以上の力が湧いてくるような気がする。
その為にも、まずは失った筋肉と魔力を取り戻さねばならないだろう。
そうして手に力が籠ると、周囲の生命体が一気に逃げ去るのがわかった。
「…魔導具の製作も始めなくてはな」
思わず恐怖を振りまいてしまったことに苦笑する。
これも全て前回のループの影響だろう。早く力を取り戻し、仲間を集めなくては。
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戻ってから50年が過ぎた、魔力もある程度回復し、筋力も取り戻した。
むしろ、前回よりも強くなっているような気がした。ヒトガミからの妨害もあったが、魔術を行使することなく全て対処することができた。やはり、前回のループが活きているということか。
「では、そろそろ行くか」
俺は作成した魔導具─仮面を手に取る。その見た目はかつてルーデウスから渡されたものと同じ見た目にしている。
そう、嫌悪の呪いを軽減する魔導具である。ルーデウス曰く『俺のいた世界で仮面と言えばこれです!なんか3倍の速度で動けそうな感じもしますし!』とのことだが、ナナホシは首を傾げていたのを覚えている。
だが、もし再びルーデウスが現れるのであれば、前回の記憶が無くとも話をすることができるだろう。
俺は仮面を装着し、アスラ王国へと向かう。まだ先ではあるが、未来で起こるであろう転移事件による被害を少しでも軽減するためである。
とはいえ、いきなり転移事件の話をしたところで信じる者はいないだろう。あくまで『災害対策』を広めに行くことを目的にしている。
ルーデウスやナナホシのいた世界では自然災害が多いらしく、災害が起きた時の対策や復興の為に行うことを聞くことができた。基本は魔術で解決できるようなものだが、魔術師でない一般人からすれば生き残るのに必要不可欠なものも多かった。
俺は10年ほどの歳月をかけて、ヒトガミ対策や魔力回復を並行しつつ災害対策を広めて行った。
無論、1人では手が回らないため、アスラ王国やミリス神聖国、王竜王国にラノア王国と言った場所に自分のシンパを作った。
ヒトガミの影響を受けづらい人間や、逆にヒトガミに唆され、被害を受けた人間を仲間に引き入れたことで、ある程度の自由が効くコミュニティが完成した。
ただ、これによって今までのループでは起こりえなかったほどの影響が出てしまった。前回よりも早く技術革新が起き、魔術や魔導具、剣士の質が大きく上昇した。…下手をすれば、ヒトガミの使徒の危険性も上がるかもしれないが、それは仕方の無いことだと割り切る。それに、構築したコミュニティによってヒトガミの使徒と思われる人物の動きもつかみやすくなったのだ。
これで今まで以上の余裕がある俺は、次なる目的を果たすことにした。
「魔力ポーションか…」
かつてルーデウス達が開発した魔力ポーション、その劣化版にはなるが、俺も同じものを作った。無論、俺の魔力が回復する訳もなく、一般の魔術師をしてもその回復量は微々たるものだった。俺は改良に改良を重ね、前回のループでルーデウスの後継者たちの完成させたポーションの再現を試みた。
結果から言うと、俺一人の力では完成からは程遠いものの、魔術を一度行使する分の魔力を回復させられるだけのポーションが完成した。しかし、素材には希少な薬草をいくつか使うため、作り出せたのは十数本のみ。魔術を使うにしても、この数をやりくりする必要がある。
だが、この前提があればルーデウス達と合流した後、さらに回復量の多いポーションが作れるようになるだろう。
…いかんな、仲間を持てるようになったとはいえ、今回のループは人に頼ってばかりになりそうだ。頼りすぎるのではなく、共に前へ進めるようにしなくては…。
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更に10年が過ぎた頃、俺は次の行動に移った。
コネクション作りの一環として、冒険者になることにしたのだ。
しかし、そこで問題が起きた。種族や名前をそのまま登録してしまい、登録したギルドに『龍神』が現れたと大騒ぎになったのだ。「七大列強第2位に位置する龍神様が冒険者ギルドに登録したとなると、様々な確執が生まれて大変なことになる」とギルド長から直々に実名での登録を辞めるように言われた。仕方なく俺は、種族を人間と偽り、名をオルフェウスという偽名にすることで登録を済ませた。
ただ、偽名とはいえ列強2位を冒険者とするためか、Bランクからのスタートとなった。新たな広告塔とする目的もあるのだろうが、コネクション作りにはかなり有用になると思い、承認した。
これによって俺は、孤高の冒険者オルフェウスとして名をあげることとなった。
難易度の高い依頼を1人でこなし続けたことで直ぐにAランクへと上がり、各地の冒険者パーティ・クランから勧誘を受けたものの全て断った。流石に共に居続けると素性を隠しきれない上に、呪いの影響を受ける可能性も高い。さらに、ヒトガミの使徒が混ざっていれば寝首を掻かれる可能性もある。魔物討伐からペット探しのようなものまでこなし、勧誘を受け付けずに世界各地を回ることから孤高の万事屋とまで呼ばれるようになったことには多少頭が痛いが、結果としてオルフェウスの名を中心にした冒険者ネットワークのようなものが完成した。
そんなある日のことだった。アスラ王国の僻地にある冒険者ギルド似て依頼の精算をしていたところに、大慌てで村の駐屯騎士が転がり込んできた。息を切らし、グシャグシャに顔を歪ませて騎士は叫ぶ。
「き、緊急だ!せ、赤竜が…『はぐれ竜』が出やがった!!」