今後は1週間に1、2話程度の更新頻度になるかもしれません。
筆が乗ったらペースを上げたりします。
アスラ王国の僻地にある小さな町の小さな冒険者ギルド…いつもは閑散としているその建物が、今は人で溢れ返っていた。
「それじゃあ、『黒狼の牙』と『生ける伝説』による赤竜討伐、そして両名のSランク昇格を祝して…かんぱーい!!!」
「「「「「かんぱーい!!!!!!」」」」」
ジョッキがぶつかり合う音が響き、宴が始まる。
宴の中心となる席に『黒狼の牙』と共に俺は座っていた。
「なあオルフェウスの旦那よぉ!あの時の『流』は凄かったぜ!あんな小刀でどうやって逸らしたんだ!?」
「ああ、あたしも気になっていた。あれ程の体格差のある相手に完璧な受け流しとカウンター…あんな芸当ができるとすれば、水帝か下手をすれば水神にも届きうる精度だった。もしかして、水神流の師範だったりするのか?」
「い、いや…確かに水神流を学びはしたが、技術は独学だ。魔大陸を旅しながら魔物を狩っていた時期もあってな、それに他の流派の相手とも手合わせをしたことがある」
「道理で剣の扱いが上手いわけだ…そういや魔大陸は行ったことがなかったな…ギース、そんなに魔大陸って強い奴がいるのか?」
「強いなんてもんじゃねぇぞ?街の外にゃCランク以上の魔物がうじゃうじゃいやがる上に、Bランク以上の魔物が徒党を組んでたりするんだぜ?そりゃああんな簡単に赤竜を捌けるわけだぜ…」
その場にいた面々が顔を引き攣らせる。Bランク以上の魔物が群れを成すなど、Sランクでも太刀打ちできるか分からないレベルだからだ。彼らには俺がそのような修羅場をくぐり抜けてきた猛者に見えるのだろう…実際、魔大陸で魔物の群れを蹴散らしたどころか、赤竜山脈で赤竜の群れを半壊させたこともあるのだが。
「へぇ〜…そんなに凄い力を持ってるだなんて…私気になりますわ、今夜私といかがかしら…?」
エリナリーゼが手を回して身体を寄せてくるのに、思わず眉を顰めてしまう。俺としては、仮面の元々の設計者でもあるクリフ・グリモルの妻としての印象が強い。関わりが深くなった人間の家族に迫られるのは気まずさと申し訳なさで居た堪れなくなる。
「何をしておるこの淫乱が、オルフェウス殿が困っておるじゃろ?どれ、今夜はワシと一杯ヤラんか?」
今度はタルハンドが舐め回すような視線で見てくる。あまりにも経験のない事ばかりで居心地が悪い、このように人に言い寄られることは…いや、前回のループでルーデウスの子孫から迫られたことはあったか。受けてしまえば死んだルーデウスに顔向けできないと思い断って逃げ出したのだが…。
「…少し外の空気に当たってくる」
俺は席から立ち上がり、外へと歩き出す。エリナリーゼとタルハンドが「やりすぎたか?」と言った顔で申し訳なさそうにこちらを見ている。
「ふぅ…」
酒の入ったコップを片手に、一息つく。あの空気の中にいるのは、赤竜の群れや神級剣士を相手にしている時よりも疲れる。それほど悪い気分では無いのだが…そう思っていると、隣にギースが来ていた。
「よお、オルフェウスの旦那、さっきはウチの馬鹿二人が悪かったな!」
一瞬警戒したが、今この状況でギースが事を構えるというのはまずないだろう。
ギースがコップを向けて来たのを見て、俺もコップを出し乾杯した。
「へへっ、初めて会った時はおっかねぇお人だと思ったけどよ、優しい人なんだなぁオルフェウスの旦那ってよ」
「…そう見えるか?」
「ああいや!初めて会った時は仮面かぶって無口で、強者のオーラってやつ?が全身から出てたもんだからよ…けどちょっと笑ったり、俺を庇ってくれたのを見て本当は優しい奴なんだってわかったんだよ」
「……いや、嘘だな。少しばかり恐怖しているのが透けて見えているぞ、ギース・ヌーカディア」
ギースが小心者であることは今までのループでも分かりきっている。そんな男が、緩和されているとはいえ未だに警戒される俺に1人で近づく訳はないと考えた。
できることならここで目的を聞き出したいが…。
「んだよ、バレてたのかよ…そりゃあまだおっかねぇとは思ってるけどよ?赤竜相手に傷一つ付かずに大暴れしたんだ、怖えけどこうやってお近付きになりゃちょっとは良い目見れるかもしれねぇと思ったのさ。強え奴の言うこと聞いてりゃ、まあ死ぬことはねぇからな!」
ギースがニヒルに笑う。
これは経験談も入っているのだろう。ギースはかつてヒトガミに命を救われ、その後もどんな目に会おうとヒトガミの言うことを聞いて生き残ってきたというのをルーデウスから聞いている。
…嘘を言っている様子はない、この男は本当に生き残るためだけに従っていたのか。
ギースの能力…ありとあらゆる雑務をこなせるというのは貴重な力ではある。できることならヒトガミのものにしておきたくはない…だが、今すぐヒトガミから引き剥せるだけのメリットを提示できはしないだろう。
余裕があればそちらも考えておくか…。
「…黒狼の牙とはこれからもパイプを繋げておきたいとは思っている。それにお前の命を救ってやった恩も返して貰わなくてはな?」
「お、おい、そんな怖え顔で恐ろしいこと言うんじゃねぇよ…アンタから何頼まれるかわかったもんじゃねぇ…」
恐ろしいものを見る目でそう言われた。
…そんなに今怖い笑い方をしていただろうか?ルーデウスやその子孫からも笑う度に「怖い顔をしないでください」と言われたのを思い出す。俺はそんなつもりなどないのだが…。
「フッ、まあ今すぐ返せとは言わん。それに無理難題をふっかけるつもりも無いしな…そう怯える必要はない」
ギースは冷や汗をかきながらため息を着いていた。
…ここでギースと会い、話をしたのは良かったかもしれない。実際にギースの本音のようなものと、性格が見えてきたような気がする。
「俺はこれで失礼しよう。明日にはここを出なければならんのでな」
「お、おい!主役が帰っちまってどうすんだよ!全く…!」
俺は騒がしい冒険者ギルドを後にした。
元より、赤竜が現れなければここを離れる予定だったのだ。黒狼の牙─パウロ、ゼニス、ギースと関係ができたのは思わぬ収穫と言えるだろう。
それに、S級冒険者となった今なら冒険者ギルドの情報網もかなり扱える。真偽の程は精査せねばならんだろうが、有用性は高いと考えられる。
俺が笑みを浮かべるのを目撃した住民が「ひっ」と声を上げて逃げるのを見てしまった俺は、足早に町を去ったのだった。
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そこから1年も経たないうちに黒狼の牙は解散し、パウロとゼニスが結婚したと情報が入った。
パウロとゼニスの結婚…つまりはゼニスが妊娠したということである。
そう、ルーデウス・グレイラットが産まれる。
この頃のギースは黒狼の牙に居着いていたので、ヒトガミの連絡はあまり受けてないと解釈しています。
ヒトガミ側はオルステッドがここまで活動してるのを対処するために日々忙しく過ごしていることでしょう…ギースに構ってはられませんからね。