人との関わりが増えたこともあり、今まで抑えられてきた人間臭さがどんどん露出していっているという設定です。
オルステッドはヒロインなので可愛らしさが必要ですからね(自論)。
「『はぐれ竜』が出やがった!!」
『はぐれ竜』───通常、群れを成して生活をする竜だが、乱気流など何らかの原因で群れからはぐれた竜をはぐれ竜と呼ぶ。
その中でも竜として最強たる赤竜の『はぐれ竜』は近隣の村や町に大きな被害を与え、小国であれば滅ぼしてしまう程の力を持つ。
冒険者ギルドでも最低でAランクとされており、場合によっては国の総力を上げて対処することすらある。
無論、赤竜山脈を通る俺にとってははぐれ竜程度遊びにすらならない。しかし、今はオルフェウスとしてここにいるため、いつものような力を振るうのはあまり良くないと考えたが…このような小さな町のギルドでは対処をするのは困難だろう。
「仕方あるまい…」
この町には後々、ルーデウス達の役に立つ人材が生まれる地でもある。
多少、力を見せてはしまうが被害があるよりはマシだろう…と依頼を受けようとした時だった。
「その依頼、俺たちに任せろ!」
ギルドの入口に立った男が言い放つ。
後ろ髪を纏めた茶髪に左目の下の涙ボクロ、そして緑の生地を使った軽装を纏った青年。
俺が最も苦戦し、最も信用し、最も頼りにした『仲間』───ルーデウス・グレイラットの父となる男、パウロ・グレイラットだ。
そして後ろにいるのは『黒狼の牙』のパーティメンバー、ギレーヌ・デドルディア、エリナリーゼ・ドラゴンロード、厳しき大峰のタルハンド、ゼニス・ラトレイア、そして…前回のループでヒトガミの使徒、ヒトガミの切り札として立ちはだかったギース・ヌーカディアがいた。
今ギースを殺すのは簡単だろう。だが、他のパーティメンバーを敵に回すことや、ルーデウスの助けになった男を今すぐ殺そうとは思わなかった。むしろ、前回のループでのルーデウスを皮切りに、裏切られたヒトガミの使徒を仲間に引き込むことが多くなっていた。裏切られたヒトガミの使徒は、深い後悔と激しい怒りから味方として共に戦ってくれる者が多く、呪いを軽減する仮面のおかげもあり俺のことを信じる者ばかりだった。
ルーデウスが世話になり、パウロ達が共に戦った仲間である以上、殺してしまうのは惜しいとも考えてしまう。
俺もかなり甘くなったと思う。前々回以前であれば、ヒトガミの使徒がほぼ確定しているような連中は皆殺しにしてきたというのに、今回はそのような者を救い、人と関わるようになっている。これもやはり、ルーデウスのおかげだろう。
「…ん?アンタもしかして…『生ける伝説』のオルフェウスか!?」
パウロが近付いてくる。一瞬、ヒトガミの使徒になってしまったのかとも考えたが、どうやら思い違いのようだ。そうでなくてはここまで驚くこともないだろう。
「えっ!?オルフェウスってあの変な仮面の…!?」
「『孤高の万事屋』って噂の…!?」
「『頼めばだいたい何でもしてくれる』ことで有名なあのオルフェウス…!?」
…一部不可解な内容はあったものの、このような僻地まで名が届いているということは、オルフェウスとしてのコネクション作りや話題性は問題なく広がっているということだろう。
「なぁ、やっぱアンタも赤竜討伐には参加するのか?」
「…ああ、お前たちが良いのなら参加しよう」
「よっしゃ!生ける伝説がいるんならこの依頼はもう終わったも同然だな!」
パウロが豪快に笑う。今の黒狼の牙はAランクパーティであり、油断はできない相手のはずだが…それ程俺の力を信じているのか、それとも自信過剰なのか。するとパウロが小声で話しかけてくる。
「あ、けどよ、赤竜にトドメ刺すのは俺にやらせてくれねぇか?ゼニス─そこにいる金髪の子にかっこいいとこ見せてぇからよ…!」
どうやら後者のようだ…だがしかし、ここで手を抜いてしまえばもしかするとルーデウスが産まれないかもしれない。俺は、可能な限り力を抑えつつ、パウロ達黒狼の牙のサポートに徹することを決めた。
「…善処しよう、だが相手は赤竜だ、気を抜くなよ?」
「んなこたぁわかってるって!そっちこそ、伝説扱いされてるからって下手な手を打つんじゃねぇぞ?」
「無論だ」
思わず笑みが零れる。こうした軽口も今までのループではありえなかったものだ。仲間と共に戦うことの良さを教えてくれたルーデウスには感謝しなくてはな…そう考えながら、赤竜討伐に向けての準備を進める。
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ギルドのある町から馬車で1日ほどの先にある荒野…そこに目的の赤竜はいた。
「おいおい…こりゃあAランクどころかSランクでも上位の個体じゃねぇのか…?こんなにデカイ赤竜、見た事ないぞ…!?」
実際、『はぐれ竜』として発見される赤竜にしては一回り以上大きい個体だ。乱気流に巻き込まれて墜落する赤竜は、群れの中心にいる個体よりもかなり小さく力も比較的弱い…とはいえ、冒険者にとってはそんな個体でもAランク以上の脅威である。
群れのボスとまでは行かないだろうが、群れの一部を統率できるだけの実力がありそうな赤竜だ。身体の傷や破れた翼から、かなり老齢の個体であり乱気流を捌ききれなかったと推測できるが、ただの冒険者パーティで対処できるような個体ではないのは明らかであった。アスラ王国と言った大国が、騎士を総動員して当たってもおかしくはない非常に危険な個体である。
「どうする?あたしかパウロなら、ヤツの身体を斬ることもできなくは無いが…あの荒れようでは一撃入れるのも難しいだろう」
「ギレーヌがそこまで言う相手ですのね…」
「オレも効きそうな道具はいくらかかき集めてきたけどよ、この暴れっぷりじゃ使う前におっちんじまうぜ?」
「こりゃちと厳しいかのう?」
「クソッ、ここまでの個体とは想像してなかったぜ…!」
パウロが悔しそうに歯噛みする。
いくら『黒狼の牙』といえど、本来国が相手取らなければならないような存在を前に攻略法を見出だせないでいる。たとえここで撤退したとしても、誰からも文句は出ないだろう。
「いくらなんでもあんなのが相手じゃ私の治癒魔術なんて間に合わないわね…」
「だがここで撤退しちまったらあの町はすぐ破壊されちまうぞ…今から戻って避難誘導しようにもアイツが来るほうが先かもしれねぇ…」
暗い雰囲気がパウロ達を包む。今の状況では、ここで赤竜と戦って死ぬか町に戻って避難を促しながら赤竜の訪れに怯えるかのどちらかなのだろう。本当なら下手に力を見せたくはないが、仕方がない。
「…俺が囮になろう。そうすればお前達が攻撃する隙くらいは作れるはずだ」
「ちょっ!?待てよ!アンタ死ぬ気か!?」
「回避に専念すれば死ぬことは無い、だがそう長くは持たんだろう…お前達は「斬れる」と言っただろう?ならば俺は、お前達を信じるのみだ」
仮面越しにパウロの眼を見つめる。その眼は信じられないようなものを見る眼と、一筋の希望の光を見つけたような眼をしていた。
「…ああ、わかったよ!『生ける伝説』がやってくれるってんなら俺達も腹を括るしかねぇ、こんな所で逃げたら『黒狼の牙』の名前が廃れるってもんだ!」
パウロが立ち上がり、他のメンバーも頷いて同意する。先程までの空気が嘘かのように全員がやる気に満ちていた。
「だが、危険と判断したらすぐ撤退して構わん。俺ならば引き付けた上で逃げることも…不可能では無いだろうからな」
「そりゃ頼りになるぜ、けどよ、アンタがやるって言ったんだ、俺もアンタを信じるぜ…!」
パウロの言葉に僅かに口角が上がる。やはり誰かと共に戦うというのは悪くない感覚だ。
「…行くぞ!」
「ギレーヌ!タルハンド!ギース!準備をしろ!エリナリーゼはゼニスを守れ!ゼニスは直ぐに治癒魔術が使えるようにしておいてくれよ!」
俺は一直線に赤竜の元へと向かう。赤竜と目が合い、激しい咆哮が突き抜けるがそのようなものに怯むことなく足元へと滑り込む。懐に忍ばせていた小刀を取り出し、赤竜の脚に傷をつける。
「グギャアアアッ!!!!!!!?????」
赤竜が完全にこちらに釘付けとなる。俺の魔力を感じ取ったのだろうか、一瞬赤竜の眼に怯えのようなものが見えたが、それを振り払うように赤竜は再び大きく咆哮する。
動きが激しくなり、俺に向かって爪を叩きつけ、牙を剥き、尻尾で薙ぎ払う。俺はその全てを間一髪で回避しているように見せながら、赤竜を翻弄する。それにより怒りが頂点に達した赤竜は、辺り一帯を焼き払うためにブレスの態勢へ入った。
「今だ!」
俺が叫ぶのとほぼ同時に、パウロ達が飛び出す。
ギースが香辛料の詰まった袋を投げつけ、赤竜の目を潰す。それに併せてタルハンドが魔術で足元を崩し、身動きが取りづらくなった赤竜をギレーヌとパウロが斬りかかる。
「グギャオオアアアッ!!!!!!?????」
「チッ」
「クソッ!」
パウロとギレーヌの斬撃は、それぞれ首と翼を大きく切り裂いた。しかし、その傷であっても致命傷には至っていない。決して傷は浅くないはずだが、赤竜の並外れた生命力の前では届かなかったらしい。
「すまねぇ…!せっかくのチャンスだってのに…!」
「いや、これで動きは鈍った。もう一度行くぞ…!」
赤竜へ向かおうとした瞬間、赤竜は無闇矢鱈に暴れ始める。パウロ達の存在が危険だと判断したのだろう、大きく暴れ回ることで矮小な人間を叩き潰してしまおうとしていると思われる。
遠くから魔術を使っていたタルハンド、近くにいたパウロとギレーヌは直ぐに飛び退いて無事だったが、目潰しのために近くまで寄っていたギースは巻き込まれる位置にいた。
「ギース!」
「嘘だろおい…!」
巨大な尻尾がギースに迫る、今にも押し潰されるといったその瞬間─俺はギースと赤竜の間に立ちはだかった。
「フン…!」
水神流・奥義『流』
流れるような所作で尻尾の一撃をギースから逸らす。さらに、返す刃で切りつけ、ギースから離れつつ赤竜に小さく傷を入れ続ける。自分よりも遥かに体の大きい赤竜の一撃を逸らしたのを見た黒狼の牙の面々は、驚きのあまり固まってしまっていた。
驚いたのは赤竜も同じようで、俺のことを最大の脅威と認識したらしい。こちらに向き直り、再びブレスの体勢へ入る。
「パウロ・グレイラット!!!今だ!!!」
俺が叫ぶと、パウロが即座に赤竜へ向かう。
狙うは大きく開いた首の傷。
パウロは全身を大きく躍動させ、自身の限界まで高めた速度で剣を振るう。
『無音の太刀』
パウロの一撃は赤竜の首を再び抉り、ついに斬り落とした。
ボゥと不発となったブレスが赤竜の口から漏れ、首が大地へと堕ちる。
首から上を失った身体は、自身を支える術を失い倒れ伏した。
「…やった…のか?」
パウロがブルブルと震える手に力を込め、腕を上げて叫ぶ。
「勝ったぞぉおおおおお!!!」
「「「「ウオオオオオオッ!!!!」」」」
黒狼の牙の面々、共に来ていたギルドの職員や冒険者達が呼応する。
巨大な赤竜を倒したという英雄的所業は、やはり人の心を大きく揺らすのだろう。
「やったなぁ!オルフェウスの旦那!」
パウロが肩を組んでくる。いきなりの事で驚きこそしたが、悪い気分はしない。
「ああ、最後の一撃は素晴らしかった。倒せたのはお前達『黒狼の牙』のおかげだ」
「何言ってんだよ!アンタが隙を作ってくれなきゃ、あんなに早く倒せなかったぜ!?それにギースの命まで救ってくれたんだ!今回の1番の功労者はオルフェウスの旦那に決まってんだろ!なぁみんな!」
周囲の人間が皆同意する。正直ここまでの騒ぎになるとは想像しておらず、思わず苦笑してしまった。
だが、今までのループであった敵対心を持たれる状況よりも、こうして共に戦った英雄として称えられるのは嬉しくもあり、気恥しさで体がむず痒くなる。
「よっしゃ!それじゃあみんなで赤竜討伐の凱旋と行こうじゃねぇか!そしてその後は…宴だぁ!!!」
パウロが叫ぶと周りも空気が揺れるほどの大声で吠える。
しかし宴か…人と関わることが増えたとはいえ、こういった人が集まる場にはあまり立っていなかった。俺はちゃんとその場に立てるのだろうか…。
各ループの決戦以上に緊張と不安を覚えながら、俺達は冒険者ギルドへと帰還した。